女装
「輝久君♡ おはようございます♡」
結菜さんの声だ。
そうだ‥‥‥無理矢理寝る作戦をとったんだ。
声も機嫌良さそうだし、起きるか。
「おはよう」
「よく眠れましたか?」
「うん、グッスリだよ‥‥‥」
僕の目に飛び込んできたのは、昨日芽衣さんが着た僕の服を着ている結菜さんだった。
「パジャマがなかったので、輝久君の服借りちゃいました♡」
「そ、そっか! 全然いいよ!」
「ねぇ、輝久君?」
「はい‥‥‥」
「今から芽衣さんのお家に行きますよ」
「え?」
「すでにアポは取ってあります。私が着替えたら行きますよ」
「は、はい‥‥‥」
結菜さんが制服に着替え終え、結菜さんの案内で芽衣さんの家に向かった。
※
「ここです」
「またまた〜、ご冗談を」
「本当ですよ?」
「‥‥‥え?」
その家は、フランスの雰囲気のあるお洒落な豪邸だった。
「チャイム押しますね」
「はい」
「おはようございます、芽衣さんの友達です」
「芽衣お嬢様のお友達でしたか、今お呼びいたします」
お嬢様‥‥‥。
それからすぐに、家のドアが開いた。
「お‥‥‥おはよう......」
芽衣さんはいつも見せないような可愛らしい服を着て出てきて、それも驚きだったが、この家‥‥‥。
「本当に芽衣さんの家なの!? お金持ち!?」
「う、うるさい! 二人とも早く上がって!」
芽衣さんの部屋に案内され、イメージとは真逆のメルヘンな感じだった。
「芽衣さんもそういう服着るんですね。いつもカッコいい系というか、そんな感じなのに」
「お父さんが、女の子なんだから可愛い格好しなさいってうるさくて、たまに着てる」
「そういえば、お金持ちなのになんでバイトしてたの?」
「あんまりお小遣い貰えなくて、自分のお金は自分でなんとかするのがルールなの。それにプレゼントとかは自分で稼いだお金で渡したかったし‥‥‥家がお金持ちなのバレたくなかったし‥‥‥」
「なんで!? てか、結菜さんの家とか愛梨さんの家の広さに驚いてたの演技!?」
「う、うん、皆んなには内緒だからね!」
「お話は終わりましたか?」
驚きすぎて、結菜さんの存在をすっかり忘れていた。
「結菜さんは、芽衣さんがお金持ちなの知ってたの?」
「知ってましたよ? でも、皆んなには内緒にしてと言われていたので」
「なるほど‥‥‥」
芽衣さんは自分のベッドに座って言った。
「それで? 何しに来たの?」
ベッドは僕の家と同じような普通のベッドだな。
本当に基本自分のお金で生活してるんだ。
「何しに来たって、心当たりはありませんか?」
「な、ない‥‥‥」
「輝久君はどうですか?」
「あるないあるないないななーい」
「どっちですか? 次ふざけたら、分かりますよね?」
「あ‥‥‥る」
「もう一度聞きます。芽衣さんはどうですか?」
「ある‥‥‥」
「説明していただけますね」
「お互いにカバンを間違えたみたいなの」
「それなんだけど、僕にカバンを渡してくれたのは美波さんなんだよね」
「美波さんが?」
「うん、美波さんも急いでたから、間違えたのはしょうがないと思う」
「そうですね、理由は分かりました。ですが、着る必要はないと思うのですが」
「それは一樹君が‥‥‥」
「なんですか?」
「えっと『今頃芽衣さんも輝久君の服を着ている、ここは芽衣さんの服を着るのが男ってものだろ』って言うから‥‥‥」
「また輝久君を悪の道に‥‥‥ちょっと殺してします」
「ちょっと結菜さん!?」
僕は、部屋を出ようとする結菜さんを必死に抑えた。
「離してください!!」
「芽衣さんも手伝ってください!」
「う、うん! 結菜、落ち着いて! 一樹なんて殺す価値もないよ! ノミだよノミ!」
「それもそうですね」
一樹君が聞いたらショック死するよ。
「二人に悪意がなかったのは分かりました。ですが、嫌なものは嫌です。これから沙里さんを誘ってゲームセンターに行きましょう。輝久君には女装して行ってもらいます」
「なんで!?」
「全校生徒に輝久君の女装を見られてしまいましから、もう誰に見られてもいいです。帰るまで沙里さんに、輝久君だとバレないようにしてくださいね? もしバレてしまったら‥‥‥芽衣さんには全校生徒の前で尻文字を披露してもらいます」
「なんで私!?」
「連帯責任です」
「輝久! バレたらぶっ飛ばすよ!?」
「えぇ‥‥‥」
「輝久君に暴力を振るった場合、スクール水着をきて尻文字、プラス、私にぶっ飛ばされます」
「勘弁してよ!」
「とりあえず、沙里さんに電話しますね」
結菜さんは沙里さんに電話をかけた。
「結菜? どうしたの?」
「ゲームセンターへ遊びに行きませんか?」
「行く!」
「それでは、ゲームセンターで集合にしましょう」
「分かった! 早く来てね!」
本当にやるんだ‥‥‥。
「芽衣さんも先にゲームセンターに行っててください。私は一度、輝久君を女装させるためにお家に戻ります」
「分かった」
一度、二人で結菜さんの家にやってくると、結菜さんは自分の下着と服を渡してきた。
「下着は着けなくていいんじゃないかな‥‥‥」
「なに言ってるんですか? 今日の輝久君は女の子なんですよ? 早く着替えてください」
泣く泣く結菜さんの下着と服を着ると、結菜さんは茶髪ロングのウィッグをかぶせてきた。
「これで完璧ですね。行きましょう」
「はい‥‥‥」
靴もヒールを履かされ、今にも転びそうなぐらい歩きにくい。
そんな中でゲームセンターに着くと、芽衣さんと沙里さんが、UFOキャッチャーに熱中していた。
そして、結菜さんに気づいた沙里さんが声をかけてきた
「結菜!」
「おまたせしました。今日は新しいお友達を連れてきました」
「んー?」
沙里さん!!そんなに顔を覗き込まないで!!
すると沙里さんは笑顔で言った。
「よろしく! 名前は?」
名前!?
僕は咄嗟に甲高い声で言った。
「
露骨な名前を聞いて、沙里さんの後ろで芽衣さんが焦っている。
「よろしく輝子! さっそくだけど輝子、これ取れる?」
「どれですか?」
「このカエルの置物! 最近学園祭があってね、その時見たやつと同じなの!」
「こ、これはあの穴を狙うんですよ!」
「なるほど! やってみる!」
僕のアドバイスを聞いて、沙里さんはカエルの置物を一発でゲットした。
「取れたー!」
すると、結菜さんは悪い事を考えてる時に見せる笑顔で言った。
「皆さんでプリクラ撮りませんか?」
「撮ろう! 芽衣も撮ろう!」
「う、うん‥‥‥いいよ!」
四人でプリクラ機の中に入り、撮影が始まった。
「輝子、もっと前向かないと顔映らないよ?」
「そうですよ輝子さん? ちゃんと撮りましょう」
ダメだ‥‥‥今バレなくても、確実に落書きの時にバレてしまう。
そして、撮影のカウントダウンが始まった時、結菜さんは僕の耳元で囁いた。
「ちゃんと撮らないと、この場でウィッグを取ります」
僕は恐怖で、反射的にカメラ目線になってしまった。あんな脅し文句、ハゲだったら泣いちゃうよ!
なんとかプリクラを撮り終わり、芽衣さんと沙里さんが落書きコーナーに入っていった。
「輝子って可愛い顔してるね」
「え!? そ、そうだね! 女の子だからね!」
僕はバレてないか気になって、落書きコーナーのカーテンを開けた。
「あ! 輝子も落書きしてみる?」
「わ、私は大丈夫!」
「いいからいいから! 芽衣、輝子と変わって!」
「う、うん」
芽衣さんが席を譲ってくれる時、バレたら殺すと言わんばかりの無言の圧力を食らった。
「輝子は好きな人とかいるの?」
「い、いないよ!」
「輝子って本当に女の子なんだよね」
なんだその質問‥‥‥まさかバレてる?
「当たり前じゃないですか!」
「そっか、私はね、輝久っていう人が好きなんだ」
「そ、そうなんですか」
「でもね、輝久には彼女がいて、きっとこの恋は一生叶わないの。きっとあの二人は結婚までいく。そんな気がするんだ」
「そうなんですか」
「それに、私が輝久に気持ちを伝えた時、強引に酷いことしちゃったし、もしかしから嫌われてるかもしれない。輝久は優しいからさ、その気持ちを表に出さないだけかも」
なんで‥‥‥そんなことないのに。
「嫌いじゃないと思います!」
「本当に? 輝子が輝久だったら、私みたいな女の子ってどう思う?」
「笑顔が可愛くて、全力で楽しんで、友達思いで‥‥‥」
それでなんだ‥‥‥好きって言ったらおかしいし‥‥‥。
「友達として大好きだと思います」
「‥‥‥そっか、よし! 落書き終わった!」
なんか今、悲しそうな顔した?気のせいかな。
その後、メダルゲームで夜まで遊んで、沙里さんに正体がバレることはなかった。
「輝子! また遊ぼうねーー!」
「は、はい!」
※
そのまま帰るという鬼畜ルール追加で、僕が自然と家に入ると、僕を見たお母さんは驚いた。
「輝久!? あんたそんな趣味あったの!?」
「ち、違うんだー!!!!」
僕は自分の部屋まで階段を駆け上がり、ベッドに顔を伏せた。
沙里さんにバレなかったことの安心感で、普通にお母さんに見られてしまった‥‥‥死にたい‥‥‥あ、結菜さんから電話だ。
「もしもし」
「もしもし、バレませんでしたね」
「うん、本当に今日は疲れたよ」
「お疲れ様です。服と下着は差し上げますので、今日の夜は好きに使ってください♡」
「使いませんよ!」
「残念です‥‥‥使ってるところの動画を送ってもらおうと思ったんですが‥‥‥」
「そんな悲しそうな声出してもダメ」
「しょうがないですね、それじゃ今日はゆっくり寝てください」
「うん! おやすみ!」
「おやすみなさい、大好きです」
「僕も大好きだよ」
電話を切り、夜ご飯とお風呂を済ませてベッドに入ると、沙里さんから、今日撮ったプリクラの画像付きでメッセージが届いた。
(輝久! 今日は楽しかったね!)
バレてたー!!!!
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