クロウドセブンスロート

エリー.ファー

クロウドセブンスロート

 私は、自分の生き方を見直そうと考えていた。

 それが、重要な今の自分にとって大切であることは明白だったのである。

 誰かに何を言われた訳ではない、自分にとっての成長という要素が今、ここでならば数限りないほど、手にできると心から思えたのだ。

 自分を想う。

 これほど難しいことはない。

 虐待を受けていたことも何かきっかけとしてあげられるのではないか、と思う。

 私は、自己肯定感が低い。

 というか。

 自分で自己肯定感が育たない方向に向かって歩いてきた。

 それがまた、なんとも努力をしないで済む方向であるので、甘美なのである。

 誰かに頼り、誰かの肩書にすがり、生きていくことの意味を、少し考えるべきだった。自分を少しばかり、蔑ろにしすぎたのだと思う。自分を愛するという考えが当たり前のようにできたら、こんな人生ではなかった。

 自分を愛してもらうことが、何の意味もないということをもう少し早くから気が付くべきだった。

 他の誰かは私とは別れるのだ。

 でも。

 私は私とは別れられない。

 それなら。

 私が私のことを愛しておかなければ私はいつまでたっても一人きりではないか。

 本当に。

 孤独ではないか。

 洞窟の中で、老婆になってもそんなことを考えているものだから、こうして死ぬ間際になっても誰も助けにはこない。ふもとの村では噂になる程度のそれくらいの役割しか持っていない。たまに来る子供は洞窟の奥に向かって石を投げ込んでくる。中に住んでいるとされる、老婆に当たればいいと思っているのだろう。

 死体になっていても。

 中に誰もいなくとも。

 もう、それは別にいいのだ。

 私のような人間が存在しているということに意味がない。そこに何かがいるのではないか、という、自分の妄想と遊んでいるのである。存在意義を見失いそうになるそんな邪気のない、純粋さが狂気を持ってくることをこの年齢で思い知らされる。

 築いてこなかったことが悪いのか。

 いや。

 築いてきた。

 しかし。

 築いてきたものが気が付くと全くの無意味になるということを教えてもらえなかったのだ。

 哀れだ。

 哀れだ。

 涙が出る。

 そのうち、足が動かなくなり、腕が動かなくなり、首が動かなくなり、口が動かなくなり、瞼が動かなくなる。

 耳が何の音も拾わなくなると、私は静かに、覚悟をする。

 好きでするのではない。

 そういう時間がもう間もなくやって来る、ということなのだ。

 これは、死だろう。

 私が思っていた死だ。

 洞窟の中で、私の魂が反響する音が聞こえてくる。

 それは、自分を見失いそうになることで、求めだす、最後の性欲に思えた。

 自分がまだ枯れてはいない。

 自分はまだやれるのだ。

 不思議と死を間近に感じながら分かって来るのだ。こんなにも怖いことはない。間もなく死ぬというのに、生きていなければできないことが、次から次へと頭に思い浮かんできてしまう。

 うるさい。

 失くしてしまいたい。

 死にたい。

 何も考えず、何の未練もなく死にたいのに。

 子どもを産みたかった。

 愛されたかった。

 家族を持ちたかった。

 美味しいものを食べたかった。

 勉強をしたかった。

 毎日必死に生きればよかった。

 もっと自分の思うままに生きればよかった。

 何もかも。

 何もかも、なくして、静かに気が付く。

 

 まだ、お前はここじゃないだろう。

 早く帰れ。

 二度と来るなよ。

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