3-19 夜野さんのお節介
現場掃除とか大変だったろうと思うけど、私は何も知らないというか知りたくもない。
すぐに保健室に運ばれて、午前中いっぱいベッドの上で色んな意味で悶えて寝ていたし。
そんなこんなで、私は今空腹で、それでもあまり食べ物を食べたい気持ちにはなっていなかった。
ちなみに、今日この件で停学になったのは、先日停学処分になった朝倉さんの親友の下田さんだった。
二人とも私にちょっかい掛けるのが好きなコンビだったのだのだけれど、先日の朝倉さんの炎上事件の事を下田さんは根に持っていたらしい。
下田さんは体育の時間中にこっそりとバレないように魔法で水分を調整して、床に微量の水溜まりを作っていた。
つまり、汗で滑ったと思ったのは、実は下田さんの魔法による水溜まりだったわけで、彼女は私に間接的に復讐を果たした。ということらしい。
私が保健室に運ばれた後すぐに魔法を使ったことがバレて、体育時間中に魔法を使った事と、学校での重要人物|(どうやら私は今や重要人物らしい)に怪我を負わせた事の二つの件で一発停学になったそうな。
”麗しきは友情、だとは思うけれどね。災難だったと思って受け止めなさいな”
(他人事みたいに言わないでください。イナンナ様にも原因の半分ぐらいはあるんですから)
イナンナ様が出てこなければこんな事件もならなかったのでは? なんて事をちょっとだけ思い浮かべながら、はぁとため息を一つつく。
その後で、私は意を決して手に持っていたサンドイッチを食べ尽くした。
また何かあって吐いたらどうしようと思ったけれど、やっぱり空腹には勝てない。
「よし、稲月、ちゃんと昼飯食べたな? 俺はちょっと食後の一服に行ってくるから後は夜野に任せるわ」
どうやら私がサンドイッチを食べるのを待っていたらしく、食べるや否や、待っていたとばかりに先生はさっさとタバコを吸いに出て行ってしまった。
「よっぽど吸いたかったのね」
「ストレス溜まってるんですね……」
「先生って大変ね」
「大変だね……」
残された二人でどこか他人事のように見送る私達。
「半分ぐらいは稲月さんのせいだと思うのだけれど?」
「だよね……」
私も知らぬ間に巻き込まれてる側なんだけれどね、とは口に出せなかった。
”……”
だって、何も聞こえないけれど頭の中で誰か様から無言の圧力は感じてるし。
横からの視線と脳内からの圧力を避けるようにして外を眺めながら、牛乳の残りを啜る。
テトラパックが縮み、牛乳が無くなってズズッと音が鳴った。
行儀が悪いけれど、気にしない。この場に居るのは夜野さんだけだし。
こっそり目をやると、夜野さんはずっと私の方を見ていた。
あ、ちょっと恥ずかしい。視線をすぐに戻したけれど、彼女から声が掛かる。
「ところで、稲月さん?」
「な、なに?」
夜野さん品行方正だし、行儀が悪かった事見られたかな?
「話は変わるけれど、今日も魔法の練習をする予定なの?」
あ、そっち?
ガクッと拍子抜けしてしまう。
「え、うん……。その予定だけれど」
イナンナ様がここに居る事は秘密なので、イナンナ様と練習の予定ですとは言えなかった。
「そう。それなら今日は私もお付き合いさせてもらうから、学校が終わったらすぐに帰らないでね?」
あ、ニコニコと笑顔が浮かんでいるけれど、顔には絶対よ? って書いてある。
どうしようこれ。ホントは一人でやろうと思っていたんだけれど。
夜野さんにそのまま視線を向けたまま、私は頭の中でイナンナ様に確認をする。
(なんか避けられなさそうなんですけれど、いいですか?)
”お好きにしなさいな。時間は有限だけれど、何をするかはあなたが決める事よ”
尤もな返事だった。
(うーん……同時並行的な感じで出来たりしないですか?)
”何をやるか次第ね。私はいつでも構わないわよ? ナナエといつもいる事ですし”
(あ、それもそうですね)
イナンナ様と頭の中でそんな会話をしたあと、改めて視線を夜野さんに合わせてから首を縦に振った。
それを見て、彼女の表情は柔らかいものに変わる。
「良かった。稲月さんの事だから、一人でやるって言い張るんじゃないかと思っていたわ。
そうなったらどう説得しようか色々考えていたんだけれどね」
なんか夜野さんに性格見抜かれてる。出来ればそうしたかった。
「その方が良かった?」
「ううん。そんなことないわよ。でも、ちょっとやってみて欲しい事があるの。だから素直にうんと言ってくれて助かったわ」
「やってみて欲しい事?」
なんだろう?
「うん、昨日の夜にね、私も稲月さんが魔法を使えるようにするにはどうすればいいか考えてみたのよ。
それでちょっと思うところがあったから。詳しくは放課後に説明するわ。
さ、そろそろ休み時間も終わるし午後の授業に行きましょ? もう体調は治っているでしょ?」
いや、まだ体調が……と私が弁明するも、この後すぐに私は彼女に引っ張られて午後の授業を受ける羽目になってしまった。
授業中も休み時間も色んな意味でクラスメイトの視線が私に向いてきていて、辛かった……
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