第45話 決意(2)
「……ほんと、お前は変わんないな」
「え?」
あたふたしていたさっきまでとは違う岡本の口調に、俺は思わず振り向いた。
「いや……やっぱ変わったかも。前はそんなに下手くそじゃなかったし」
「何の話だ?」
「……思い詰めてることがある時に外を向く癖は変わらないなーと思ったけど、ごまかしやうそは下手になったなーって」
小学校の思い出を語るみたいにのんびりと話す岡本に対し、俺は驚いて声が出なかった。
「前はさ、本当に上手くてわかんなかった。病状の好転を教えてくれた時も、キャンプで雪村さんについて教えてくれた時も、お前は息を吐くようにするりと言っていたから」
いつかのことを思い出すように、今度は岡本が窓の外を見て言った。
「でも今は、すぐにわかる。やっぱり変わったよ、お前」
「お前にだけは言われたくねーな」
視線を戻して言い切った岡本に、意趣返しとばかりに俺は言った。
でも、予想に反して、岡本は小さく笑って肩をすくめた。
「ああ、全くだな。俺も変わった……というより、変われたから、な」
そう言うと、岡本は佐原さんの方を見た。
「そうだったら私も嬉しい、かな?」
佐原さんは、短く微笑みながら頷いた。
「あのこと、言ったのか」
「ああ。俺もいつか乗り越えないといけないって、思ってたからな」
ショッピングモールの屋上での、佐原さんとのやり取りを思い出す。
岡本は小学生の頃、岡本の父さんが知らない女性と食事をしているのを見て浮気と勘違いし、岡本の母さんに言って家庭崩壊させた過去がある。実際はただの会社の部下で、全く何の関係もなかったらしいが、それをきっかけに元々悪かった夫婦仲がさらにこじれて、ついには離婚してしまった。幼いながら岡本は自分のせいだと傷つき、それから自分の思っていることを話さなくなった。
「俺はあの過去がトラウマで、自分の本当の考えを言うのが怖くなった。もしかしたら、また何か大切なものを壊してしまうかもって、思ってたから……」
過去の記憶を噛みしめるように、岡本はつぶやく。
「それから俺は、このままじゃダメだって思って、変わろうとした。でも、どこかそれは中途半端で……結局それが、奈々との関係を壊しかけてしまった。あの日、奈々に聞かれて、奈々と話して、俺はようやくそれに気づけた。誰かさんが奈々に吹っ掛けたせいで、な」
苦笑を浮かべて、彼は俺の目を見据えた。
「あの日、お前が奈々に言ったことは正しいよ。俺は、奈々のおかげで変わろうと思えたし、今も変わろうと頑張れてるんだ」
そこまで言って、彼は一度言葉を区切った。
俺たちの間を、数瞬の沈黙が流れる。
「……それで、お前は、どうなんだ?」
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