八.
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
ある夏の日のこと、おじいさんは裏山に魚釣りに行きました。
けれどもその日は、いくら待っても待っても、小魚いっぴきとしてかかりません。
陽も傾きかけて、おじいさんがあきらめて帰ろうかと思った、そのとき。
竿に引きが来ました。
それ来た、とばかりに引き上げてみると、うなぎの頭が草の間から顔を現したのです。
おじいさんはこれを見てよろこびました。
おじいさんも、おばあさんも、ふたりともうなぎが大好物だったからです。
おじいさんはさっそく、うなぎの首のあたりを掴んでビクに入れようとしました。
ビクというのは、魚を入れる竹という植物で編んだカゴのことです。
ところが。
引っ張っても引っ張っても、うなぎの尻尾がちっとも見えてこないのです。
それでもかまわず、おじいさんはうなぎをビクに入れ続けました。
しかし、ビクがいっぱいになっても、まだまだうなぎの体は草むらの中に続いています。
今度はおじいさんは、そのうなぎを自分の腕に巻きつけはじめました。
ぐるぐるぐるぐる、何周も巻きつけて、それでもなお、うなぎの尻尾は見えてきません。
辺りは暗くなってくるし、仕方がないのでおじいさんはそのまま裏山からおり、持てないぶんのうなぎは地面に引きずりながら、家まで帰りました。
おばあさんはそれを見てびっくりしましたが、とりあえずその晩は、そのうなぎからふつうのうなぎ二匹ぶんくらいの長さを切り取って、ふたりで、おなかいっぱいうなぎを食べて、満足してぐっすり眠りました。
さて、次の日になって、おじいさんはふたたび裏山まで行ってみました。
続く道のあいだじゅうずっと、昨日自分が引きずってきたうなぎが黒光りして横たわっています。
ときおりその一部がぴくん、と跳ねあがったりして、活きはまだいいようでした。
裏山について、見てみても、うなぎの体はまだ草むらの中のどこかにつながっている様子です。
そこでおじいさんは、草むらをかきわけかきわけ、うなぎをたどってみることにしました。
けれども、どこまで行っても、やはり終わりにたどりつけません。
それほど長い長いうなぎだったのです。
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