剣聖学園のパラノイア ~御伽の使徒による闇黒英雄譚~

暁 葵

第1話 『魔剣王』 襲来

 剣技や武術の発展した世界唯一の剣聖国家…キャメロス王国には、唯一無二の学園が存在する。

 王立アヴァルス剣聖学園――この学園では、数多の稀代の天才剣聖が輩出されている。ある者は世界を破壊し尽くす最強の魔獣・《黒竜》を討ち取った者。ある者は一つの国を救済した英雄…数えきれない剣士が、このアヴァルス剣聖学園を卒業しているのだ。

 そんな名門校は現在、喧騒としていた――。


「なぁ、聞いたか?」「ああ、転校生が来るらしいな」「それも剣術を学んでいない無能だとよ」「学園側もとち狂ったか?」

 ここは剣聖学園の高等部二年C組の教室――生徒たちは転校生が来ることに、不満を抱いている。本来、転校生が来るとなれば、歓喜するものだが…今回ばかりは喜べなかった。

 何故なら、今日来る転校生は…剣術や武術を一切として習わないでいきなりこの学園に来る”無能”なのだから。

 このアヴァルス剣聖学園は本来、剣術や武術に長けた人材を入学・転校させる。優秀な剣聖を養成するためには、それなりの技術や知識も必要なのだ。

 そんな実力主義な剣聖学園に何の学習もしていない”無能”がやってくるのだ。普通なら「何を考えているんだ?」と嘲り笑いたくなることだ。

 生徒らが談話していると、教室の扉が開かれる。その先に居たのは二年C組の担任を務めているエルム=クリストフだった。

「静かにしろ。知っての通り今日から新しい生徒が増える。…入ってきたまえ」

 エルムは早速転校生を教室内に入れる。

 そこに居たのは、臙脂色の乱れた髪と鋭利な目付き、漆黒の瞳…如何にもな奴だった。

「どうも、今日からこの剣聖学園の二年C組の生徒になります、ルキ=レヴァンティンです。宜しくお願いします」

 転校生…ルキは、その兇悪そうな外見とは裏腹に礼儀正しく挨拶をする。その真面目な挨拶に、生徒たちは期待を寄せていた。

 ――しかし、その期待は一瞬にして粉砕された。

「――と、はこれでいいかな?」

 ルキは意味深げな言葉を呟き、さっきまでの硬い表情から、悪魔のような下卑た笑みへと豹変した。

「テメェら、花園での生活は楽しいか? お前らは剣聖? とやらになるべく、鍛錬積んでるが…無駄だ。ホント馬鹿な奴らだよ、お前ら」

 突如、ルキは生徒たちに対し全てを部所するような言葉を吐き捨てる。

「ああ? テメェ、ふざけんな!!」「無能が喚くな!」「そうだよっ!」

 生徒たちの反感を買ってしまう。当たり前だ、無能と揶揄される転校生に己を、己のプライドを愚弄するような言葉を吐かれたのだ。憤慨せずにはいられないだろう。

「事実だろ? 世界を維持している魔獣を狩り殺したり、己の障害と思ったものを悉く殺す剣聖なんて、所詮破壊者でしかない…夢は諦めろ」

 剣聖に対し、やけに否定的なルキは、生徒たちを嘲り笑うように見つめる。

 エルムも流石にルキを引き留めようとするが、先に退いたのは張本人ルキだった。

「ま、夢見がちなのも良いことだ。俺は決して剣聖を否定しない…人を殺すには優秀な存在だからな……宜しく頼むよ」

 ルキは最後の最後で侮辱する発言を残し、適当な席に座り込む。周囲の生徒からは、親の仇を見る様に睨み付ける。


 


 

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