Aパート2 アイキャッチ

 フォロンは接続ライズした。


 通常であれば、そこは玉座があるだけの静寂の空間。

 だが、この場所は今、人が溢れていた。


 その多くはむくつけき――つまりは明らかに裏稼業の――男達。


 基本的にダブルのスーツに身を包んだいかにも暗黒街の顔役と言った風情。


 人種も様々。


 現実世界での縄張りシマも様々。


 共通しているのは――


「貴様達……」


 ほとんどが“篭”一派の顧客ということだった。


 今まで散々に面倒を見てきた連中が、この場に――神聖なこの場所に踏み込んでいるのだ。


 この場所を教えた者は誰もいない。

 それは間違いないはずだ。


 で、あるならば……


「RAは倒したぞ」


 顔役達が、その声に反応して一斉にスペースを空けた。

 フォロンからもそのスペースを見渡すことが出来る。


 そこにいたのは、まず蜂蜜色の豊かな髪を揺らした、妙齢の美女――リュミス。


 そして――


 ――真っ黒なスーツに、それと揃いのウェストコート。白リボンのボルサリーノ。


 ライトブルーのシャツにパールホワイトのネクタイ。


 そしてフラワーホールには真っ赤な薔薇――


「……GT」


 フォロンは短く呟いた。


「それで、ここにいる連中は不安になったのさ。お前に今もこの天国への階段EX-Tensionで、看板掲げるだけの“力”があるのかどうか」


 フォロンの言葉を無視するように、GTは説明を続けた。


「連中は法は利用するが信用はしない。信じるのはだ“力”だけだ」


 GTはボルサリーノを被りなおす。

 そして僅かにリュミスと目配せをかわして、


「俺達は、もちろん二人でやる。それが俺達の“力”だからだ。お前も仲間を呼べばいい――ただ、その“仲間”のほとんどは片付けたがな」


 もはや、GTはフォロンに戦うかどうかを尋ねもしなかった。


 戦わなければ、フォロンはこの天国への階段EX-Tensionにおいて、死と同じ状態になる。

 確実な死と、戦いによる未だ確定はしていない敗北。


「――力を示せ、フォロン。それがお前の生き残る唯一の道だ」


 忠告と共に、一歩前に出るGT。


 フォロンは、先ほどのシェブランとのやりとりを思い出していた。


 “力こそが法”


 それを体現したのが、復讐完遂者パーフェクト・リベンジャージョージ・譚。

 そしてその写し身であるGT。


 だが――


 それはあくまでも現実世界で為し得たことを基準にして定められた評価だ。


 フォロンは、そう考えて、突然の事態に戸惑っていた自分の心を整える。


 天国への階段EX-Tensionには、生半可な者ではたどり着けない場所があるのだ。

 まだ誰にも見せたことはないが、この状況下で出し惜しみをする理由はどこにもない。


 暗黒街の顔役達が作り出す闘技場リングの中で見せ物となるのも、この際、悪くはない。

 改めて力を見せつけてやる。


 “力”こそが“法”であるのならば、自分こそが“法”そのものだ。


 だが、そんなフォロンの心の中に確信に呼応するように、GTの挑発が重ねられた。


「好きにかかってきな。相手をしてやる」


 ギリッ……


 フォロンの奥歯が軋む。


 “法”である自分に対する、GTのこの不遜な態度。

 到底、許されるものではない。


 さらに言えば、シェブランにもキッチリと思い知らせる必要がある。


 天国への階段EX-Tensionの“法”に逆らった報いを――


 ――キンッ……


 左手を右手の袂に入れたフォロンは、そこからゆっくりと何かを引き抜いていった。


「刀……?」


 リュミスが思わず呟いたように、それは刀――日本刀だった。


 暗い部屋の中で、僅かな光を反射して真白に輝く、反り身の刀身。

 その長さはゆうに1メートルを超えており、規格外の大きさだった。


 とても袂に入る大きさではないが、ここは天国への階段EX-Tension


 それぐらいのことは出来るだろう。


 そうしてフォロンが抜ききった日本刀は、柄が白木。そして鍔のないシンプルな造形をしていた。


「……なるほど」

「ええ。銃弾を弾いていたのは、あれなのね」

「一応、素手で銃弾を弾く方法もあるんだが、いくつかは音が変だったからな」


 二人は過去の戦いを思い起こしながら確認する。

 これでフォロンの手の内は確認することが出来た、とそういう確認もある。


 フォロンは抜きはなった刀を横一文字に構えて、刀身の向こうでニヤリと笑った。


 フォロンもまた、天国への階段EX-Tensionのシステムの恩恵を受ける者。

 普通であれば、そんな構えが出来るような重さではないだろう。


「……銘はあるのか?」


 そんなフォロンにGTが尋ねる。

 ここまでもったいぶって引き抜いたからには、何かしら名前でも付けているか、あるいは実在の日本刀をモデルに作り出したのか、と考えたのだろう。


 フォロンはその問いかけに、悠然と応える。


「こんな長さの日本刀があるわけがない。銘もない。これはただ、貴様に罰を与えるだけの道具だ」

「……何だ、面白みのない」

「面白みなど――必要ない」


 フォロンがそう告げると、構えた日本刀が揺らめき始める。


 いや、それは日本刀が揺らめいたのではなかった。

 正確に言うならば、刀身から得体の知れない靄のようなものが立ち上っている。


「……おいおい」


 思わず、GTが独りごちる。

 靄は日本刀の切っ先に集まりはじめ、球状の塊を形成した。


 シィンッ!


 フォロンが日本刀を横一閃に振るう。

 その一閃で、妖しげな光を放つ靄の塊がGTへと迫った。


 ドゥンッ!


 ブラックパンサーが吠える。


 放たれた銃弾は狙い過たず靄の塊に叩き込まれた。


 だが靄はそれで散ることはなく、銃弾に当たったことなどお構いなしに、さらに突き進んでくる。


 もはや驚いている暇もない。


 GTはリュミスを抱えると、靄を避けるべく跳躍した。


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