女装

「輝久君♡ おはようございます♡」


結菜さんの声だ。

そうだ‥‥‥無理矢理寝る作戦をとったんだ。

声も機嫌良さそうだし、起きるか。


「おはよう」

「よく眠れましたか?」

「うん、グッスリだよ‥‥‥」


僕の目に飛び込んできたのは、昨日芽衣さんが着た僕の服を着ている結菜さんだった。


「パジャマがなかったので、輝久君の服借りちゃいました♡」

「そ、そっか! 全然いいよ!」

「ねぇ、輝久君?」

「はい‥‥‥」

「今から芽衣さんのお家に行きますよ」

「え?」

「すでにアポは取ってあります。私が着替えたら行きますよ」

「は、はい‥‥‥」


結菜さんが制服に着替え終え、結菜さんの案内で芽衣さんの家に向かった。





「ここです」

「またまた〜、ご冗談を」

「本当ですよ?」

「‥‥‥え?」


その家は、フランスの雰囲気のあるお洒落な豪邸だった。


「チャイム押しますね」

「はい」

「おはようございます、芽衣さんの友達です」

「芽衣お嬢様のお友達でしたか、今お呼びいたします」


お嬢様‥‥‥。


それからすぐに、家のドアが開いた。


「お‥‥‥おはよう......」


芽衣さんはいつも見せないような可愛らしい服を着て出てきて、それも驚きだったが、この家‥‥‥。


「本当に芽衣さんの家なの!? お金持ち!?」

「う、うるさい! 二人とも早く上がって!」


芽衣さんの部屋に案内され、イメージとは真逆のメルヘンな感じだった。


「芽衣さんもそういう服着るんですね。いつもカッコいい系というか、そんな感じなのに」

「お父さんが、女の子なんだから可愛い格好しなさいってうるさくて、たまに着てる」

「そういえば、お金持ちなのになんでバイトしてたの?」

「あんまりお小遣い貰えなくて、自分のお金は自分でなんとかするのがルールなの。それにプレゼントとかは自分で稼いだお金で渡したかったし‥‥‥家がお金持ちなのバレたくなかったし‥‥‥」

「なんで!? てか、結菜さんの家とか愛梨さんの家の広さに驚いてたの演技!?」

「う、うん、皆んなには内緒だからね!」

「お話は終わりましたか?」


驚きすぎて、結菜さんの存在をすっかり忘れていた。


「結菜さんは、芽衣さんがお金持ちなの知ってたの?」

「知ってましたよ? でも、皆んなには内緒にしてと言われていたので」

「なるほど‥‥‥」


芽衣さんは自分のベッドに座って言った。


「それで? 何しに来たの?」


ベッドは僕の家と同じような普通のベッドだな。

本当に基本自分のお金で生活してるんだ。


「何しに来たって、心当たりはありませんか?」

「な、ない‥‥‥」

「輝久君はどうですか?」

「あるないあるないないななーい」

「どっちですか? 次ふざけたら、分かりますよね?」

「あ‥‥‥る」

「もう一度聞きます。芽衣さんはどうですか?」

「ある‥‥‥」

「説明していただけますね」

「お互いにカバンを間違えたみたいなの」

「それなんだけど、僕にカバンを渡してくれたのは美波さんなんだよね」

「美波さんが?」

「うん、美波さんも急いでたから、間違えたのはしょうがないと思う」

「そうですね、理由は分かりました。ですが、着る必要はないと思うのですが」

「それは一樹君が‥‥‥」

「なんですか?」

「えっと『今頃芽衣さんも輝久君の服を着ている、ここは芽衣さんの服を着るのが男ってものだろ』って言うから‥‥‥」

「また輝久君を悪の道に‥‥‥ちょっと殺してします」

「ちょっと結菜さん!?」


僕は、部屋を出ようとする結菜さんを必死に抑えた。


「離してください!!」

「芽衣さんも手伝ってください!」

「う、うん! 結菜、落ち着いて! 一樹なんて殺す価値もないよ! ノミだよノミ!」

「それもそうですね」


一樹君が聞いたらショック死するよ。


「二人に悪意がなかったのは分かりました。ですが、嫌なものは嫌です。これから沙里さんを誘ってゲームセンターに行きましょう。輝久君には女装して行ってもらいます」

「なんで!?」

「全校生徒に輝久君の女装を見られてしまいましから、もう誰に見られてもいいです。帰るまで沙里さんに、輝久君だとバレないようにしてくださいね? もしバレてしまったら‥‥‥芽衣さんには全校生徒の前で尻文字を披露してもらいます」

「なんで私!?」

「連帯責任です」

「輝久! バレたらぶっ飛ばすよ!?」

「えぇ‥‥‥」

「輝久君に暴力を振るった場合、スクール水着をきて尻文字、プラス、私にぶっ飛ばされます」

「勘弁してよ!」

「とりあえず、沙里さんに電話しますね」


結菜さんは沙里さんに電話をかけた。


「結菜? どうしたの?」

「ゲームセンターへ遊びに行きませんか?」

「行く!」

「それでは、ゲームセンターで集合にしましょう」

「分かった! 早く来てね!」


本当にやるんだ‥‥‥。


「芽衣さんも先にゲームセンターに行っててください。私は一度、輝久君を女装させるためにお家に戻ります」

「分かった」


一度、二人で結菜さんの家にやってくると、結菜さんは自分の下着と服を渡してきた。


「下着は着けなくていいんじゃないかな‥‥‥」

「なに言ってるんですか? 今日の輝久君は女の子なんですよ? 早く着替えてください」


泣く泣く結菜さんの下着と服を着ると、結菜さんは茶髪ロングのウィッグをかぶせてきた。


「これで完璧ですね。行きましょう」

「はい‥‥‥」


靴もヒールを履かされ、今にも転びそうなぐらい歩きにくい。

そんな中でゲームセンターに着くと、芽衣さんと沙里さんが、UFOキャッチャーに熱中していた。

そして、結菜さんに気づいた沙里さんが声をかけてきた


「結菜!」

「おまたせしました。今日は新しいお友達を連れてきました」

「んー?」


沙里さん!!そんなに顔を覗き込まないで!!


すると沙里さんは笑顔で言った。


「よろしく! 名前は?」


名前!?

僕は咄嗟に甲高い声で言った。


輝子てるこです!」


露骨な名前を聞いて、沙里さんの後ろで芽衣さんが焦っている。


「よろしく輝子! さっそくだけど輝子、これ取れる?」

「どれですか?」

「このカエルの置物! 最近学園祭があってね、その時見たやつと同じなの!」

「こ、これはあの穴を狙うんですよ!」

「なるほど! やってみる!」


僕のアドバイスを聞いて、沙里さんはカエルの置物を一発でゲットした。


「取れたー!」


すると、結菜さんは悪い事を考えてる時に見せる笑顔で言った。


「皆さんでプリクラ撮りませんか?」

「撮ろう! 芽衣も撮ろう!」

「う、うん‥‥‥いいよ!」


四人でプリクラ機の中に入り、撮影が始まった。


「輝子、もっと前向かないと顔映らないよ?」


「そうですよ輝子さん? ちゃんと撮りましょう」


ダメだ‥‥‥今バレなくても、確実に落書きの時にバレてしまう。


そして、撮影のカウントダウンが始まった時、結菜さんは僕の耳元で囁いた。


「ちゃんと撮らないと、この場でウィッグを取ります」


僕は恐怖で、反射的にカメラ目線になってしまった。あんな脅し文句、ハゲだったら泣いちゃうよ!


なんとかプリクラを撮り終わり、芽衣さんと沙里さんが落書きコーナーに入っていった。


「輝子って可愛い顔してるね」

「え!? そ、そうだね! 女の子だからね!」


僕はバレてないか気になって、落書きコーナーのカーテンを開けた。


「あ! 輝子も落書きしてみる?」

「わ、私は大丈夫!」

「いいからいいから! 芽衣、輝子と変わって!」

「う、うん」


芽衣さんが席を譲ってくれる時、バレたら殺すと言わんばかりの無言の圧力を食らった。


「輝子は好きな人とかいるの?」

「い、いないよ!」

「輝子って本当に女の子なんだよね」


なんだその質問‥‥‥まさかバレてる?


「当たり前じゃないですか!」

「そっか、私はね、輝久っていう人が好きなんだ」

「そ、そうなんですか」

「でもね、輝久には彼女がいて、きっとこの恋は一生叶わないの。きっとあの二人は結婚までいく。そんな気がするんだ」

「そうなんですか」

「それに、私が輝久に気持ちを伝えた時、強引に酷いことしちゃったし、もしかしから嫌われてるかもしれない。輝久は優しいからさ、その気持ちを表に出さないだけかも」


なんで‥‥‥そんなことないのに。


「嫌いじゃないと思います!」

「本当に? 輝子が輝久だったら、私みたいな女の子ってどう思う?」

「笑顔が可愛くて、全力で楽しんで、友達思いで‥‥‥」


それでなんだ‥‥‥好きって言ったらおかしいし‥‥‥。


「友達として大好きだと思います」


「‥‥‥そっか、よし! 落書き終わった!」


なんか今、悲しそうな顔した?気のせいかな。


その後、メダルゲームで夜まで遊んで、沙里さんに正体がバレることはなかった。


「輝子! また遊ぼうねーー!」

「は、はい!」





そのまま帰るという鬼畜ルール追加で、僕が自然と家に入ると、僕を見たお母さんは驚いた。


「輝久!? あんたそんな趣味あったの!?」

「ち、違うんだー!!!!」


僕は自分の部屋まで階段を駆け上がり、ベッドに顔を伏せた。

沙里さんにバレなかったことの安心感で、普通にお母さんに見られてしまった‥‥‥死にたい‥‥‥あ、結菜さんから電話だ。


「もしもし」

「もしもし、バレませんでしたね」

「うん、本当に今日は疲れたよ」

「お疲れ様です。服と下着は差し上げますので、今日の夜は好きに使ってください♡」

「使いませんよ!」

「残念です‥‥‥使ってるところの動画を送ってもらおうと思ったんですが‥‥‥」

「そんな悲しそうな声出してもダメ」

「しょうがないですね、それじゃ今日はゆっくり寝てください」

「うん! おやすみ!」

「おやすみなさい、大好きです」

「僕も大好きだよ」


電話を切り、夜ご飯とお風呂を済ませてベッドに入ると、沙里さんから、今日撮ったプリクラの画像付きでメッセージが届いた。


(輝久! 今日は楽しかったね!)


バレてたー!!!!

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