第9話 対魔王戦 その1 バカは死んでも治らない。

「ふっ、魔王以外は雑魚だな」


魔王を殺した勇者は、確かにそう言った。


勇者は、パーティー仲間にそう言った。


そのパーティーとは、


神聖術を使える女性司祭。


聖女ではない。


相手の攻撃を逸らしたり、受け止めたりする専門職の女防対師。


いわゆるタンクではない。


勇者と共に戦闘に参加し、バックアップなどを行う女戦士。


闘士ではない。


罠などを発見、除去する女盗賊。


いわゆる罠師ではない。


強大な魔法を扱う、女魔法使い。


魔導師ではない。


パーティーは、勇者以外は全員女性である。


無論、勇者が数居る者の中から選択したのだが、誰一人勇者のことを良いように思う者がいないのが特徴だ。


むしろ、嫌ってる。


ハーレムと言えば、対外的には憧れ?の対象なのかもしれないが。


「ふっ、これで俺のことを見直したか?」


勇者は、そう言うと何故か固まっていた女性陣の方を見たが…


「バカね。どこまで言ってもバカは治らないものよ。私、バカは相手にしないの」


けんもほほろろな女盗賊。


「そうね。私も、バカはダメかなぁ。論外だし」


追従する女戦士。


「賛成!こんなやつ放置して帰ろうよ」


他の者に比べて、年齢が低いように見えてしまう女防対師。


「全く。バカは救いようがないわね。そこの女魔王さんも、そう思うでしょ」


女司祭が、そういう。


「ふふふふ、なんだ知られていたか」


「ええ、勇者はバカですので」


「同感だ」


何やら、魔王と結託していたような会話だなと思っていたが…。


「ふん、もう一度倒せば良いことだ。今度こそ沈め!」


「こうか?」


その言葉と共に単に上から振りかぶってくる剣の背を摘まむ。


「バカな」


剣の腹、すなわち刃の方ではない方を摘まむのは、至難の業だ。


「バカは、おまえだ」


「バカな、バカな、バカな。俺がこの世界で最も強いはずだ。こんなやつに負ける訳がない」


そう、魔王に反論する勇者だったが…


「バカは治らない」


「バカは論外」


「バカ、放置決定」


「バカは、救えない」


「魔王さん、私たちと行きませんか?バカの相手にしないで」


「おお、それもいいな。これから頼む」


「はい~」


「おまえ達も来い」


「は、ははぁ~」


魔王城に入っても、見向きもせずに魔王の間に突入していた。


魔王を滅せれば、他の魔族など死滅すると信じて。


もちろん、魔王も、その他の魔族も勇者のバカは知っていた。


…いや、本人以外の全ての人は知っている。


あれはないと。


だから、無理難題をふっかける者がいなくなれば、平和になるというもの。


勇者が、隣接する魔国の王。


魔王を討つと言い出した。


勝手に選ばれた者たちが、好印象を持つはずがない。


「おい、どこへ行く」


「はぁ…、帰るのですよ」


「魔王を討伐しないで帰るなど、あり得ん」


「じゃ、さよなら~」


「ちょっ…」


女魔法使いと魔王の同調魔法で帰ってきました魔王城。


「しっかし、よく出来てたよな」


「あ、あのハリボテでしょ」


「そうそう」


「うちの大道具が張り切っちゃって」


「もう寝たいぃ~」


「あら、ごめんなさい、客間に案内してあげて」


「魔王さま、く・ちょ・う」


「やめて~、あれ、疲れるの」


魔王さまは、魔国の王だが、国民の絶大な支持を得ている。


というか、国民という名のファンクラブみたいな感じで、おっとりした雰囲気が受けている。


ほとんど地面とお友達になっていた防対師…


いや、戦士見習い。


は、客間へ。


「最後まで気がつきませんでしたね」


そう言うのは、女魔法使い。


「見た目は、そっくりなんですけれどね」


魔王。


「双子に見えないのかな」


司祭。


「いやいや、よく見ればあの子以外はそっくりでしょうに」



「何が琴線にかかったのか分からないし、分かりたくもない」


魔王と魔法使いは、双子である。


魔王が魔国のアイドルなら、魔法使いは隣国のプリンセスである。


もちろん、司祭も魔国に行くとアイドル化するが。


盗賊と司祭も双子。


ただし、司祭が信奉する神は、罠神。


盗賊と同じである。


裏(?)のアイドルと言えば、いいのだろうが。



勇者は、魔国の大道具係によって作られた城の中で、脱出方法を探していた。


隔絶された南国の島。


直に、大雪が降る寒期が来る前に…。


しかし、バカな勇者は、女魔法使いの大規模転移術によって、来たことを忘れていた…。

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