第28話 死神ピエロの正体



 実験が終わり、外に出る。外は暖かく空気が澄んでいた。

 向こう側の倉庫の影に、なぜか胡散臭い笑みを浮かべたゼールと、浮かない顔をしたルトがいた。私は駆け寄る。


「お待たせしました。」

「早かったですね。もうよろしいのですか?」

「考え付くことはやれたので。あ、まだ一つありました・・・ルト。」

「あ、はい。」

「・・・あー・・・ごめん、何でもないや。ゼールさん、もしよかったら、私と屋敷まで移動魔法を使って行ってもらっていいですか?物は出来たので、次は人で試したくて。」

「もちろん構いませんよ。では、ルトはここで待っているように。」

「すぐ済むから。待っててね。」

「待ってください!なぜ、ゼール・・・さんなのですか。僕ではだめですか?」

 そうはいっても、移動する先はゼールの屋敷で血の匂いがするという部屋だ。血の匂いに慣れていないだろうルトに無理はさせたくない。


「だめだよ。だって、ルト顔色も悪いし。」

「大丈夫です!これは精神的なもので。」

「精神的なもの・・・」

 真顔になってゼールを見た。ルトを精神的に追い詰めるとしたら、一緒にいたゼールしかいない。


「私のせいですか?」

「そうとしか思えません。」

「ち、違います・・・ゼールさんには、よくしてもらいました。」

「本当?」

「はい。」

「・・・ならいいけど。とりあえず、今日はそこで待っていてね。」

 私はゼールの腕をつかんで、屋敷へと移動した。あっという間の出来事なので、ルトは反応できなかっただろう。


「本当に一瞬ですね。」

「はい。それで、不調などはありますか?」

「特には。」

「なら戻りますね。」

「少し待っていただけますか。」

「少しなら。ルトが心配するので、早くお願いします。」

 一体何だろうか?私は彼から手を離した。すると、その手を握られる。


「はっきりさせたいことがありまして。単刀直入に言います。サオリさん、あなたは死神ピエロの正体を知っていますか?」

 死神ピエロ・・・どこかで聞いたことがある。そうだ、クリュエル城を襲ったとされる男を指す名前だ。

 唐突に出てきた名前が何かを認識し、私は固まった。


「やはり、知っているのですね。」



 一人、倉庫が並ぶ場所で立っていた。考えることは、先ほどゼールから聞いた、サオリ様がしたかもしれないこと。


 サオリ様は、拷問よりもさらに非人道的なことをされ続け、城の人間を憎んでいた。当然の流れだと思う。そんなことをされて笑って許せるとしたら、それは人間ではない。天使か何かだ。


 そして、サオリ様が暮らしていた牢屋の近くに、もう一人別の者が暮らしていた。それは、殺人鬼と記録されていたらしい。詳しいことは不明だが、それを知ったサオリ様がその殺人鬼を解放した。それがゼールの考えだ。


 兵士に襲われたことで移動魔法が使えるようになり、殺人鬼を解放したのだろう。

 そして、その殺人鬼が城で生きる人間を殺しまわった。とても人間にはできないことだ。魔人か何かだったのかもしれない。


 サオリ様は、この国で保護されたときに、一部の記憶喪失と移動魔法が使えない状態だったらしい。でも、僕が買われる前に移動魔法が使えるようになったとか。おそらく、その時に記憶も戻ったのだろう。


「忘れたままの方が、幸せだったろうに・・・」

 でも、サオリ様は思い出してしまった。本当に可哀そうなことだ。


 たとえ、サオリ様の行為が多くの命を奪ったことだとしても、僕はそれをどうこう言うつもりはないし、当然の報いだと思う。

 ゼールから聞いた話は、僕のサオリ様を守りたいという気持ちを大きくした。


「僕は、何があってもあなたの味方です。そして、あなたの役に立ちたい。」

 ここ数日で、サオリ様の人となりはよく理解したつもりだ。


 理不尽な目にあっても、自分に与えられた役割を全うする。誰にでもできることではない。

 ひどい目にあったというのに、サオリ様はこの世界を救おうとしてくださっている。なんて強くて優しい人なんだと、僕は尊敬した。

だから、僕は奴隷でも、それで彼女の役に立てるのなら、その肩書に誇りが持てた。


 サオリ様について再認識した後、ふと疑問に思った。


「遅いですね・・・」

 10分は待ちぼうけしている。優しいサオリ様が、僕をここまで放置するだろうか?不安がよぎった。




「ゼール、あなたはいったい、どこまで知っているの?」

 目を細めて問えば、ゼールは胡散臭い笑みを浮かべた。


「いいですね。これからもその調子でお願いできますか?さん付けとか、他人行儀で嫌だったのですよ。」

「はぐらかさないで。」

 まずい。私が王を殺したのが、ばれたのだろうか?いや、もしかして鎌をかけられただけ?そうだとしたら、私は馬鹿正直に答えてしまったようなものだ。


「あなたが投獄されていた場所には、殺人鬼がいたそうですね。」

 殺人鬼・・・あぁ。上着をくれた人のことか。そういえば、あの上着どうしたんだろう?あれだけ血に汚れていたから捨てられたかな。もらった物なのに、申し訳ない。


「知っているのはそれだけですよ。あとは、ただ頭の中であの日あっただろうことを、考えただけです。結論は、その殺人鬼が、死神ピエロなのではないか、というものです。」

 そうきたか。いや、正解と言えば正解だが。うん、正解だな。

 死神ピエロという名前は、あの男につけられた名前のようなものだし、クリュエル城の人をほとんど殺したのあの人だし。


「ゼールの言うとおりだよ。よくわかったね。」

「情報があれば、たどり着きそうな答えですよ。それにしても・・・まだあるのでしょうか?」

「え?」

 顔を上げれば、愉快そうに笑うゼールの顔があった。悪役とか似合いそうだな。


「殺人鬼が死神ピエロ。それがあなたの最大の隠し事だとしたら、あなたの反応はおかしい。だって、サオリさん。安心しましたよね?」

「・・・!?」

 先ほどよりまずい状況だ。

 私は冷や汗を流して、固まった。


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