第25話 落としどころ

「それにしても、那須先生の用事とは何のことなんですか?」


「さあ?分からないです」


 帰路の道中、辺りはもう既に闇夜に包まれている。

 全く俺も分からない。那須先生は謎な人で気分屋だし何を言われるのかは、皆目見当がつかない。


「・・ですが、十中八九、先ほどの件ですよね」


「まあ、そうでしょうね」


 逆に、全く違う話で呼んだならおかしいだろう。


「な、那須先生・・・す、凄かったです・・・」


「ええ、那須先生にあのような特技があったとは思いもしませんでした」


「見てて気持ちいくらいな一本背負いでしたからね」


 あれは凄かったな・・先生は、柔道経験者なのかもしれん。


「・・・芦田さん。疑問なのですが・・なぜ、あのように彼を煽り立てるような質問の仕方をしたのですか?」


「わ、私も、見ていてとても冷や冷やしました・・・」


「単純に、ボロを出させるためですよ。ああやって追い詰めていけばいつかはボロが出るもんです。特に、ああいう人種は」


 結果的にボロも出したしね。


「・・・・それでも芦田さんは、あと一歩という所で、暴行を加えられるかもしれなかったんですよ?」


「まぁ、そうでしたね」


「そうでしたねって・・・もっと、自分を大切にしてください・・・」


 そうか、古瀬さんにはあれが俺の自己犠牲に見えたのか。でも、それは違う。あれは俺自身がやりたくてやった事だ。彼女の為というのももちろんあるが、結局は俺の自己満足の為にした行為であって、決して自己犠牲なんかじゃない。


「けど、結果オーライですし。過ぎたことは気にしてもしょうがないですよ」


「ぅー・・・」


 不満ありありといった顔で、渋々頷いた古瀬さん。


「・・・・」


 なんかジッとこちらを見つめられてる気がする・・・用があるなら言葉で発して欲しいんだけど・・


「・・どうした?」


「な、なんでもないです」


「そう・・」


 なんかデジャヴだ。どっかで見たことあるな、ああさっきか。

 どうしたのだろう一体。じっとこちらを見つめて、何か言いたい事でもあるのだろうか。


 明らかに何か言いたいことが有るのは明白だ。だが、こちらから問い詰めるのは無粋だろう。若山さん自ら言ってくれるのを待つしかない。


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「今日は、本当に有り難うございました」


 丁寧に頭を下げてお礼を言ってくる古瀬さん。

 

 若山さんとは先程別れ、現在彼女のアパート前だ。若山さんは終始何か言いたげだった気がするが、結局何も言わずに適当な会話をして帰って行った。何なんだろうねほんと。


「芦田さんが協力してくださったおかげで、無事解決することができました。本当に、いくらお礼を言っても足りないほどです・・ありがとうございました」


「そうですか。解決できて良かったですね」


「・・・・はい」


 一瞬、憂いの影が彼女の瞳に映ったのは、気のせいではないだろう。まだ不安に思うのは無理はない。だからこそ俺は、あいつを煽ったんだが・・・・・上手くいかないもんだ。那須先生という存在が、想定していたよりももっとイレギュラーだった。


「じゃあ、俺は帰りますね。さようなら」


 そう言って背を向け、自宅へ帰ろうと思った時。


「・・・・あ、あのっ芦田さん!」


「?・・はい」


「そ、その・・この関係はもう、終わりですか・・・?」


 古瀬さんが言うこの関係とは、俺が古瀬さんと一緒に帰るという関係の事だろう。俺ははなからこの件が解決すれば、一緒に帰るこの関係を終えよと思っていた。第一俺にリスクがあり過ぎるしね。もし見つかったら妬み嫉妬の目が四六時中付きまとうだろう・・・・想像するだけで怖い。


「そうですね。今回の件はもう解決しましたし」


「・・・そう、ですか・・」


「・・はい」


 そんな少し落ち込んだ振りしても靡かないんだからねっ。俺は一度決めたことは絶対に守るという主義なのだ。俺の意思は固いぞ・・・

 それに、彼女が落ち込んで見えるのは、別に俺と一緒に居たいからではないだろう。まだ・・・不安なのだと思う。ストーカーの件が一応の形で解決して、これからいつも通りの日常に戻れる・・・・そんな事を考える。だが、どこかでまた同じような奴が現れるのではないか。いや、既にもういるのではないか、と。一抹の不安が胸中で荒れ狂う。理性では分かっていても、心が言うことを聞かない感じ。難しいね・・


「私、は・・まだ・・・少し怖い、です・・・」


「・・もう解決はしましたよ?あいつは処分を受けますし」


 そのがどうなるか、だが・・・


「それは・・分かっています。ですが、その・・」


「それに古瀬さん。あなたはいつか、若山さんに言いましたよね」


「・・・・?」


「人に頼って得たものは本物か、って」


「っ・・・そ、それは・・・」


 すいません、古瀬さん。ここはハッキリと言わせてください。


「それと同じじゃないですか?今の古瀬さんは。確かに、今は解決したばかりで少し不安なのはわかります。だけどもう、解決したんです・・・時間が傷を癒してくれますよ」


「・・・・」


 ここでハッキリ言わないと、彼女はなし崩し的に俺に頼ってしまう。それではだめだ。それでは彼女は成長しない。


「・・・じゃあ、帰ります。おやすみなさい」


「・・・・」


 はぁ、心が痛い・・・それに、泣きそうな顔で俯かないでください・・・俺が虐めてるみたいじゃんか・・

 だが、これでいい。彼女と一緒に居るのは、俺にとってリスクが高すぎる。平穏なボッチ生活でいいんだ俺は。なにより、古瀬さんにとって俺は・・不純物過ぎる。彼女の周りに居ていいのは俺なんかじゃない。許されるのは、もっと崇高で、畏れ多くて、俺には想像できない何かだ。

 それに最近は俺から平穏が逃げている気がするから、舞い戻らせねばならん・・・


「はぁ」




「ただいま」


 ふぅ、やっと家に着いた。7時20分か・・毎度の如く、遅いな・・・


「もおっ!おそいよ兄ちゃんっ。今日私の誕生日パーティーなんだからねっ」


 トコトコと玄関にやってきた千恵が不満を言ってくる。そういえば今日誕生日だったね。・・・あっ。


「あっ・・・」


「あ?」


 ・・・・・・最悪だ・・誕生日プレゼント買い忘れた・・









~あとがき~


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 そして、今後とも『青春=ぼっちの男』を楽しんで頂ければ幸いです。

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