おかえりなさいませ♡
「体育祭よー!!」
「おー!!」
莉子先生と柚木さんはやる気満々だ。
「体育祭は明日ですよ? 盛り上がるの早いです」
「何言ってるの輝久君!! 体育祭よ!? 青春よ!?」
「そうだよ輝久!! 青春しなきゃ!!」
「走るの苦手なんですよ。まぁ、できるだけ頑張りますけど」
「さすが輝久!!」
※
そして体育祭当日‥‥‥。
「元気出してください」
すっかり元気を無くした柚木さんに声をかけた。
「だって!! なんで大雨なのー!! ‥‥‥てるてる坊主! てる、てる‥‥‥輝久を天井に吊るす!!」
「死にますよ!!」
その時、校内放送が流れた。
「体育祭は悪天候のため、中止となります」
「オーマイガー!!!!」
柚木さん、どんだけ楽しみだったんだ‥‥‥。
でも、去年からやりたがってたもんな。
しばらくして、愛梨さんがM組にやってきて、いきなり頭を下げた。
「ごめんなさい! 皆さんにとっては最後の一年だっていうのに‥‥‥」
「明日とか、晴れたらやらないんですか?」
と、結菜さんが聞くと、愛梨さんはますます申し訳なさそうな表情を見せた。
「この学校では、同じ月に学園祭もあります‥‥‥学園祭への準備が間に合わなくなってしまうので、体育祭を開催することはできません」
すると、柚木さんが何か閃いたように言った。
「だったら、今日を学園祭の準備に使えば問題ないじゃん! 私天才!?」
「それが‥‥‥台風が近づいているということで、今日は下校するということに決まりました‥‥‥」
「これが‥‥‥人生か‥‥‥」
柚木さん、重いよ。
結局、学校に来てすぐ帰ることになり、次の日にはすっかり台風は過ぎ去っていた。
※
今日から学園祭の準備が始まるけど、僕達のクラスでは何をするんだろう。
「先生、僕達のクラスはなにするんですか?」
「あ、輝久君と沙里さんと結菜さんが休んだ日に話したんだけど、全員ファッションコンテストに出てもらいます!」
「えっ‥‥‥」
「M組から出し物を出さない代わりに、学園祭の締めを飾るファッションコンテストに参加して盛り上げてほしいらしいの」
ま、まぁ、普通にシンプルな服着れば恥ずかしくないか。
「莉子先生も暇ですよね、莉子先生もファッションコンテストに出ましょう」
「わ、私は出ません!」
「いやいや、宮川さんを呼んで見せつけましょう! フリフリのメイド服で猫耳とか着けて」
席に座っていた芽衣さんが、体をビクッとさせ、何故か動揺したような気がした。気のせいかな。
「とにかく先生はでません!」
「もしもし宮川さん、学園祭で莉子先生がファッションコンテストにでるので、見にきてくださいね」
「結菜さん!? 何してるの!?」
「先生がファッションコンテストに出ると、宮川さんに教えてあげました」
「だから先生は出ないってば!」
「そうですか‥‥‥楽しみにしている宮川さんが可哀想ですね‥‥‥」
「わ‥‥‥分かったわよ! その代わり、変な服は着ませんからね!」
※
その日の放課後、一樹君がニヤニヤしながら話しかけて来た。
「輝久君知ってる? 近くにメイド喫茶ができたの。俺一人じゃ行きにくいからさ、今日一緒に行かない?」
「えっ!?」
僕は周りに誰もいないことを確認して、興奮気味に言った。
「行く!」
「そうこなくっちゃ! そんなに周りキョロキョロしなくても大丈夫だよ。結菜さん達は愛梨さんのクラスに学園祭の手伝いに行ってるから」
「そっか、よーし! 行くぞ!」
大丈夫だ。メイド喫茶は普通のお店だ。
浮気なんかにはならない!と思う。
僕と一樹君は、ルンルン気分でスキップしながらメイド喫茶にやってきた。
「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」
その時、僕達は目を疑った‥‥‥。
「えー!?」
店内に三人の声が響いた。
「めめ、め、芽衣さん!?」
僕達を迎えてくれたのは、メイド服を着て、猫耳と猫の尻尾を着けた芽衣さんだった。
「め、芽衣って誰かな〜」
そう言いながら、芽衣さんは口笛を吹いて誤魔化している。
「一樹君、この人芽衣さんだよね」
「間違いない」
「だだ、だ、だから! 人違いです! ほら、ネーム見てください。めーちゃんって書いてあるでしょ!」
「芽衣さんじゃん」
「芽衣さんだね」
「も、もう! バ‥‥‥バイト始めたの!」
赤くなる芽衣さんに、僕はニヤニヤしながら言った。
「それじゃ、今日はちゃんと接客してもらわないと!」
「わ、分かってる! ご、ご主人様、こちらへご案内いたします」
「待つんだメイド! おかえりなさいませの時みたいな、ぶりっ子感が足りない!」
「うるさい! (あ、店長睨んでる‥‥‥ちゃんとやらなきゃ)ご、ごっ、ご、ご案内いたします♡ ご主人様♡」
席に案内されて、メニューを受け取った。
「こちらメニューになります♡(し‥‥‥死にたい)」
「それじゃ、僕はオムライスと、萌え萌えドリンク!」
「俺も同じの!」
「か、かしこまりました♡」
「頼んだよ、めーちゃん!」
「輝久! めーちゃん言うな!」
「僕は輝久じゃなく、ご主人様だ!」
***
一樹は、ノリノリな輝久を見て心配していた。
芽衣さんが結菜さんに言ったら、輝久君死ぬんだろうな。
***
しばらくして、芽衣さんがドリンクを持ってきた。
「こ、これから美味しくなる魔法をかけます♡ 私が萌え萌えキュンって言ったら、後に続いてキュンキュン♡ って言ってください♡ 美味しくなーれ♡ 美味しくなーれ♡ 萌え萌えキュン♡」
「キュンキュン!」
「凄い! 透明だったのに青くなったよ!」
「一樹君はしゃぎすぎ。恥ずかしいよ」
「いや、輝久君の方がはしゃいでるよね」
「い、今オムライスお持ちいたしますね♡(あー!! よりによって輝久に見られるなんてー!! 死にたい、死にたい、死にたい!! むしろ今、恥ずかしすぎて死んじゃいそうだよ!!)」
※
「お待たせいたしました♡ オムライスです♡ ケチャップで、何か描いてほしいものとかありますか?♡」
「やっぱりハートでしょ!」
「んじゃ俺も!」
芽衣さんは最初に、僕のオムライスにハートを書き始めた。
「美味しくなーれ♡ 美味しくなーれ♡ できました! ど、どうですか?」
「上手!」
「ありがとうございます♡ (これを輝久に食べてもらえるのは、ちょっと嬉しいかも)」
「俺のにも描いて!」
「あ、うん、美味しくなれ〜」
芽衣さんは真顔でケチャップを握りつぶして、ケチャップはオムライスに汚く飛び散った。
「あ、ありがとう‥‥‥」
「いい? 私も結菜達に言わないであげるから、二人も皆んなに内緒にして!」
それを聞いた僕は、芽衣さんと熱く握手を交わした。
「約束です! 結菜さんにバレないなら毎日来ます!」
「ま、毎日はやめて! 私の心臓が保たない!」
「だって、芽衣さん可愛いじゃん! いつも気が強そうな雰囲気あるのに、そんな格好して顔赤くしてるの可愛すぎる! 萌え萌えキュンだよ!」
「な、な、なに言ってるの!? べ、別に赤くなってないし、可愛くなんてないよ」
***
輝久と芽衣がそんな会話をしている時、一樹は携帯に届いたメッセージを読んでいた。
『柚木でーす! 今から皆んなでメイド喫茶いくんだけど、一樹も行かない? 輝久と芽衣にも連絡してるんだけど、折り返しがなくて、一緒にいるなら皆んなでメイド喫茶集合で! よろ!』
一瞬で青ざめた一樹は、素早く立ち上がった。
「て、輝久君、これお金、俺先に帰るね」
「え? なんで?」
一樹は本当に帰ってしまった。
***
「一樹どうしたんだろうね」
「急用ですかね。まぁいいか、めーちゃん! チェキ撮ろう!」
「だから、めーちゃん言うな! ってチェキ!?」
「はい、せっかく可愛い格好してるんだから思い出に残さないと!」
「と、撮ってあげるかわりにお願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「後でお金返すから二枚撮って一枚ちょうだい」
「いいですよ!」
そしてチェキ撮影が始まった。
「はーい! めーちゃんとご主人様、もっと寄ってください! カップルみたいにハート作っちゃいましょう! いいですねー! 撮れました!」
「ありがとうございます! それじゃ、はい、一枚!」
「ありがとう!」
「ありがとうございます、ご主人様は?」
「あ、ありがとうございます♡ ご主人様♡」
「よろしい!」
「は、はい! (な、なに!? 輝久って意外とSなの!? で、でも、悪くないかも♡)」
チェキを眺めて、メイド喫茶を満喫していると、店の扉が開く時に鳴る、鈴の音が聞こえた。
「おかえりなさいませ♡ お嬢様♡」
「おー! お嬢様だって! 凄い!」
「落ち着いてください沙里さん」
「結菜はいつも言われてるもんね」
「柚木さんも恥ずかしいから、そういうこと言わないでください!」
その聞き覚えのありすぎる声と名前を聞いた僕と芽衣さんは、人類滅亡一分前のような表情で結菜さん達を見ていた。
「どど、ど、どうしよう芽衣さん!」
「とにかくあっち見ないで! 私の名前も呼ばないで!」
「あー!! 輝久来てたの!?」
あ、死んだ。
「や、やぁ、柚木さん‥‥‥」
「来てたなら連絡返してよ!」
「連絡?」
「え? 皆んなで一緒に行こうって」
「あ、あー! あれね!」
「うん! 輝久もあっちに座ろ!」
「う、うん」
連絡が来てたのか、気づかなかった‥‥‥でもこれなら助かるかもしれない!
「ゆ、結菜さんはメイド喫茶始めて? 僕も始めてでさ、皆んな来るの遅いから緊張したよ! あはは‥‥‥」
結菜さんは何も言わずに恐ろしい目つきで僕を見つめてきた。
バレてる!?
結菜さんには嘘が見抜かれてるかもしれない‥‥‥。
「え、えっと、僕はもう食べちゃったし帰りますね!」
「えー、話してこうよ!」
美波さんは黙れ!頼むから今は黙ってくれ!
「そうだよ輝久君!」
真菜さんまでー!!
「そうですよ輝久君、なにも焦ることはありませんよ? 大丈夫です。痛いのは一瞬ですから」
痛いのは!?結菜さん今、痛いのはって言った!?
言ったよね!?
「い、いや〜、えっと‥‥‥」
僕は鈴さんに目で助けを訴えた。
「ん?」
ん?じゃないよ!
鈍感なの!?
さ、沙里さんなら分かってくれるはず!!
「輝久、そんなに助けてほしそうな目で見ないで」
言ったー!!
こいつ普通に言いやがったー!!
結菜さんが、どんどん僕に顔を近づけてくる‥‥‥。
「輝久君、何から助けてほしいのですか? 何に怯えているんですか? 私に話してください。私達は恋人です。大丈夫ですよ? 私が助けてあげますから。教えてください。何がそんなに怖いんですか?」
今のこの状況とは言えないし‥‥‥。
「芽衣さん助けて!!」
「うぉーい!! 輝久!! 裏切ったなー!!」
「芽衣さん!?」
「え! 芽衣!?」
芽衣さんの姿を見て、もちろん全員が驚いた。
「可愛いー!」
沙里さんがウキウキしながら、芽衣さんの周りをグルグル回り始めた。
「なんでメイド服着てるの?」
「バ、バイトしてるの」
「バイト? なんで?」
「来月は十一月でしょ? 誕生日の人が多いからバイトで稼がないと、プレゼント買うの大変なの」
「この子達、めーちゃんのお友達?」
「店長! は、はい、そうです!」
「可愛い子ばっかりね。どう? 明日から皆んなもバイトしてみない? めーちゃんも二週間限定だから、皆んなも同じ日にやめる感じでどうかしら」
「やるやる!」
沙里さんと柚木さんはやる気満々だ。
「私は遠慮します‥‥‥」
「私も‥‥‥」
結菜さんと鈴さんはやりたくないらしい。
「二人とも可愛いのに、メイド服姿を好きな人に見せればイチコロよ?」
店長がそう言うと、二人は同時に答えた。
「やります!」
「あと、そこのお二人は?」
「皆んながやるならやる! ね? 真菜!」
「うん!」
「それじゃ決まりね! 明日、学校が終わったら、めーちゃんと来てね! 衣装とかは私が揃えておくから問題ないわよ!」
「はい!」
今のうちに僕は静かに帰ろう。
そうだ、空気になるんだ。
僕は空気、僕は空気。
「私から逃げられると思わないでくださいね」
背後から結菜さんの声が聞こえたが、僕はお会計を済ませて必死に家まで走った。
※
「ただいま!」
「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」
「うぁー!! な、なんでいるの!?」
まさかの結菜さんが玄関で待ち構えていた。
「宮川さんの車で先回りしました♡」
宮川さん‥‥‥簡単に上げるお母さんもお母さんだ!
「お母さん!! なにやってるのさ!」
「なに? 婚約者なんだから、いつ来たっていいじゃない。ねー? 結菜ちゃん!」
「ありがとうございます♡」
「今日は泊まっていくんでしょ?」
「いいんですか!?」
「もちろんよ!」
「嬉しいです!」
おいそこ、なに仲良くなってやがる。
※
その日の夜、僕は体を縛られ、電気アンマをされながら全ての嘘を吐かされた。
その後、一悶着あったが、お墓まいりに行ったご褒美のキスを沢山して、凄い良い雰囲気になり、全て許してもらうことができた。
そこで僕が調子に乗ってしまい、思わず結菜さんの胸をツンツンしたら、反省してないとみなされ、顔を真っ赤にした結菜さんに大事なとこを本気で握られてしまった‥‥‥。
そこまでは覚えている。
そこまではだ、そう、僕は死んだんだ。
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