第26話 諦めきれない思い
「「「ハッピーバースデートゥーユ~」」」
「誕生日おめでとう千恵ー!」
「ありがとー!ふぅー」
満面の笑みでケーキ―のろうそくを勢いよく消す千恵。嬉しそうだ。
「はーいこれ、前から千恵が欲しがってたやつ」
母が片手サイズのおしゃれな箱を手渡す。
「えっ!これってもしかしてっ!」
「そう。千恵が欲しがってた化粧品。少し高かったけど、奮発したのよ」
「やったー!ありがとお母さん!」
あいつこの年で化粧とかしてるのか。女子高生ってそんなもんなのかな・・・
「千恵。誕生日おめでとう。母さんのと少し似ているが良い商品には違いないぞ」
父が少し大きめの箱を手渡す。
「えっなになに・・」
いそいそと箱をラッピングしてる紙をはがす千恵。何だろう。
「・・・・・育毛剤」
「「・・・・」」
「ああ、若い頃からやっておくと良いって聞いたんだ。良い値段したからかなりいいやつだと思う」
「・・・・・・・はは、ありがと。お父さん・・・」
「ああ、日頃から千恵は頑張ってるからな。ご褒美だ」
父さん・・・・・・・・なんかこっちが悲しくなってきた。完全に、自分が薄毛に悩んでいることの押し付けだろう。だが確かに、親が薄毛なら子も・・・こわっ。
「あなた・・・後で話があります」
「うん?分かった」
呆れ顔で父さんに話す母。だが父はなぜ話があるのかも分かっていないご様子。末期である。
「うん?武流。あんたプレゼントは?」
うっ、母に見つかってしまった・・・どうしよう。
「えっとーその・・」
「兄ちゃんは今度一緒にプレゼント買いに行ってくれるらしいよ?」
ナイスアシスト千恵!
「そうなの?」
「あ、あぁ、そうだよ」
「何でも買ってくれるって言ってくれたよね~?」
「・・・そうですね・・・」
くっ、ナイスアシストだと思ったのに、それが目的だったか千恵・・・・姑息な奴め。こいつめっちゃ高いやつ頼んできそうで怖いんだよな。あと俺今金欠なんですよ。最近乞食みたいなことしたし・・・・
「ならいいけど」
「俺と同じプレゼント買うんじゃないぞ武流」
あんたは黙らっしゃい。買う訳ないじゃん。
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「行ってきまーす!」
玄関から千恵が元気のいい声が聞こえてくる。
「行ってらっしゃーい。千恵朝ごはんも食べずに・・・・」
「珍しく寝坊してたからな」
「あんたは毎日寝坊してるようなもんでしょ」
そんなことはない。寝坊とは学校に遅刻することで初めて成立する言葉だ。その点俺は、一度も学校に遅刻したことはない。優等生なんでね。
「・・・・まさか、あのプレゼントがいけないとは・・」
「当たり前でしょ、あんなの貰っても嬉しくないわよ普通。ましてや今時の女の子よ?」
父さんが昨日の醜態を今頃恥じている。母さんにこっぴどく叱られたのだろう。自業自得である。
「貰って嬉しいの多分父さんだけだそ」
「そうか・・・」
「ああ」
俺が大人になって、仮に薄げに悩み始めたとしたら嬉しいかもしれないが、今貰っても馬鹿にされてる気しかしない。実際千恵は、プレゼントが育毛剤と分かったとき眉がピクピクしてた。相当お怒りな様子だった。
「俺も行ってくる」
「そう、気を付けなさいよ」
「行ってきます」
今日は那須先生に呼ばれている。はぁ憂鬱だ。
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「よっ、芦田」
「あぁ西条か」
「やけに疲れた顔してんな。何かあったか?」
そんなにひどい顔してるだろうか。昨日あんまり寝なかったのが原因だろうが、とても眠いのは確かだ。連日色々ありすぎて疲労が溜まったんだろう。
「特になにも、けど眠いから少し寝るわ」
「授業中は寝るなよ?」
「分からん」
少し寝ようかな、まだ時間はあるし。
その後、授業中は寝ることはなかったが顔が何回か机に落ちそうになった。ギリギリセーフだ。
はぁ、あっという間に昼休みになってしまったな。あんまり行きたくないが・・・
「行くか」
大抵、那須先生は職員室に居るか理科準備室に居る。先程職員室には居なかったので、理科室にいるのだろう。昨日、職員室に来いって言ってた癖に居ないとはどういうことですかね。
「2年D組の芦田です。入っても宜しいでしょうか?」
理科準備室の扉をノックし、常套句を言う。
「あぁ、入っていいぞ」
「失礼します」
「私がここに居るのが分かったのか」
「ええ、まぁ」
この学校の人なら大体知ってるでしょ、という言葉が喉元まで上ってきたが何とか抑える。
なんとも意外だが、那須先生は物理と化学の先生だ。体育の先生と間違った生徒は何人もいたと聞く。俺も最初は間違ったしね。
「まぁいい、そこに座れ」
「はい」
先生が目の前のパイプ椅子を指差し、勧めてくる。長机を隔てて先生と対面する形で俺は座った。
「さて、芦田を呼んだ理由だが・・・何故か分かるか?」
分からんが、先生の雰囲気を鑑みるに、何となくいい話ではなさそうだ。
「いえ、分かりません」
「・・・・そうか。では、単刀直入に聞く。芦田・・・お前あの時、わざと
「・・・・」
「・・もっと細かく言えば、わざと槻谷を煽り立て、そしてあいつが自暴自棄になることを見越した上で、殴られようとした。違うか?」
「・・・どうしてそのように考えたんですか?」
「私はな、こういっちゃ何だがかなりちゃらんぽらんな性格だ。・・・だがな、私は
・・・・実はこの人もストーカーだった説が浮上。名前や友達なら分かるが、性格って何よ・・・・
「・・・中々凄いですね・・」
「ああ、だろ?一番苦労したのは名前を覚える事だったな・・800人近い生徒を覚えるのは骨が折れたよ・・」
800人、ね・・・俺には絶対無理だ。
「それでだ芦田、今回のお前のあの行動は、私には些か矛盾点があるように見えた。ハッキリ言うが芦田、お前は面倒事を嫌い、何に対しても意欲が湧かないような生徒だと、勝手に思ってる。すまんがな」
虐められてるのか説教されてるのか分からなくなってきた。
「それを踏まえてもう一度聞く。芦田、お前は何故・・・あんな行動を取った」
そこまで知られているのならもう、逃げ隠れは出来ないだろう。ここであなたには消えてもらいます・・・・・ていう場面だな。ドラマだと。
はぁ、別に言ってもいいが先生のその雰囲気を見るに、ある程度はもう知ってるんだろうね。
「・・・槻谷を、
「・・・・・やはり、そうか・・」
「はい」
ここで白を切っても意味はないだろう。白を切る意味もないんだけどね。元々、那須先生には言うつもりだったし、言わなくてもいずれバレる事だった。
「なぜ、そうした?」
「単純です。古瀬さんを守るためですよ」
「っ・・・」
「隠しカメラだけでは槻谷を
「・・・そうか。だがそこまでせずとも、槻谷は退学になった可能性は高い」
「それはあくまで、可能性が高いだけです。確実ではありません」
「っ、なぜそこまでする必要がある?」
「先生なら知ってるでしょうが、槻谷はかなり素行悪いですよね?」
「・・ああ」
那須先生は一度、槻谷へ怒鳴り散らしたことがあった。俺もその現場を見ていたが、言わずもがなあのいじめの件である。
「・・ああいう奴ほど後先何も考えず、すぐ実行し、すぐ失敗します。ですが・・・そういう奴ほど、
「・・・・・」
「あいつは多分、再び繰り返しますよ・・先生」
「・・・そうか・・分かってはいたが私は、目を背けたかったのかもしれんな・・槻谷を指導し、もう更生した、と・・・」
「・・・」
「・・・分かった」
それは何に対しての、分かった、なのか。
席を立ち、扉へ向かう先生。
「・・芦田、今日はもう帰っていい。この件は、
片手を扉の取っ手に握らせたまま、そう言って部屋を出た先生。
「はぁ」
意識せずともため息が出るのは久しぶりだ・・・・先生にも色々と事情が有るのだろう。だが、先生は任せろ、と言った。多分だが、もう大丈夫ですよ、古瀬さん。
~あとがき~
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そして、今後とも『青春=ぼっちの男』を楽しんで頂ければ幸いです。
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