第43話 ヤケ酒

 

朝9時 私は、再び しんに平手打ちした事を玄関先でバカ丁寧に謝罪したのち家を出た。


通勤通学ラッシュはみな終えたらしく、人

通りも少ない。私は呆然とする。しんの家に泊まる事は事前にボスに連絡しといたので 

心配はかけてないはず。


しかしまぁ、昨日のやらかしぶりを見ると

相当自分は過去に囚われすぎていたのだろう

ボスの言ったとおりだ。


『トラウマは消えないです。自分は忘れてると思っていても脳は必ず覚えているんです。何年経っても』

そう私に告げたあの日を今でも忘れない。


「何もかも忘れられる機械があれば辛い思いをしなくて済むんですけどね」

独り言を呟きながらフラフラと歩く


____

無事に帰宅すると、まだ家全体が薄暗くボスが起きている雰囲気は玄関ホールからは察知

できなかった。とりあえず静かにドアを閉め2階の寝室に向かう事にした。

ギシギシと階段を上る音がやたら響く

  

部屋に着いたので、あまり五月蝿くならない程度の少し小さめのノックをする。

コンコンッ

「ボス、おはようございます。ただいま帰宅致しました」

そう挨拶をしドアを開けると、そこには机に

頭からぶっ潰してそれなりに大きいイビキを

かいているボスの姿があった。

「グガァー……ブゥ…」


(ちゃんと毛布はかけてあるけど、それでも

体温は奪われるものでしょう)

トントン

「ボス起きてください」

優しく肩を叩くと、ゆっくりまぶたが

開かれる。

「ん…あぁ?フレ…デリック?おはよ…」

「おはようございます。ただいま9時半です随分お酒を呑まれたみたいですね」


部屋を開けた瞬間にお酒の匂いがして、予想通り机の上には空になったアサヒビールが何本も無造作に置いてあった。


「お〜もうそんな時間かぁ」

そう言ってゆっくりと立ち上がるボス


「珍しいですね、お酒」

「すまない。久しく呑んでいなかったから

たまにはと思ってな。おかげでハメを外してしまった」

「誰でもそういう時はあります。今水を

持ってきますね」

「あ、ありがとう」


私は淡々と下に降り、キッチンに向かい

コップに水を注ぐ。溢れないよう慎重に

持っていく。


「はい、どうぞ」

「助かる。…ん、ぷはぁ。ありがとう」

「いえ どういたしまして」

「あぁ そういや、しんに泊まってって言われたんだったな」

ふと、ボスは昨日のメールの事を口にする。


「ええ。サイゼリアでお話をしていたら

すっかり時間を忘れてしまって。新年を無事に迎えられたというのに私ったら…」

「まぁ、そういう時もある」

先程の仕返しとばかりに同じ事を言うボス


「むぅ〜。だって真夜中にダダこねだしたんですよ!なんで帰るのぉ〜って。近所迷惑ったらありゃしない」

「ふははは!しんらしいなぁ」

「笑いごとじゃありませんってば。ホントに困ったんですから」


「まあまぁ。なんだかんだ言って一緒に寝てやったんだろう?優しいフレデリックは」 

「そりゃあ あんなに騒がれたら泊まるしか

ないじゃないですか」

「ふっ、変わらず心配性だな」

「あんまり一緒に居てあげれたことなんて

なかったですから。その罪滅ぼしです」

「そうか」



「はい。所でボス。しんに話したんですね

私の幼少期の頃の…アレ」

「!!聞いてしまったのか」

「えぇ、お母さんとのツーショット写真を

隣の部屋から見つけてきたらしく。それで

色々述べてくれました」


そろそろと思い、私はボスに本題をつきだす


「なんでしんの家からフレデリックとお母

さんの写真が見つかるんだ?」

「前に3人で暮らし始めるって決めた時に

他の荷物と一緒に入れといたんですよ。見事にこちらに引っ越しする際持ってくるのを忘れてしまいまして」


「それでか」

「はい。危うく しんに私のお母さんの今がバレる所でしたよ」

「あぁ、アレか。俺 全然フレデリック母に会ってねぇわ」

「3人で少しだけ一緒に過ごしましたね」

「そうだな。となると7年前から会ってねぇのか?俺ら」

「恐らくそうだと思われます」

「なんだか記憶が曖昧になってくるな

歳のせいか?」

「お酒の呑みすぎではないのですか?」

「あはは、そうかもな」



そうボスとの雑談を交えながら私は

元教師の

詐欺師を思い浮かべていた。

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