第5話 契約(1)
マジか。
低すぎる気温。季節が外れまくりの雪。尋常じゃなく白い長めの髪。これだけの情報が集まれば、なんとなく予想はついたが、まさか本当にそうだとは思わなかった。にしても、自分からここまで堂々と正体明かすか? 普通。
疑問は山のようにあったが、別に害があるわけでもなさそうなので、俺は気を取り直してとりあえずお礼を口にする。
「雪女さん。この度は助けていただいて、ありがとうございました」
なんか、変な感じがした。
「うん、どういたしまして。というか、あんまり驚かないんだね」
心底つまらなそうに、雪女は言った。
「まぁ、六月なのに雪降ってるし。髪とか、異様なくらい白いし……」
雪のように白い、というより雪そのものの可能性もある髪を見ながら、俺は思っていたことを素直に述べた。
すると彼女は、得心したようにポンッと手を叩く。
「あー、それもそっか!」
はにかみながら、彼女は明るくそう言った。そしてそのまま、「納得、納得!」となにやら一人でぶつぶつと言っている。
ここで俺は、すごく真っ当だと思われる疑問に行き着いた。
雪女って……こんな感じだっけ?
俺の頭の中にある雪女はとにかく冷酷非道で、出会った人をその息だか冷気だかで凍死させるイメージだった。しかし、目の前の自称雪女は、むしろその対極に位置する性格のように見えた。もちろんそれが演技である可能性も捨てきれないが、彼女の表情にはそんなずるそうな、人を陥れようとする様子が一切なかった。ありのままで、
「あ、それとさ。見ての通り同じくらいの年なんだし、敬語なんてやめてよ」
唐突に、彼女はそんなことを言った。
「え? あ、はい……じゃなくて、うん」
イメージの雪女とのギャップに混乱していた俺は、つい返事が遅れた。その遅れを疑問に思ったのか、彼女は小首を傾げる。
「あれ? どうかした?」
「いやいやなんでもないよ! うん!」
俺は慌てて取り繕った。ここで変に機嫌を損ねさせて凍死とか目もあてられない。
彼女はまだ腑に落ちないと言った顔をしていたが、やがて吹っ切ったように頷いた。
「うん、まあいいや。言葉遣いも直してくれたし」
細かいことは気にしてても仕方ないもんね、と彼女は微笑んだ。
やっぱり雪女っぽくないなー、と思った。他にも、雪女の見た目と実年齢って同じなのかとか、いろいろツッコミどころはあったがやめておいた。怒らせて生きたまま氷漬けにされても困る。
「それで、優しい雪女がなんで病院なんかにいるんだ?」
「……まるで雪女は優しくないみたいな言い方だね」
ちょっと怒ったように彼女は言った。
怒らせないようにしようと一分前に決めたはずなのにな、と内心で苦笑した。どうやら早速怒らせてしまったらしい。
俺は早々に弁解を諦めて、開き直ることにした。
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