第43話 お別れ……?
しばらくして、佐原さんが母親と先生を伴って戻ってきた。
「ほんとにもう、心配ばっかりかけて……。でも、本当に無事で良かった……」
と、母親からは岡本以上のくしゃくしゃ顔で心配され、
「佳生さん、無理はしないよう言ったでしょう? 体に負担をかける過度な運動は厳禁。それに――」
先生からは、たっぷり三十分以上のお叱りをもらった。
罰と経過観察を兼ねて、当分の間は外出禁止となった。すぐにでもショッピングモール裏の林の中に消えた夏生を探しに行きたかったが、今回は大人しく従うことにした。あの日は夏生と別行動していたこともあって、持たされていた三本の鎮静剤を全て使った挙句、実質四回目の発作が起こり、気を失ってしまったから。
「――それから、先ほど精密検査の結果が出ました。相変わらず、基礎体温が非常に高い数値を示していること以外は、これといって異常は見当たりませんでした。それと合わせて、今回発作が今までで最も多い四回も起こったことを踏まえると、状態はあまり芳しくありません」
「そうですか……」
ベッド脇の丸イスに座っている母親の手が、震えていた。
一緒に聞いていた岡本や佐原さんは思う節があるのか、俺と目を合わせようとしない。
「佳生さん。前みたいにまた回復する可能性もありますから、気を落とさないようにしてくださいね」
「……はい」
そんな可能性はないとわかっていながら、俺は返事をした。
これまでの好調は全て、夏生のおかげだ。夏生が発作を抑えてくれていたから、俺は外出許可が下りるまでに回復したのだと、先生に、家族に、岡本と佐原さんに、思わせることができていた。
でも、結局それは、うそでしかない。
先生や家族をいたずらに安心させ、大切な友達をぬか喜びさせているだけ。偽りに塗り固められた日常は脆く、容易に崩れ去っていく。
そしてそれは、夏生との日々も同じなのだ。
「それでは、私はこれで失礼します。佳生さん、くれぐれも、気をつけてくださいね」
「はい」
病室から出て行く先生を見送りつつ、俺はさらに思考にふける。
……でも、基礎体温が異常ってことは、まだ治ったわけじゃないんだよな。
――佳生の病気は私が治すから心配しないでね
夏生と契約を交わしたあの裏庭で、彼女が投げかけてくれた言葉が、不意に蘇った。
「佳生、私もそろそろ帰るわね。用もないのにベッドから離れたりしないのよ? それと、何か異変があったらすぐにナースコールしなさいね」
「うん」
おもむろに立ち上がる母親に、俺は生返事を返す。
「あ、じゃあ、面会時間も終わるし、俺たちもそろそろ行くか」
「そうだね。霜谷くん、お大事にね」
「ありがとう」
岡本たちも母に続いて病室を後にし、室内には俺一人になった。
きっと、夏生はまた来る。
あの夏生が、このままいなくなるはずがない。
次に来た時は、絶対離さない。
直後に来た軽い発作を我慢しながら、俺は心の中で呪文のように唱え続けた。病室に俺以外、誰もいないことを自覚したのは、発作がある程度収まってからだった。
***
――それから、僅か三日後のことだった。
「し、信じられません……! 基礎体温が、正常に戻っています!」
先生のそんな言葉とともに、発作が一度も起きなくなったのは――。
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