魔王の嫁にはなりません!
楸白水
プロローグ
第0話 とある日の魔王城
――今日こそは、何か手がかりを見つけなければ。
魔王城の散策は私の日課となってしまった。今日も今日とて建物内を歩き回り、どんな小さな事柄も見逃さないように目をこらしている。
何でもいい。魔王の弱点でもこの城の結界の穴でもいい。とにかくここを脱出できる手がかりなら何でも。
「姫さま! ごきげんようです」
「あら、人間界のあいさつを覚えたの? ごきげんよう」
「えへへ」
足下でドロドロに溶けているスライムが見た目に反した可憐な少年声で私にあいさつをしてきた。どこに目や口があるのか分からずただの粘液にしか見えない。けれどとても人懐こく愛嬌もあり、こうして私を見かけては嬉しそうに声を弾ませる。
今ではちょっと可愛い、かもしれない。
こんな風に私に声をかけるのはスライムだけではない。
「おやおや、今日も城内を散策ですか。元気ですねえ」
「ごきげんよう」
「そんなに席を外しちゃって……魔王様が寂しがってるんじゃないかしら」
「こ、公認ですわ」
「よう姫。ここの暮らしにも慣れたかあ?」
「……ぼ、ぼちぼちといったところね」
城にいる魔物たちは凶悪な姿とは裏腹にとても友好的に私に近づいてくる。それは単に魔王城で唯一の人間を面白がっているのもあるかもしれない。
ただ大きな理由はそれではない。そこにあるのは深刻な問題だったりする。
「おお……嫁じゃ、魔王殿の花嫁じゃ……」
「ひっ」
「世継ぎはまだかの……」
「よっ、よよよよ世継ぎですって!?」
「おいおい気が早すぎだろスケルトンのじいさん」
「ワシはあと数百年も生きられんじゃろうて……
「で、では! ここで失礼しますわ!」
「あ、逃げた」
そう、私は魔王の花嫁としてこの城に連れ去られてしまったのだ。
どうして? と聞きたいのは私の方で、魔界最強と謳われる魔王になぜか見初められ今日に至る。
「じょ、冗談じゃないわ! まったくもう……もうっ……!」
――そうよ、うっかり魔物のみんなと世間話してる場合じゃないわ! ぜっっっったい無事に逃げ出してやるんだから!
「おてんばも良いが、早く私のもとへ帰ってこい。なあ姫」
「はっ! また見えないのに声だけ聞こえてきたわ!」
「ククク……」
私の心の叫びは、果たして……?
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