Bパート2 ED Cパート 次回予告

 フォロンは確かに修行をした。

 だが、それによってGTと互角の戦闘能力を手に入れられたのかというと、それは違う。


 身体能力こそは互角、あるいはかつてGTが指摘したとおりにGT以上かも知れないが、どうしても及ばないものがある。


 戦闘センス。

 経験。

 だからこそ、一度はとどめを刺す直前にまでGTはフォロンを追い詰めた。


 あれほどのチャンスが再び訪れるかはわからないが、あのまま戦闘が進めば、GTが力押しで勝利を収めていたかも知れない。


 だが、フォロンは気付いた。

 GTが顔役達を庇っている――庇わなければならない理由がある。


 一つには、勝利を収めた瞬間をこの顔役達に見せつけることで、自分の築いていた“秩序”が完全に崩壊したのだと、確実に知らしめること。


 後から、


「フォロンは、俺が倒した」


 と主張しても効果も薄いし――遅い。


 このような闘技場リングを設えたのだから、そういう目論見があり、その目論見を放棄する気もないのだろう。実際のところ、GTは現状ではさほど不利ではない。


 そしてもう一つ――


 空中を漂いながら、フォロンは火球をまき散らす。

 浮かんでいるのは危険であることは承知した――承知させられたが、それでも浮かぶだけの意味はある。


 絨毯爆撃を行うには、いちいち飛び上がるよりもその方がよほど効果的だ。

 事実、GTも火球を撃ち落とすのに精一杯で、フォロンにまでは手が回らない。


 それでも忙しくマガジン交換して、フォロンへと銃撃を加えてくるのはさすがと言うべきか。

 だが、その攻撃も……


 フォロンは確信した。


 ――GTは罠を仕掛けようとしている。


 罠のタネは、リュミス。

 そして対重力ヘリライフル。


 GTが決定的な隙を作り、気配を殺したリュミスが狙撃する。


 フォロンは収納していた日本刀を再び引き抜いた。


 確かに、GTの戦闘能力は高い。


 だがブラックパンサーが放つ銃弾も、リュミスが放つライフル弾も、その戦闘能力が上乗せされるわけではないのだ。

 であるならば、どんな銃弾を撃ち込まれても叩き返す自信がある。


 GTもそれに気付き、自分に銃弾を叩き込む方法を考えた。

 そして一計を案じリュミスを顔役達の中に紛れ込ませる。


 だがそのために、GTは顔役達を殺させるわけにはいかなくなった。

 喩えリュミスの居場所がわからなくても、顔役の盾が無くなった状態で火球による爆撃を行えば、いずれリュミスに当たってしまうからだ。


 そこまでの推測が立ったところで、フォロンはGTに斬りかかる。


 高い位置から勢いを付けての斬撃だ。

 直前まで、火球を撃ち落としていたGTの背後からの一撃だったが、GTはそれをギリギリでかわす。


「――銃で受け止めた方が効率が良くはないか?」


 GTの罠の看破に到達しつつある高揚感が、フォロンに思わず口を開かせた。


「ポン刀とは戦った事があるんでな。迂闊には受けられないさ」


 と、答えながらもGTは身体を回転させてマガジン交換。

 そのまま跳ね上がってくる刃を小さなバク宙でかわすと、素早くフォロンに銃口を向けた。


 ドンドンドンッ!


 ギンギンギンッ!


 フォロンが万全の体制では、銃弾は届かない。

 それは互いの共通認識。


 かといって、フォロンも顔役を減らすことも出来ない。


 ――膠着状態。


 これをGTが望むはずがない。

 そしてGTは、人殺しだけをしてきたわけではない。


 フォロンが、火球を放ちそれをGTが撃ち落とす。

 GTが銃撃を加え、それをフォロンが弾く。


 このやりとりを何度も行う内に、フォロンはGTの正確な射撃があるポイントでずれていることに気付いた。


 それは顔役達を背にした時。

 リュミスが潜むに足る、人込みの中だ。


(なるほど……)


 フォロンが再び宙に浮かんだ。

 そのまま一直線に向かうのは――何もない部屋の中に一つだけある玉座。


 GTの行動が露骨すぎる。


 そこに、何かいると見せかけ自分を誘い込む罠――ならばその誘い込む場所に射線が必ず通っている場所はどこか?


 ――玉座だ。


 顔役達が寄りついておらず、空白の地帯ではあるが、本来リュミスの能力に“人混みに紛れ込む”という要素は必要ない。

 で、あるならば玉座の陰……あるいは玉座にそのまま座っているかも知れない。


 フォロンは、その答えに満足し宙に浮かんだまま玉座へと突き進む。


「てめぇ!」


 即座にGTがブラックパンサーを向ける。


 だが、その射線はフォロンと玉座とを一直線に結んでいた。

 案の定――というべきか、ブラックパンサーの引き金は絞られない。


 フォロンは靄に包まれた日本刀を振りかぶると、アーディが座るべき玉座を袈裟切りで両断した。

 ダメージエフェクトがきらめく。

 そしてそれは消失への前兆。


 玉座の――あるいはその場に潜んでいたリュミスという存在の。


 フォロンは、振り返る。

 そこに絶望に歪んだGTの表情があることを期待して。


 周りの顔役達には、フォロンの行動の意味がわからないのだろう。

 ざわざわと、声を立て始める。


 今まで、静寂を保っていた分、それがやけに耳に付いたがフォロンは気にしなかった。


 今、確認すべきはGTの表情だ。


 だが、ボルサリーノを目深に被ったその表情は容易にうかがい知れない。

 フォロンは、覗き込もうとGTに近づき下から睨めあげる。


 そこで顔役達も異変に気付いた。


 GTが、そんなフォロンに攻撃を加えようとしない。


 フォロンももちろん、その異変に気付いていた。

 だから、この確認作業はただ勝利を確定させるだけの作業。


 それはフォロン――西苑寺哲士が持ってしまったサディスティックな心の表れでもあり、必勝の策を崩された、哀れな策士への当然の報いでもある。


 そんな視線を浴びながらGTは動いた。

 反撃が開始される、と顔役達はGTの次の行動を予想する。


 かつて、「止まらぬ銃弾マッド・ブリット」とも呼ばれた男が、攻撃を止めるわけがない――止める理由もない。


 だが、GTがその右手に取るのは、ブラックパンサーではなく胸元の赤い薔薇。

 そしてそれをフォロンに捧げるように掲げ持つと、そのままGTはその場に膝を折った。


 まるで、フォロンに対して臣下の礼オマージュを捧げるように。


「ハハハハハハハハハハハハハ……」


 フォロンは笑い出していた。

 自分の胸元に捧げられた、赤い薔薇を――自分の目の前に跪くGTを見て。


 こらえきれなかった。


 あれだけの邪魔をしてきた、憎き宿敵が自分の前で膝を屈している。


 これほどの愉悦があるだろうか。


 力尽くで、人を従わせる。


 これほどの快楽があろうか。


 のけぞり、さらに哄笑を響き渡らせるフォロン。


 それに連れて、周りの顔役達の中からも笑い出すものが現れた。


 GTが膝を屈した以上、勝者はフォロンだ。

 だから追従の笑いを。侮蔑の響きを。阿りの同調を。


 ここに“法の体現者”は選ばれたのだ。


 それが顔役達の笑い声によって、確かなものへと認証されようとしたその時――


 ――薔薇の花びらが散った。


 笑い声を引き裂くように響くのは一発の銃声。

 それも遥か遠くから響いてきたような、深い余韻を残して。


 顔役達の幾人かは、自分たちの足下に座り込んでいるリュミスを見いだした。


 そしてリュミスの覗くスコープに映るのは、舞い散る薔薇の花。


 リュミスの放った銃弾が、GTが捧げ持っていた薔薇の中心を貫いたのだ。


 GTが掲げる薔薇の花。


 それを撃ち抜くことこそが、GTとリュミスの始まり。


 忘れようもない。

 忘れるはずもない。


 それは、二人の間にだけ通じる絶対の合図。


「――この薔薇を撃て!」


 その合図通りに薔薇の花を散らした弾丸は――


 ――笑い続けるフォロンの心臓を貫いた。


◇◇◇ ◇  ◇   ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆


 確実な致命傷だ。

 何しろ心臓を破壊されたのだ。


 だが、フォロンは天国への階段EX-Tensionに留まり続けている。


「お、おお……おおおお……」


 ダメージエフェクトに包まれることもない。


「な、何? アガンと同じ?」


 見事、その役目を果たしたリュミスが立ち上がったGTに駆け寄る。


「いや、何かおかしい……」


 会心の策で、フォロンを倒したはずのGTの表情も優れない。

 顔役達も神妙な表情で見守る中、フォロンはかつて玉座があった場所にまで、よろよろと後退していった。


「……こ、これで、これで終わり? 終わりに……するものか、させるものか! わ、我が世界は決して終わることはないぃぃぃぃぃ!」


 絶叫。

 そしてフォロンの全身が黒く染まっていく。


<よくやった、フォロン。お前の怨念、確かに我が力の助けとなるぞ>


 突如、声が響く。

 そして皆が気付いたときには、フォロンの上に人影が浮かんでいた。


 道師服をきた、初老ほどの老人の姿。


 老人は黒いフォロンから立ち上る、妖気の様な黒い靄を吸収していた。

 フォロンの身体は、もはや黒い靄とほとんど同化しており、それは即ち――フォロンの魂を喰うに等しい行為だった。


「アーディ……」


 GTが呟く。


<では、“竜”が築きし、この世界を終わらせるとするか>


 フォロンを“吸収”しきったアーディが宣言する。

 そして、アーディの身体からずるりと日本刀が滑り出た。


 それは落下した瞬間、


 ゴーン……


 という、まるで鐘の音ような低い音を響かせる。


 ――それは終わりの始まりを告げる音でもあった。


--------------------------------


次回予告。


ついに表に出てきたアーディ。


その能力はもはや、誰の手にも負えるものではなかった。

しかも、GT達には接続時間の限界が迫っている。


そこに駆けつけるモノクル。それによって僅かながらの切断ダウンするための余裕を手に入れたGTはある決意を固め、それをリュミスに申し込むが……


次回、「うんめいに沿うように」に、接続ライズ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る