第6話 遅すぎた助け



 目が覚めると、そこは暖かい日差しの中だった。久しぶりに感じる日向。


「目覚めましたか?」

 優しい声を掛けられて見れば、緑の髪をした優し気な男が気づかわし気にこちらを見ていた。


「は、はい。」

 誰この人。制服も見たことがないものだし、貴族かなんか?


「私は、ウォーム王国の騎士です。リテとお呼びください。」

「リテさん?」

「はい。あなたのお名前をお伺いしても?」

「あ、さおりです。」

「サオリさんですか。珍しい名前ですね。」

 それは、この世界の住人ではないから当たり前だ。それにしても、なんで私はこんなところにいるのだろう?もしかして、この人が牢屋から出してくれた?


「あの、あなたが助けてくれたのですか?」

「・・・そうですね、あなただけが助かりました。」

「はい?」

 私だけが助かった?他にも同じ境遇の人がいたのだろうか?牢屋に入っていたのは、確か殺人鬼だけだった気がするけど。


「まずは、着替えましょうか。ここではあれでしょうが、城内の空気は辛いと思うので、こちらでお召し変えください。僕は少しの間外しますから。」

 リテは立ち上がると少し離れた場所で、こちらに背を向けたまま立ち止まる。私は、それを見て、用意された服を着ることにした。


 用意されたのはメイド服。まずは、今着ている服を脱ごうとして、いつもの服でないことに気づいた。

「え?何この服。」

 なんでいつもの汚れたワンピースではないのか?そう思ったとき、破かれたワンピースを思い出した。


「いや・・・だめ。嘘。嘘。嘘。」

 頭を抱えてうずくまる。服が吸った血の匂いが、きつくなるがそんなことは気にしていられない。


「大丈夫だよね。何もされてないよね。」

 リーダー格の兵士に押し倒されて、頭を撫でられたところは覚えている。あと、何年か前の傷がどうのこうのとか。でも、その後の記憶がない。


「大丈夫ですか?」

 近づく足音に、男性の声。恐怖が押し寄せ、尻餅をついた。でも、同時に怒りを思い出し、顔をあげる。


「あいつらは、どこですか!どうなったんですか!」

 名前を知らない兵士。顔も性格もよく知っているのに、名前を知らない。これは、聞きにくい。


「あいつら・・・ということは複数で城を襲ったのですね。」

「え?」

 城を襲った?規模のでかいことを突きつけられて、私はいったん冷静になった。


「城が襲われたとは?」

「・・・もしかして、覚えていませんか?」

「どういうことですか?」

 わからないという顔をした私に、リテは両肩に手を置いて、真剣なまなざしを向ける。


「落ち着いて聞いてください。城は、何者かに襲われ、あなた以外はすべて殺されました。もしかしたら、逃げのびた者もいるかもしれませんが、今のところ見つかっていません。」

「・・・」

 言葉が出ない。そんなことあるのだろうか?


「王は?」

「・・・王もです。」

「本当ですか?」

「はい。残念ながら。」

 あの王が死んだ。私を苦しめた王が。きっと、あの兵士たちも死んだ。私を傷つけて、全てを奪おうとした兵士たち。


「まだ、死体は城の中にあるのですか?」

「・・・えぇ。ですから、城内には入らないよう」

 リテが言い終わる前に、私は駆け出した。


「待ちなさい!」

 私の腕を掴もうとするリテを振り切り、私は玉座の間へと向かった。道なんて覚えているはずないのに、すんなりとそこへ行けたのは運が良かった。


 玉座の間に入れば、凄惨な光景が広がる。でも、私はそれらを一つ一つ見渡し、ひときわ立派な服を着た体を見つけた。それには首がない。


「本当に、死んだんだ。」

 ただ、確認をしたかった。それからのことは考えていなかったので、私はそこで立ち止まる。実験動物のように扱われたことを、私は憎んでいた。だが、なんだかそれもどうでもいいような気がした。


「おかしいな。今も怒っているけどなぜか、憎しみがない。なんでだろう。」

「何やってんだ!」

 後ろから声をかけられ、腕を掴まれた。


「こんなもん、見ちゃいけねー。リテと庭にいろ。」

「・・・」

 金髪で青い瞳。彼は誰だろう?リテと同じ制服を着ているということは、騎士?


「忠誠心が高いのか?」

「なんで?」

「王のことを気にしていたらしいじゃないか。」

「・・・私は、どうなるの?」

「え?」

 彼は立ち止まり、私を見て目をそらす。なぜか顔が赤い。


「まだ着替えていなかったのか。だいたい、なんでそんな恰好をしているんだ?」

「この上着は知らないけど、服は兵士に破かれたの。」

「は?」

 今度は、目をそらさず私を見る彼。


「それは・・・どういう、いや。まずは庭に行くぞ。」

「・・・あなたは、ここの兵士じゃないの?」

「俺は、ウォール王国の騎士だ。アルクと呼んでくれ。」

「アルクさん。」

「なんだ?」

「ここは、どこなの?」

「は?」

 アルクはまた立ち止まる。そして、私の顔をまじまじと見つめた。


「ふざけているわけではないな。ここは、クリュエル王国の王城だ。」

「なら、あの王はクリュエルの王?」

「そうだ。」

「ふーん。じゃ、この国は終わりだね。」

「そうだな。この様子だと、王族も皆殺し・・・貴族もこれだけ殺されていたら、国としてやっていけないだろう。」

「・・・」


「お前は、なんだ?」

「私?」

「そうだ、名前を聞いていなかった。」

「さおり。」

「・・・まさか、お前が勇者なのか?」

 その質問に正直に答えるべきか迷った。勇者とわかれば、またひどい目にあわされるかもしれない。


 そしたら、また殺せばいいか。


あれ?今、私は何を考えた?



「そうだよ、私は勇者なんだって。この世界に召喚されたんだ。」



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