夜に響く音

家のチャイムが鳴り、扉を開けると、最初に来たのは結菜さんだった。


結菜さんを部屋にあげると、僕の目の前に座り、いきなり制服を脱ぎ始め、ワイシャツのボタンをゆっくり開け始めた。


「誕生日おめでとうございます♡」

「あ、ありがとう! じゃなくて、なに脱ごうとしてるの!?」

「一つ大人になった輝久君は、こういうことを望んでいるのかと♡」

「だ、ダメだよ!」


僕は、チラッと見えたブラジャーに興奮しながらも、結菜さんに制服を着せてあげた。


「私に対しては、もっと素直になっていいんですよ? 私はいつでも受け入れますから♡」

「け、結婚したらね!」


僕がそういうと、結菜さんは顔を赤くして僕から顔を背けてしまった。


「変態」

「なんで!? 悪いの僕!?」

「結婚したら、やることが決まってるなんて‥‥‥想像したらなんか恥ずかしいです」


恥ずかしがっている結菜さんを見て、僕は少しいじわるしたくなってしまい、更に追い討ちをかけてみることにした。


「あれー? 結菜さん、なにを想像したんですかー?」

「い、言わせないでください!」

「えー? なに? 言ってみてよ」

「いじわるな輝久君にはプレゼントあげません!」

「ご、ごめん! 調子に乗りました!」


結菜さんはまた顔を赤くして、小さな声で言った。


「いじわるな輝久君も好きですけど」

「ん? なに?」

「なんでもありません!」





その後、M組の皆んなが無事揃い、早速プレゼントを渡し合うことになった。

まずは全員、僕にプレゼントを渡し始めた。

結菜さんがくれた袋を開けると中にはマフラーが入っていた。


「シンプルでかっこいい!」

「喜んでもらえて良かったです!」


次に大きな袋を開けると、発売決定した時からずっと欲しかったゲーム機が入っていて、さすがに鳥肌が立ってしまった。


「こ、これも結菜さんがくれたやつだよね!?」

「はい、そっちが本命です! ゲームとか好きか分からなかったのですが、男の人ってゲーム好きかなと思いまして!」

「好きだよ! これずっと欲しかったやつ!」

「本当ですか!? よかったです! ソフトもあるので見てください!」

「ソフトも!? ‥‥‥な、なにこれ」


ゲームソフトのタイトルは【アリの巣ライフ】なんだろう、十年前のpcゲーにありそう。


「女性が出てこないゲームを選びました! 自分が蟻になって、蟻の巣を広げていくゲームらしいです!」

「う、うん、ありがとう! いっぱい遊ぶね!」


次はー、これにしよう! 平たくて横長の箱だ!


「わぁ! 財布だ!」

「それは、私と真菜からのプレゼント! 大事に使ってね!」

「二人ともありがとうございます!」

(他の女から貰った物を輝久君が使う!? 許せない許せない許せない許せない許せない!! でも今日は我慢しなきゃ)

「ゆ、結菜さん? すごい貧乏ゆすりしてますけど‥‥‥」

「気にしないでください」

「わ、わかった」


さて、次はゲームセンターの袋にしよう!


「あ! これ欲しかったフィギュアだ! 一樹君ありがとう!」

「どういたしまして!」


結菜さんが、そのフィギュアを見た瞬間、僕からフィギュアを奪った。


「輝久君、こういう女性がタイプなんですか? ツインテールでミニスカで、まるで美波さんみたいですね」

「私!?」

「そ、それは二次元だからいいじゃないですか!」

「まぁ、今日はいいです」


結菜さんは素直にフィギュアを返してくれた。

美波さんの顔が赤くなっているけど、結菜さんは何も言わない。

今日の結菜さんは機嫌がいいのかな?


次は芽衣さんがくれた、小さくて四角い箱!


「オルゴールですか?」

「うん! 嫌なことがあったら、それ聴いて癒されてよ!」

「ありがとうございます!!」


自分じゃ買わないものって、意外と嬉しい!


最後は一番小さな紙袋!柚木さんがくれたやつだ!


「ミサンガですか? 可愛ですね!」

「それ、黄緑色が輝久君ので、ピンクが結菜の!」

「私にもですか?」

「うん! 二人が離れないようにって私が願いを込めといた! お揃い!」


僕と結菜さんは見つめ合ってニコッと笑い、左脚にミサンガをつけて、柚木さんにお礼を言った。


「ありがとうございます!」


柚木さん、本当変わったな。

本当はいい人だったんだ。


それから皆んなプレゼントを開けて、嬉しそうにはしゃいでいる。


楽しい空気感の中で、柚木さんは白いリュックが気に入ったらしく、ずっと背負っている。


「ねぇ、似合う?」


そう聞く柚木さんに、結菜さんが優しい表情で答えた。


「似合いますよ。沢山使ってくださいね」

「でも、なんでこんないい物くれたの?」

「お礼の気持ちも含んでいるので」

「ふーん、よく分からないけどありがとう!」


それからしばらく、ケーキやご飯を食べながら、皆んなで話をしていた。


最初の頃は、皆んながこんなに仲良くなるなんて思ってなかったな。

人はきっかけさえあれば変われるっていうのが、皆んなを見てると実感する。

僕がそんなことを思っていると、柚木さんが楽しそうに皆んなに言った。


「これからはさ! こうやってみんなで沢山遊ぼうよ! また牧場にも行こう! 遊園地とか動物園も行こう! あ! 初詣も皆んなで行こうよ! あとー、卒業しても、仲良くしようね!」

「卒業まで一年以上ありますよ、気が早いですよ」


結菜さんの冷静な言葉を聞いても、柚木さんは笑顔が途絶えない。


「いいじゃん! 仲良くしてたいの! あと、私達、来年で学校行事も最後じゃん? だから、先生にお願いして、体育祭とか文化祭にも参加させてもらおうよ! 絶対に! あっ! その前にクリスマスパーティーだ!」


元気にやりたいことを語る柚木さんの話を聞いて、部屋中は笑顔で満ち、皆んなが幸せな空気の中、楽しい時間にも終わりが近づいていた。





時計を見ると、時間は八時三十分。


「皆んな、そろそろ九時だし、お開きにしましょうか」

「はーい」


そうして、皆んなが笑顔のまま帰って、僕が一人で部屋の片付けをしていると、家のチャイムが鳴った。

玄関を開けると、チャイムを鳴らしたのは柚木さんだった。


「柚木さん? 忘れ物ですか?」

「違う、輝久君に言いたいことがあって」

「なんですか?」

「やっぱりさ、すぐには輝久君のこと諦められないの‥‥‥好き、すごい好き! でもね、一人って怖いんだよ。辛いんだよ」

「急にどうしたんですか?」

「とにかくさ、結菜を悲しませないようにね! 結菜を一人にしないであげてね」

「大丈夫です! 任せてください!」


それだけは自信がある!


すると柚木さんは、僕をおちょくるような表情と口調で言った。


「でも輝久君が隙を作ったら、また私がキスしちゃうぞ〜?」

「や、やめてくださいよ!」

「やーだね! 結菜を怒らせたくなかったら隙を作らないこと! ミサンガ大事にしてね! それじゃ、言いたいこと言ったから帰る!」

「もう九時過ぎですよ? 送って行きます」

「こら! これ以上好きにさせる気かー? 結菜にバレたら怒られちゃうよ!」 

「あっ‥‥‥」

「私は大丈夫!また明日学校でね!」

「はい、また明日です!」


僕達M組はもう大丈夫。

みんながお互いにお互いを大切にできる仲になったんだ。



***



柚木は、皆んなから貰ったプレゼントをリュックに入れて、嬉しそうにリュックを背負いながら帰っていた。


そして信号待ちをしている時、近くで車の急ブレーキの音が聞こえ、次の瞬間、車と車が激しくぶつかる音が聞こえた。


ビックリして音のした方を見ると、ハンドルが効かなくなった車が、すごいスピードで、もう目の前まで来ていた。


「‥‥‥」


車と人間がぶつかる、生々しい音が夜の街に響き渡った。



***

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