僕と幽霊の共同生活

ウェル

第1話 僕と幽霊

 「ふう〜、今日も疲れたなぁ」

 俺は一息つきながら帰り道を歩く。

突然だけど、今のうちに読者に自己紹介をしておこうと思う。

 俺の名前は歩夢(あゆむ)。

今年、社会人一年目になる。

いわゆる新卒ってやつだ。

俺はあの有名ホテル、ホテルナンバーワンに入社することが決まった。俺自身、ホテルマンに憧れていたので、俺の就活は成功だと思っている。

もちろん、接客の仕方などはかなり厳しく、毎日が勉強状態だ。そんな日々を過ごして数日が経って自分の生活スタイルが出来つつあった。そんな頃に俺にとって大事件が起こった。


 「ただいまー。」

俺はいつものように誰もいない部屋に言う。

「誰もいないのに。癖ってなかなか抜けないんだな。」

そんなことを呟きながら部屋の明かりを付ける。

そこで俺はありえない状態を目にする。

読者のみんなはもう想像がついたんじゃないかな?


 そう。部屋がめちゃくちゃに散らかっている。

「これってもしかして空き巣か!?」

そう思い、通帳や印鑑などの大事なものをすぐに探した。

しかし、すぐに見つかった。

「よかったぁ。」

 今までの人生でこれほどに焦り、これほどに安堵したことがあっただろうか。そんな思いも束の間、あるものが俺の視界に入ってきた。

 それは文字が書かれた壁だ。そこには血のような赤色で『祝』と書かれていた。また、その周りには手形がたくさんあり、かなり怖い雰囲気を作っていた。

 俺は思わず、

「うわぁ!」

と声を上げてしまう。しかし、字をよく見てみると、おかしな部分に気がついた。

 「って祝うって、何を祝うんだよ!

 これ絶対、字間違えただろ!」

と壁に向かってツッコミを入れてしまった。


 そして俺は、この凄惨な部屋をどうしようかと悩みながら後ろを振り向いた。そこには1人の髪が濡れた女がいた。それはもう見るからにホラー映画にでも出てきそうな姿をしていた。


 俺は思わず、びっくりして、

「ひゃっ!」

と裏声を出しながら尻餅をついてしまった。

すると、その女は急に笑い出した。

「ぎゃははははは!!!!

何、今の声!、ちょーうけるんですけど!

男の癖に、そんな女々しい声出して、ちょーうけるんですけどー!

もうお腹痛いからー!

うひゃひゃひゃひゃ!」

その後も、お腹を抱えながら足をドタバタさせて笑っていた。

そんな状況により、俺は腹が立ち、こう言った。

「このびしょ濡れ女が!

人が盛大に驚いた姿を見て笑いやがって!

こっちからしたらお前の落書きのセンスの方が笑えるっつーの!」

その女は

 「何が問題なのよ!」

「これほどまでに怖そうな字面、ホラー映画級でしょうが!

どこに問題があるってのよ!」

と言う。

「それでは教えてやろう!

壁の字をよーく見てみやがれ!」

女は素直に字を見ている。

 そして俺がしっかりと書いてある字を声に出して読む。

 「どー見ても『祝う』って書いてあるんだよ!

こんなにも怖がらせようとして、こんな恥ずかしいミスして怖いもクソもあるかぁ!」

 「こんなもん見たら、ば、ば、爆笑、堪えるのに、必死だ、ってーの!」

と僕はわざとらしく笑いを堪えているようなふりをしながら言った。

すると女は顔を真っ赤にして、地面に落ちている物をいくらか投げてきた。

「言っていいことと悪いことがあるでしょうがぁ!」

「痛い、痛い!

ちょっと待て、それは僕のスマホじゃねーか!」

と、その中には俺のスマホが含まれていた。

そしてかなり速いスピードで飛んできたスマホが俺の頭に当たった。

「いてぇー!!!」

あまりの痛さに悶える俺。

頭を抑えながら、体を左右に捻って地面を転がっていた。

「これも私に余計なこと言ったバチが当たったのよ!」

「ざまぁ!」

とあの女が言いやがった。

そんなことを言われた俺は当然の如く、頭にきて何かを言い返そうとして、女を見た時に俺は気付いてしまった。


 「このクソ女、が…

え、ってかお前何で浮いてんの?」

女はきょとんとした顔で言った。

「何を今更、だって私は幽霊なのよ。」

「えっ、何言ってんだ?」

と、聞き返す俺。

「と、と、とりあえず、地面に足をつけてくれよ。」

 「な〜にいきなり、きょどってんのよ。」

と汚物でも見るかのような目を俺に向けながら言った。

 「確認していいか?」

と女に聞く。

 「何をどーやって確認するのよ。」

と女が言い返す。

そこに関して、俺は何も考えてなかった。

普通ならここでいやらしい確認の仕方をするのだろうが、俺はこれでも社会人の端くれ。

そんなことは絶対にしない。

期待するような展開がないことを先に伝えておこうと思う。

 「とりあえず、ポルターガイストとかってできるのか?」

 「ほら、物が急に浮かんだりするやつなんだけど。」

と、俺が言う。

すると女は何も言わずに俺を手も使わずに宙に持ち上げた。

 「うわぁ!」

 「分かったから、下ろしてくれ!下ろしてくれー!」

と俺は必死に叫ぶ。

 「ど、どんだけ、あ、焦ってるのよ。ぷぷ

もうこれ以上、笑わせないで。

あーお腹痛い。」

そんなことをしていると、

 「ドンッ! っるせぇぞ!」

と、隣から壁ドンが来た。

 「すいませんでした!!」

と2人して壁に向かって土下座をしていた。


しばらく、沈黙が流れた後、俺が口を開く。

 「な、何で濡れてるの?」

女は食い気味に言った。

 「気になるところ、そこじゃないでしょ!」

「もっと他にあるでしょ!」

それに対して、俺はこう言った。

 「もうこっちも普通にパニックなんだよ!」

「それぐらい察してくれよ!」


女は納得がいっていないような顔をしながらこう答えた。

 「さ、さっき、お風呂入ってたのよ。」

俺は、間抜けな顔をしながら、

「は?」

と言ってしまった。

「だから、さっきお風呂に入ってたんだって!」

「そしたら、あなたが帰ってきたんじゃない!」

と頬を赤らめながら言った。


 その後もいろいろ、話を聞いてみると、こういうことらしい。

元々は、俺の部屋の住人だったらしい。

そして、風呂の中で寝てしまい、そのまま溺れてしまったそうだ。

そして気が付くと、幽霊としてこの部屋で目覚めたので、この部屋に住み着いているらしい。そして新しく入居してきた人に住まいを奪われたくないらしく、俺と同じ目に合わして退去させるという嫌がらせをしているらしい。

そして俺が帰ってくる前に、部屋をめちゃくちゃにした後、お風呂で疲れを取ろうとして入っている途中に俺が帰宅してきたらしい。

そこですぐにお風呂から出てきて体だけ拭いて、その後に嫌がらせを始めたらしい。


 「全く、お前は悪霊か!」

と俺はあの女に言ってやった。

すると女は

 「悪霊じゃないわよ!」

「ちゃんと名前だってあるんだから!」


ここまできてなんだが、俺はあの女の名前を聞いていなかった。

 「そういえば、名前は何て言うんだ?」

と俺は聞き辛そうに聞いた。

すると女は

 「名前を聞くときはまず自分から名乗るのが礼儀じゃなくて?」

と言ってきた。

どこまでも勘に触る女だが、とりあえず、名前を言う。

 「歩夢だ。」

すると、女は少し驚いた様子で

 「やけに素直じゃない。」

「私は霊子よ。」

と、何故かにやけた顔をしながら答えてきた。

そんなことを無視して俺が霊子に尋ねた。

 「さっきの話で他の人を追い出していたみたいだけどやっぱり俺も出て行って欲しいのか?」

 「当たり前じゃない!」

「だってここは私の部屋なんだから!」

と霊子は答えた。


そして、俺は全力でこう言ってやった。

 「絶対に出ていかねぇからな!」

「やっとの思いで、安い部屋を見つけたんだからな!」

「幽霊如きで、俺の快適な生活の邪魔をさせねぇからな!」

 霊子は

「絶対に出て行かせるんだからぁ!」

と、力強く言っていた。


こうして、俺の夢のような1人暮らしから奇妙な2人暮らしに変わっていったのだった。



 










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