第42話 トラウマ


早めの朝ごはんを終えたので、しんの椅子に座りゲーテのファウストを読んでいた。

当の本人は「ちょっと物取ってくる」と

言って隣の部屋に行ってしまった。


ペラ

「………」

ペラ

「……ふぅん?……」

静かに物語にのめり込んでいると、ドアを

閉める音がした。しんが戻ってくるような

ので、しおりを挟み本を閉じる。


ガチャ


「お待たせ」

「何を持ってきたんですか?」

片手には木で出来た額縁の様なものを持ち

こちらを見るしん。

「これフレデリックたそだよね!カップ麺の在庫確認してたら見つけたんだ〜。本棚の空いてる箇所に飾ってあったよ」


そうニヤニヤしながら額縁を渡してくる

「…!!」

「ちょっとホコリかぶってたからティッシュで拭き取ってあげたよ」

「あ、ありがとうございます…」

「フレデリックたそ、お母さんに似てる。

髪色とか鼻筋あたり。目元も似てるね」


しんが渡してきたのは、幼少期の自分と

母親が写った唯一のツーショットだった。

名は『ハーパー・サイデリカ』

元教師でとても良い先生だったらしく、他の学校の生徒や先生から凄く慕われていると

いう話をよく耳にした。


7年前に退職して、現在は私と同じ詐欺師

として秘密裏に世界各国を股にかけている

今何処で騙しているのか?それはちょっと

だけ しんに関係していて、でも流石に本人に言える内容ではないのだ。


私は、すっとぼけて違うことを言う。

「懐かしい。これ、家の近くの公園で

撮った写真ですね」

「そうなんだ!」

「ええ、よくお外で遊んだものです」

「活発な子だったんだね〜」

「まぁ幼少期は誰でも無邪気な子ばかりなのでね。私が特別ってわけではありません」

「そっか」


「………」 

ブルッ

「ん、どうしたの?寒い?」

「いえ、ちょっと嫌な事を思い出しまして」

(幼少期……うぅ、強姦されたのが頭に…)

「フレデリックたそ大丈夫?横になった方がいいんじゃない?一旦ベッドに座ろう」

「うぁ……いやあの、大丈夫、です…から」

「でも、震えてるし」

そうしんは ほんの少し肩に触れようとしただけなのに

ビクッ

「い、嫌!近づかないで!!!!」

「ご、ごめ…」 

パァン!

「だから来ないでってばぁ!!」

「ぃっ!?!?」 

(え、僕いまビンタされたの???)

平手打ちをお見舞いしてしまった。


「あっ…あ、ご、ごめんなさい しん!!

いた、痛かったよね?あぁ…どうしよう」

「ん〜少し痛いけど大丈夫だよ。

成人男性にぶたれるより全然へーき」

「そうはいっても、腫れてきてます。今

氷を持ってきますね!」

「あ、いや」

ダッ バタン

「行っちゃった」

___

「ごめんなさい」

「いや、いいんだって。大丈夫だよ」

(自分勝手に嫌な事を思い出して、勝手に

しんをあの人と重ねてビンタするなんて…

私最低だ)

「無理もないよ。フラッシュバックしたんでしょ?ボスのお父さんのこと」

ふとしんがそう呟く。

「しって…いたの?」

「うん。だいぶ昔のことだけどボスが教えてくれたんだ。俺の親父がフレデリックを強姦

したんだ。俺は一生をかけてフレデリックを野蛮なゴミ共から近づけさせない為に生きるってさ」


「ボスがそんな事を…」

「うん。だから最初僕を組織に入れた時は 凄い警戒されてね。ほら、僕の両親を殺してくれた日は明るく歓迎してくれてたけど

実はそんなことないくらい嫉妬しててさ」

「嫉妬」

「5つしか歳違わないからかな。ボスは全然僕らと年代違うから余計にあれだった」

「あれ」

「最初は怯えてたけど、次第に明るくなってきたしんがチョッパやってフレデリックを

襲ったりしないかとか考えてた。多分ボスはそう思って早めに対策を打っといた」


 

しんはつらつらと私が知らない

過去話を述べる


「だから私がボスのお父さんに強姦された事を釘として しんに話した」

「そ!そうしとけば僕はフレデリックたそに何もしない、むしろ守らなきゃと自然に頭にすり込むようになる」


「なるほど。さすがボスです」

「うん。だから知ってるの、全部」

「納得いきました。そういうことだったん

ですね」

「いえっす!」

「ふふ、なら…これからも野蛮なゴミ共から私を守って下さいね?愛しの王子さま♡」


ブワァッ

「なっ、どっどうしたの!そ、そんな…い、愛しの おっ王子さまだなんて!」

「たまには飴も必要かと思っただけです。

勘違いしないでください///」

「ふぁー、可愛いすぎるぅ!!」


「もぅ…すぐ調子に乗るんだからぁ」

段々恥ずかしくなって逃げるように本を

開いた。














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