夜に響く音
家のチャイムが鳴り、扉を開けると、最初に来たのは結菜さんだった。
結菜さんを部屋にあげると、僕の目の前に座り、いきなり制服を脱ぎ始め、ワイシャツのボタンをゆっくり開け始めた。
「誕生日おめでとうございます♡」
「あ、ありがとう! じゃなくて、なに脱ごうとしてるの!?」
「一つ大人になった輝久君は、こういうことを望んでいるのかと♡」
「だ、ダメだよ!」
僕は、チラッと見えたブラジャーに興奮しながらも、結菜さんに制服を着せてあげた。
「私に対しては、もっと素直になっていいんですよ? 私はいつでも受け入れますから♡」
「け、結婚したらね!」
僕がそういうと、結菜さんは顔を赤くして僕から顔を背けてしまった。
「変態」
「なんで!? 悪いの僕!?」
「結婚したら、やることが決まってるなんて‥‥‥想像したらなんか恥ずかしいです」
恥ずかしがっている結菜さんを見て、僕は少しいじわるしたくなってしまい、更に追い討ちをかけてみることにした。
「あれー? 結菜さん、なにを想像したんですかー?」
「い、言わせないでください!」
「えー? なに? 言ってみてよ」
「いじわるな輝久君にはプレゼントあげません!」
「ご、ごめん! 調子に乗りました!」
結菜さんはまた顔を赤くして、小さな声で言った。
「いじわるな輝久君も好きですけど」
「ん? なに?」
「なんでもありません!」
※
その後、M組の皆んなが無事揃い、早速プレゼントを渡し合うことになった。
まずは全員、僕にプレゼントを渡し始めた。
結菜さんがくれた袋を開けると中にはマフラーが入っていた。
「シンプルでかっこいい!」
「喜んでもらえて良かったです!」
次に大きな袋を開けると、発売決定した時からずっと欲しかったゲーム機が入っていて、さすがに鳥肌が立ってしまった。
「こ、これも結菜さんがくれたやつだよね!?」
「はい、そっちが本命です! ゲームとか好きか分からなかったのですが、男の人ってゲーム好きかなと思いまして!」
「好きだよ! これずっと欲しかったやつ!」
「本当ですか!? よかったです! ソフトもあるので見てください!」
「ソフトも!? ‥‥‥な、なにこれ」
ゲームソフトのタイトルは【アリの巣ライフ】なんだろう、十年前のpcゲーにありそう。
「女性が出てこないゲームを選びました! 自分が蟻になって、蟻の巣を広げていくゲームらしいです!」
「う、うん、ありがとう! いっぱい遊ぶね!」
次はー、これにしよう! 平たくて横長の箱だ!
「わぁ! 財布だ!」
「それは、私と真菜からのプレゼント! 大事に使ってね!」
「二人ともありがとうございます!」
(他の女から貰った物を輝久君が使う!? 許せない許せない許せない許せない許せない!! でも今日は我慢しなきゃ)
「ゆ、結菜さん? すごい貧乏ゆすりしてますけど‥‥‥」
「気にしないでください」
「わ、わかった」
さて、次はゲームセンターの袋にしよう!
「あ! これ欲しかったフィギュアだ! 一樹君ありがとう!」
「どういたしまして!」
結菜さんが、そのフィギュアを見た瞬間、僕からフィギュアを奪った。
「輝久君、こういう女性がタイプなんですか? ツインテールでミニスカで、まるで美波さんみたいですね」
「私!?」
「そ、それは二次元だからいいじゃないですか!」
「まぁ、今日はいいです」
結菜さんは素直にフィギュアを返してくれた。
美波さんの顔が赤くなっているけど、結菜さんは何も言わない。
今日の結菜さんは機嫌がいいのかな?
次は芽衣さんがくれた、小さくて四角い箱!
「オルゴールですか?」
「うん! 嫌なことがあったら、それ聴いて癒されてよ!」
「ありがとうございます!!」
自分じゃ買わないものって、意外と嬉しい!
最後は一番小さな紙袋!柚木さんがくれたやつだ!
「ミサンガですか? 可愛ですね!」
「それ、黄緑色が輝久君ので、ピンクが結菜の!」
「私にもですか?」
「うん! 二人が離れないようにって私が願いを込めといた! お揃い!」
僕と結菜さんは見つめ合ってニコッと笑い、左脚にミサンガをつけて、柚木さんにお礼を言った。
「ありがとうございます!」
柚木さん、本当変わったな。
本当はいい人だったんだ。
それから皆んなプレゼントを開けて、嬉しそうにはしゃいでいる。
楽しい空気感の中で、柚木さんは白いリュックが気に入ったらしく、ずっと背負っている。
「ねぇ、似合う?」
そう聞く柚木さんに、結菜さんが優しい表情で答えた。
「似合いますよ。沢山使ってくださいね」
「でも、なんでこんないい物くれたの?」
「お礼の気持ちも含んでいるので」
「ふーん、よく分からないけどありがとう!」
それからしばらく、ケーキやご飯を食べながら、皆んなで話をしていた。
最初の頃は、皆んながこんなに仲良くなるなんて思ってなかったな。
人はきっかけさえあれば変われるっていうのが、皆んなを見てると実感する。
僕がそんなことを思っていると、柚木さんが楽しそうに皆んなに言った。
「これからはさ! こうやってみんなで沢山遊ぼうよ! また牧場にも行こう! 遊園地とか動物園も行こう! あ! 初詣も皆んなで行こうよ! あとー、卒業しても、仲良くしようね!」
「卒業まで一年以上ありますよ、気が早いですよ」
結菜さんの冷静な言葉を聞いても、柚木さんは笑顔が途絶えない。
「いいじゃん! 仲良くしてたいの! あと、私達、来年で学校行事も最後じゃん? だから、先生にお願いして、体育祭とか文化祭にも参加させてもらおうよ! 絶対に! あっ! その前にクリスマスパーティーだ!」
元気にやりたいことを語る柚木さんの話を聞いて、部屋中は笑顔で満ち、皆んなが幸せな空気の中、楽しい時間にも終わりが近づいていた。
※
時計を見ると、時間は八時三十分。
「皆んな、そろそろ九時だし、お開きにしましょうか」
「はーい」
そうして、皆んなが笑顔のまま帰って、僕が一人で部屋の片付けをしていると、家のチャイムが鳴った。
玄関を開けると、チャイムを鳴らしたのは柚木さんだった。
「柚木さん? 忘れ物ですか?」
「違う、輝久君に言いたいことがあって」
「なんですか?」
「やっぱりさ、すぐには輝久君のこと諦められないの‥‥‥好き、すごい好き! でもね、一人って怖いんだよ。辛いんだよ」
「急にどうしたんですか?」
「とにかくさ、結菜を悲しませないようにね! 結菜を一人にしないであげてね」
「大丈夫です! 任せてください!」
それだけは自信がある!
すると柚木さんは、僕をおちょくるような表情と口調で言った。
「でも輝久君が隙を作ったら、また私がキスしちゃうぞ〜?」
「や、やめてくださいよ!」
「やーだね! 結菜を怒らせたくなかったら隙を作らないこと! ミサンガ大事にしてね! それじゃ、言いたいこと言ったから帰る!」
「もう九時過ぎですよ? 送って行きます」
「こら! これ以上好きにさせる気かー? 結菜にバレたら怒られちゃうよ!」
「あっ‥‥‥」
「私は大丈夫!また明日学校でね!」
「はい、また明日です!」
僕達M組はもう大丈夫。
みんながお互いにお互いを大切にできる仲になったんだ。
***
柚木は、皆んなから貰ったプレゼントをリュックに入れて、嬉しそうにリュックを背負いながら帰っていた。
そして信号待ちをしている時、近くで車の急ブレーキの音が聞こえ、次の瞬間、車と車が激しくぶつかる音が聞こえた。
ビックリして音のした方を見ると、ハンドルが効かなくなった車が、すごいスピードで、もう目の前まで来ていた。
「‥‥‥」
車と人間がぶつかる、生々しい音が夜の街に響き渡った。
***
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