隠れドS

「結菜ちゃんが起きる前に殺しちゃう?」

「そうだね、今しかないね」


真菜さんと美波さんの声だ。

殺すってなんだ?

僕は起き上がり、二人の方を見た。


「なんの話ですか?」


すると二人は僕から目を逸らした。

なんで無視するんだろか。

まぁいいか、帰る準備しちゃおう。

僕が立ち上がると、美波さんと真菜さん、そして柚木さんは顔を真っ赤にして僕を見つめ始めた。


「どうしたんですか?」


僕が聞くと、真菜さんが目を逸らして一言だけ言った。


「ダビデ像‥‥‥」

「ダビデ像?」


その時、窓から入ってきた風で、自分の体に違和感を感じた。

なんかスースーするな‥‥‥。


「はぁ!?」


僕は着ていたはずの浴衣を着ていなかった。

そう、素っ裸のまま皆んなの前に立ってしまったのだ。

僕は急いで自分の布団に潜ると、結菜さんは幸せそうな顔で寝ていた。


「み、見ました?」


三人は声を揃えて言った。


『丸見えでした』


し、死にたい‥‥‥。

とにかく結菜さんを起こさなきゃ。

僕は全力で結菜さんの体を揺すって声をかけた。


「結菜さん!! 起きてください!! 僕の浴衣どこですか!? 脱がせたの結菜さんですよね! 皆んなに裸見られたじゃないですか!!」


結菜さんは目を開けたが、寝起きとは思えない目力で僕の顔を見つめた。


「見られたんですか? 裸を」

「え、はい‥‥‥」

「なんでですか? 私以外に見せた罰です。切りますか? もぎますか? 選んでいいですよ。安心してください輝久くん、その後はネックレスにでもして、私が肌身離さず身につけてあげますから」

「なにそれ悪趣味」

「輝久くんは変態露出趣味です」

「脱がせたのは結菜さんですよね!?」

「はい!! そうです!!」

「そんな堂々と言われても!!」


そのあと布団の中でジャージに着替えて、なんとか助かった。いや助かってないけど。


それから皆んなで帰る準備を済ませてバスに乗った

その時、芽衣さんがいないことに僕だけが気づいた。


「芽衣さんいなくないですか?」


すると結菜さんは、何かを思い出したように言った。


「あ、押入れに閉じ込めたままでした」

「なにやってんの!? てか、先生も早く気づいてくださいよ!!」

「テヘ♡」

「先生、吐き止めください」

「なんでよ!!」


その時、バスの運転手がアナウンスを始めた。


「発進いたします」


あ、バス動き出しちゃった‥‥‥。

そして何故か、結菜さん達、そして先生すらも、目を閉じて合掌している。


「なんで芽衣さんが死んだみたいになってるんですか」


結菜さんは合掌したまま、縁起でもないことを言った。


「死んだのよ‥‥‥あの子は‥‥‥いい子だったわ‥‥‥」

「本当なに言ってんの!? 柚木さんはお経唱えないでください!! 真菜さんと美波さんは泣かないでくださーい!!」


その後、芽衣さんは宮川さんのヘリコプターで無事に学校へ帰ってきた。



***



次の日、結菜は真菜を男子トイレに呼び出した。


「真菜さん、あのことは先生に話したのかしら」

「今日の放課後話します。結菜ちゃんとはお別れですね!」


結菜は真菜の頬に手を当て、顔を近づけた。


「本当に言えるのかしら、首を絞められた、その言葉だけで退学にできると思っているのですか? 輝久くんの入浴中に、お風呂のドアを開けたことも全部言わなければいけませんよ?」

「そ、そんなこと言わなくても、この首の痕が証拠になります」

「痕? そんなのどこにあるんですか?」


真菜は結菜の言葉に焦り、携帯の内カメで自分の首を確認すると、首の痕は時間が経ち消えていた。


「それに真菜さん、私がいるだけで輝久くんに近づけないなんて、負けを認めてるも同然です」

「負けてない‥‥‥」

「はい?」

「負けてない!!」


真菜はポケットから小型のスタンガンを取り出して、結菜のお腹に当ててスイッチを押してしまった。

結菜は抵抗できず、痛みでトイレに倒れ込んでしまった。


「結菜ちゃん、輝久くんに近づかないって誓ってください」


結菜は苦しんで喋ることができない。


「無視ですか? 結菜ちゃんは悪い子です」


真菜は、倒れ込んで喋らない結菜のお腹に、笑いながらスタンガンを当て続ける、


「ほら、誓ってください!! 早く!! あっ、スタンガンの充電が切れてしまいました。もっと苦しむ顔が見たかったのに」


真菜は、お腹をおさえながら苦しんでる結菜の制服を半分脱がして写真を撮った。


「このこと誰かに話したら、学校中に写真ばら撒くからね」


真菜は結菜を残して教室に帰っていった。



***



結菜さんが戻って来ないなと思っていると、莉子先生が教室に入ってきて、結菜さんの席に視線を向けた。


「あれ? 結菜さんは? 登校してくるとこ見たんだけどなー」


結菜さんが戻ってくる前に、そのまま授業が始まってしまった。

しばらくすると、結菜さんが体調悪そうに教室に戻ってきた。


「結菜さん、もう授業始まってるわよ?」

「すみません、ちょっと体調が悪かったので」

「大丈夫? 授業受けれる?」

「はい、大丈夫です」


結菜さんは席に着いて、普通に教科書を開いた。

確かに、いつもの無表情とは違い、少し元気がなさそうだ。


「結菜さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、気にしないでください」


休憩時間になると、僕達の席の前に芽衣さんが心配そうにやってきた。


「結菜、大丈夫? さっきからお腹さすってるけど」

「大丈夫です」

「まさか、ウン」


結菜さんは必死に言葉を遮った。


「違います!!」


こ、こういう時は気を使ってあげなきゃ‥‥‥。


「結菜さん、生理現象だから気にすることないよ」

「だから違います!」

「ご、ごめん」


芽衣さんは追い討ちをかけるように言った。


「あー、女の子の日?」

「め、芽衣さん? 芽衣さんにはデリカシーってものが無いんですか?」

「えー、それこそ生理現象なんだから気にすることないじゃん」

「そ、そうですね。それより、金髪に戻したんですね」


髪色の話題を振ると、芽衣さんは露骨にテンションが上がった。


「そう! 可愛い?」

「普通です」

「えー!? 酷い!!」


ごめん、結菜さんの前で可愛いなんて言ったら大変なことになる。

確かに芽衣さんは可愛いし、僕は黒髪の方が好きだったけど、言わない、絶対言わない。


そんな時、真菜さんからメッセージが届いた。


『今日の放課後、輝久くんのお家に行っていいですか?』

『いきなりどうしたんですか?』

『大切な話があるんです。結菜さんのことで』

『退学のことですか?』

『はい、話を聞いてくれたら退学させません』

『分かりました』


メッセージでやりとりをしていると、いきなり結菜さんが声をかけてきた。


「輝久くん」

「は、はい!!」


メッセージの内容見られたかな‥‥‥。


「私、やっぱり体調が優れないので早退します」

「え、大丈夫?」

「少し寝れば大丈夫です。明日から夏休みですが、夏休み中も会いましょうね」

「はい、それじゃ帰ってゆっくりしてくださいね」

「ありがとうございます」

「夏休み中、私も誘ってね」

「芽衣さんは嫌です」

「うん! 待ってるね!」


芽衣さんは日本語が分からない人らしい。

結菜さんのことは心配だけど、早退してくれたおかげで真菜さんと話せる。





結菜さんが早退してから時間も経ち、放課後になった。


夏休み前ということで、M組の全員と連絡先を交換し、教室で携帯を眺めていると、いきなり芽衣さんが僕の制服を引っ張ってきた。


「一緒に帰ろ!」

「あ、えっと、今日は寄る場所があるので‥‥‥」

「えー、そうなのー? んじゃ私帰るね!」

「うん!さよなら!」


芽衣さんは帰っていき、気づけば柚木さんは教室に居なく、いつのまにか帰ってしまっていた。


「真菜、早く帰ろー、合宿明けだし疲れたよ」

「私、本屋に寄ろうと思ってるから、お姉ちゃんは先に帰って」

「本屋? そっかー、それじゃ先に帰るねー、輝久! いつでも連絡してね! 大好き!」


はい?今なんて?今あっさり告白された?

美波さんは走って帰ってしまい、真菜さんは苦笑いで僕を見ている。


「ま、真菜さん? どうしました?」

「輝久くん、嬉しそうだなって」

「そ、そんなことないです! 早く帰って話しましょう!」


僕は真菜さんと一緒に僕の家に帰ってきたが、玄関を開けると、たまたまお母さんと目が合ってしまった。


「あら、また違う女の子」

「余計なこと言うなよ! とにかく部屋に来んなよ! 大事な話しするんだから!」

「はいはい」


真菜さんと一緒に部屋に入ると、真菜さんは人が変わったように口調や表情が変わった。


「輝久くん、なんで結菜ちゃんの味方するわけ? 輝久くんは私が好きなんだよね」

「真菜さん? いきなりどうしたんですか?」

「質問に質問で返すなよ」

「ご、ごめんなさい、一応結菜さんと付き合ってるから‥‥‥なんとも言えないです」

「一応でしょ? 輝久くんは結菜ちゃんのことを本当に好きなのか自分で分かってない」


そうかもしれない‥‥‥確かに自信を持って好きだって言えないかもしれない。


「輝久くんはさ、私だけを好きでいて、私の言うことを聞いてればいいの」

「真菜さん? なんか変だよ、いつもの真菜さんっぽくないっていうか‥‥‥」

「これが本当の私だよ? とにかく立ったままもなんだし、座りなよ」


座りなよって、僕の部屋なんだけどな。


とにかく僕は、床に胡座をかいて座った。

すると真菜さんは立ったまま、僕を見下ろして言った。


「はぁ? 私の前では正座でしょ?」

「はい‥‥‥それで、結菜さんの退学の話しは」

「あれは嘘、退学の件なら作戦失敗」

「それじゃ、なんで僕の家に?」

「そんなの決まってるじゃん。輝久くんは私が好きなんだよね? それなら、私の命令に従うように、ご主人様として、しっかり躾けてあげなきゃね」

「真菜さんのこと、そういう好きじゃ‥‥‥」

「私のこと好きじゃないの? それじゃ、輝久くんはクラスメイトに下着の趣味を押し付ける変態ってことだね」

「違います! あれはたまたまで、それに、なんで下着を選んだら好きってことになるんですか?」


真菜さんは目の前でしゃがみ、僕の太ももに爪を立てながら、耳元で囁くように言った。


「女の子はね、勘違いしやすい生き物なの。輝久くんが私を好きじゃないのは分かったよ。でもね、私は輝久くんが好き。だから輝久くんも私を好きになるの。もう‥‥‥私がいなきゃ何もできない身体にしてあ.げ.る♡」


僕は恐怖を感じて、真菜さんから離れようとしたが、真菜さんは僕の髪を鷲掴みにして軽く引っ張った。


「真菜さん! 痛いです!」

「私の許可なしに勝手に動いたらダメでしょ? 返事は?」

「はい!!」

「輝久くんはいい子です♡」


真菜さんは、鞄から携帯を取り出して、なにやら文字を打ち始めた。


「今から私が送ったメッセージを読み上げて。返事は?」

「はい‥‥‥」


真菜さんからメッセージが届き、真菜さんは携帯のカメラを僕に向けた。


「ほら、読み上げて」

「こんなこと言えません!」

「そっか、痛みで躾けるしかないみたいだね。鞭、スタンガン、ロウソク、あっ、言うこと聞かない分、爪を剥ぐのもいいね」

「なんでそんなことをするんですか?」

「輝久くんのことが大好きだからだよ? 輝久くんが私以外見ないように躾けてあげてるの、さっき言った躾け内容、全部本気だから」


ダメだ、完全に本気の目をしている。

とにかく読み上げて、今だけでも乗り切るしかない。


「僕は、真菜様の彼氏兼ペットです。真菜様の言うことは絶対です」

「まだ続きがあるでしょ?」

「‥‥‥僕は、結菜さんが嫌いです‥‥‥いつもベタベタしてきてウザいです‥‥‥もう関わらないでください‥‥‥」


真菜さんは動画を撮り終えて、満足そうに僕に抱きついてきた。


「よく言えました♡」

「今の動画、誰にも見せないでください‥‥‥」


すると真菜さんは、僕の首に犬用の青い首輪を着けて、軽く首輪を引っ張った。


「夏休み中、一回でも外したら、さっきの動画を結菜ちゃんに見せる」

「分かりました‥‥‥」

「それじゃ私は帰るから、最後に質問」


真菜さんはそう言うと、どこか狂気染みた表情で僕を見下ろす。


「輝久くんが好きな人は誰?」


ここで答えを間違えたら殺される。


「真菜さんです‥‥‥」

「二っきりの時は様を付けなさい。あと、私の本性を誰かに話したら‥‥‥ね?」

「言いません! 絶対言いません!!」


すると恐ろしかった表情が笑顔に戻り、口調も優しくなった。


「輝久くんはやっぱりいい子だね♡ また遊びに来るね! 大好きだよ♡」


そう言い残して、真菜さんは帰っていった。

真菜さんだけは、いい子で優しい子だと思ってたのに、そういう子ほどヤバイ裏があるって噂は本当だったんだ。

あんな大人しそうな女子高生がドSだったなんて‥‥‥しかも度が過ぎてる!!

ドが百個あっても足りないよ!!

それにこの首輪、結菜さんにバレたらなんて言おう‥‥‥。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る