逆襲の狼煙

「よし! みんな持ってきたわね!」


翌日、ちゃんと全員が作戦案を書いてM組に集まった。

最初に莉子先生が全てに目を通して、残ったのは三枚枚だけ。

みんなは自由にM組の席に着き、莉子先生の話を聞いた


「現実的なのは三枚ね。読むからちゃんと聞いてね? まず一枚目、教育委員会に連絡する。これについて意見がある人は手を挙げてください」


すると一人の女子生徒が手を挙げた。


「はい、どうぞ」

「ここまで権力がある相手だし、教育委員会すらも味方なんじゃないかなって」

「確かにね」


それを聞いて結菜さんは、真剣な表情で口を開いた。


「ダメ元で連絡はしてみましょう」

「そうね、後で私がしておくわ」


電話は莉子先生がすることになり、二つ目の案を読み始めた。


「それじゃ二枚目ね。愛梨さんにプレゼントを渡して気に入られる。そして愛梨さんの弱みを握る。これはあんまりいいことじゃないんだけど、そんなこと言っている場合じゃないからね。何か意見がある人は?」


美波さんが紙パックのイチゴ牛乳を飲みながら手を挙げた。


「はい、美波さん」

「愛梨ってお金持ちなんでしょ? プレゼントなんか喜ぶのかな」


元生徒会長の悠人先輩が眼鏡をクイッと指先で持ち上げた後、静かに手を挙げた。


「はい、悠人くん」

「お金持ちでもプレゼントは嬉しんじゃないか? どうなんだ結菜」

「嬉しいですよ? でも、仲良くない人からいきなり貰うプレゼントなんて、絶対不信感を抱くと思います。警戒されて終わりです」


莉子先生はガッカリした表情で二つ目の案が書かれた紙を折り曲げてしまった。


「それじゃこの作戦は無しね。最後の読むわよ。全校生徒を味方につけて、全員で抗議する。これについて意見がある人はいる?」


すると、拓海くんが手を挙げないで急に立ち上がった。


「どうやって味方にするんだ?」

「皆んなは退学という恐怖に支配されています。なら、私達も恐怖で支配してしまえばいいのです。貴方の得意分野でしょ?」


結菜さんの正論にも聞こえる皮肉で、莉子先生は心配そうな表情をして僕達に釘を刺す。


「暴力はダメよ? 結菜さん、恐怖って具体的にどんな恐怖?」

「嘘をつくんです。私が新しい生徒会長になったと、そして言うんです。私を信じない生徒は即退学と」

「そんな嘘、すぐバレちゃいますよ」

「輝久くんの言う通りかもしれません。でも、愛梨さんにバレる分には大丈夫です。全校生徒さえ騙せればいいんです。まず、莉子先生が全校集会をセッテングしてください。私がステージに上がって喋りますから。そこで皆さんにお願いしたいのは、全員変装することです」

「なんで変装?」

「退学を言い渡された人達がまとまっていたら不自然じゃないですか。それで私の発言に、この中の誰か一人が歯向かってください。そこで私はその一人に退学を言い渡します。そしたら私が退学になりたくない人は、その一人を追い出しなさいと命じますから、そこで皆さんは一斉に追い出そうとしてください」


悠人先輩は眼鏡のレンズを拭きながら、小さなため息をついた。


「はぁ。その流れになんの意味があるんだ?」

「すでに私が生徒会長だと信じている人がいると、全校生徒に見せつけるんです。人間というのは、他と違うことに不安感を覚えます。恐怖感と不安感、そして心理を使って全校生徒を味方にできます」


結菜さん、こんな短時間で今の全てを思いついたのかな。

凄すぎる。なんか行けそうな気がしてきた!

僕の作戦、お父さんに会いに行くのは最終手段に取っておこう。


そしてついに、莉子先生は納得した表情で喋りだした。


「それじゃ決定ね! 全校集会は週明けの月曜にできるように、なんとかセッティングするわ! 教育委員会への電話も任せて! でも、変装グッズはどうするの?」

「私が月曜日に人数分持ってきます」


さすがお金持ちだ。

僕のお小遣いじゃ変装グッズなんて買えないし、助かった。





そして月曜日。

登校して来ると、M組では結菜さんが変装グッズを配っていた。


「輝久くんにはこれです」

「ありがとう!」


渡されたカツラと眼鏡を持って、僕は一人で男子トイレへやって来た。

トイレの鏡で自分を確認したかったからだ。


鏡を見ながら、カツラと眼鏡を身に付けると、いつもと違う自分にテンションが上がる。


おー!インテリホストって感じ!

あれ?僕って意外とイケメンじゃない!?



***



その頃教室では、拓海が結菜に文句を言っていた。


「おい結菜! なんで俺だけ女装なんだよ!!」

「ささやかな復讐です。お似合いですよ? メスゴリラみたいで」


拓海はピンク髪ツインテールのカツラをかぶり、顔を真っ赤にしながら眉間にシワを寄せることしかできなかった。


「こんなの着けてられるか!!」

「真菜さん、拓海さんがスタンガン当ててほしいらしいです」

「え? 了解!」

「わ、わかった! ちゃんとかぶっておくよ!」


周りのみんなは拓海を見て、笑いを堪えるのに必死だ。

次は柚木が、カツラをかぶりながら結菜に文句を言いにきた。


「なんで私だけバーコードハゲなの!?」

「可愛いですよ?」

「また馬鹿にしてんだろ!!」


揉め事が起きそうになった瞬間、美波と真菜、そして芽衣が、淑やかな表情で柚木の肩を軽く叩いた。


「私達なんて三人ともアフロだよ」

「髪があるだけいいじゃん!! ハゲの苦しみはハゲた人にしか分かんないよ!!」


一樹は、怒りがおさまらない柚木に優しく声をかけた。


「大丈夫です柚木さん! 俺もバーコードハゲです!」


柚木は一樹のカツラを見て、すぐに目を逸らしたと思えば、ボソッと冷たい声であしらう。


「はっ、キモ」


一樹がショックで、その場にうなだれたその時、輝久が教室に帰ってきた。



***



僕か教室に入った途端、芽衣さんと柚木さん、美波さんと真菜さんが僕に駆け寄ってきて、四人は口を揃えて言った。


『かっこいい!』


芽衣さんは目を輝かせながら僕の両肩に手を置いて、顔をぐいっと近づけて来た。


「似合うよ輝久! すごくいい!」

「ありがとうございます、で、なんでアフロ‥‥‥」


柚木さんはハゲてる‥‥‥ダメだ、笑っちゃダメだ。


笑いを必死に堪えていると、結菜さんは無表情のまま、芽衣さんの手にカッターの切れない方を当てた。


「離しなさい」

「ご、ごめん!でもかっこいいから‥‥‥」

「輝久くんは、なんでちょっと嬉しそうなんですか? 私以外にかっこいいって言われて喜んでるんですか? 浮気ですよ?」

「こ、これも浮気なの!?」

「当然です。気をつけてくださいね」

「は、はい」

「それと、私に反抗する役は輝久くんがしてください」

「僕ですか!?」

「はい、輝久くんならきっとできます」

「自信無いですけど、が、頑張ります!」


そろそろ全校集会が始まる時間だ。

怪しまれないように、結菜さんは僕達より後に体育館に向かうことになった。


結菜さんを教室に残して、体育館に向かっている間、柚木さんが話しかけてきた。


「輝久くん、もしもこの作戦が成功したら、私の気持ち聞いてほしい」

「気持ちですか?」

「うん! 結菜には絶対内緒ね!」


なんだろう、普通ドキドキする展開なはずなのに、ハゲカツラのせいでドキドキできない‥‥‥。


次は拓海くんが後ろから話しかけてきた。


「輝久、お前と仲間になるとか考えてなかったぜ。今まで悪かったな‥‥‥これからは仲良くしよう」

「うん! そう言ってもらえて嬉しっ‥‥‥ブッー!!」

「おいテメェー!! 今俺を見て笑ったな!!」

「だ、だってその髪!」

「やっぱりまたボコボコにしてやろうか?」

「ご、ごめんなさい!」


真菜さんが恐ろしい形相で拓海くんを睨んでいる。

その視線に気づいた拓海くんは、急に笑顔で肩を組んできた。


「よーし輝久! 今日からマブダチだ!」

「お、おー!」


そうこうしてるうちに体育館に着いてしまった。

アフロやハゲ、ピンクのツインテールがいるせいで、数名の生徒がチラチラ僕達を見ているが、正体はバレていないみたいだ。

いや、バレてないはずないか。



***



愛梨は全校生徒の一番後ろに立ち、目を細めて変装した集団を見つめていた。


全校集会なんて聞いていなかったはずですけど、なにごとでしょう。

なにか嫌な予感がするわ。

それにあの髪、ピンク?

ふざけているのかしら、後で呼び出しね。



***



そして全生徒が体育館に集まった時、結菜さんが体育館にやってきた。

僕達の逆襲が始まるぞ。

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