タコ焼き心理戦

結菜さんの家に泊まり、僕が目を覚ますと‥‥‥


「ちょ、ちょっと皆んな!?」


僕はベッドから落ちていて、床に布団を敷いて寝ていた芽衣さんと鈴さん、美波さんと真菜さんと柚木さんの五人ご僕の手足に絡みついて寝ていた。

鈴さんに関しては僕の上に乗り、抱きつきながら寝てるし‥‥‥。

結菜さんもまだ寝ている。今のうちになんとかしなきゃ!


体を動かそうとすると、手足が皆んなの胸や下半身に当たってしまい、下手に動かせない。

その時、鈴さんが目を覚まし、目をこすりながらまだ寝ぼけている様子で言った。


「んー? 輝久君?」

「ちょ、ちょっと、起き上がったまま止まらないでください! 変な感じになってます! 完全にお馬さんに乗ってるみたいになってます!」

「なに言ってるの? ‥‥‥輝久君!?」

「あの、どいてもらえますか?」

「え!? なんで私、輝久君に乗っかってるの!?」

「鈴さん! あまり大きな声出したら‥‥‥」

「よく寝ました。あれ? 輝久君はどこですか?」


やばいー!結菜さんが起きちゃったんだけど!


結菜さんは皆んなに抱きつかれ、鈴さんに跨られている僕を見つめ、ニコっと笑った。


「輝久君♡ おはようございます♡」

「お‥‥‥おはよう‥‥‥」


それから全員起き、結菜さんの前に全員正座した。


「さっきのはどういうことですか?」

「僕が起きたら既にあの状態で‥‥‥」

「鈴さんは女性の中で唯一起きていましたが、どういうことですか?」

「私が起きたタイミングで結菜ちゃんが起きたの。皆んなも寝ぼけてただけだと思う」


全員が全力で頷いた。



***



そして一樹は思った。


(なんで俺まで一緒に怒られてるんだろう)



***



「寝ぼけて、たまたま輝久君に抱きついていたんですか?」


また全員頷いた。


「分かりました。皆んなを信じます。ですが、輝久君がベッドから落ちなければ、あの状態にはなりませんでしたよね? 輝久君、またお散歩しましょうね♡」



***


輝久は一気に青ざめ、それを見た鈴は思った。


(結菜ちゃん、輝久君と付き合ってるわけでもないのに、なんでこんなに怒るんだろう。輝久君のこと好きなのかな)

「私は愛梨さん達を起こしてくるので、皆さんは茶の間で待っていてください」


結菜が二人を起こそうと、部屋の鍵を開けてドアを開けると、愛梨は自分の制服で布団を仰いでいた。


「なにしてるんですか? 早く布団をたたみましょう」

「結菜先輩! 触っちゃ‥‥‥」

「なんで布団が濡れてるんですか? もしかして愛梨さん、お漏らしですか?」

「ち、違います! 沙里のせいです!」


沙里は布団の横に座りながら、まだ眠そうな感じで言った。


「でもあれ、お漏らしみたいなもんじゃん」


愛梨は顔を真っ赤にして、家中に響く大きな声を出した。


「うるさーい!!!!」

「愛梨がね、いきなりブシャーってね」

「もう一生沙里と寝ない!!」

「えー、なんで」

「でも、なんだか甘い匂いがしますよ?」

「だってジュースだもん」

「ジュースですか?」

「うん、私が持ってきてた炭酸のジュースなんだけどね、私が横になりながら振って蓋を開けたの」

「それでなぜ愛梨さんのお漏らしってことになるんですか?」

「愛梨がちょうどトイレに起きて立ったタイミングだったんだけど、噴き出たジュースが愛梨のお股に当たって、ビックリした愛梨がそのまま漏らした。私にかけてきた」

「沙里!!」

「まったく、時間がないので二人でシャワー浴びてきてください」

「わーい、愛梨とお風呂」


愛梨は顔を真っ赤にしてシャワーを浴びるために部屋を出て、沙里はトコトコとその後ろをついていった。



***



全員茶の間に集合し、しばらくすると、ルンルン気分の莉子先生がやってきた。


「皆んなおはよう!」

「おはようございます」


莉子先生の顔を見て、僕はある異変に気付いた。


「莉子先生、なんでそんなに肌がツヤツヤなんですか?」

「え!? えーっと‥‥‥」


結菜さんはお茶を一口飲んで、莉子先生を見つめた。


「女は男を知ると若返ると聞いたことがあります」


すると莉子先生は、慌てた様子で座った。


「さ、さぁ! 早くご飯食べて学校行かなきゃ!」


なるほど、知ってしまったんですね。男との夜を。




皆んなで朝ごはんを食べ、学校に向かう前、沙里さんは切られていないまるごとのメロンを指差した。


「結菜、あれちょうだい。今日のお昼ご飯にする」

「いいですよ」


そして全員で学校に向かい始めた。

メロンを丸ごと持って登校する女子高生は珍しいのか、いろんな人に見られて少し恥ずかしい。

沙里さんは全然平気そうだけど。





学校に着くと、莉子先生は合宿と修学旅行の説明をし始めた。


「八月の合宿なんだけど、先生、去年のこと反省してさ、安全に肝試しできるように、既に建物を予約しています!」


莉子先生の言葉に全員が青ざめた。


「あれ? 嬉しくない?」


すると、鈴さんが震えた声で言った。


「肝試しは強制参加ですか?」

「もちろん! ちなみに今回肝試しする場所は、本物の廃病院です!」


それを聞いた芽衣さんと鈴さんは、白目を向いて気を失ってしまった。


「芽衣さん!? 鈴さん!?」

「場所を聞いただけで気絶なんて、当日は大変そうね。あと七月! 再来月ね! 再来月の修学旅行だけど、場所は奈良です!」


奈良と聞いて、何故か結菜さんが目を輝かせた。


「結菜さん、奈良好きなんですか?」

「鹿に餌をあげれるんですよ! 楽しみです!」


ワクワクしてる結菜さんを見て、なんだか僕もワクワクしてきてしまった。





その日のお昼、沙里さんは机に置いたメロンをボケーっと眺めていた‥‥‥そして一言。


「切れない」


すると美波さんが腕まくりをして立ち上がった。


「切るものが無いなら私に任せて! おりゃ!」


美波さんは沙里さんの目の前に立ち、メロンにパンチをすると、メロンはぐちゃぐちゃに飛び散り、沙里さんはビチャビチャになってしまった。


「私のお昼ご飯‥‥‥」

「ご、ごめんね! こんなぐちゃぐちゃになるとは思わなくて!」

「殺すぞ」

「本当ごめんって! ほら、私のタコさんウインナーあげるから、あーん!」

「あーん」

「美味しいでしょ?」

「タコじゃない、ウインナーの味がする」

「そりゃそうだよ。タコなのは形だけだもん」

「タコ食べたい」

「いきなりタコ食べたいとか言われても」

「真菜に聞いたんだけど、八月の合宿は海なんでしょ?」

「そうだよ?」

「タコいるかな」

「あー、いるいる。結菜なら捕まえてくれるよ」


美波さんは、去年の合宿で結菜さんから頭にタコを乗せられたことを思い出しているに違いない。


「結菜、合宿でタコ捕まえて」

「まだ五月ですからね、合宿の前に修学旅行もありますし、覚えていたら頑張りますけど、タコなら合宿まで待たなくても食べれるじゃないですか?」

「新鮮なやつがいい」

「学校が終わったらご馳走しましょうか?」


沙里さんは無言で頷いた。


「それでは、今日は一緒に帰りましょう」

「わかった」

「沙里ばっかりずるい!」


美波さんがいちゃもんをつけると、沙里さんがハンカチで顔を拭きながら言った。


「美波はメロンぐちゃぐちゃにしたから、今日はタコ食べちゃダメ」

「そうですよ美波さん。そのメロンは十二万円もする高級メロンですよ?」


本当、昨日のご馳走の総額が気になる‥‥‥。


値段を聞いた美波さんは青ざめて、床に飛び散ったメロンを見つめて床に膝をついた。

そして舌を出し、床にゆっくりと顔を近づけ始める‥‥‥。


(十二万‥‥‥汁一滴も無駄にできない! どうする私、舐めるのか!? 本当に舐めるのか!?)

「汚いのでやめた方が‥‥‥」

「そ、そうだよね! 輝久の言う通りだ!」


美波さんが顔を上げようとした瞬間、沙里さんが美波さんの頭を押さえて、床になすりつけようとした。


「さ、沙里!?」

「食の恨み」

「だからごめんって! 真菜! 助けて!」


沙里さんは美波さんを押さえている右手とは逆の左手で、真菜さんにカッターを向けた。


「十二万だからね‥‥‥ぐ、ぐちゃぐちゃにしたお姉ちゃんが悪いし〜」

「薄情者!! それでも妹か!!」


美波さんは沙里さんに頭を押され、唇が床についてしまった。


「ほら、吸って」

(もうここまできたら吸うしかない!)

「どう?」


うっわ、ほんとに吸ってるよ‥‥‥。


「おいひぃです」

「何が美味しいの? ちゃんと言ってごらん?」

「チン‥‥‥ってなに言わすんじゃー!!」

「チンってなに? もしかしてチン」

「な、なんでもない!!」


その時、芽衣さんは一樹くんをドン引きした様子で見ていた。


「一樹、なにニヤニヤしてんの?」

「え!?」


相変わらず一樹くんは大変だなと思っていると、結菜さんが僕の手の甲にフォークを突き立てて、無表情で言った。


「輝久君? なにニヤニヤしているんですか?」

「な、なんでもないです!」

「美波さんで変な想像したんじゃないですよね?」

「え!? 私で興奮した!?」

「美波さん、なんでそんな嬉しそうなんですか。てか、本当にチンってなんですか」

「チ◯コのことですよね? でもさっきのは汁でしたから、我◯◯のことですか?」


全員なにも言わなかったが、思うことは同じはず。

こんな綺麗でお淑やかな女子高生も、ハッキリと下ネタ言ったりするんだ‥‥‥怖い。

結菜さんも思春期だから仕方ないか。





そして放課後、沙里さんは結菜さんの家に招かれて、タコをご馳走になるために、大人しく広い茶の間に座っていた。


「なんで輝久と鈴もいるの?」

「僕は、結菜さんに誘われて」

「わ、私もなにも予定なかったし、誘ってもらったから」

「私のタコなのに」

「まぁ、仲良く食べましょうよ」


そしてしばらく待っていると、結菜さんと宮川さんが、人数分の皿に沢山のたこ焼きを乗せて持ってきた。


テーブルに皿を置くと、結菜さんは楽しそうに話し出した。


「新鮮なタコで作ったタコ焼きです! それぞれのお皿に一つだけ中身がワサビになっている物があります。ロシアンルーレットです! 輝久君のにはワサビのやつが入っていないので安心して食べてください!」

「そうなんだ。せっかくなら僕もロシアンルーレットしてみたかったな」


すると沙里さんが、自分の皿から一つのタコ焼きを僕の皿に移した。


「これ、多分ワサビだからあげる」

「輝久君、それは絶対に食べないでください」


え!?まさか今のが本当にワサビのやつだったの!?



***


沙里は自分のタコ焼きを見て異変に気付いていた


(全部のタコ焼きから緑のなにかが少しはみ出してる)


そう、結菜は密かに悪巧みをしていた。


(輝久君に一つ渡ってしまったけど、輝久君もロシアンルーレットしたいって言っていたし逆によかったですね。でも大丈夫。沙里さんのタコ焼きは全てワサビ入りですから。でも気づかれていて、隙を見てすり替えられたら、私がワサビ入りタコ焼きを食べることになってしまいます。ならば私が最初に隙を見て、宮川さんのお皿と沙里さんのお皿をすり替える。そして沙里さんに普通のタコ焼きを食べさせて安心させて、その後にまた宮川さんのお皿と沙里さんのお皿をすり替える。宮川さんには悪いですが、犠牲にもらいますか)


「あら? あれUFOじゃないですか!?」


全員が庭の空を見上げた隙に、結菜は沙里と宮川の皿をすり替えてしまった。


沙里は空を眺めながら言った。


「どこ? いないよ?」

「ごめんなさい、見間違えた見たいです。さぁ、冷めないうちに食べましょ!」

「いただきまーす」

「沙里さん? どうですか?」

「美味しい、無限に食べれる」

「うあ! くぅー! 一個目からワサビ入りでした! うぅ‥‥‥涙が」


宮川はわさび入りのたこ焼きを食べて、涙を流すが、結菜はすかさず言った。


「あれやっぱりUFOじゃないですか!?」


また全員が空を見た隙に、宮川と沙里の皿をすり替えた。


「やっぱり見間違えだったみたいです」

「今日の結菜さん、なんか変ですね」

「ごめんなさい」


すると沙里は、二個目のタコ焼きを食べる前に、急に苦しみだした。


「うっ‥‥‥」

(おかしいですね。沙里さんはまだワサビ入りを食べていない。なぜそのような反応を?)


苦しむ沙里を見て、鈴が心配そうに話しかけた。


「沙里ちゃん大丈夫? さっきのがワサビ入りだったの?」

「喉に‥‥‥詰まった」


結菜と宮川は慌てて立ち上がり、飲み物を取りに行ってしまった。


その瞬間、沙里はケロっとした表情で起き上がった。


「沙里さん? なおったの?」

「沙里ちゃん? 大丈夫?」

「大丈夫大丈夫」


沙里は素早く自分の皿と結菜の皿をすり替え、普通にたこ焼きを食べ始めた。


「沙里ちゃん何してるの?」

「輝久、結菜のこと動画で撮ってて、面白いのが撮れるよ」

「わ、わかった」


すると沙里は、また苦しいふりをして、そこに結菜と宮川が慌てて帰ってきた。


「沙里さん! お水です!」


沙里は水を飲んで、落ち着いたふりをしてまた起き上がる。


「ふぅー、助かった。よし食べよう」

「次は気をつけてくださいね?」

「やっぱり熱いからちょっと冷ます」

「それより輝久君、なんで私のことを撮ってるんですか?」

「え、可愛いなーと思って」

「も、もう! そんな撮られてたら食べづらいですよ」

「気にしない気にしない!」

「それでは‥‥‥いただきます」


結菜がタコ焼きを食べた瞬間、顔が真っ赤になり、見たことないぐらい辛そうな顔をした。


「辛いですー! 輝久君! 撮らないでください! はぁはぁ‥‥‥息をするたびに鼻と目に染みます!」

「結菜さんのレアな表情!」

「だから撮らないでくださいって!」


結菜は沙里の水を全て飲み干して落ち着いた。


まさか私も一つ目でワサビ入りなんて、でもこれで安心して食べれます。


沙里は笑うのを我慢していた。


(ダメ、まだ笑っちゃダメ。結菜がもう一つ口に入れた瞬間に勝ちを宣言しよう)


そして結菜がタコ焼きを口に含んだ瞬間


「結菜! 私の勝ち! ‥‥‥あれ? (普通に食べてる。たまたま一つだけ普通のが混ざってたのかな? まぁいいや、お腹空いてるし私も食べよう)」

「沙里さん、知ってますか? タコ焼きは一気に沢山食べた方が美味しいのですよ?」

「そうなの? んじゃ五個一気に」


沙里が五個のタコ焼きを口いっぱいに入れた時、結菜が立ち上がった。


「沙里さん! 私の勝ちです!」


その瞬間、沙里は顔を真っ赤にして部屋中を走り回ったり、床を転がったりしてもがきだした。


「ちゃーんと食べてくださいね? 新鮮なタコが勿体ないので」


沙里は無理やりタコ焼きを飲み込み、舌を出しながら涙を流した。


「なんでぇ‥‥‥全部ワサビが入ったタコ焼きは結菜のにしたのにぃ‥‥‥」

「タコ焼きからはみ出した緑色はフェイク。あれはただの着色料です」

「そんなぁ‥‥‥」

「着色料で沙里さんのタコ焼きは全てワサビ入りだと思い込ませて、私が不安そうに何かを考えているそぶりをわざと見せたんです。それを見た沙里さんは、自分のタコ焼きが全てワサビ入りだと確信しますよね? その時から沙里さんの負けは決まっていました」

「それじゃ、私が食べたのは誰の? 宮川さんが辛がってたのは?」

「宮川さんは最初からグルなんです。いい演義をしてくれました! そして、沙里さんが食べたタコ焼きは鈴さんのです。もちろん鈴さんもグル。鈴さんは沙里さんが苦しんでいる時にお皿をすり替えたのでしょう」

「でも、私が自分の皿と結菜の皿をすり替えたのは苦しんだふりをして、結菜達が水を取りに行った後!」

「その後また苦しいふりをしましたよね? 鈴さんがすり替えたのはその時です。苦しんだふりだったのも知っていましたよ? だって、一つ目を食べてから苦しみだすまで時間がかかりすぎてますもの」


沙里は俯いたまま立ち上がった。


「だけど結菜‥‥‥結菜は一つミスをした」

「なんですか?」

「結菜は慌てて私の水を飲み干した! それを想定して、あの水には下剤を溶かしてあったの!」


結菜は青ざめてトイレへ駆け込んでいった。



***



「沙里さん、下剤はやりすぎですよ」

「そんなことしてないよ。思い込みでお腹痛くなったんじゃない? 人間って面白いね」


これはいったいなんの勝負なんだ‥‥‥いたずらに本気出しすぎでしょ‥‥‥。

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