下僕を見下す目

「お待たせ、今日はどこに行くんですか?」

「輝久君とのデートだから、いっぱい考えたんだけど、カップルらしくカラオケに行こ!」

「カラオケですか? 真菜さんが歌うイメージないんですけど」

「え? 歌わなきゃダメ?」

「カラオケに行ったら歌いますよね!? 普通!」

「とにかく行こ!」


僕達は手を繋ぎ、カラオケボックスに向かうことになった。



***



結菜は、輝久の家の中には監視カメラを設置していなく、夜に美波となにがあったのか、不安と怒りで一睡もせずに包丁を研ぎ続けていた。



***



カラオケボックスに着き、最初に僕が歌い始め、僕が歌っている間、真菜さんは楽しそうに合いの手を入れてくれた。


「はぁー、緊張しました」

「なんで? すごい上手だったよ!」

「真菜さんも歌ってください」

「私、人前で歌ったことないし‥‥‥」

「大丈夫ですよ! 歌い始めちゃえばなんとかなります!」

「わ、わかった」


真菜さんは緊張した様子でマイクを握って歌い始めたが、なんで自信なさげだったのか不思議なぐらいに歌がうまい。

こんな上手いなら、もっと自信満々に歌えばいいのに。


僕が真菜さんの歌声に合いの手を入れると、真菜さんは安心したのか、ノリノリで歌い始めて、それからは一緒に歌ったりと、楽しい時間を過ごすことができた。





僕達は歌い疲れ、ドリンクバーを飲みながら休憩することにした。


「すごい歌上手いですね! アイドルとかなれるんじゃないですか?」

「アイドル!? なんで歌手じゃなくてアイドル?」

「なんか、美波さんと真菜さんが二人でアイドルとかしてたら可愛いなーと思ったんです!」


すると真菜さんの表情が、いきなりイラっとした表情に変わった。


「他の女の話しないで」

「え? でも姉妹だし」

「尚更嫌です。輝久君は正直、私とお姉ちゃんならどっちが好き? どっちが可愛い?」


どっちかといえば、正直美波さんの方が‥‥‥。

それも多分、昨日あんなことがあったばっかりだからだろうけど。

いやでも、美波さんって普通に性格も可愛らしいところあるんだよな。馬鹿っぽいけど。


「真菜さんです」

「本当に!?」

「うん」


僕は嘘をついてしまった。

結菜さんと付き合っているのに、昨日は美波さんとデートして挙句、あんなキスをして、今は真菜さんとデートをしている。こんなに自分が嫌いになりそうなのはいつぶりだろう。


「輝久君、そっちに座ってないで隣きてよ」

「う、うん」


僕はドリンクを持ち、真菜さんの隣に座った。

僕が真菜さんの方を見ずに、ボーっとしていると、真菜さんが甘えた声で言った。


「こっち見てください♡」

「ん? ‥‥‥ん!?」


真菜さんは上着のボタンを外して、立派な谷間が露わになっていた。


「ま、真菜さん!? なにしてるの!?」


真菜さんは頬を少し赤くしながらも、谷間を強調し続けた。


「今日は輝久君を私に夢中にさせるチャンスだから、私、なんだってする!」

「だからって、こんな場所で!?」

「触ってもいいよ♡」


さ、触りたい。いやいやいや!ダメだ!


「今、触りたいって思ったでしょ♡ 輝久君の家に戻ろうか♡」

「え?」


二人で僕の家に戻ると、真菜さんはすぐに僕のベットに寝そべった。


「輝久君、来て♡」

「い、いや! まだ夕方ですよ!?」

「夜まで我慢できる?」

「そ、そういう問題じゃなくて」

「ちゃんと声も我慢するから♡」

「と、とりあえず、夜ご飯食べて、お風呂に入って、えっとそれから」

「私、泊まるって言ったけど、猫のお世話しないといけないから‥‥‥するなら今しか‥‥‥」

「するって何をですか!?」


真菜さんがムッとした表情で起き上がり、僕をベットに押し倒した。


「真菜さん!?」


真菜さんは何も言わずにキスをして、胸を押し当ててくる。

そのままキスをしながら、僕のズボンに手を入れようとしてきて、慌てて声を出した。


「んー!」

「どうしたの?♡」

「それ以上手を入れたら、当たっちゃいます!」

「何が?♡」

「と、とにかくダメです!」


真菜さんは両手で僕の頭を抱きしめるように押さえて、胸を僕の顔に押し付けてくる。


「これだけ体が密着してるんだもん。触らなくても、輝久君のがどうなってるかぐらい分かるよ♡」


え?僕のはまだギリ元気になっていない。

何と勘違いしてるんだろう。


その時、僕の携帯が振動しはじめた。


「あっ♡ 輝久君! いきなり動くなんて卑怯です♡」


携帯と僕のアレを勘違いしてるー!?


「真菜さん! とにかく離れてください!」

「こんなに激しくしておいて離れろなんてイジワルです♡」


あ、振動が止まった‥‥‥と思った時、また携帯が振動し始めた。

僕は携帯を取るために、ポケットに手を伸ばす。


「て、輝久君♡ その手でどうする気ですか♡」

「ち、違うよ!」


僕は携帯を取り、誰からなのかも確認しないまま電話に出た。


「もしもし」

「電話に出るのが遅かったですね」


結菜さん!?

この状態で結菜さんからの電話はヤバイ。


「輝久君? 声がこもっていて、よく聞こえませんよ?」

「はぁ♡ はぁ♡ 輝久君の、すごかったです♡」

「真菜さん! 静かに!」

「そうですか、お楽しみ中でしたか」

「これは違くて!」

「あぁ♡ 輝久君が喋るたびに、胸に息が伝わる♡」


ダメだ、真菜さんは興奮していて僕が電話していることに気づいていない。

すると結菜さんの声が、どんどん怒りに満ちてきている。


「輝久君、昨日も美波さんとそういうことをしたのかしら」

「し、してないよ! キスしただけ! ‥‥‥あ」

「ゴールデンウィーク明けが楽しみですね」


ヤバイ‥‥‥電話切られちゃった。


「輝久君♡」

「真菜さん! 我に返ってください! 興奮しすぎです!」

「輝久君のせいだよ♡」


僕はやってない、僕の携帯が悪いのだ。


「あっ! 私もう帰らないと」

「我に返るのが少し遅いです」

「ん? なんのこと?」


真菜さんは僕の頬に優しく触れ、前の真菜さんがよく見せていた、下僕を見下すような表情をした。


「一日限定の恋人だったけど、私、これから我慢できるか分からないや」

「それは‥‥‥どういう‥‥‥」


真菜さんは何も言わずにニコッと笑い、帰ってしまった。





その日、あれから結菜さんからの連絡は無かった‥‥‥。





次の日の朝、僕の家に芽衣さんがやってきた。


「おはよう!」

「おはようございます」

「今日は一日中一緒だよ!」

「そうですね、どこに行くんですか?」

「前に結菜と三人で行った水族館に行こう!」


僕達はバスに乗り、水族館へ向かった。

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