文化祭1日目

「文化祭だー!!」

「沙里さん、楽しそうですね」

「だって、いろんな店があるんだよ!? それに愛梨からお小遣い貰ったし! あっ! クレープ屋さん! 買うぞー!」


沙里さんはお金を握りしめて、楽しそうに一人で走って行ってしまった。


「私達、行きたい場所あるから行くね!」


芽衣さんと鈴さんと柚木さんも、どこかへ行ってしまった。


「私、真菜とプロレスショー見に行くんだけど、輝久も行く?」

「プロレスは見なくていいかな」

「えー、んじゃその辺で会ったらよろしく!」

「はい!」


結局、結菜さんと一樹君と僕の三人になってしまった。


「一樹さん、輝久君と二人で楽しみたいので、どこか行ってください」

「え!? 酷いですよ!」

「あ、今学校に可愛い他校の生徒が入って行きました」

「え!? ちょっと行ってくる!」


一樹君‥‥‥なんかキモい。


「結菜さん、なんか行きたい場所ある?」

「せっかくですし、最初は愛梨さんの教室に行きましょう!」

「そうだね!」


歩き出す時、僕は自然と結菜さんと手を繋いでしまった。


「あ、ごめん!」

「つ、繋ぎましょう」


結菜さんは本当にすぐ赤くなる。


「愛梨さんの教室の出し物ってなんなの?」

「占いらしいですよ!」

「え! 凄いね!」

「早く行きましょう!」

「はい!」


愛梨さんの教室に着くと、紫のカーテンがかかり、教室は薄暗く、教室の中に五つの個室のようなものが作られていた。


「次の方どうぞ!」


僕達の番が来て、僕と結菜さんはバラバラの個室に入った。



***



「結菜先輩!?」

「あら! 麻里奈さん!」

「来てくれたんですね!」

「もちろんです! 麻里奈さんが占ってくれるんですか?」

「はい!」

「それじゃ、よろしくお願いします」


***



「愛梨さんだ!」

「て、輝久先輩!?」

「その格好、魔女? 似合うね!」

「バカにしてるんですか?」

「いやいや、可愛いって意味です!」

「お、お世辞はいいです!」

「んっん!」


結菜さんの咳払いが聞こえた。

やばい、聞かれたかも‥‥‥。


「それで、愛梨さんは何を占ってくれるんですか?」

「なんでも大丈夫です」

「それじゃ、僕の運命の人!」

「わ、わかりました」



***



結菜は個室の壁に耳を当てて、輝久達の会話を聞き始めた。


「ゆ、結菜先輩?」

「シー」

「あ、はい、ごめんなさい」


愛梨は下に隠してある本を見ながら答えた。


「見えました!」

「誰!?」

「年下の女性で‥‥‥(年下!? わ、私だったらどうしよ!)」

「誕生日が‥‥‥」

「ゲホゲホゲホ!!」


結菜はわざと咳をし、壁越しに圧力をかけた。


「愛梨さん、結果変えて、早く」

「う、運命の相手は結菜先輩です!」

「す、すごーい!」

(誕生日‥‥‥私の誕生日だ‥‥‥)


それを聞いた結菜は、キラキラした目で麻里奈を見つめた。


「よ、良かったですね(名指しの結果なんて出ないのに‥‥‥)」

「麻里奈さん! 私の運命の相手を占ってください!」

「は、はい! ‥‥‥見えました! 二つ歳上で」

「麻里奈さん!! 私の運命の相手を占ってください!!」

「て、輝久先輩です!」

「凄いです! 麻里奈さんは占いの才能がありますね!」

「あ、ありがとうございます」

「結婚はいつですか?」

「えっと‥‥‥ 二十から二十二歳ぐらいで、早めの結婚になりそうですね」

「ど、どうしましょう! まだ心の準備が!」

(結菜先輩って、意外と可愛い人だな)

「それじゃ、輝久君が浮気しないようにするにはどうすればいいか占ってください!」


麻里奈は恋愛テクニックの本を開いた。


「見えました! 体を使って虜にするといいですね‥‥‥いや、あの、結菜先輩? 赤くなりすぎです」


その頃、愛梨は輝久を冷たい眼差しで見つめていた。


「輝久先輩、私と二人っきりの個室で興奮しないでください。怖いです」


そうして、二人は顔を赤くしながら教室を出た。



***



目が合っても、恥ずかしくてお互いすぐに目を逸らしてしまう。


「ゆ、ゆ、結菜さん!」

「ななっ、なんですか!?」

「つ、次はどこ行く?」

「なにか食べますか」

「そうだね」


二人で外に出て焼きそばを買いに来ると、既に売り切れの看板が立っていた。


「もう売り切れたんですか?」

「はい、M組の沙里さんが買い占めて行きました」


食べきれるわけないのに、なにやってるんだろう‥‥‥。



***



沙里は焼きそばを大きな袋に入れて、愛梨の教室に差し入れに行ったのだ。



***



結局僕達は、しょうがなくたこ焼きを買うことにした。


「結菜! 輝久!」

「あ、沙里さんだ」

「焼きそば買い占めて、ちゃんと食べたんですか?」

「愛梨の教室に差し入れした! 輝久のタコ焼き一つ貰い!」

「あ! 自分で買ってくださいよ!」


あれ? 結菜さんの様子がおかしいぞ? 何故?


「沙里さん、これ食べて良いですよ。あーん」

「やった! あーんっ!? 熱っ!!」


結菜さんは、たこ焼きを沙里さんの鼻に押し付け、冷たい眼差しで沙里さんを見つめる。


「なんでそんなことするの! 熱いじゃん!」

「輝久君と間接キスした罰です」

「‥‥‥爪楊枝だよ?」

「あと結菜さん、爪楊枝は一人二本貰えて、沙里さんが使ったのは僕が使ってない爪楊枝だよ」

「そ、そうなんですか!? ごめんなさい!」

「鼻赤くなってない?」

「大丈夫です、これ全部食べて良いですよ」

「やったー! んじゃ許す!」


沙里さんは結菜さんの隣に座り、幸せそうにタコ焼きを食べ始めた。

それを見ていた結菜さんのお腹から、ぐぅ〜と可愛らしい音が鳴った。


「お腹鳴ってますよ」

「ち、違います!! 今のは沙里さんのオナラです!!」

「はー!? してないし!!」

「私もしてないです!!」

「まぁまぁ、一緒にタコ焼き食べましょ」

「あ‥‥‥ありがとうございます」


なんとか解決したと思ったが、沙里さんは不機嫌そうにタコ焼きを頬張った。


「私オナラなんてしないもん、結菜なんて嫌いだ」

「沙里さん、嫌いなんて言っちゃダメですよ」

「だって私がオナラしたって言うんだもん」

「さっきの音は美波さんのオナラですよ」

「あり得る!!」


あり得ちゃうんだ‥‥‥美波さんのオナラってここまで聞こえるほどやばいの?



***



そんなことを言われているとは知らない美波は、プロレスショーに熱くなりすぎて、何故か一緒に戦い、それを真菜が応援するという謎の光景が生まれていた。


そして芽衣と鈴と柚木は、美術室で似顔絵を描いてもらっていた。



***



「輝久く〜ん」


一樹君が涙を浮かべながら歩いてきた。

なんだかめんどくさそうだ。


「どうしたの?」

「皆んな酷いんだ」

「ほっぺ赤いけど大丈夫?」

「女子生徒に声をかけたら打たれたんだ!」

「ご褒美じゃん」

「なんでだよ! あ、そういえば宮川さんが来てたよ」

「どこにいるの?」

「体育館で劇とか見てるよ。莉子先生のファッションコンテストを見逃さないように待機してるんだって」

「ファッションコンテストは明日だよ」

「あ、俺も忘れてた」

「教えに行きなよ。可愛い子紹介してくれるかもよ」


そう沙里さんが言うと、一樹くんは無言でガッツポーズした後、体育館まで走っていった。


「僕達も何かしに行きましょう!」

「私ね! 射的しに行きたい! 祭りでした時楽しかった!」

「結菜さん、どうします?」

「そうですね! 三人で行きましょう!」


三人で射的をしに一年生の教室に行くと、結構本格的な作りになっていて、お菓子とかフィギュアとか、いろんなジャンルの物が景品になっていた。

それに、百円で五発撃てるのも良心的だ。

最初にチャレンジするのは結菜さん。


「どれを狙いましょう」

「あれ取って! カエルの置物!」

「自分で取ってください」

「ケチ! ケツ!」

「最後のは余計です!」


結局結菜さんは、五発全てを一番取れやすいキャラメルに使い、最後の一発で無事にキャラメルをゲットして満足そうだ。


「輝久君! 見てください! 取れましたよ!」

「結菜さん凄い!」

「でもそれ、百円で払ってお釣りくるよ」

「沙里さんは夢がありませんね。こうやってゲットするのがいいんじゃないですか!」

「ふーん、次は私! あのカエルの置物を狙う!」


沙里さんが手のひらサイズの、可愛いカエルの置物に狙いを定めて撃つと‥‥‥パリン!と音がして、カエルの頭が消えた。


「ぅえー!? 顔無くなった! 割れちゃったんだけど!」

「ご、ごめんなさい! 割れてしまうなんて考えてませんでした!」


沙里さんは凄い悲しそうに涙を浮かべて銃を構えた。


「カエルなんて嫌いだー!!!!」


うわ、体まで割ったよ‥‥‥わざわざトドメ刺さなくても‥‥‥。


結局、沙里さんもキャラメルを一つだけゲットして終わってしまった。


「沙里さん、それ百円でお釣りきますよ」

「こ、こうやって取るからいいんだよ!」


さっきと言ってること違うし。


最後は僕だ。

僕のお目当は、もちろんアニメキャラクターのフィギュアだ。


「あんな大きいの倒れるのかな」

「輝久君? まさか、あの美少女フィギュアを狙ってますか? ゲットしてどうするつもりですか? パンツ覗きながらハスハスするんですか? 浮気ですよ?」

「ぼ、僕が狙ってるのは大きなダルマだよ! いやだなー! 僕が美少女フィギュア欲しいわけないじゃん!」

「そうですよね♡」


取れるはずないと思っていたダルマは一発で倒れ、まさかのゲットしてしまった‥‥‥すごい要らない‥‥‥。





その後は皆んなと合流して、輪投げをして遊んだり、演劇を見たり、真菜さんが歌うま選手権に出たり、美波さんと柚木さんコンビで即興ショートコントに出て、体育館を氷河期にしたりと、一日目はお祭り気分で楽しくはしゃぎまくった。





その日の帰り道


「芽衣さん、荷物になるの嫌だからこれ要らない?」

「くれるの!?」


射的で取ったダルマを、芽衣さんに譲ろうと話しかけてみた。


「え、逆に欲しいですか?」

「欲しい! 輝久がくれるものなら、なんでも欲しい!」

「なぜ芽衣さんにダルマをあげるんですか? なぜ私じゃないんですか?」

「あ‥‥‥いや、たまたま目が合ったから‥‥‥」

「まぁいいです。ダルマの顔は怖くて苦手ですから、あげることを許可します」

「だって、芽衣さん」

「ありがとう!! 大事にするね!!」



***


その日の夜、芽衣はダルマを抱きながら眠りについた。


***

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