Aパート2 アイキャッチ

 なんだかんだ言っても、今までクーンが使用してきた武器は“対人用”である。

 が、今回用意した兵器は、基本的に“対兵装用”だ。


 宇宙船の外装に使われる硬質の金属で、完全被甲フルメタルジャケットされた弾丸はブラックパンサーの威力を持ってしても、弾くことが出来ない。


 もちろん避けてしまえば問題ないのだが、それだけではジリ貧だ。

 攻撃に転じるための一瞬の空白が欲しいときに、強引な手段に打って出ることが出来ないというのは、GTの精神衛生上よろしくない。


 右、左、右、右。


 上半身を傾けて、銃弾を見切る。

 正面からの攻撃だけならば問題ないのだが、次は背後からの銃弾をかわさなければならない。


 跳んでしまえば簡単なのだが、銃弾をブラックパンサーで処理できない以上、跳んでしまうのも迂闊すぎる。

 ランチャーから排出されたミサイル二基は、とりあえず弾頭を撃ち抜いて無力化し、残りの背後と左右からの弾丸は、ダッキングして同時にかわした。


 珍しく、GTが完全に受け身状態だ。

 その間に、五台のバイクはGTの周りをグルグル回り始める。


 それを甘んじて受けるGTではない。


 ボルサリーノを押さえて、全力でその輪の内側から抜け出そうとする。

 すると、バイクは円運動からGTに併走する形に移行して、途切れることなく銃弾を浴びせかけてきた。


 狙いが甘いせいか、その全てに対処しなければならないということでもないが、そこに惜しみなくミサイルが注ぎ込まれるから、非常に厄介だ。


「あいつのケチは何処に行ったんだ!?」


 思わず毒づくGTに、


『やあ苦戦してますね』


 胸元の薔薇が反応した。

 言い返したい。


 が、それより先にGTの身体が宙に舞った。

 禁じ手のはずの行為を行ったのは――


 ――キュン。


 銃声とは違う音が響く。

 突然にGTが立っていた場所が焼け焦げた。


『レーザー! いや、メーザーかな? 本当に惜しみなく金をつぎ込んできてますね!!』

「また連合お前らの横流しか!」

『いや、マニアのハンドメイドでしょう』


 と、それに対する文句を並べている場合ではない。

 GTのジャンプは見切られていたようで、今まで以上の銃弾とミサイルが襲いかかってくる。


「く……!」


 右手にブラックパンサー。

 左手にP-999。


 もう、格好を付けて「二丁拳銃はイヤだ」などといっている場合ではない。

 P-999でミサイルを先に爆発させて、その爆風で銃弾の軌道を微妙でも良いからそらす。


 ブラックパンサーでそれでも向かってくる銃弾を迎撃し、そうやってできた“ズレ”に身体を滑り込ませ、最終的には銃弾の一つを下から蹴飛ばし、落下速度を速めた。


 地面に足が付いていないと、危なくて仕方がない。

 だが、クーン達もこの一瞬に力を注ぎ込みすぎたのか、さらなる追撃がGTに向けられない。


 つまりは、ここで初めてGTは攻撃のターンを迎えることが出来た。

 まず、潰すべきはレーザーだか、メーザーだか。


 明らかに形状に違う武装を探し、ブラックパンサーを叩き込む。

 そのついでにP-999をクーンの乗る一際大きなバイクのキャノピーに向けた。


 その結果は両方とも同じだった。


 ズチュ。


 何とも妙な音がして、銃弾が絡め取られてしまう。


『あ、あの技術あれ連合ウチですね』

「じゃあ、もう黙ってろ」


 GTの右足がようやく地面に接した。

 その瞬間に、GTの姿がかき消える。


 もう残像も残さない。


 そして次に現れたのは、先ほど銃弾が通じなかった妙な兵器――レーザー(仮)の傍ら。


 GTは拳銃をしまうと、その砲身部分を抱える。

 そしてそのまま、グイッとねじ曲げてしまった。


「おまえーーー!」


 先頭車両のキャノピーが開いて、クーンが身を乗り出してきた。

 そしてGTに向かって叫ぶ。


「お前! それは何というか反則だろう!」

「るせー! 俺は規則ルールなんて大嫌いだ!」


 即座に言い返すGT。

 もちろん、クーンも黙ってはいない。


「反抗期のガキかテメーは!! それいくらしたと思ってやがる!!」

「壊れて欲しくないもの戦いに持ちだしてんじゃねーよ!」


 チュン!


 クーンの防塵ゴーグルが突然跳ねとばされた。


「…………え?」


 脂汗を流し真っ青になるクーン。


『リュミスさんの、狙撃にも磨きがかかってきましたね。まさかあのライフルで、あんな器用な真似が出来るなんて』

「ハッハッハ! お前調子に乗りすぎなんだよ!」


 ズチュ!


 再び音が響いた。

 今度はGTの足下から。


『ああ~、これは怒ってますね』

「てめぇ、リュミス!」


 GTがブラックパンサーを崖の上にいるはずのリュミスへと向けた。

 しかし、何処にも気配が感じられない。


「あンのヤロー!!」


 ドドドドドドドドゥンッ!


 ブラックパンサーを連続でリュミスがいると思われる地点に叩き込むGT。


『残念、まったく見当違いですね』

「モノクル、てめぇ、どっちの味方だ!?」

「俺達を無視すんじゃねぇ!!」


 立ち直ったクーンが、実にもっともな訴えを叫ぶが、それはただ単にGTにストレスのはけ口を提供したに過ぎなかった。

 GTは、レーザー(仮)の本体部分をそのまま抱え込むと、基部から引っこ抜いてしまう。


「アアアアアアアアアアッ!」


 まったく衰えることのない声量でクーンが絶叫するがGTは構わずに、基部が抜けた穴に足を突っ込むとグリグリとかき回し始める。


 そんなことをされて、本体が無事で済むはずもない。


 レーザー(仮)を発射するためなのか、他の武装がまったく付いていないのがまた災いした。

 この機体には、GTを振り払う術がない。


 そのままGTに蹂躙され続けるしかない状況だ。


 さらにグリグリされると、一応自立を保っているが、前輪と後輪がバラバラに動き始めて、いきなりキャノピーが開放されてたりもする。

 パイロットは――眼鏡の小男。


 GTは名前を知らないがタナカである。

 ここで撃ち殺せば簡単だが、果たしてこいつを今ここで殺して良いものかどうか。


 しかし――


 ――クーンの性格なら、今の自分を狙わないはずはないと思うのだが。


 GTの頭の中の冷めた部分が囁く。

 そしてそれは、数瞬遅れで現実となった。


 ギュララララララララララララララララララララララ!!


 残り四台に設置されたバルカン砲が回転し、対人用ではない銃弾がGTへと降り注ぐ。

 そしてバルカン砲を稼働させたまま、動作のおかしくなった機体を中心に回り始めた。


 このままでいれば、また的になるだけだ。


 今までのGTの回避パターンからすれば、下の機体を踏みつぶしながらジャンプ――となるはずだが、GTはそのまま飛び降りた。

 そしてそのまま、まともに動くことも出来ずにフラフラする機体に同調して動く。


 ドンッ!


 ブラックパンサーが火を噴いて、手近にあった機体のタイヤに銃弾を叩き込む。

 だが銃弾は空しく吸い込まれるだけだった。


『当たり前にチューブレスですね』

「一応だ、一応」


 バルカン砲からは果断無く攻撃を向けられているが、この機体のよくわからない装甲のおかげで、やっと攻撃する余裕が出来てきた。


『なんだかセコい様な気もしますが』

「これは、クーンのミスじゃないか? いつも通りに」


 ギュン!


 GTがフラフラの機体の下から、飛び出した。

 そのままジグザグに走り抜け、一番奥に見えていた機体の懐に飛び込む。


 連合から漏れた機密を流用しての装甲によほど自信があるのか、クーン達の攻撃の手が緩むことはない。

 ただ、ミサイルは飛んでこなくなった。


 その理由は――


「ミサイルはやばいのか?」

『単純に、ミサイルを撃ち尽くしたんじゃないんですかね?』

「そういえば、そんな奴だった!」


 言い捨てて、ジャンプ。

 そのまま近寄ってきた機体の上に飛び乗る。


 そこで留まることなく、機体の上を駆けて、まずはミサイルランチャーを覗き込む。


「ないな」

『ないですね』


 ギュララララララッ!


 いきなり標的の高さが変わったために、追いついていなかった他の機体のバルカン砲がようやくGTに狙いを定め終えたようだ。

 GTはランチャーを蹴り飛ばして破壊すると、その勢いでこの機体に付いているもう一つの武装――バルカン砲へと向かう。


 こちらのバルカン砲は、目標が近すぎて狙いを付けられないのはわかっている。


 チュン!


 リュミスからの援護が来た。

 こちらに狙いを定めていたバルカン砲の一基が、カラカラと空回りをしている。


 これで余裕が出来たGTは、今度は迷うことなくバルカン砲の基部を、思いっ切り蹴飛ばした。


 グベシャッ!


 嫌な音が響き、バルカン砲が無力化された。


「この方法で、時間稼ぐしかねぇなぁ」

『とはいっても、まだ一時間も経ってませんよ。このペースで破壊されたらクーンさんは……』

「俺をひき殺しに来るんだろうなぁ」


 他に攻撃手段が思いつかない。


 ――だが、それは間違いだった。


 二人は見誤っていたのである。

 クーンの馬鹿さ加減というものを。


◇◇◆ ◆◆◇ ◆◇◆◇◆ ◆◇◆ ◇◆◇

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