第41話 本物と偽物と・・・

「一緒に、帰る?」


「は、はい・・・」


 どういうことだ?槻谷のストーカーの件も沈着し、もはや彼女たちと一緒に帰る必要はないはずだ。

 最近は、古瀬さんの若山さんの二人で仲良くしていたと勝手に思っていたのだが、どうやら違うのかもしれない。


「以前のように、また、3人で帰りたいと思っているのです」


「・・・」


 若干彼女の頬が紅潮しているのは、自分の発言による大きな羞恥心のせいだろう。


「なぜですか?」


「そ、それは・・・」


 再び言い淀む古瀬さん。何か言いにくい事なのかな。


「・・・女子2人の方が何かと都合が良くないですか?」


「それは、そうなのですが・・・」


「友達同士の方が気楽でいいと思いますよ?俺男だし、友達いないし、ぼっちだし」


 あ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。


「「・・・」」


 憐みの目で見られました。


「そもそも、なにかあったんですか?」


「・・・伝えるほどの内容でもないのですが、その、違和感を感じてまして」


「違和感?」


「はい」


 ・・・違和感なら最近俺にもいっぱいあるな。俺の周囲の人間関係とか。


「以前、3人で帰っていた時はこの様な違和感を感じたことは一度たりともありませんでした」


「・・・3人、と言ってもたった数日でしょ?」


 この俺達3人の関係を一言で表すならば、浅すぎする関係としか言いようがないだろう。若山さんとだって、話すのは最低限度の内容だけだ。・・・最近はちょこちょこ話すけど。

 古瀬さんに限っては知り合ってたった1ヶ月。ストーカー君の件が終り、彼女とは一度たりとも話していない。このような関係で、たった数日の関係で、違和感なんて感じるのだろうか。ましてや彼女はトップカースト。俺にはいくら頑張ったって届きやしない存在、はるか遠くて崇高な存在だ。俺が彼女と、彼女達と一緒に居ていいはずは、全くもってありやしない。


 だが俺が言い終わったタイミングで、古瀬さんはふぅ、と短く息を吐いて強く、こう言った。



「私は・・・いいえ私達は、その数日が、とてものです」


「・・・」


「この違和感の正体は、私にはまだ、分かりません・・・」


 ただ、と彼女は続ける。


「私達は、武流さんと過ごしたあの数日が、この3人で過ごしたあの数日が、何よりも素晴らしい時間に思えたのです」


「っ・・・」


「・・・詩音ちゃん」


 隣で俯きながら、先程から黙っていた若山さんに優しく声を掛ける古瀬さん。


「詩音ちゃんも何か、言いたいことがあったのですよね?」


 若山さんの背中を摩りながら、言い聞かせるように言う。


「・・・わ、私は、今までダメダメだったんです。私は、いつだって下を向いて、ウジウジして、前を向いて歩けませんでした。・・・いえ、その努力も怠って来たんです。いつか、誰かが、私に気づいてくれる。いつか、私にも心から笑える日が来るって、そう思っていたんです・・・。でも、結局そんなの私の驕りで、傲慢だったんです。・・・・・・・・・・でも、でもっ」


 涙を目尻に溜めながら、必死に言葉を紡ぐ若山さん。


「芦田君は、そんな私を・・・・・


「・・・」


「麻衣ちゃんは、私ののなってくれました」


「・・・」


 目元をごしごしと拭いながら、若山さんは俺たち以外誰も居ないがらんどうの図書室で叫んだ。


「私にはっ!それが、本当に、本当にっ・・・・・・嬉しかったんです」


「っ・・・」


「だから!私はっ、また、3人で一緒に過ごしたいんです・・・・それだけなんです・・・」


 それきり、すすり泣きしながら黙った若山さん。


「・・・」


 そうか・・・・・

 流石に俺は、そこまで若山さんが思い詰めていたとは気づけなかった。彼女がどんな思いで俺達と接していたのか、それを俺はもっと熟考するべきだった。

 俺は自分がぼっちである事を何とも思っていないし、別に友達が欲しいわけでもない。だが若山さんは違う。彼女は本気で友達が欲しかったのだ。それも、低俗なものでなく、高い次元のものを。

 

「武流さん、以前の私は確かに間違っていました。武流さんに言われるまで、私は気づけなかったでしょう。。私は自分で言った事を自分で反故にしようとしていました」


 そう、彼女はあの時明らかに錯乱していた。彼女のお願いを無碍にしたのは心苦しかったが、あれは致し方無しだった。


「ですが私は、それこそが間違っていたのだと気付きました」


「?」


「人に頼って得たものは本物ではないのかもしれません。ですが、となるものだと、私は気付かされました」


 あなた達お二人のお陰で――


「そうですか・・・」


「はい」


 この二人は成長している、確実に。初めの頃に比べ、彼女達には言いようがない何かが、実際に現れている。

 それに比べ、俺はどうだろう。成長しない、成長しようともしない、成長したくもない。将来の夢、何がしたいのかも分からない。目前の目標すら持っていない。ただ単にのうのうと生きているだけ。そんな妥協で生きてきた俺と彼女達とは、やはり別世界の住民のように思える。


 俺は彼女達と一緒に居ていいような奴じゃ・・・ない。


 そして、丁重にお断りをしようとしたとき


「・・・すみません、やっぱり俺は「知りません」


「・・・・?」


 ・・・どうした?いきなり割って入ってきて。なにが知らないのだろう?


「知りません、武流さんの考えなんて」


「え?」


「武流さんが私達の申し出を断ることは分かっていました。ですが、それにもちゃんとした理由があるのでしょう?武流さんのその顔を見れば、分かります」


「・・・」


 ・・・その顔って一体どんな顔なのだろう。気になります。教えてください。めっちゃブサイクとかだったら流石に泣く。


「ですが私は先程も言った通り、知りません。武流さんの事。全くと言っていい程。なので私は断れたとしても構いません。なぜなら・・・・私は、だと、分かっているからです」


「・・・」


 ・・・違う。そんなんじゃない。




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