matsumoさんに聞いてみよう

matsumo

第1話 自分が普通じゃないと感じていた、ずっと

ずっと、生きずらいと思っていた。

なんでみんな離れていくんだろうって、物心ついたときから、今までずっと。


最初はいい。みんなが寄ってきてはチヤホヤしてくれる。無駄に絡んできては、ご機嫌を取るようにあれこれと世話を焼いてくれる。

でも、月日が経つとどんどん人が減っていき、最後はいつも独りぼっち。

その原因は何となくわかっていた。でも漠然としていて、決定的な決め手は分からなかった。


気づいた時には「変わった子ね」と言われていた。

どこが?何が?どんな風に? その答えは誰もくれなかった。

疑問には思うけど、気にしてはいなかった。むしろ人と違うということに優越感さえあった。

でも、交友関係が広がってくると、そうはいかない。

第一印象はその人のすべてを決める。複雑な人間関係に、一度「変な人」認定をされると抜け出せないイメージが、自分にこびりつく。

それは学生時代も、社会人になっても、夫婦になっても、親になっても、変わらない。

「あの人、ちょっと普通じゃないのよね」

そういう仮面をつけられて、自分じゃない自分が相手の中で暴走する。ほんのちょっとの隙間を覗いただけなのに、「変わってる人、変な人、普通とちょっと違う人」、印象が決まってしまうのは屈辱的で、それでいて劣等感を根つかせる。


何を知ってるの?どんなところをそう思ったの?何も知らないくせにー。

何度この言葉を胸の中で叫んだだろう。相手に伝わらないことは百も承知、でも心の中で抵抗してしまうところは、自分もやはり人間なんだなと実感せざるを得ない。


かと言って、人間そう簡単には変わらない。どんなに変化を求めても、これが自分のデフォルトなのだということは変わらない。

発達障害だから仕方ない、とか、アスペルガーだからしょうがない、とか。そんなこと頭では考えていても、心はついていかない。

やっと普通の人に理解してもらえるような「タグ」がついたのに、普通じゃない自分を説明できるツールができたのに、受け入れるたびに心が鳴く。

ー、私ってそんなに普通じゃないの?


第一印象はその人のすべてを決める。だから自分からカムアウトするようにした。

「アスペルガーなので、空気読めなかったり普通と違うってよく言われるんです。」

これがお決まりの挨拶言葉になった。

めんどくさいやり取りは減った。相手に勝手に決めつけられる「自分」のイメージも少なくなった。だけど、「自分」じゃない感じはどんどん膨らんで、心を蝕んでいく。


この劣等感から抜け出せる日は、来るのかな。

生きてる間に自分を受け入れることはできるのかな。

普通と違う自分を、許すことができるのかな。

どうしたら好きになってもらえる?

どうしたら受け入れてもらえる?


結局、誰よりも「私」のイメージを勝手に作り上げているのは、自分自身だ。

それに気づいたとき、生き方が変わると思ったけどそうでもなかった。

何も変わらない。

嫌われたくない、独りはもう嫌だ。誰かに受けれてもらいたい、「大丈夫だよ」って言ってもらいたい。

根付きだした欲望はどんどん膨らんで、自分に仮面をつけるようになる。

「いい人」の仮面、「普通の人」の仮面、「いい子」の仮面、偽物の仮面ー。


自分が何なのか、普通と違うってどういうことなのか、変な人ってどんな人なのか。

それを決めるのは自分自身で、他人じゃない。

デフォルトの私を受け入れた自分には、いつ会えるんだろう。

1年後?5年後?10年後?それとも来世?

自分を受け入れる覚悟ができた時、初めて息ができるんだろうな。


空を見上げて、大きく深呼吸できる日がくるのは、いつなんだろう。

その時は、独りじゃないといいな。

受け入れてくれる誰かが、隣にいる日がー、…想像できない。

受け入れてもらえたら、どんな感覚なのかな。

嬉しい?それとも不安?

想像力の欠如で、見たくない現実と妄想が広がる未来。


自分の弱さとみじめさを他人に晒すなんて、弱みを握らせることと同意。

そんなことをしてまで、誰かと繋がっていたいと思うことが「普通」だというのなら、そんな「普通」はいらない。


第一印象がその人のすべてを決める。

私のことを「変な人」とイメージするその人は、私からも「普通」のイメージをこびりつけられるという事実を、知っておいてほしい。

お互いが感情をもって接することが、人間関係なのだから。

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