幕間 イケメンストーカー君の末路

へい親方!!



 芦田家の住宅をずっと先に通り抜けた場所にある古ぼけた工場にて――――。




「おい小僧!何遍言えば分かんだよ!?この木材はこうやってこうやってこうやってこうだろうが!」


「へい!すみません親方!」


 小僧と呼ばれた男は、手に持っていた細長い木材をいかにもヤンキーがそのまま大人になったような強面の男――親方に渡した。

 親方は渡された木材を乱暴に手に取ると、慣れた手つきで次々と木材を加工していった。


「ったく、お前の親父さんに義理があるからしょうがなく面倒見てやってんのによぉ」


「すみません親方!」


「もういい、さっさと仕事に取り掛かれ」


「へい!」


 その大声と共に、小僧と呼ばれる少年は急いで自らの仕事に戻っていった。


「・・・」


 小僧の癖に舐めた事してくれやがる。あいつが来てだいだい1ヶ月くらいだが、あんまり上達してねーな。最初見た時から不器用だとは思ってはいたが・・・正直ここまでとは思っていなかった。本来ならもっと簡単な仕事なんだがな。所詮は顔だけか。

 最近の若者はヘナヘナしている奴が多すぎてどうもいかん。あの小僧だって顔は一丁前だがいざ力仕事となるとすぐへたる。俺が若い事はもっとやんちゃしたもんだ。

 

 親分は心の中で愚痴るが、そんな時代風刺を嘆いても誰も拾ってはくれない。

 そこから時間は過ぎ、お昼時の12時となった。 


「お前ら休憩だー!」


「「「へい!」」」

 

 この建築工場は何故か掛け声が「へい!」で統一されている。

 言わずもがな親分が決めた掛け声ではあるが。


「おい小僧、お前やっぱりこの仕事向いてねーんじゃねーか?」


 親分はずっと思っていたことを口にする。

 

 こいつの親父には世話になったから出来ればこんな事言いたくなかったんだがな・・・。けど小僧の人生を考えれば、こいつはこんなことろで燻って良いような人材ではない。顔も優れているし、何よりこいつは

 ここまでの顔だったらモデル業界でも食ってけるんじゃねーか?


「・・・すみません親方。でも、俺はここで働きたいんです!」


「っ・・・それは、なんでだ」


 親方が驚いた表情のまま問うと、この場に場違いとも思える美青年――槻谷友也は俯きがちに語りだした。


「俺は今まで、最低な奴でした。学校は毎日通っていたけど、ろくに授業は受けませんでしたし。むしゃくしゃした時は友人を殴ったり、気に入らない奴は片っ端からいじめていました。俺は自分の容姿が皆より優れていることが分かっていたから、気に入った女子は思うままに手に入れていました。平気で二股するようなクズだったんです・・・。」


「・・・」


 親方は思った。



――うん、俺とあんまり変わらんな。



「そうやって自堕落な生活をしていた時、俺は一人の女子を手に入れようとしました。その女子は学校でも一番の美女で、俺は正直―――――目惚れでした」


 槻谷は目を伏せながら続ける。


「一目見た時、まるで金縛りにあったかのように、俺はその場から動けなかったんです」


 言わずもがな、今年2年連続グランドアイドルを受賞した女子生徒――古瀬麻衣である。


「この女を俺のものにしたいって、俺は夜な夜な考えていました」


「夜な夜な考えながらナニやってたんだ?」


「・・・けどその女子は、俺に全く見向きもしなかったんです」


「・・・」


 華麗にスルーされる親方。

 その額には若干の青筋が浮きだっている。


「自惚れじゃなくて、俺はモテました。沢山の女子に告白されたし、沢山の女子とつき合いました。でも、でもその女子だけは、俺なんか最初から眼中になかったんです」


「なぁ、これいつまで話すんだ?周りの従業員も集まってきたからそろそろ終わんねーか・・・?」


「あ、すみません親方。自分語りはキモいっすよね」


「ああキモイ」


「あ・・・はい」


 メンタルは脆い槻谷君。

 既にHPは10を切った。


「結局俺は、その女子をストーカーしてしまったんです」


「うわぁ・・・」


 ドン引きの親方。


 こいつ見た目にそぐわず凄いことしてんなー。俺も学生の頃はかなりヤンチャしてきたが、ストーカーなんてしたことねーしやりたくもねー。


「それが、俺の、間違いでした。俺のストーカー行為はバレて、俺は高校を退学になりました」


「・・・」


「父ちゃんには至る所を殴られ蹴られ、勘当される寸前までいきました」


「だろうな。お前の親っさんはそういう人だ」


「はい・・・」


「だからここに最初来た時ひでぇ有様だったのか」


 本当に最初に小僧と親父さんが来たときは驚いた。

 小僧の首根っこを摑まえたまま引きずってくるんだから、たまげたもんだ。

 小僧の顔面は血だらけで、前身赤黒く腫れていてあれはとても見てられない状態だったな。


―――この馬鹿息子を任せてもらっても良いか…?


 親父さんは物凄い悲しい眼をしてたっけな。俺は昔、親父さんに返しきれない恩を作ってしまったから、二つ返事でその依頼を受けた。

 

―――こんなんでも・・・俺の、大事な息子なんだ・・・。


 愛されてんじゃねーの小僧。

 俺の親なんて虐待が日常みたいなものだったからな、それに比べれば軽いもんだろう。


「その時俺は、父ちゃんにどれだけ迷惑を掛けたか、思い知ったんです。だから、俺は変わろうと決意しました。真っ当な人間になって、俺は絶対に父ちゃんに恩返しするんです。そして―――」




「―――絶対にあのヘナヘナ男を見返してやる!!」


 

 いや誰だよ。

 


 

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