ゴミ

「みんなー、バスくるよー! 外に出なさーいって、柚木さんと芽衣さんは!? 遅刻!?」


今日は遂に合宿の日だ。

八月にに入り、暑さで体が溶けてしまいそうな中でバスに乗り、椅子が横に繋がっている一番後ろの窓際に座った。


すると結菜さんが一番後ろの席まで歩いてくる。

結菜さんはやっぱり隣に座るのかな?と思ったその時、美波さんが結菜さんを押し退けて、僕の隣に座ってしまった。


「私が輝久の隣に座るー!」

「美波さん、そこは」


結菜さんが何か言おうとした時、真菜さんが、ムッとした表情でこちらを見てきた。


「お姉ちゃんずるい!」


次は真菜さんは結菜さんを押し退けて、美波さんの隣に座った。


「それじゃ、私は輝久くんの膝の上に失礼します」


結菜さんは、冷静に僕の膝の上に座ってしまった。


「ゆ、結菜さん!? ちょっとそれは! それに暑いです。前見えないし」


「美波さんと真菜さんが邪魔なので仕方ありません」


美波さんと真菜さんは、悔しそうに結菜さんを睨んでいる。


それから少し遅れて、柚木さんと芽衣さんがバスに乗ってきた。

柚木さんと芽衣さんは、一瞬僕達の方を見て、何も言わずに二人で前の方に座った。

全員揃ったところでバスが動き出したが、結菜さんは僕の膝の上から動かず、本を読んでいる。


「結菜さん、まさか海までこのままですか?」

「はい」


暑すぎて死ぬー。

美波さんもやたら密着してくるし、真菜さんは携帯でゲームしてるみたいだ。

それにしても、柚木さんと芽衣さんが話しかけてこないのは珍しいな。

僕達から離れたとこに座ったし、まぁ、別れた日から芽衣さんは話しかけてこないけど‥‥‥。



***



その頃柚木と芽衣は、皆んなに聞こえないように作戦会議をしていた。


「芽衣、さっき先生に聞いたんだけどさ、合宿二日目の夜に、近くの山で肝試しがあるんだって」

「それじゃ結菜のこと、山に置き去りにしちゃおうよ。夜の山だから簡単に出てこれないと思うし」

「でもさ、熊とか出ないかな。さすがに死んじゃったらヤバイよね」


芽衣は外を眺めながら小さな声で言った。


「いいじゃん、死んじゃえば」

「え?」



***



長い間バスに揺られて、やっと海の駐車場に着いた。

結菜さん達は先に外へ出てしまったが、僕は足が痺れて、少し遅れて変な歩き方でバスを出た。

そんな僕を結菜さんは、無表情で見つめる。


「足が痺れたんですか?」

「うん、ちょっとね」

「私が重いみたいじゃないですか」

「そ、そんなことないよ!」


ちょっと幸せかもと思えたのは最初の三十分だけだったな。


莉子先生が汗を拭きながら、これからやることを説明しだした。


「今から海の家に挨拶するわよ!」


海へ降りると、まだ早い時間だからか、数人がサーフィンしているぐらいで、他に人が居なかった。

そして海の家は、小さいけど新しい感じがする外見で、かき氷、焼きそば、フランクフルト、唐揚げ、サイダー、ビールと、品揃えは少ないけど、シンプルでいい感じだ。


海の家を眺めていると、店の中から日焼けをした、四十代ぐらいのマッチョなおじさんが出てきた。


「おー、お前らか! 俺の店を手伝ってくれるっていうガキは!」


ガキと言われ、柚木さんはムキになり対抗し始めた。


「誰がガキだー! 日焼けじじい!」


すると莉子先生が、柚木さんを優しく叱った。


「こら、そういうこと言わないの」

「だって! いきなりガキとか失礼だよ!」


それを見て、海の家のおじさんが声高らかに笑い出した。


「ハッハッハッ! 元気なガキじゃねーか! でも、俺の娘に口答えは許さねーぞ」


みんなの頭上にハテナが浮かんだに違いない。


すると、莉子先生が恥ずかしそうに言った。


「お父さん! 皆んなには言わないでって言ったでしょ!」

「あれ? そうだっけ?」


僕達は驚き、結菜さん以外の全員が一斉に声を発した。


『お父さん!?』

「そうだ! 俺が莉子の父、つよしだ!」

「いやいや! どうやったらこのおじさんから、莉子先生みたいな人が生まれるんですか!?」

「何言ってんだ坊主、産んだのは俺の嫁だ」

「いやいや、そういうことじゃなくてですね」


僕は失礼だと思いながらも、思わずツッコンでしまった。

莉子先生と剛さんは、似ても似つかない、剛さんはマッチョで髭が生えていて、肌は日焼けをしている。なんかゴリラみたいな人だ。


「それじゃ荷物は俺が預かるから、客が来るまでに海岸のゴミ拾いをしてくれ」


こんな暑い中でゴミ拾いとか自殺行為だ。

やりたくないなー。


そんなことを思っていると、莉子先生がおもむろに服を脱ぎ出した。


「よーし! 日光浴だ!」

「莉子先生!? いきなりなにしてるんですか!」


服を脱いだ莉子先生が、ニヤニヤして僕に近づいてくる。


「あれー? もしかして下着だと思ったのかなー? これは水着でーす!」


スタイルが良すぎる。

肌も白くて綺麗だ。

思わず莉子先生に見惚れていると、僕の前に結菜さんが立ち塞がった。


「先生、その汚い体を輝久くんに見せないでください」

「汚い体‥‥‥」


莉子先生はショックを受けて、海に向かってゆっくりと歩き始めた。


「せ、先生、早まらないでくださいね」

「大丈夫大丈夫、汚い体を洗うだけだから‥‥‥汚い体をね‥‥‥」


あれはもうダメだ。

さて、ゴミ拾いを始めるか。


ゴミ袋とトングを持って、みんなはバラバラになり、ゴミ拾いを始めた。

とは言っても、あんまりゴミは落ちていなく、しばらくして海岸を見渡すと、不自然なダンボールが落ちているのを見つけた。

あれは完全にゴミだよな、拾いに行こう。


ダンボールを拾おうとしたが、重くて持ち上がらない。

何が入っているのか気になり、ダンボールを開けると、そこには水着姿の莉子先生が入っていた。

しかも泣きながら。


「なにやってるんですか‥‥‥」

「誰か私も拾って」


僕はどうすることもできずに、みんなを呼んだ。


「みんなー! このゴミ捨てるの手伝ってください!」


僕が呼びかけると、芽衣さん以外のみんなは嬉しそうに走ってきた。


みんなはダンボールの中を見て、軽く引いている。

そしてみんなは無言のままダンボールを持ち上げて、海に投げ入れてしまった。

なんて酷い。

莉子先生を海に放り投げた後、美波さんが僕のところに走ってきた。

そして、いきなり抱きついてきたのだ。


「なにしてるんですか!?」

「暑くて倒れそうなの、体を支えて」

「いや、さっき思いっきり走ってましたよね‥‥‥って、な、なんですかあの砂埃」


よく見ると、結菜さんが砂埃を上げて、猛ダッシュで僕のところに走ってくるのが見えた。

右手には何故かタコを持っている。

結菜さんは僕の元へ走ってくると、美波さんの頭にタコを乗せた。


「きゃー!! 気持ち悪い!! 取って取ってー!!」


美波さんは頭にタコを乗せて悲鳴を上げながら、海岸を走り回っている。


「真菜〜!! 取ってー!!」

「お姉ちゃん!? 来ないでー!!」


走り回っているうちにタコが頭から落ちてしまった。


「はぁー、取れた」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「なんで上手くいかないの」

「タコ乗せられたぐらいじゃ、問題にはしづらいもんね」

「私にとっては大問題だよ!!」


なんか話してるけど、よく聞き取れないな。

そして僕は、ジワジワと結菜さんに詰め寄られている。


「なんで美波さんと抱き合っていたのですか?」

「僕は抱きついてません! 美波さんがいきなり!」

「なるほど、私が合宿中に誰かを殺してしまわないように、輝久くんは注意してくださいね。今から水着のお姉さん方も沢山来ますし、呉々も鼻の下を伸ばさないようにお願いします。私の水着姿なら‥‥‥いつでも見せてあげるので♡」

「あ、ありがとう。せっかくの合宿だからさ、少しぐらいみんなと仲良くしようよ」

「それじゃ、輝久くんも抱きつかれないように気をつけてください」

「分かったよ」


ゴミを拾いを再開してしばらくすると、海に沢山の人が海水浴を楽しみに集まり始めた。

それを見て、僕達は一度海の家に戻った。


「ゴミ拾い終わりました」

「おう! お疲れ! これ食っていいぞ!」


剛さんは、テーブルに人数分のかき氷を置いてくれた。


「ありがとうございます!」


頑張った後のかき氷、なんでこんなに美味しいんだろう。

一気に生き返る!


「それ食ったら、次は店の手伝いをしてもらう。焼きそば焼ける奴はいるか?」


結菜さんと芽衣さんが手を挙げた。


「私作れます」

「それじゃ、お前ら二人は焼きそばを焼いてくれ」


うわ‥‥‥最悪な組み合わせだ、大丈夫かな。


「唐揚げ揚げれる奴は?」


美波さんと柚木さんが手を挙げた。


「できるー!」


「よし、それじゃ頼む! 残りの二人は、かき氷とか飲み物を出してくれ。俺はフランクフルトを担当するから頼むぞ!」


バイトとかしたことないけど、上手くできるかな。

結菜さんと芽衣さんコンビは心配だし、まぁ、なんとかなるか。

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