ゆいポン
「ねぇ、一樹君」
「なに?」
「今日から結菜さん達もメイド喫茶でアルバイトするんだって」
「それって、皆んなのメイド服姿を見れるってこと!?」
「そうなんだよ! 沙里さんとかさ、絶対可愛いよね!」
「間違いない! これは行くしかない!」
「ちょっと待って、僕達ってバレないように変装して行こう!」
「よし! さっそく変装だ!」
僕達は演劇部に借りた、おじさんセットに着替えてメイド喫茶に向かった。
「ちゃんと声も変えてね」
「わかった」
そして僕達は、ドキドキしながらメイド喫茶に橋を踏み入れた。
「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」
出迎えてくれたのは沙里さんだった。
な、なんだこの可愛い生き物は!!
本当に人形みたいだ。
結菜さん達は‥‥‥か、可愛すぎるー!!
ここは天国ですか!?
みんなの可愛さに見惚れつつ僕達が席に座ると、結菜さんがやってきた。
「こちらがメニューです♡ ご主人様と、昨日ご主人様をメイド喫茶に誘った犯罪者さん♡」
バレてるー!?!?!?!?
「て、輝久って誰のことかなーー」
「あら? 私、輝久君の名前は一度も出してませんよ?」
やらかしたー!!!!
「今のはちょっとした冗談じゃ」
「そうじゃ、輝久君はいつも冗談を言うから困るんじゃ」
「名前言ってるよ一樹君」
「あ、ごめん」
僕達が冷や汗をかきながら、もうダメだと悟って変装を解くと、M組の女子生徒が集まってきた。
「輝久! メイド服どう? 可愛い?」
美波さんがそう言うと、結菜さんは僕を抱き寄せて言った。
「輝久君に変な質問しないでください。輝久君? 一番可愛いメイドは誰ですか?」
「結菜さんです」
本当は沙里さんが一番可愛いと思ってるなんて言えない。言ったら死ぬ。
すると、僕達を見た他のお客さんがイライラした様子で貧乏ゆすりを始めた。
「なんだよあの二人。メイドに囲まれてニヤニヤしやがって、いきなり来て生意気なんだよ」
すると、お客さんに真菜さんが近づいた。
「私の大事なペットに、今なに言いました? 許せませんね‥‥‥貴方達も私のペットの分際で!!」
「す、すいませんでした!!」
「ほら、土下座しながら靴を舐めなさい」
「はい!!」
真菜さんはお客さんに土下座させ、靴を舐めようとしたお客さんを踏みつけて罵った。
「なに本当に舐めようとしてるんですか? 気持ち悪いんですよ」
「あぁ♡ もっと踏んでくださーい!」
僕はその光景にドン引きしながら結菜さんに聞いた。
「あ、あれ大丈夫なの?」
「はい、真菜さんのSっぷりに、すでにファンも付いているんです」
「す、凄いね‥‥‥」
「さ、沙里さんも人気出そうだよね」
「私は輝久に可愛いって思ってもらえたら、それでいいや。バイトは適当に済ませる」
「可愛いですよ!! ‥‥‥結菜さんが!!」
あっぶねー!!
少しシュンとした沙里さんを見た一樹くんは、気を使って全員を褒め始めた。
「沙里さんも可愛いよ!」
「は?」
「えっ‥‥‥ゆ、柚木さんも可愛い! 元気な感じが滲み出てるのがまたいい!」
「え? 呼んだ? 聞いてなかった」
「(なんだ、何かがおかしい)芽衣さんは何度見ても可愛いね! 見た目にツンデレ感あって最高!」
芽衣さんは三秒ほど一樹くんを真顔で見つめた後、何も言わずに視線を逸らした。
「ま、真菜さんも可愛いね! 胸が強調されてるのがナイス!!」
「あぁ? 俺らのマナティー様に、何言ってんだよ! あぁ!?」
「ご、ごめんなさい!!」
真菜さんのファン怖すぎ‥‥‥って、マナティーって名前なのね。なんかイエティーみたいだな。
「美波さんも」
「ペッ」
「なに唾吐いてるんですか!? まだ何も言ってないし!! ‥‥‥鈴さんも可愛いです! 鈴さんはウサギの耳なんですね!」
「口説いてるんですか? 出禁にしますよ?」
「(くそー!! きっと、意外と純粋な結菜さんなら喜んでくれるはず!!)結菜さんは」
「私は可愛いに決まってるじゃないですか」
「はい(もう手に負えないわ)」
「ちょっとアンタ達、仕事もしないでお喋り?」
店長の一言で、全員慌てて持ち場に戻っていった。
頑張ってパフェを作る結菜さん、なんかいいな。
多分、バイトとか合宿の時以外したことないだろうし、あぁやって頑張ってる結菜さん‥‥‥なんか好きだ。
「一樹君! 僕達は帰ろっか!」
「え? まだなにも頼んでないよ?」
「皆んなの邪魔になりそうだし」
「それもそうだね! 帰ろっか!」
「はいご主人様♡ これは私からの奢りです♡」
僕達が帰ろうとした時、結菜さんが僕と一樹君にパフェを持ってきてくれた。
「いいの!?」
「もちろんです♡」
「俺もいいんですか!?」
「有料です」
「あ、はい」
「お二人が来てくれたお陰で、皆さんの緊張が解けました。ありがとうございます!」
これが天使の笑顔ってやつか!
僕達は美味しくパフェを頂き、それを羨ましそうに見つめる沙里さんと目を合わせないようにしながら、急いでパフェを食べ尽くした。
「ご馳走様でした!」
「ありがとうございます! お会計は大丈夫ですよ!」
「え? 一つ分は払わなきゃいけないんじゃないんですか?」
「いえ、ゆいポンから代金は頂いてます!」
「ありがとう!! ゆいポーン!!」
一樹君がそう言うと、結菜さんは恥ずかしかったのか完全に無視を決め込んだ。
そして僕は。恥ずかしがるゆいポン、いや結菜さんに意地悪をしたくなり、あえて名前を呼んでみることにした。
「ゆいポン大好きー!」
その瞬間、ガッシャーン!と食器が割れる音が店内に響き、自分の行動を後悔した。
「ゆいポン大丈夫!?」
「す、すみません!」
結菜さんは動揺して、パフェの容器を落としてしまったのだ。
そして僕は、一樹くんと慌てて逃げるように店を出た。
「いやー、輝久君が結菜さんに惚れた理由が分かった気がしたよ」
「結菜さん優しいでしょ!」
「うん! 今まで冷たすぎたけどね」
「素直じゃないだけなんだよ! そこが可愛い!」
「そうだね! 嬉しかったからネットで自慢しちゃお! ‥‥‥なにこれ」
「どうしたの?」
「今SNS開いたらさ、結菜さんの写真が投稿されてる」
「どれ?」
見せてもらった写真は、結菜さんがメイド服を着て、割れたグラスを片付けている写真だった。
「これ今の写真じゃない?」
「うん、それに酷いこと書いてあるよ」
(M組の結菜がメイド喫茶でバイトしてるの発見。男の客を誘惑してるクズ女! しかもグラス割ってるし、マジでダサい。とりあえず、こいつ誰とでもヤるらしいから、気になる人は店で出待ちしてみ! ナンパすれば簡単に付いてくるよ! しかもこの前、万引きしてたし! ヤバくね? ちなみにメイド喫茶での名前は、ゆいポン)
「なにこれ、結菜さんはそんなことしないよ。しかも万引きするわけないじゃん。お金持ちだし」
「他にもM組の女子がバイトしてるのに、結菜さんのことだけ書いてるってことは、単純に結菜さんのことが気にくわない人の投稿だね」
「投稿してる人のアカウント見せて」
「これだよ。アイコンは犬の写真で、名前がキャンディー、プロフィールには何も書いてないね」
「名前がキャンディーって‥‥‥過去の投稿とかに自分の顔とか投稿してないかな」
「見てみるね。あった! 顔じゃないけど、うちの学校の制服だ! リボンの色的に、ニ年生だ!」
「メイド喫茶に戻ろう! そこから出てきたニ年生が犯人だ!」
「うん! 急ごう!」
僕達はメイド喫茶の外で、物陰に隠れながら犯人が出てくるのを待つことにした。
「あちゃー、結菜さんのアカウント、早速荒らされてるよ。変態な男が誘いのメッセージ送ったり、他の女子が悪口送ったりしまくってる」
「結菜さんってアカウント持ってたの?」
「知らなかったの? 何も投稿してないけど、プロフィールに輝久君監視用って書いてあるよ」
「僕って監視されてたの!? まぁ、変なこと投稿してないから大丈夫か」
「出てきた!」
店から、同じ学校の制服を着た女子生徒が出てきた。
「一人だね」
「声かける?」
「先回りして顔を確認しよう! 今日はそれだけで充分!」
僕達は先回りして自然とすれ違い、女子生徒の顔を確認した。
女子生徒は携帯に夢中で僕達には気づかなかったはず。
「顔も確認したし、メイド喫茶に戻ろう! 結菜さん達もバイトが終わる時間だし、心配だからさ」
「そうだね、俺もついていくよ」
メイド喫茶に戻ると、変な出待ちはいなく、丁度結菜さん達が出てきた。
「結菜さん!」
「輝久君? なにやってるんですか?」
「結菜さんが心配でさ」
「もしかしてSNSのことですか?」
「知ってたの?」
「はい、あのアカウントは削除して、私と分からないアカウントに作り直そうと思います」
「そっか」
「結菜? なんかあったの?」
後から出てきた芽衣さんが、心配そうに結菜さんに声をかけた。
「心配しなくて大丈夫ですよ。困ったことがあったら、ちゃんと相談しますから」
「約束だからね?」
「はい」
「M組全員に頼るんだよ?」
「柚木さんは優しいですね、頼りにします」
そして、その日は何事もなく全員帰宅した。
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