Bパート2 ED Cパート 次回予告

 こうして両チームの決意も新たに始まった後半。

 まず、試合を動かしたのはリュミスチームだった。


 戦術の変更、という表現が一番しっくり来る説明であろうが、それがまた無茶苦茶であった。

 適当に散ったリュミスチーム選手達が、とりあえず空へとボールを蹴る。


 技術も何もないから、そのボールは実にへろへろで、落下地点にはクーン達が詰め寄ってしまう。


 ドゥンッ!


 そこで響くのがブラックパンサーの銃声。


 もちろんその銃弾を当てたりはしない。

 当てればボールが消失するからだ。


 だが、その銃弾がもたらすものは単純な破壊力だけでなく衝撃波も伴っていた。

 ボールに当てない、ギリギリのところを狙うことでGTはへろへろ玉に指向性を与えたのだ。


 そのボールが落ちる先には、すっかりとマークが緩んだ別のリュミスチームが。

 選手は再び空へとボールを蹴飛ばし、再びGTがそれを修正する。


 そしてゴール前に、ボールは落とされ、


「行けええええええ!」


 と、馬鹿力だけは保有しているリュミスがボレーでゴールの蹴り込もうとするが――


 ――ボールはあらぬ方向に勢いよく飛んでいった。


「何やってるのよ!」

「せっかくのチャンスだったのに!」

「リュミスさん、見損ないました……」


 まさに非難囂々。


 一方で、


「凄いなGT」

「それで前半は試し撃ちをしていたのか」

「頼りにしてます」


 いきなりの高評価。


 この厳然とした格差社会に、リュミスの肩は震える。


 もちろん、このGTの所行に対して指をくわえてみているクーンではない。

 即座にバーナードに抗議したが、銃弾=手であっても、直接触れていないことは明白なのである。


 が、実際にボールに不自然な動きを与えている。

 そんな中、突然薔薇が叫んだ。


『これは新しい競技の可能性ですよ!』


 その言葉にバーナードは大きくうなずき、


「先ほどのプレーは有効。ゴールキックから試合再開」

「おいぃぃぃぃぃぃ!」


 と、クーンは全力で突っ込むが、熱に浮かされたバーナードにはそれも通じない。

 しばらくはクーンもごねていたが、イザークの判断で即座に試合が再開された。


 サッカーには試合時間というものがあるのだ。


 リュミスチームの守備は相変わらずザルのままなので、簡単にゴール前までは運んでいける。


 だが、GTも学習していた。

 ペナルティエリアに入ったら、ボールを即座に迎撃することに決めたらしい。


 時折、そのエリア外でボールを迎撃して、フリーキックを与えることになったが、むしろその方がGTにはやりやすいぐらいだろう。

 なにしろ、クーンチームも下手にペナルティエリア内にボールを入れられないものだから、ロングシュートが多用されており、そんなものはGTにとってフリーキックと同じく七面鳥撃ちターキー・ショットである。


 そしてゴールキックから、再び浮き球を連鎖され、最後にリュミスが外す。

 この繰り返しで、ボールが行ったり来たりする展開がしばらく続いたが、イザークがあるタイミングで勝機を見いだした。


「――フリーキックです。そこにチャンスがあります」

「フリーキック? じゃあ、まずはあいつにエリア外のボールを撃たせないとな」


 もはや、作戦についての是非は聞かない。

 そして、驚くほど簡単にGTは挑発に乗った。


 クーンチームはフリーキックを得る。


 セオリーであれば、ここでリュミスチームが壁を作るところであるが、もちろんそんなことは行われない。

 だが、この局面で逆に壁を作ったのはクーンチームだった。


「む……」


 GTが僅かに呻き声を漏らす。


 ボールが完全にブラインドになっていて見えないのだ。今までもそういう小細工を仕掛けてくることはあったのだが、今回は完全に見えない。

 しかし、GTは一瞬でもボールが見えれば迎撃できる。


 ピーーーーーーッ!


 リスタートを合図する笛の音が響く。


 蹴った――音はする。


 それと同時に、壁が散った。


 が、それでGTのボールまでの視界が通ったわけではない。GTの位置からはボールが確認できない。

 そして、もう一度響くのは、ボールを蹴り飛ばした音。


 人が割れる。


 突っ込んでくるのは、アガン。

 だが、その足下にボールはない。


 すでに抜き放たれていたブラックパンサーの銃口が迷う。

 実はここまでの展開は、イザークの目論見通りだった。


 イザークは、GTのルールへの無知を正確に見積もっていた。

 ペナルティエリアの中の、もう一つの小さな四角。


 そのエリアの意味を、GTは知らない。


 だから身体ごと相手、つまり選手が突っ込んできた時にも、身体的接触を避けようとする。その四角の中では、圧倒的な優越権がゴールキーパーには認められているというのに、そのルールを知らなければ相手を身体で弾き飛ばすという発想には至らないだろう。


 もちろん、相手選手を銃で撃つ選択肢は最初から無い。

 いかなGTでも、これでは手詰まりだ。


 そうやってGTの動きを封じ込めておいて、クーンが十分に加速したアガンの背中目がけてボールを蹴る。

 そしてシュートが決まる瞬間まで、アガンによってGTの視線からボールを隠す。


 超人的な身体能力を持つ者がいるからこその作戦だ。


 アガンにはそこから先をアドリブでボールの速度とシンクロしなければならないわけだが、そこは頑張って貰う。

 それに一度失敗したところで、この作戦全てが否定されるわけではない。


 何度も繰り返しても良いのだ。


 GTが現状を打破するためには、なんとしてもボールまでの視界を通さないといけないわけだが、それをするための一番の安易な方法――ジャンプは足場の問題があって使えない。


(勝った)


 という心の呟きは、クーン陣営の胸の内に共通するところだろう。


 だがGTは諦めてはいなかった。

 まず左手でゴールポストを掴む。

 そのまま身体を揺すると、その反動で宙へと舞った。


「な!?」


 誰かが驚愕の声を出す。

 さほどの高さを稼げたわけではないが、アガンの背後のボールを確認するには十分な高さだった。


 ドゥンッ!


 ブラックパンサーが火を噴いた。

 もちろん射線は通っている。


 ボールは一瞬で消失。


 そして決められたとおりの手順で、次のプレーはゴールキックで再開とバーナードの指示が飛ぶ。


 だがこの失敗でクーン陣営の心が折れたわけではない。

 何しろゴールキックの前にバーナードから、ゴールポストに触れてはいけないと、GTが警告を受けたのだから。


「え? これもダメなのか?」


 と、驚くGTは確かにルールには疎いのだろう。


 今回は失敗したが次こそは――そんなGTの様子を見て未だクーン陣営は内心ほくそ笑んだ。

 何しろリュミスチームは点が取れないのだから。


 ポストを使うことを禁止されたGTからなら、間違いなく点は取れる、という希望を抱き続けることが出来る。


 そんな中、再びホイッスルが鳴り、試合が再開された。

 GTはヒョイとボールを蹴飛ばすが、さすがに馬鹿力で反対側のゴールラインを越えそうな程の勢いで飛んでいく。


 ドゥンッ!


 そこに銃撃。

 衝撃波で弾き飛ばされたボールがゴール前に落ちる。


 だが、クーン陣営は慌てない。

 そこから、シュートにまで持って行ける人材がリュミスチームにはないのだから。


 ――だが、


 空にリュミスが舞っていた。

 そのまま空中で宙返りすると、とんでもない角度から直下への一撃。


 ボールは地面に叩きつけられ、V字の軌跡を描いてゴールネットを揺らした。


                 ~・~


 事実上、この一点が決勝点となった。

 このあともリュミスチームは同じ手順を繰り返しもう一点追加し、GTも先ほどの失敗に懲りて足下の芝生だけは踏み固めておいたのでイザークの作戦も通じなくなった。


 もっとも、最後までキーパーに肉体的接触を行うことが反則になるエリアがあるということは理解しなかったようではあるが。


 ピピーーーッ!!


 そして試合終了の笛が吹かれ、リュミスチームの勝ちが決定する。


 膝を落とす、クーン陣営。

 歓喜に湧く、リュミス陣営。


 この部分だけを切り取ってみると、まともな試合が行われたように見えるから不思議だ。


 GTは、やっと終わったと言わんばかりにゴールマウスから離れ、逃げだそうとしているクーンに近づこうとするが、クーンは怒りのあまり周囲に怒鳴り散らしており切断ダウンして逃げるという当たり前の対処を忘れているらしい。


「クーンも、たいがい馬鹿よね」

「ああ」


 背後から声をかけてきたリュミスに、GTは振り向くことなく応じる。


「ウチのチームも馬鹿ばっかりだけど」

「どうしたんだ?」


「私が足場を固めていることを気付かせないために、わざとみんなが悪口言うくだりがあったでしょ。それが行き過ぎだって文句言ってきたのよ」

「たしかにあれは、酷かった」

「……どっちが?」


 リュミスのプレイについてなのか、周囲のヤジについてなのか。

 だが、GTはそれに答えることなくクーンへと近づいていく。


「でもまぁ、楽しかった」

「それは良かった」


 まったく気持ちの籠もっていない合いの手を入れるGT。

 だが、リュミスの次の言葉はGTの足を止めた。


「――私、思うんだけど天国への階段EX-Tensionはやっぱり危険な場所だとは思えない」


 振り返るGTをリュミスは真正面から見据えた。


「危険にしてるのは、全部あいつらのせいだわ。あいつらを排除したあとに危険な目に遭うのなら、それは自己責任だから覚悟も決まる。だけど、自分たちで危険を持ち込んでおいて、それを危険だと言うのは何か間違っている」

「…………」

「私はやっぱり天国への階段EX-Tensionが好き。ここは行き場を無くした私を迎え入れてくれた場所。私はこの場所を守りたい――だから……」


 それ以上のことを口に出して良いものか、リュミスは迷う。


 友人であれば。


 あるいは恋人であれば、素直に頼る言葉が口に出せていたのかも知れない。


 だが、今の自分とGTの関係は――


 言い淀むリュミスを、GTはしばらく無言のまま見つめていたが、やがてボルサリーノを脱ぐ。

 そして、それを胸元に当ててリュミスに一礼すると、こう告げた。


「“恩人”のたっての頼みであるというなら――俺も協力させて貰おう」


 GTはニヤリと笑った。


「要はあいつらまとめて叩き出せば良いんだろ? 結局やること変わらないしな」

「お、恩人とかそういうのは……」


 リュミスはさすがに戸惑うが、そこにフォローを入れたのはまさかのモノクルだった。


『良いんですよリュミスさん。さすがのクリティカルです。まさか、これほどピンポイントで……』

「これ以上口を開いたら、まずお前から殺すぞモノクル」

『はいはい。黙りましょう。ただこれだけは――リュミスさん』

「は、はい!」


 名前を呼ばれただけで、リュミスは調子外れの声を上げてしまった。


『今の話であなたが気に病むことは何一つありません。堂々としていてください』

「ま、それはそうだな」


 二人がかりの同意に、リュミスとしてもそれ以上何も言えなくなってしまう。


『さぁ、それよりもメインイベントです。クーンさんにインタビューですよ』

「そうだった。これを楽しみに待ってたんだ」


 そして、GTは嬉々としてクーンへと駆け寄っていった。

 まったく相変わらずの人でなし振りだ。


 ――たとえその背中が頼もしく見えていたとしても。


◇◇◇ ◇  ◇   ◆◆◆◆◆◆◆ ◇◇ ◆


「ボス、一体どんな賭けをしたんです?」

「だ、大丈夫。いきなり致命的な結果が出るような賭けじゃねぇ」


 イザークの問いに、クーンが胸を張って答える。

 ちなみにアガンはとうの昔に切断ダウンしてしまったらしく、この場にはいない。


『こちらの不備がありましたからね。それほど強いことも言い出せません。一回だけ、こちらのアンケートに答えて貰うようにお願いしました。それも否か応かで答えられる単純な質問に対してのみで、そちらにとって致命的な質問である場合は、拒否もOKという、こちらにとってはかろうじてねじ込めたぐらいの内容です』

「……まぁ、それなら」


 イザークもしぶしぶ了承した。

 その隙を逃さすに、モノクルが告げる。


『クーンさん。月読、ギーヴ、ジャガーノート、カイラニア。この四つの惑星の中であなたの本拠地があるのは、ずばりギーヴである』

「ブッブー! 外れだ馬鹿野郎」


 モノクルの予想が外れていたことで、反射的に勝ち誇って答えてしまうクーン。

 そして、気付いた四つの惑星の位置関係に。


「あ……」


 思わず周りを見回すと、唯一状況を察したらしいイザークが青い顔をしていた。

 自分もそんな顔になっているに違いないと思いつつ、クーンは思わずGTの胸元の薔薇を見つめる。


「ありがとうございます。おかげで最後の一手が打てそうです」


 だが、そのモノクルの声は薔薇から紡ぎ出されることはなかった。

 かなり遠くからその声は聞こえてくる。


 フィールドの端に、本当に片眼鏡モノクルを身につけた一人の男が立っている。

 グレーのスーツ姿で、その表情には笑みが張り付いていた。


「近々この姿の男が尋ねていくと思いますので、お出迎えの準備をよろしくお願いしますよ」


 そう言うと、男は人でなしの笑みを浮かべた。


-----------------------------


次回予告。


GT。


あの男だけは、どうやっても俺が倒す。


追い込まれたクーンは、非情の決意を固めとっておきのを解放する。

GTとリュミスもそれに付き合うが、彼らは見誤っていた。


クーンの覚悟と狂気の量を。


次回、「ガルガンチュアファミリー散華」に、接続ライズ

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