第15話 やはり青春は痛い
「おはよう。若山さん」
「っ!あ、芦田君っお、おはようございます」
彼女は三つ編みメガネっ子こと、若山
彼女は俺と同じで委員会決めの際、手を上げるタイミングをずっと見計らっていたのだが、勇気が追い付かず、挙手出来ずじまいとなり風紀委員になった。
「朝から早いね」
「は、はい。目新しい小説と漫画を探しに来ました」
奇遇だ。同じ目的で同じ時間に会うとは、これはボッチ同士のお導きかもしれん。
「俺もだよ。最近は面白いのばっかりあるしね」
「はい。あ、芦田君は何か具体的な本を求めに来たんですか?」
「いや、特に。毎週この本屋には来てるんだ」
「そ、そうなんですか」
ちょっと驚いた眼で見られた。そんなに珍しいのかな?毎週って。
「若山さんはいつもこの本屋?」
「はい。で、ですが月に2度程度です」
「そう。それよりお目当ての本は見つかった?」
「い、いいえ。わ、私も先程来ましたので・・」
この子常にオドオドしてるんだけど焦ったときはこれに拍車をかけて動揺する。
今俺は見て見ぬふりをしているものがあるのだが、これは言った方がいいのではなかろうか。いや、それだと彼女が傷つく可能性があるな。
彼女が腕にかけているバッグから、はみ出るように見える本。2人の男が上半身裸で見つ合い、若干頬を染めている表紙が見え隠れする。所謂BLコミックスである。
どうやら彼女はそれに気づいていないご様子。腐女子である事を隠す若山さんにとって、これはまさしく自滅への第一歩である。
「俺も今から探すよ。じゃあ後で」
「は、はい」
俺がどっかに行ってる間にバッグへしっかりしまってくれ。
彼女に背を向けてラノベコーナーへ向かう。途中振り返ると、BLコーナーにトコトコと歩いてゆく彼女の姿が見えた。まだ買うんですかね・・
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ネットで気になっていた作品を数冊買い、レジに並んだ。彼女はまだ本を見ているらしい。BL作品を両手に抱えて持ってくるとかは流石にやめてほしい。ないとは思うが。
変なこと考えていると、隣のレジに何冊か本を重ねて持っていた若山さんが並んでいた。
「け、結構買いましたね」
「うん。面白そうだったから」
若山さんが俺に話しかけてた。
「若山さんもまぁまぁですな」
「は、はい。どれも大好きな作品です」
頬を若干上気させるその様は本気でBLが好きな事を匂わせてくる。さすが腐女子。
ちなみに彼女のバッグからはあれはもう見えていない。
「そう」
「はいっ」
その後レジで会計を済ませた俺達は本屋から退店し、俺は少し世間話をして帰ろうと思ったのだが、
「あ、芦田君っ。あ、あのこの後、よ、用事ありますか?」
ものすごく動揺した言い方で質問してきた。俺は基本的年中暇ですから大丈夫なのだが・・
「まぁ大丈夫だけど」
「あ、あの少し、お、お、お茶でもどうですかっ」
「・・・・・・・・・・・・・ㇷ゚っ」
笑ってしまった。耐えていたのだがダメでした。
一生懸命に頑張ってるのは分かっているのだが、オドオドした様子と小動物みたいな愛くるしさに負けてしまいました。
「あっい、今、わ、わらいましたねっ!」
「・・・い、いや?・・・・・・ㇷ゚っ」
「ほ、ほらっ今わらったっ」
彼女が怒るその様に、ぷんすかぷんすかと擬音が聞こえてしまいそう。なんでこの子がボッチなのか分からくなりそうだ。
「そ、それよりなにか用事があるんだろ?」
「むぅ~・・・はい」
不肖不肖といった様子で頷く若山さん。すみません。早く話を切り替えないとまた笑ってしまいそうなのです。
「それじゃあコンビニの隣にあるあのカフェでもどう?」
「あ、あそこですね。一度行ってみたいと思ってました。」
「そう。じゃあそこで」
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このカフェは創業1年で爆発的人気を勝ち取り、一気に有名店に上り詰めた期待のルーキーだ。
【Sun Jeriol】 サン・ジェリオール。若者は略してサンジェリカフェまたはサンジェリ、なんて呼び方で呼んでいるらしい。(クラスの話声聞き取り検定1級)
「す、すごいです・・・・」
「確かに綺麗だな」
2人で店内へと入る。なるほど、これは有名になるのも頷ける。凝り過ぎない内装。だが確かに繊細で微細なこだわりが見え隠れする。一言で言えば落ち着ける、そんな空間だ。
「それで、用事って?」
「は、はい。え、えっとですね。その・・・」
適当に空いていた2人席に座り、早速俺が話を振る。
「うん?」
「え、えっと、は、恥ずかしいのですが、あ、あのっ!」
俺は決して鈍感じゃない。上気した頬、定まらない焦点、恥ずかしそうに言いあぐねるその態度、このタイミングでどんな会話が成されるのか位、鼻から分かっている。だが敢えて気づかない振りをしているだけだ。
鈍感なふりをするのはちょっと疲れるな。
「ど、どうやったら芦田君みたいに強くなれるかっ教えてくださいっ!」
「・・・・へ?」
「へ、へ?・・・・あ、あのですから、芦田君みたいに強くなりたいんですっ」
「・・強くなりたい?」
ごめん。全く分からん。
「は、はい。芦田君はいつも独りですがそれを意に介していない。というか、全く気にしてませんよね?わ、私はその強さが欲しいんです・・・芦田君みたいに、周りにどう思われようと確固とした己の信念を貫けるその強さが・・・」
「・・・そ、そうですか・・・」
「はいっ。で、ですので芦田君に教えてほしいのですっ」
悲しい、悔しい、苦しい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
様々な感情が俺の思考を妨げる。
そのタイミングでそれはないですやん。あの場面は誰でも絶対告白って思うでしょうがっ。この子分かっててやってたら相当腹黒いですわよ。まぁこの子に限って無いとは思うが・・・それにしても、平気で俺の事ディスってるの気づいてるのかなこの子。まさしく天然の所業である。
「・・・はぁ、一応言っとくけど俺は全く強くないよ」
俺が強いのであれば、全世界の高校生は全員最強ってことですかね・・・・・虚しい思考をさせないでほしい。
「で、でもっ芦田君は、そ、その私と一緒でボ、ボッチで、だけど私と違って、全然気にしてなくて・・・・」
確かに気にしていないのは事実だが、憧れていないと言ったら嘘になるかもしれん。だが、なんか友達と一緒に遊んでて楽しそうだなー、という程度だ。
俺は今の生活でも十分満足しているし、変えようとは全く思わない。だが、確かに何か噛み合わない、と思ってるのも事実だ。もっと何か出来そう。行動に移さないくせに、そう思ってしまう。
結局は・・
「
「・・・・・」
「だから、俺は強いんじゃない。そもそも最初から
「・・そ、そうなんですか」
「そう。そういこと。若山さんがボッチを卒業したいなら、きっと誰かにアドバイスを貰うより、自分から行動しないと根本的な解決にはならないと思うよ」
「そう、ですよね・・」
ショボーンである。そんな目見みえて悲しそうにするのは卑怯だ・・・
「・・・俺で良かったらその、手伝いするけど・・」
「っ!ほ、ほんとですか!」
「う、うん」
「あ、芦田君に協力して貰えるなら百人力ですっ」
調子のいいこと言っちゃって、全く、全然嬉しくない。あぁ全く嬉しくない。
「そ、それではよろしくお願いします」
握手の手を差し伸べてくる若山さん。乗り掛かった舟だ。最後まで付き合おう。
「うん。よろしく」
この日、以前から俺の中で勝手に思っていた、彼女との『ボッチ同盟』が予期せぬ形で体現化された。
~あとがき~
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