3-20 夜野さんの秘密

「改めて見ると、すごい跡よね。これホントに稲月さんがやったの?」


 放課後になって、私と夜野さんは二人で足稲山の昨日の場所に来ていた。


「うん。多分。気が付いたら吹っ飛ばされていただけなんだけれどもね」


 昨日までは平だったはずの隠れた広場には、深さこそ大したことは無いけれど、見てわかるぐらいに結構な大きさのくぼみが出来ていた。


「怪我の具合からしてもホントにそうっぽいんだけれどね」


 私の言葉と状況を見て納得するように頷いた後、夜野さんは広場の端の方に行って鞄を置いた。

 それに倣って私も鞄を降ろす。


「それで、夜野さんの思うところって何なの?」


 準備体操代わりに体を軽く伸ばしている彼女にそう尋ねた。


「うーん、それなんだけれどね。その前に一つ確認させて?」

「何を?」

「稲月さんって先天性? 後天性? 私が思うには後天性だと思うんだけれど」


 先天性か後天性か。それは魔法を使う素質が芽生える時期の話だった。

 一般的に魔法適性は生まれ持って所持する、つまり先天的なものが大半で、生まれた後何らかの切っ掛けで後天的に魔法適性を持つということは非常に稀だった。

 本来はそれこそ、神様が下りてくるぐらいの確率しかないものだった。


 でも、私の年代は違っていて、ちょうど私が2-3歳の頃に後天的に魔法適性を発揮した子供が増えるという事が起きていた。

 今でも後天性の魔術師は魔術師の全体数からすると多くは無いけれど、元々の発生確率が0.01%あるかないかのところから20%近くまで増えれば、それは歴史に乗るような事象として扱われることになるわけで。

 この事は、歴史の教科書ではすでに奇跡の時代として記述されていた。

 理由は定かにはなっていないけれど、識者の見解では第二次大戦での魔術師の多大な減少による何かの揺り戻しではないかとされている。


 そして、私は夜野さんの指摘通り、後天的に魔法適性を持ったとお父さんから聞かされていた。


「うん、その通りよ? それがどうかしたの?」

「そうだと思った。実はね、私も後天的に魔法適性を持った方なのよ」


 そう言われてもさして驚くことではなかった。


 一般的に、先天性、後天性での魔術師としての差異はあまりないと言われている。

 小さい頃は多少後天性の方が問題が起きやすいが、魔術師として成長するにつれて先天性後天性での差異は個人差のレベルに収まるだろうとの予測だった。

 後天的であったとこで優劣はないのだし、何が言いたいのだろう?


 話の意図がつかめていない私に対して夜野さんは続ける。


「しかもね、私、実は特性無色なの」

「えっ!?」

「今の所、先生以外誰も知らない秘密よ? お願いだからクラスの皆には黙っていてね?」


 驚いてすぐに言葉が出なかったから、代わりに首を縦に振った。


 特性が無色であるという事。それはつまり、魔法適性はあっても、個人の魔力に親和する原子や運動パターンがないと言う事だった。

 魔力適性を持つものは普通、個人の特性として、何かの原子や分子、それらの運動パターンなどに対して特に優れた方向性が出るようになる。

 例えば、一般的に風が得意な魔術師は窒素に対して働きかける力が強い場合が多い。大気中の大部分を占める窒素に対して効率的に魔力を転換させることが出来るから風魔術が得意になる。

 水が得意な場合は同様に水に対しての親和性が強い。火や土などは色々なケースがあるが、一様に得意な原子や分子があると言う事には代わりにない。


 無色の場合はそれが無い。

 魔力はあるが、得意が無い。つまり何が問題になるかと言うと、魔法を使うためには魔力を必要な現象を起こすために導いてあげる必要が出てくる。

 詠唱が最たるもので、自己暗示をすることで魔力を特定の現象を起こすことができる。

 もしくはある現象を起こす事だけに特化した魔道具を使うなどだ。

 箒は一般的な魔道具で、魔力があればそれがどんなものであれ空を飛ぶことができる。それは、箒が《飛ぶ》と言う事に特化しているから、どんな色の魔力を入れたところで飛ぶようにできるからだ。


 詠唱は得意がある魔術師の場合でもサポートの為に使う事があるが、熟達するにつれ、得意な分野に関しては無詠唱でも感覚だけで魔法を使う事が出来るようになる。

 そして、無色の夜野さんにはそれが出来ない。どんな時でも呪文を使う必要があると言う事だった。


 ちなみに、無色は確固たる方向性が無い分、一瞬すると劣っている印象を受ける。でも、実の所は得意分野に引っ張られない分様々な事が出来る為、珍しいけれど無色だからと言う事で劣っていると言う事は全く無かった。


「驚いたでしょ?」

「うん、ちょっとだけね」


 ちょっとだけは言ったけれど、確かに驚いた。


 それは無色だからと言う事だけじゃなくて、私が驚いたのは、無色だと言う事をこの場で告白した事と、普段何気なく使っていた夜野さんの魔法が無詠唱に見えていたからだった。

 詠唱をすると馬鹿にされるわけではないし、丁寧に魔法を使う場合は詠唱が必要になる。でも、高校生にもなってしまえば、日常的に使う魔法は感覚のみの無詠唱が基本になる。

 だから、夜野さんも普通に無詠唱で魔法を使っていると思っていたのに。


 驚いている私に夜野さんは打ち明け話を続ける。

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