第54話 次の捜索場所
「あそこ?」
「ほらっ、キャンプ場だよ! 遠くてまだ探しに行ってなかったでしょ?」
岡本の疑問に、佐原さんが答える。
キャンプ場……。
シーツに沁み込んだ病院独特のにおいを感じつつ、思考をめぐらせる。
そういえば、前に夏生とキャンプ場について話したことあったっけな。夏生のおかげで調子が良くて、外泊許可が下りそうで、岡本も賛成してくれて……。
――何か嫌なことがあって行きたくないとかあるんだったら、言ってくれよ
俺の言葉が、不意に頭の中に蘇る。
あ、そうだ。あの時、なぜか夏生は複雑な、切なそうな表情をしていた。場所が示ヶ丘だとわかるまでは、楽しみにしていたキャンプが叶いそうで明るく笑っていたのに。
記憶の断片を手繰り寄せて、俺は必死に思い出そうとする。
――嫌なこととかは全然ないよ! むしろいい思い出があるくらい!
でも、彼女はすぐにいつものように笑って、確かにそう言っていた。いい思い出があるから、大丈夫だって…………あれ? いい思い出?
「それだ!」
俺は叫びながら飛び起きた。びっくりしたように目を見開いた二人の顔が視界に入ったが、俺は構わずに続けた。
「前に、夏生が示ヶ丘のキャンプ場にはいい思い出があるって言ってたんだ。ってことは、夏生は以前、俺たちと会う前にそこに行ったことがあるはず。しかも、夏生は夏の間、涼しい森の中とか洞窟とかで過ごしていたって会ってすぐの頃に言ってたから、もしかしたら住んでいた可能性もある。なら、今いる確率はかなり高い!」
病院のにおいをこれでもかと吸い込んで辿り着いた推理を、俺は一息に話した。目を丸くして俺を見つめる岡本と佐原さん。そんな二人の様子に、俺はハッと我に返った。
「あ、いや……急に思いついたもんだから、つい……」
「いや! よく思い出したな、霜谷! ってかもっと早く思い出せよ!」
ちょっと後悔しかけた俺の言い訳をよそに、岡本は俺の背中をベシッとたたいた。思いのほか強く、肌にジーンと感触が残った。
「いってーな。力強すぎるんだよ」
「わるいわるい。でも、お前が言ってたことは十分可能性があるよ。今度許可取って行ってみよう」
なぁ、奈々? と岡本は隣に座っている佐原さんに目を向けた。佐原さんも納得しているようで、「きっと夏生ちゃんはそこにいるよ!」と目を輝かせている。
きっと、もうすぐ会える。
二人の意気揚々としたやり取り見ていると、不思議とそう思えた。そして、そう感じたのは今日だけじゃない。
岡本に諭されてから数日後、俺は二人に夏生とのことを全て話した。夏生との出会いから彼女の正体、俺たち二人の契約など、必要だと思ったことは全て。
それから、どんな言葉が二人の口から飛び出して来るのかと身構えていたが、それは何ともあっさりしたものだった。
――話してくれてありがとう! なんかホッとしちゃった!
――俺もホッとした! これで俺たち四人、もっと仲良くなれるな!
そんな言葉を、二人は満面の笑顔とともに俺に向けてくれた。
他にも、仲直りのお礼が言いたいこと、最初は驚いたけど怖いとかそんな感じはしなかったこと、むしろ今まで気づいてあげられなくて申し訳ないことなど。もっと早く二人に伝えておけば良かったな、と心の底から思った。
また、四人で集まって楽しく遊びたい。わいわいと騒いで、どうでもいい話で盛り上がりたい。そのために、夏生を見つけ出したい。そう思えるように、なっていた。
もちろん、それは簡単じゃない。岡本たちに手伝ってもらっていろいろな場所を探したけど見つかっていないし、仮に示ヶ丘キャンプ場にいるとしても、あのだだっ広いキャンプ場だ。隠れているであろう夏生を見つけられる可能性はかなり低い。しかも、今回は両親を連れて行けないので外泊は厳しい。冬になると立ち入り禁止になる区域もあることを踏まえると、計画的に探さなければいけない。
――でも。
困難はいろいろあるけれど、岡本と佐原さんがいれば何とかなるような気が、俺にはしていた。
「なぁ、それでさ、早速――」
探す計画を持ち掛けようとした、その時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます