第54話 トーソーモデルズ開催

「始まりました!みんなが待ちに待ったトーソーモデルズ!楽しんでいきましょー!」

 

「「「イエーイ!!!!」」」


 萌え声と言えば良いだろうか。アニメのキャラに出てきそうな可愛い声をした司会に生徒が呼応する。体育館の幕が閉じられたステージ上に立ち、小さい体をめい一杯使って喋っている。

 ていうかあの子・・・


「さて、今年の司会を務めるのは私、みんなのアイドルっ萌香でーす!」


「「「イエーイ!!!!」」」


 ロリっ子こと志水萌香だった。


「司会は初めてだけどがんばりまーす!」


「「「イエーイ!!!!」」」


 先程まで冷え切った体育館が、生徒達の熱狂に包まれ、自分の体が次第に暖かくなるのを自覚する。

 

 ――凄い盛り上がりだな・・・


 こんなに盛り上がるもんなんだね。10回もあったのだから当然かもしれないが、正直ここまでとは思っていなかった。まぁ、可愛い女子やカッコいい男子が選ばれるのだからそれもそうか。

 だが俺は正直どうでもいい。誰が1位だろうが全く興味ない。ただ敢えて上位に食い込む人物を挙げるとするならば・・・古瀬さんは確実に入るのだろう。彼女は選ばれたくないらしいが、多分それは無理だと思う。俺みたいな奴が言うのもなんだが、古瀬さんはちょっとばかし気がする。

 文化祭が始まるここ数ヶ月で、トーソーモデルズで選ばれたいが為に、普段から容姿に気を使っているらしい生徒がちらほらと見受けられた。元々この学校は美男美女が多い気がしてたが、それに拍車がかかってここ数ヶ月間はどこか別の世界に居るような心地だった。だってみんな可愛いだもん。そんなに選ばれたいの?


 だがそれでも、俺は古瀬さんや若山さんと一緒に帰るようになって、改めて気付いた。


 ――古瀬さんは頭一つ抜けている


 とにかく、綺麗なのだ。

 そこにあるだけで良いみたいな。決して邪な目で見てるのではなく、彼女の美しさはそういう括りでまとめてはいけない気がした。もっと純粋で、無垢で、透明で・・・・・・残酷で。

 自分で言ってて少し気持ち悪いが、彼女はまさしくだ。

 多分、若山さんもそう思っているのではなかろうか。


「では最初に!!最近テレビに引っ張りだこな、我が東総高校が母校のモデルさんの登場です!どうぞ!・・・」


 興味なんざ欠片も無い、長ったらしい人気モデルさんの講話が終わり、その他もろもろの連絡事項が終わってついに本命が始まるらしい。


「ではまず初めに、去年の【トーソーモデルズ】を振り返ります」


 司会のロリっ子が1、2、3年生の順に一人ずつ呼名していき、より生徒達の熱気が高まった。


「2年連続上位3名に選ばれた方は、あの多数の有名モデルを輩出した【Sun Jerphyサン ジェルフィー】より、SunJerphy専属モデルになる権利が与えられています!!!]


「「「イエーイ!!!!」」」


 なんかどっかで似たようなの聞いたことがあるような・・・・・あっ、あれか。最近流行りのあのカフェ。【Sun Jeriolサンジェリオール】か。名前も似ているし、もしかして系列かなんかかな?


「そして実は、先程のモデルさんも2年連続選ばれ、見事モデル業界に入った訳です。かくいう私も去年選ばれてるんですけどねー」


 それは知ってる。さっき自分の名前を発表する際、めっちゃ照れてたからね。


「早く結果が知りたいのは山々ですが、改めて【トーソーモデルズ】の説明をします。まず、この【トーソーモデルズ】とは計5つのモデル事務所と連携して開催しています」


 ポケットから取り出した白い紙きれを見ながら言葉を続けるロリっ子。


「目的としては、東総高校からのモデル、タレント輩出。10年前から行われてきた東総高校伝統の催し物です。各学年、男女上位3名ずつを生徒達と先生方からの投票で決定します。生徒玄関前廊下にて投票箱の設置をしていましたが、みんなは投票しましたか?集められた票は、生徒会長を中心に生徒会にて厳正に仕分け、結果を導き出しました。不正行為は一切出来ないようにしましたので、安心して結果を待ってください。えっと・・・」


 長い文章を読んだたためか、若干息切れをしているロリっ子こと清水さん。

 一瞬、アニメ声から素の声に戻った気がするが、気のせいだと思いたい。


「1位~3位、【トーソーモデルズ】独自の呼び方として、それぞれ違った呼称を用いてます。まず1位の方は”グランドアイドル”2位の方は”スペシャルアイドル”3位の方は”グッドアイドル”です。この呼称は、表彰状に記載されます。そしてその表彰状は大切に保管してください。それらの呼称が記載された表彰状は、今回東総高校と連携している5つの事務所へ申請すると有利に働きます。どう有利なのかは、ご想像にお任せします」


 そんな特典があるのか・・・。食い扶持に困ったらその表彰状持って行き、事務所入らせてください!と言えば加入できるのかな。


 説明が終わったのか、紙切れを折りたたみポケットに再投入した志水さん。


「よしっ!説明が終わったから早速1年生から発表していくよー!!!」


「「「イエーイ!!!!」」」


「ではまず、1年生男子!グッドアイドルは・・・!」


 言い終わったタイミングで体育館にドラムロール音が反響する。


 そして、結果は・・・





「1年E組!福田 雄大ゆうだいさん!!!」


「「「うおぉー!!!」」」


 主に、1年生の居る場所から大きな歓声が上がった。


「福田雄大さんはステージに上がってください」


「え、まじ?俺?」

「雄大まじかよお前ww」

「すっげー」

「きゃー!ゆうだいくーん!!!」


 おぉこんな感じで発表されるのか。なんか結構演出が凝っていて驚いた。俺はあの男子を知らないが、生徒たちの反応を見るにかなり人気な男子なのだろう。

 いいね、イケメン君は女子にちやほやされて。全く全然これっぽっちも羨ましくなんてないんだからねっ。

 

「おめでとう!グッドアイドルになった感想はある?」


 選ばれたのは高身長な男子だったため、志水さんはその小さな体――ロリ体型――でマイクを頑張って上げている。なんか小学生が一生懸命頑張っているようで、すこし微笑ましい。

 そしてやっぱり選ばれた男子、福田君はチャラ男系イケメンだった。ずるい。


「え、まぁえーあんまり自覚は無いっすけど、うれしいっす」


「へぇー選ばれると思ってなかったんだ?」


「まぁそうっすね」


「じゃあ改めておめでとう!みんな、もう一回福田君に大きな拍手を!!」


 盛大な拍手が響いた。


 福田君が席に戻ったところで、再びロリっ子が声を上げた。


「じゃんじゃん行くよー!続いてスペシャルアイドルは・・・」



 あれから数分で1年生男子の発表が終わった。

 1位の子はもの凄くカッコ良かったね。その子は槻谷君に似ていた。まぁそれもそのはず、1位の子は苗字が槻谷だった。多分兄弟なのだろう。選ばれた時、弟君は少し気まずそうだった。



 そして到頭、1年生女子、我が妹の番が来た。



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