第42話 いつまで経っても
「素晴らしい人は・・・俺なんかじゃないですよ」
「・・・?武流さんは素晴らしい人だと思いますよ?」
「もし本当にそう見えるなら、古瀬さんは間違ってます」
「・・・」
俺は、そんな出来た人間じゃない。
この関係だって、もとを辿れば俺の保身のため故だ。いつだって自分に甘く、前進しようとしない、挑戦しようとしない。妥協の連続の俺の人生が素晴らしい?・・・・そんな訳がない。そんなの、本当に頑張って毎日を生きている人達への冒涜だ。欺瞞だ。古瀬さんは上辺だけの俺を見ているのだろう。自分にとって都合のいい解釈を、無意識的に頭で変換しているのだと思う。
人間は薄汚く、狡猾な生き物だ。嫌な物から目を遠ざけ、逃げ、そして終いには
「本当に素晴らしい人間なんて、この世にいませんよ」
「・・・そうかもしれませんね」
「はい」
「本当の意味での幸せや悲しみは、家庭環境や境遇で決められはいけないのです。それは本来、友人関係や家族の愛の中で生まれるべきものです。他人に決められた人生や不調和な家庭では、決してダメなのです。自ら決断して、その上で後悔しなくてはいけないのです・・・・」
・・・・・?なんか話がズレてる気がするぞ。
「ただ」
「少なくとも私は、いると思います。・・・・・・いいえ、いて欲しい、でしょうか。」
「・・・」
「確かに武流さんの言う通り、完璧に出来た人間なんていないと思います。ですが、そこへ近づこうとする事は出来るのではないでしょうか?」
ふぅと息は吐き出す古瀬さん。
「誰しも必ず長所があり、短所があります。それは人によっては不愉快に感じる事もあります。ですが私はそれを悪しと思いません。それがその人の個性だと思っているからです」
・・・・・ストーカーも個性なんですかね。
「・・・あ、あの出来事は少し、度が過ぎていたとは思いますが」
俺のジト目に気づいたのか、慌てて弁明する古瀬さん。
「結局何が言いたいのかというと、私は武流さんの事、素晴らしい人だと思っているという事です」
「・・・」
結局そこに行きつくのね。
はぁ・・・
「もう、それでいいです・・・」
「ふふっ、はい」
ほんとこの人は小悪魔的な人だ。その容姿も相まってサキュバスみたいな感じに見えてきた。相手を褒め散らかしていい気分にさせ・・・・みたいな。言ったら多分確実に殺されるのでやめとくけど。
「ふふっ、失礼なこと考えてますよね?」
「そ、そんなこと有る訳ないじゃないですかー。は、はは」
こわっ・・・顔は笑ってるのに目が全く笑ってない。勘良すぎるだろう・・・女の勘ってやつか。こういうのって実際にあるんだね。
「では、また3人で一緒に帰るという事でいいでしょうか」
「うんっ」
「・・・はい」
渋々だが首を縦に振る。これ以上言い合っても無駄だし、もう時間がない。早く教室に戻って小道具の準備に取り掛からないと、同じ係の人にグチグチ言われそうだ。
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現在芦田家の夕食は若干不穏な雰囲気に包まれている――
「は?また遅くなる?」
「ああ」
「・・・・・」
「へぇ、この前まで一緒だった子?」
母さんが興味半分、驚き半分といった様子で聞いてくる。
「ああ」
「武流もとうとう、ねぇ~」
ニヤニヤしながらおかずを突っつく母。・・・絶対良からぬことを考えていますなこの女。
「・・・なんで、また一緒に帰るの?」
「成り行き」
説明すると面倒くさいので、千恵に適当に答える。
「成り行きって・・・真面目に答えて」
「・・・たまたま会って、また一緒に帰ろうみたいな?」
「は?」
ですよね・・・。
「有益な情報が有る訳でもないし、別にいいだろ」
「・・・・ちっ」
今舌打ちしたよねこの子。そんな子に育てた覚えはないのに。
「はぁ、千恵。分かってると思うが」
「分かってるよっ。ご馳走さまでした!」
俺の言葉を遮るように言い放ち、リビングを出た千恵。
「千恵ったらまだ武流に懐いてるのね。そろそろお兄ちゃん離れした方が良いと思うけど・・・」
「まぁ、兄弟仲が良いことに越したことはない。これからも仲良くなっ武流」
「・・・ああ」
これが見当違いでなければよかったのだが・・・・・。人生そう上手くいくもんじゃないね。
「ごちそうさまでした」
千恵はいつ、本当の意味でお兄ちゃん離れをしてくれるのだろうか・・・。
自分の使った食器を洗いながら、俺はずっとそんなことを考えていた。
~あとがき~
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そして今後とも『青春=ぼっちの男』を楽しんで頂けたら幸いです。
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