等身大


「皆んな? 学園祭が終わってから怠けすぎじゃない? もっとシャキっとしなさい!」

「なんか夏休み明けの気分〜」


美波さんが言う通り、本当に夏休み明けの気分だ。

それに、十一月に入り、合唱コンクールが行われるが、僕達M組は参加しないことになっていて、メリハリを付けるタイミングが無いのだ。

だが、十一月は誕生日会がある。

そう‥‥‥お小遣いが消える月だ。




その日の放課後、一人で皆んなの誕生日プレゼントを買いにショッピングモールへやってきた。

プレゼントを選んでいる時、クラスのグループチャットの通知が鳴った。



***



芽衣

『誕生日会なんだけどさ』

柚木

『どうした?』

芽衣

『十二月にまとめない?』

美波

『なんで?』

芽衣

『沙里も十二月が誕生日なんだって』

一樹

『沙里さんと同じ♡』

沙里

『黙れ』

輝久

《それなら、クリスマス会の日にプレゼント交換とかどうですか? 一人一つプレゼントを買って、ランダムに交換するんです』

柚木

『いいね!』

沙里

『それなら結菜もプレゼント貰えるし、賛成』

真菜

『愛梨ちゃんもプレゼント交換に混ぜよう!』

『そうだね、そうすれば人数的に上手く交換できる』

結菜

『沙里さん、愛梨さんにも連絡しといてください』

沙里

『真横でチャットする意味』


【沙里が愛梨を招待しました】


愛梨

『沙里に招待されたんですが』

沙里

『プレゼント買って』

愛梨

『はい?』

芽衣

『クリスマスの日に、このメンバーでプレゼント交換しよ!』

愛梨

『いいですよ』

沙里

『脱ぎたてパンツ希望』


【愛梨がグループを退出しました】


一樹

『沙里さんもパンツにしましょう』


【沙里が一樹を退出させました】



***


なにやってるんだか。

でもこれでプレゼントは一つ買えばいいから安上がりだ!

でも、せっかくクリスマスだし、プレゼント交換とは別に、結菜さんにプレゼント買っておこう。


最初に交換用のプレゼントを買うために、面白い雑貨とかが沢山売っている店に入った。

誰に当たるか分からないプレゼントってのも難しいもんだな‥‥‥あっ!びっくり箱でいいや!


箱の蓋を開けると、バネでゾンビが飛び出すビックリ箱を購入した。

次は結菜さんへのプレゼントか。

牛のグッズってあんまりないんだよな‥‥‥あったー!!

等身大のぬいぐるみ‥‥‥ 四万!?

無理無理無理!!

でも、喜ぶだろうな。


僕は気づくと、芽衣さんに電話をしていた。


「どうしたの?」

「あのー‥‥‥お金かしてほしんですけど」

「お金!? いくら?」

「四万円‥‥‥」

「んー、なにに使うの?」

「結菜さんへのプレゼントです」

「輝久、今どんだけ酷いお願いしてるか分かってる?」

「ごめんなさい!」

「はぁー、まぁ、いいよ」

「いいんですか!?」

「うん、今どこ?」

「ショッピングモールです」

「了解、今向かう」

「ありがとうございます!」





しばらくして、芽衣さんが駆けつけた。


「それで、四万のプレゼントって、なに買うの?」

「これです!」

「デカ!! こんなの持ち帰れないでしょ!」

「住所を書いたら、家に送ってくれるらしいです! クリスマスの日に届くようにしてもらおうかなって!」

「なるほどね、はい、お金」

「本当にいいんですか?」

「いいよ、返すのもいつでも大丈夫だから」

「二人ともー!」


お金を受け取ると、聞き覚えのある声がして振り向いた。

すると、美波さんが一人で駆け寄ってきていた。


「なにしてるの? 結菜は?」

「結菜さんへのプレゼントを買いに来たんです。だから結菜さんはいません」

「芽衣は? なんでいるの?」

「輝久がお金貸してほしいって言うから」

「お金持ちだもんね!」

「美波さんも知ってたの!?」

「だって、芽衣の家に泊まったことあるもん」

「いつ!?」

「いや、あまり思い出させないで」

「なんかごめんなさい」

「それより、結菜に内緒で二人っきりとかヤバくない?」


うわ‥‥‥なにも考えてなかった。


「美波も来たから三人じゃん」

「んじゃ大丈夫か!」

「いや、大丈夫じゃないですよ。帰ってください」

「は!? 四万も借りといて、すぐ帰らせるの!?」

「それはごめんだけど、よく考えてください‥‥‥心臓は四万じゃ買えませんよ」


僕の言葉を聞いた美波さんは、急に帰ろうとした。


「わ、私は帰る!」


だが、芽衣さんに服を掴まれてしまった。


「美波、一緒に死のう」

「死ぬことに何の意味があるの‥‥‥」

「好きな人から逃げて、生きながらえるより、逃げずに死んだ方がいいと思わないか」

「それもそうだな。死ぬ時‥‥‥一緒にいるのがお前なら、あの世でも心強いぜ」

「美波」

「芽衣」


二人は熱い握手を交わした。

僕は何を見せられているんだろう‥‥‥って「帰ってくださいよ!」


二人は僕に手を差し伸べて、声を揃えて言った。


「共に死のう!」

「嫌です」

「何が嫌なんですか?」

「結菜さん!?」


結菜さんの声がしたその瞬間、美波さんと芽衣さんは、物凄い勢いで商品のサングラスをかけた。


「オーウ、似合ってるよメイケル」

「ミナケルも似合ってるよ」

「なにしてるんですか二人とも‥‥‥」

「ニホンはイイ国ネ! ソウ思わないかメイケル!」

「サイコウネ!」


意地でも海外の人になりきるつもりだ‥‥‥。


「輝久君? さっき、このお二人と話してませんでした?」

「き、気のせいじゃないかな!」

「ならいいんですけど」


え、気づいてないの?嘘だろ‥‥‥?


「さっき、コンタクトを落としてしまって、目の前がボヤけているんですよ‥‥‥」


なるほど、そういうことか!


「なら、なんで僕が分かったの?」

「声で分かりました! って、あれ! 牛さんの模様です!」


結菜さんは僕が買おうとしていた牛のぬいぐるみを見つけてしまった。


「あぁ‥‥‥うん、等身大の牛のぬいぐるみだって」

「何円ですか?」

「四万円かな」

「店員さん! あれ買います!」


え‥‥‥そりゃないぜベイべー。


「輝久、死んでる。顔死んでるよ」

「お金返します。今のうちに帰ってください」

「わかった、行くよ美波」

「うん」


共に死ぬことを誓った二人は、よっぽど死にたくなかったのか、静かに逃げていった。

それにしても、プレゼントどうしよう‥‥‥あげようと思った物は、まさかの自分で買われちゃったし、帰って通販でも見てるみるか。


「輝久君! 購入してきました! 明日家に届きます! おっとっと」


「結菜さん、視界がボヤけてるのに危ないよ。家まで送るね」

「大丈夫です! 沙里さんと柚木さんと一緒に来ているので!」


そう言ってどこかへ行こうとした結菜さんは、僕の目の前で豪快に転び、何もなかったかのように歩きだした。

本当に大丈夫かな‥‥‥。


とりあえず僕は、ビックリ箱だけを購入して自宅に帰ってきた。





通販だとなんでもあるな【牛 グッズ】で検索してみよう。

お!いっぱいある!

安いのもいっぱいだ!これじゃ、逆に迷うな。


一時間以上、悩みに悩んだ結果、牛のプラモデルという、喜ぶか微妙なラインのプレゼントを購入した。

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