鬼会長
***
「やっぱり私の家なんですね」
M組の女性陣は、結菜の家で作戦会議を始めた。
芽衣は珍しく真剣な顔をして口を開く。
「愛梨って子、私達退学とか言っていたけど本当かな?」
「あんな一年生が一人で決められるわけないじゃないですか。明日も普通に登校しましょう。それより問題は他にあります」
結菜の言葉に全員が首を傾げた。
「なに?」
「輝久くんと愛梨さんに、血の繋がりがあることです。許せません」
柚木は前のめりになって、食い気味に言った。
「分かる! 許せないよね!」
「柚木さん、貴方普通に私の家に上がって、普通に喋ってますけど、先程のことは反省してるんですか?」
「あ、あの時は頭に血が上りすぎた。今こうやってまた皆んなと話せて、少し気持ち落ちた」
「まぁ、今はM組内で争っている時ではないでしょう。柚木さんとの話は、今の問題が解決したらにしましょう。それでいいですね?」
「わかった」
「それで、愛梨さんの血を抜くのは明日でいいですか?」
『やっぱりそっちかい!!』
思わず全員が一斉にツコッんでしまったが、結菜はいたって真剣だ。
「だって許せないですよ! 愛梨さんの血を全て抜いて、豚の血でも入れてあげましょう!」
それを聞いた柚木は、顔を引き攣らせながら結菜を見つめて小さな声で言った。
「なかぬか酷いこと考えるね‥‥‥」
「全員を丸焦げにしようとした人よりマシだと思いますけど」
「はぁ!? ねぇ皆んな、どっちがマシ? 私だよね!」
結菜以外の全員、引きつった顔をして、声を揃えて答える?。
『どっちもアウト』
すると結菜は立ち上がって、部屋の扉を真っ直ぐ指差した。
「とにかく、明日も普通に登校しましょう。それで何か起きれば、それから考えましょう。それでは今日のところは解散ということで」
***
本校舎に通えと命じられあ次の日、僕は元のクラスではなく、M組にやってきた。
すると、M組の扉の前で皆んなが集まっていて、一樹君も元クラスではなく、M組に来ていたことが少し嬉しい。
「みんな、どうしたんですか?」
一樹くん困った顔をして答えてくれた。
「見てよ、立ち入り禁止って紙が貼られてる。扉も開かなくなってるんだ」
「本当だ」
教室に入れなくて困っている僕達の元に、莉子先生が来た。
「みんなー、今日は全校集会よ。体育館に移動してー‥‥‥なにこれ」
この反応ってことは、莉子先生も知らなかったんだろう。
「扉が開かなくなってるんです。先生も知らなかったんですか?」
「何も聞かされてないわよ? きっと愛梨さんの仕業ね。とにかく体育館に移動しましょう。愛梨さんが何か話すらしいから」
言われるがまま体育館に移動して、全校集会が始まった。
愛梨さんは淑やかな表情をして体育館のステージに上がり、マイクに向かって喋り始めた。
「私の名前は新垣愛梨と申します。この学校の生徒会長です。これからこの学校は、私の発言で全てが決まります。この学校を素晴らしい学校にするために、今から最初の選別を始めます。前回のテストで赤点を取った方は手をあげてください」
ざっと二十人以上が手を挙げた。
「今手をあげている方は、今すぐ帰る準備をしてください。もう二度とこの学校に足を踏み入れることを許しません」
その言葉を聞いて、全校生徒が騒ついた。
それも気にすることなく、愛梨さんは話をを続けた。
どんなメンタルしてるんだろ。
「それとM組の方達、貴方達には昨日退学を言い渡しましたはずですが、なぜ学校に来ているのですか? 不法侵入で警察を呼びますよ。今すぐ出て行きなさい」
すると結菜さんは何も言わずに、ステージに向かって歩いていってしまった。
また何かやらかすんじゃ‥‥‥。
すると、ステージに着く前に、結菜さんの目の前に体育教師の山口先生が立ち塞がった。
「なにをする気だ結菜」
「そこをどいてください」
「それはできない」
その光景を見た愛梨さんは、結菜さんを指差して先生達に指示を出した。
「先生方、M組の生徒と赤点を取った生徒を学校から追い出してくださるかしら」
すると、莉子先生と校長先生以外の先生が、赤点を取った生徒と僕達の制服を掴み、外に追い出そうとし始めた。
混乱の中で、莉子先生の怒った声が聞こえてくる。
「校長先生!! これはなんですか!! こんなことが許されるわけないでしょ!!」
「これはどうすることもできない。莉子先生も従った方がいい‥‥‥逆らえば職を失いかねませんぞ」
「生徒の親御さんには、なんて説明するです!」
「それは愛梨さんが上手くやってくれるだろう‥‥‥」
結局僕達は学校の外に追い出され、追い出された人数は、M組の生徒も合わせた合計で二十八人。
女子生徒九人、男子生徒十九人だ。
その中には拓海くんもいた。
拓海くんは明らかにイライラしながら、僕に話しかけてきた。
「輝久、これどうなってんだよ!」
「ぼ、僕も何が何だか分からないよ」
「クソ!」
拓海くんは小石を蹴り、学校を見ながら拳を握りしめる。
皆んな不安そうな表情でなにもできないでいると、結菜さんが口を開いた。
「皆さん聞いてくださるかしら」
全員静かになり、結菜さんの方を向いた。
「このまま、あの生徒会長の言うことに従う人は手をあげてください」
手を挙げる人は誰もいない。
僕もだけど、みんな不満なんだ。
「誰もいないみたいですね。こういうのは苦手ですが、私達で力を合わせましょう」
結菜さんが誰かと協力しようとするなんて、本当に珍しい。
でも何をする気なんだろう。
「力を合わせて、何をするんですか?」
「輝久くん、いい質問です、十月は体育祭があります。その日は生徒の保護者も沢山見に来ますよね。その時にこの事実を保護者に伝えるんです」
柚木さんは靴の先で小石を転がしながら聞いた。
「どうやって伝えるの?」
「体育祭ですから、大きなスピーカーとマイクがあるはずです。多少強引になってもいいです! ここにいる男子生徒の皆さんは、それを奪って保護者に訴えかけてください。私達女子生徒は、最悪の場合に備えて放送室に向かいます」
すると拓海くんは指をポキポキと鳴らしながらニヤつき始めた。
「了解だ。体育祭が楽しみだな! あの真面目っ子に一泡吹かせてやろうぜ!」
そんな拓海くんの目の前に、真菜さんが目を見開いて立ちはだかる。
「ま、真菜もいたのか」
「輝久くんになんかしたら分かるよね?」
「な、なにもしねーよ!」
「結菜ちゃんにも」
「お、おう」
拓海は苦笑いしながら僕と肩を組んで、真菜さんにアピールするように言った。
「輝久! 協力して頑張ろうぜ!」
「う、うん!」
なにこれ、なんかすごくいい!
男の友情が芽生えた感じ!?いい!
そんな僕達を見た結菜さんは、真菜さんに優しい表情で言った。
「真菜さん、ありがとうございます」
「へへ♡」
真菜さんは結菜さんにお礼を言われて、露骨に喜んでいる。平和でいいな。
***
輝久達がそんな会話をしている頃、全校集会はまだ続いていた。
「今見てもらったように、赤点を取ったり問題を起こした生徒は即退学にします。それと、今年から体育祭と学園祭はありません」
まさかの言葉に、全校生徒は我慢の限界で、小声で文句を言い出した。
「まじありえなーい」
「学園祭なしと最悪だろ」
「三年生は今年が最後の年なのに」
「言い忘れてましたが、私に逆らう方も即退学になります。ですが、私ばかりズルイと思う生徒も中にはいるでしょう。私も鬼ではありませんから、より良い学校生活を送れるように、皆さんの望みも聞いてあげます。何かある方は挙手を」
みんな静かになり、一人の女子生徒が手を挙げた。
「貴方、どうぞ」
「髪色とかピアスとか自由にしてほしいです! あと、スカートの長さとか!」
「その自己主張になんの意味があるのかしら」
「え?」
「そんなに自己主張したって、誰も貴方のことなんて見ていないわよ?」
手を挙げた女子生徒は落ち込んで黙ってしまい、続いて男子生徒が手を挙げた。
「どうぞ」
「なんで体育祭と学園祭を無くすんですか?」
「皆さん、中学生の時に思ったことはありませんか? 小学生の頃は良かったなーって、そして今、中学生の頃は良かったなーとか、思うことがありますよね。それは何故だと思いますか? 楽しかった思い出や楽だった記憶があるからです。それは社会人になった時邪魔になります。皆さん、イメージしてください‥‥‥社会人になれば、学生の頃の友達なんて、ただの他人になってしまいます。思い出に浸っている暇があるなら手を動かして、利益を生み出したほうがいいです。お金があれば幸せを買うことができます。するとどうでしょうか、あの頃は良かったなーが、今が最高に幸せだに変わるんです。目先の欲を切り捨てて努力すれば、貴方達も幸せになれますよ」
「会長は大人じゃないのに、なんでそんなことが言えるんですか?」
「未来をイメージできるからです。貴方達も日々、未来をイメージしてください。できない人間は、この学校に必要ありません」
***
僕達はM組の校舎に戻り、扉を開けようとしている最中だ。
「拓海くん、力技で開けれない?」
「やってみるか」
拓海くんが扉を開けようとしたが、鍵がかかっている以上、扉はビクともしなかった。
M組の校舎には教室が二つあるが、両方とも鍵がかかっていてどうすることもできない。
さすがに諦めムードの僕達の元に、眼鏡をかけた一人の男子生徒がやってきた。
「協力しよう」
その男子生徒を見て、拓海くんが驚いたように言った。
「生徒会長じゃねーか!」
「元生徒会長だ。鍵は持ってきた、扉を開けよう」
元生徒会長は、二つの教室の鍵を開けてくれ、教室に入ると、結菜さんが元生徒会長に話しかけた。
「なぜ生徒会長さんが協力してくださるんですか?」
「だから元生徒会長だ。俺のことは先輩後輩関係なく、気楽に悠人と呼んでくれ」
「それでは、気楽に悠人さん。なぜ気楽に悠人さんが私達の手助けを?」
「気楽には付けなくていいから、君天然なの?」
僕は思わず結菜さんをフォローしようと間に入る。
「結菜さんなりのボケです」
「あ、あー、そうなんだ」
ボケって分かってもらえて満足そうな結菜さん‥‥‥ちょっと可愛い。
「それで、俺が君達の手助けをした理由だけど、あの愛梨って女が許せないからだ。生徒会長という座を一千万で買収したんだ。俺が知らないうちに俺の家族に支払っていた」
結菜さんは悠人先輩を哀れむような目をして言った。
「一千万って私の十ヶ月分のお小遣いじゃないですか。一千万で生徒会長を譲るのは勿体無いですね」
悠人先輩は引きつった顔で結菜さんを見て、一歩後ろに下がる。
「君、何者なんだ‥‥‥」
「普通の女子高生ですよ? それで、私達は体育祭の日に、保護者にこの真実を伝えようと思うのですが」
「体育祭ならやらないぞ。学園祭もだ。愛梨がさっきの全校集会で断言した」
一度決まった作戦が水の泡になり、教室内の空気が重くなってしまった。
「それは困りましたね。新しい作戦を考えましょう」
その時、莉子先生がやつれた顔で教室に入ってきた。
「あら? 皆んな居たのね。悠人君もいるじゃない!」
「お邪魔しています」
「それにしても悠人君、災難だったわね」
「はい、お疲れのようですが大丈夫ですか?」
「先生達まで愛梨さんの言いなりなのよ。皆んな権力に怯えてるわ」
「失礼なことを聞きますが、莉子先生は僕達と愛梨、どちらの味方ですか?」
「貴方達に決まってるじゃない! あんなやり方許せない!!」
「クビになるかもしれないんですよ!? 大丈夫なんですか?」
僕が聞くと、莉子先生が答える前に、結菜さんが話に入ってきた。
「職を失っても、宮川さんがいるから大丈夫ですよね」
「え!? ちょっと結菜さん!? 皆んなにはまだ内緒って!」
「結婚を前提にお付き合いを始めたんですもんね。夏休み中もちょくちょく私の家に来てましたもんね」
「結菜さん!」
「無駄話をしすぎましたね。これからどうすべきか、なにか案がある人はいるかしら」
どうせ付き合うだろうと思っていた僕達は、あまり驚かず、皆んなと一緒に黙り込んでしまった。
すると莉子先生、黒板の前に立ち、僕達に宿題を出した。
「それじゃ皆んな、これからどうすればいいか、各自紙に書いて、明日このM組に持ってきてください! その中から現実的な物を絞りましょう」
「分かりました」
こうして今日は、皆んな一度帰ることになった。
どうすればいいか‥‥‥愛梨さんのお父さんは僕のお父さんでもあるんだよな‥‥‥。
会って話せば、なんとかしてくれるかもしれない。
そう考えながら僕は家に帰り、リビングでくつろぐお母さんと話をした。
「あのさ、お父さんの今の結婚相手の娘さんに会った」
「え!? そんなことってあるのね! どこで会ったの?」
「学校だよ。今の生徒会長がその娘さん」
「あの人、まだこの街にいたのね」
「それでさ、その娘さんが独裁的というか、自分勝手というか、そのせいで僕達‥‥‥退学になるかもしれないんだ」
お母さんは、いきなり大きな声をあげた。
「なんですって!? 退学!? あんた何したの!!」
「落ち着いてよ! 僕は何もしてない! そ、それでさ、このままだと大変なことになるかもしれないから、お父さんと話がしたいんだ。会っちゃダメかな」
「んー、相手には相手の家庭があるからねー、オススメはしないけど、あんたが正しいと思ったことをやってみなさい。でも、なるべく迷惑はかけちゃダメよ」
「わかった。ありがとう」
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