第13話 ホウレンソウは大切に

 さっきの騒動から数分後、ようやく落ち着きを見せた妹と母を、父と協力してダイニングにあるサークルテーブルに座らせる。母は腰が抜けていて、物凄く大変だった。見かけによらずちょっと重かった。


 一体全体何があったのかと心して尋ねてみると、返ってきた答えは予想を遙かに超えすぎて、口があんぐりと開いた。文字通りあんぐりと、だ。


「俺がいつまで経っても帰ってこなかった?」


「ああ」


「・・・・・・」


 妹と母は、未だ会話できる状態ではないのか鼻をすすりながら黙っている。

 

「・・・どういうこと?」


 いや、全く意味が分からん。帰ってこないといっても、まだ7時台だ。高校生なら普通ではなかろうか。っていうか、千恵っお前そろそろ離れろっ。


「いやっ!」


 駄々っ子かよ・・・さっき俺に抱き着いた時からずっと同じ状態な千恵。こいつはこうなると治るのに物凄く時間が掛かる。こっちは疲れてんすよ・・・


「そのくらいの事で、こんな慌ててたのか?」


「「「そのくらいのこと?」」」


「っ」


 面白いくらいに声が重なった3人。咎めるようなその視線に、俺の首元には冷たい汗が通る。


「私達がどれ程心配したと思ってんのっ!いつまで経っても帰ってこないから、警察と学校にもさっき連絡したし、お友達のにも連絡したのよっ!!あんたはこれまでっ、一度たりとも6時を過ぎて帰ってきたこと無かったじゃないっ!しかも5時を過ぎて帰ってきたのはここ数年で、たったの一回だけっ!今日もいつも通り学校から真っすぐ帰ってくると思ってたのに・・・いつも武流が家に着く、4時50分にあんたが帰ってない事に気づいて焦ったわ」


 でも、と母は繋げる。


「武流が無事に帰って来て、ほんとに良かった・・・・」


 すごい剣幕で喋っていた母は席を立ち、俺の前に立つと優しく包むようにハグをしてくれた。




 ・・・・・・・・・・これは怒られてるんだよな。うん、怒られてるはずだ。すっごい馬鹿にされてる気もしなくもないが、あの涙を見る限り本気で俺のことを心配してくれたのだろう。

 

「ご、ごめん」


「うん、うん。よがったなぁー。だげるがぶじで父さんうれじいぃぞ」


 この家族で一番涙もろい父が、とうとう涙腺を決壊させた。見栄っ張りな父に、よく耐えたぞ、と後で母が褒める姿が思い浮かばれる。


「で、なんでこんなに遅くなったのか理由を聞かせてくれる?」


 母が真剣なまなざしで問うてくる。そこで俺は今回の事の顛末を話した。


*************************************


「そういうことね・・」


「あぁ、母さん達が心配するようなことは何も起きてないよ」


 なにか犯罪に巻き込まれなかったのか、と執拗に問われたがないものはない。


「その女の子は無事に送り届けたの?」


「あぁ」


「それにしても・・・ほんとに・・」


 テーブルに肘を乗せ、頭を抱えながらハァと深いため息を吐く母。

 俺が今回の出来事の仔細を話している最中に警察官が到着し、訳を話し速攻で帰らせるという暴挙に出た芦田家。本当にすみません警察官の方々。帰って行く際ブツブツと何か言っていた気がする。


「あんた連絡しなさいよ・・・・」


「それはほんとごめん」


 今回の件で俺が悪かったのは分かっているが、釈然としないのは何故だろう。


「また来週からその子送り届けるんでしょ?」


「うん」


「あんたは大丈夫だと思うけど夜遅いんだし、出来るだけその女の子には早く帰るように催促しなさいよ」


「それは俺も考えてる。毎日7時30分に家に着くのはちょっときついからね」


「それがいいわ」


 そう言い終わり母は席を立つ。キッチンへ移動しながら、夕飯にしましょうかね、と言うが


「あっ夕飯作るの忘れてた・・・」

 

「「「・・・」」」


「・・・今日は外食にしよっか」


 現在8時。重たい腰を上げ外出の準備をする。

 俺のことで頭がいっぱいで、夕食を作るという事が頭からスッポリ抜けていたのだろう。俺も最近物忘れが激しくて少し心配。ていうかっ・・・


「はんなんれろっ」


「いやっ!」


 はぁ。


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 今日も疲れた。あの後近場ちかばのファミリーレストランで夕食を食べた芦田家は、スーパーによって適当な物を買って帰った。その際も妹がベッタリとくっ付いてきて周囲の目が痛かった。

 そして今現在も・・・


「おい千恵、自分の部屋で寝ろ」


「・・・今日は一緒に寝る」


 ボソボソと小さな声で喋る千恵。このアマ、俺が優しくしとけば付けあがりやがって・・・


「なんでそうなるんだよ・・」


「兄ちゃんがまたどっかに消えそうだから」


「今日のことはずっと聞いてたろ?何も無かったって」


「それでも今日はホンとに怖かった・・」


 こいつは変に俺に依存している節がある。これは決してブラコンなどではないと思っているのだが、最近は鬱陶しいと感じている。適度なスキンシップなら嬉しいんだけどね。

 から俺にベッタリだった千恵は、俺の周囲の人間を見定めるような、見極めるような目線で見つめ、どこか執拗さを感じさせる程その人間を調


「はぁ、寝るとき抱き着いても知らんぞ」


「うんっ」


 いそいそと俺のベットに入ってくる千恵。俺のお気に入りのシャンプーの香りがする。先日使い切ったので、さっき寄ったスーパーで買った。


「早めに寝ろよ」


「分かったっ」


 何をそんなウキウキしてるんですかね。翌日の遠足を楽しみにし過ぎて、前日の夜からウキウキする小学生みたい。


「・・・・」


「・・・・兄ちゃんは・・・古瀬先輩と・・・・付き合ってるの?」


 眠そうな声で、途切れ途切れ聞いてくる千恵。


「んな訳あるか。あんな美女と俺が付き合えるかよ」


「ふふっ・・・・・」


 そう笑って間もなく、静かな寝息を立て千恵は眠りに入った。

 ふと背中に感触感じ、横に向けていた体を仰向けすると、千恵が気持ち様さそうな顔で俺の体に手を回していた。俺は抱き枕じゃありません。千恵の手をそっと外す。

 俺も寝ましょうかね。明日は土曜日。本屋でも行って面白い小説を発掘しに行こう。



 それからすぐに意識は薄れていった。


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 窓から入ってくる光が俺の瞳にダメージを与えてくる。重たいをレバーを引くようにゆっくりとした動作で体を起こす。

 あれ?俺って床で寝たっけ?何故か頭や背中に鈍い痛みが走る。寝息が聞こえるベットの方へ視線を移すと、千恵がうつ伏せになりながら大の字を書いて寝ていた。


・・・あぁ、千恵の寝相が凶悪なこと忘れてたわ。






~あとがき~


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