5-5

 日曜日の午後、いつもの様にログインしました。

 手早く日課をこなそうと思ったのですが、今ユニコーンを召喚すれば、夜のログインの落ちる前にもう一度召喚出来ますね。今日は昨日の午後と同じことをするつもりなので、召喚することはなさそうですし。


「【ユニコーン:治癒の波動】」


 完全に空撃ちです。もしこれで他の二つの開放条件が使用回数ではなかったら完全に無駄になります。まぁ、ダメならダメでちゃんとした条件を探すだけですし、ユニコーンに触れたので満足です。

 そして、日課も終わったので、クランハウスを飛び出します。

 ええ、目的地は決まっています。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、相変わらず騒がしいのう」


 かなり久しぶりに来た気もしますが、やはりこの反応、落ち着きます。


「ちょっと聞きたいんですけど、発動した魔法を自由に操る方法ってありません?」


 今回の目的はこれです。ファイアストームもそうですが魔法を自由に動かせれば面白いことが出来そうですから。


「そうじゃのう。嬢ちゃんの技量なら会得は出来るが、アレにはちゃんとした場が必要じゃ。東に二つ行った街に魔法学院がある。そこで習うとええ」


 なるほど。つまり、魔法を自由に操れるようになりたければマギストへ行けということですね。ですが、マギストへ行くために魔法を自由に操れるようになりたいわけなので、どうしようもないですね。

 ここでそこを何とかと言ってしまうと、あるかわからないオババの好感度が下がってしまう気がするので、今回は諦めましょう。


「それにしても、癒やしの聖獣の力を得るとは、相変わらずじゃのう」


 おや、ユニコーンのことがバレましたか。流石にリジェネの効果時間は終わっていますが、わかるものなんですねぇ。


「ユニコーンの治癒の波動って技ありますけど、他のってどうやったら使えるようになるんですか?」

「そんなもの決まっとろう。その聖獣の力に慣れることじゃよ。幾度となく使い熟せば、自然と秘めた力もわかるはずじゃ」


 うーむ。つまり、使用回数しだいで開放されるということですね。さてはて、MMOでは、試行回数千回や一万回なんてのはざらなので、いつになることやら。


「なるほど、よくわかりました。それでは失礼します」


 聞きたいことも聞いたので、オババの店を後にし、オールドトレントの元へと向かいましょう。


「小娘、一つだけ教えちゃる。古いだけの魔樹は中央にいる古の老冥樹が生み出したものじゃ。今のお前さんでは万全の奴と戦って倒すことはできん。そのことを肝に銘じておくんじゃな」


 なんとまぁ思わせぶりなことを……。それにしても、古の老冥樹ですか。ちょっとかっこいいじゃないですか。オババの言ったことを簡単にすれば、戦っても倒せないから、ちゃんと調べて手順を踏めということでしょう。せっかくならもう少し情報を漏らして欲しいものですが、ありがたく肝に銘じておきましょう。





 前回とは違い、何らかの手順が必要と肝に銘じてから、木の枝を跳び回りオールドトレントの群生地までやってきました。前回の続きをしようと思ったのですが、微妙に変化していますね。丸いカーペットの端を少し丸めたかのように燃やしたのですが、他にも何ヵ所か伐採したような跡があります。私が焼き払った跡も焦げるわけではないので、他の人がどんな方法で伐採したのかはわかりません。けれど、何といいますか、範囲が魔法には思えません。これに関しては想像にすぎませんが、魔法使いがいない可能性があります。まぁ、魔法使いなしでホワイトウルフの群れを突破できるのかは知りませんが、誰か来たことだけは確実です。

 再生はしていないようなので、根を削ってたどり着くのが、正攻法なのでしょう。流石に1kmはありませんが、その半分くらいは根が生い茂っているので、気の遠くなる作業ですね。

 ここに来ているのが私だけでないと思いながらも、こうして他の人が来ている証拠が目の前にあると、このまま続けたくなくなります。

 そこで、まずはフレアボムを使って適度に穴を空けながら一周し、根の状況を確認しました。すると、私が削ったこの場所以外は誰の手も入っていないようでした。そこで、反対側へ移動しこちら側の根を焼き払うことにしましょう。燃やしている途中で他の人が来て絡まれても面倒ですし。

 ここでは威力が必要なさそうなので、閃きを使う必要はありません。

 それでは魔法陣を5つ描きます。その際に、地一直線に5つ並べて配置します。遠くに配置した魔法陣には少し多めにMPを使うことになりましたが、直接オールドトレントを狙う時と比べれば、微々たるものです。


「【ファイアストーム】」


 これで大体25mですかね。何となくですが、記憶にある学校のプールと同じくらいな気がしますから。

 一度道を作ったら、距離を伸ばすのに使うMP量を確認するために中央のオールドトレントをエクスプロージョンで焼き払うことにしました。遠隔展開の後に残りのMPをつぎ込むのですが、前回の時の消費量を目で覚えてその分を残すようにしているので、だいたいこのくらいということしかわかりませんし、失敗してMPをつぎ込む分が少ないと倒せなかったりすると、MPの回復待ちをする機会が多くなってしまいそうですね。

 ちなみに、一度目は5%くらい残りましたが、先は長そうです。


「【ファイアストーム】」


 これで二回目です。この後もエクスプロージョンを使ってみたところ、残ったMPは10%より少し少なかったくらいなので、距離が増えれば増えるほど、消費MPが増えるか、誤差のどちらかです。

 流石に一回道を作るごとにオールドトレントを焼き払っていては時間がいくらあっても足らないですし面倒なので、切のいいところまで道を作ってからオールドトレントを焼き払うことにしました。

 時間がかかりましたが何とか半分くらいの所までやってきました。それなりの数のオールドトレントを倒しているせいもあり、根で覆われている場所の直径が縮んでいる気がしますね。さらに、中央にいる一際大きなオールドトレント(仮)の一部も見えています。ええ、密集しているオールドトレントを一直線に倒していったかいがありましたよ。今なら識別で捉えることも出来そう……、ふむ、遠望視も使ったのですが、弾かれてしまいました。見える部分が少ないせいなのか、何かしらのギミックがあるのかは不明ですが、周囲のオールドトレントを減らせばわかるでしょう。

 不完全燃焼ではありますが、そろそろ時間なのでログアウトです。





 夜のログインの時間です。日課をこなしてから前回の続きをやりに来たところ、途中で物理職だけと思われるパーティーを見かけました。まぁ、遠くから見かけただけなので、魔法使いもいるのかもしれませんが、ホワイトウルフの群れとエテモンキーを同時に相手にしており、かなり苦戦しているように見えました。もしもオールドトレントの群生地に到達していたパーティーだとしたら、気にしなくていいかもしれませんね。

 群生地までやってくると、見た限りでは広がっている根が伐採された跡はなさそうです。とりあえず、フレアボムをばらまきながら反対側へと移動しましたが、やはり、根は再生しないようです。

 それでは根を焼き払いましょう。


「【ファイアストーム】」


 何度か繰り返し、もう少しで射程を伸ばさなくてもいいくらいになりそうです。何せ、道の入り口よりもオールドトレントの方が圧倒的に近いですから。

 それでは、次のために進みま――。


「ちょあぶ」


 いきなり何かが飛んできました。何とか回避したと思ったのですが、頬からダメージエフェクトが出てHPがそこそこ減少しています。そりゃそうですよね。向こうの方が射程距離が長い可能性だってあるんですから。飛来物の速度が速かったので何かはわかりませんが、きっと葉っぱでしょう。トレント系ですし。もし今のが蜜を飛ばしてきたと言われたら……、とりあえず集めますかね。


「うーむ。とりあえず横を少し削って目印をっと」


 道はもう少し先まで出来ているので、相手の射程距離の目印を作る必要があります。そのため、両側にフレアボムを放ちました。これで、間違って進むことはないでしょう。

 ここから先はどうしましょうかね。思いつく方法としては、外周をぐるっと削るか、ここからオールドトレントを焼き払うかの二つです。オールドトレントの数を減らせば、直径が少し短くなるようなので、オールドトレントを直接焼き払った方が効率的でしょうね。それではあの中心にいる大きなトレント系の正体も気になるので、視界を開くように倒します。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……


「【エクスプロージョン】」


 多くのMPを使うので何度も休憩を挟みましたが、一際大きなトレント系がその姿をほぼ顕にしました。ドロップしている上質な炭の数から判断するに、現状で20体を倒したことになりますが、ここ以外から見れば、まだ多くのオールドトレントがいるとは思います。減った数は半分もいっていない気はしましすが、流石に100体を大きく越えるということはないでしょう。

 まぁ、それはさておき、あのトレント系の正体を見せてもらいましょう。

 今なら識別のターゲットに指定できま――。





「へ?」


 気付けばHPが全損し、エスカンデの教会にいました。ステータスにはデスペナルティの表記があるので、何かにやられたようですが、オールドトレントの間合いに踏み込むようなヘマはしていないはずです。

 HPが全損する直前に見たものを思い出してみますが、たしか……。

 そう、トレント系には木の洞らしきもので出来た目と口に見えるものがあります。けれど、あの中心にいたトレント系にはそれがありませんでした。始めの頃は胴体部分が隠れていたので気にしていませんでしたし、数が減ってきた頃には、そういうものだと思いこんでいました。けれど、識別のターゲットにした瞬間、邪悪な面構えを見せ、何かを飛ばしてきました。あれが詠唱反応なのか、オールドトレントを全部倒していないせいなのかはわかりませんが、情報が不足していますね。オババからの忠告を肝に銘じていましたが、やはり行動に移さないとだめなようです。

 デスペナ中なので、生産をする気にはならないので、図書館へ行って調べ物をしましょう。ええ、私は肝に銘じたことを行動に移せる人ですから。

 久しぶりに図書館を訪れました。ここにはフリーワード検索機能があるのですが、結局、あのトレント系の名前がわからないので、直接調べることは出来ません。オババは『古の老冥樹』と言っていましたが、オールドトレントなら古い木ですよね。とりあえず、下手に勘ぐらずにそのまま調べましょう。


 その結果、何冊か出てきましたね。おっと、言語学のスキルレベルの問題で読めない本も出てきてしまいました。久しぶりだったので、現在のスキルレベルで読める本のチェックボックスにチェックを入れるのを忘れていました。それにしても、タイトルすら読めないとは、酷い仕様です。

 読める範囲の本だと……、おお、【古の老魔樹】とかいういかにもなタイトルの本がありますね。えーと、おやおや、ふむふむ。タイトルはエルダートレントのことのようですが、時折突然変異で属性を持ったエルダートレントが発生するそうです。大昔に闇属性を手に入れた個体を老冥樹と呼んだそうで。まさしく、これのことですね。特徴としては闇属性を持ってしまったために、闇属性の魔力が近くにないと休眠状態になってしまうそうです。ただ、その前に自身を守るためにオールドトレントを大量に生み出すとか。何というか、これじゃないですか。


 木にしては耐火性能があるらしく、いくら火属性魔法で攻撃しても炭にはならないそうです。これは言い換えればどう倒しても木材が手に入るということでしょう。後は……休眠状態では、敵意に反応する、つまり、詠唱反応ですね。後は倒し方が見つかればいいのですが。えーと、日の光に弱く、耐久力の高い葉を生い茂らせると。ただし、それが散ると一気に弱る、ですか。

 根の代わりに葉を散らせばいいとも取れますが、位置が高いですね。火か風属性か、ボムなら何とかなりそうですが、除草剤とかあると便利そうですよね。ちょっと調べてみましょう。

 えーと、あ、2種類ありますね。調合で作る場合と錬金で作る場合で微妙に違う効果を持った除草剤が作れるそうです。調合では主に畑で使うようで、MOBに対して使うには錬金で作るようです。詳しいレシピは載っていませんが、対象の素材を使うことで、特化品にすることが出来るそうです。とりあえず、今度オババに聞きに行きましょう。

 ユニコーンのクールタイムも終わっていますし、明日は学校なので、召喚したら今日はログアウトです。





 月曜日、夕方は宿題やら何やらで忙しかったので、夜にログインします。

 日課をこなすためにクランハウスでの作業を終えたら生産クランへ足を運びます。不滅の水を納品し、代金を受け取りました。生産クランはいつもどおり10,000,000Gです。後、ザインさんの方は先週分と今週分を回収したので1,000,000Gですね。おや、生産クランの方は次回の分から納品数を半分にして欲しいと連絡が来ていましたね。それでは了承しておきましょう。流石にずっとやるのは面倒ですから。

 前もって時雨の空になっている樽も中身が入っている分と交換してきたので、これから補充に行きます。

 ………………

 …………

 ……

 さてはて、これで今日の日課は終了です。平日は長時間のログインも出来ないので、次は何をしましょうかね。ゆっくり腰を据えて何かをする気にもなりませんし……。

 そんなことを考えていましたが、座って考えているのも時間の無駄なので、オールドトレントの群生地へとやってきました。ここへの移動も慣れてきましたが、そこそこ時間がかかるので、何かをしてから来るには向きませんね。根の広がりは恐らく変わっていませんし……おや?

 今までなかった物が刺さっていますね。これは樹皮のようですが。ここは……。

 あ、もう少し先が昨日私が識別を使った場所のはずです。なら、ここはあの時飛ばされた何かでしょう。ちなみに、ちゃんとしたアイテムのようで、識別の結果がこれです。


――――――――――――――――

【伽藍堂の樹皮】

 ダークエルダートレントの樹皮

 洞に溜め込まれている

 力の抜け殻として捨てられた物であるため、周囲から力を奪おうとする

――――――――――――――――


 何ともまぁ、ちょうどいいものですね。除草剤を特化品にするのに使えそうですよ。どうせならもっと欲しいのですが、昨日と同じ位置で識別を使った場合、昨日と同じ轍を踏むことになります。そのため、限界まで下がって、……周囲の木に登ってから識別しましょう。根が広がっている場所の更に外側ですから、流石にそこまでは届かないはずです。

 そう思って試したところ、無事に成功しました。しかも、ダークエルダートレントという名前と闇属性で属性値が大ということまでわかりましたよ。闇属性の大って光属性で攻撃したら弱点の補正で凄い倍率になりそうですね。流石に極大までいきませんが、今度試してみましょう。

 ちなみに、しっかりと洞を開いて樹皮で攻撃してきました。ただ、途中で失速して地面に落っこちたので、安全に回収出来ました。何度か繰り返しましたが、どうやら最初に根があった場所までが射程距離内のようです。ただ、詠唱反応しかしないようなので、ターゲット指定しない限り攻撃してくることはありません。……倒せるんですかね。

 樹皮を飛ばす攻撃にもクールタイムがあるようで、連続で識別を使っても毎回必ず樹皮を飛ばし来るわけではありません。攻撃間隔は1分くらいでしょうか。

 木の上で識別をして、飛ばしてきた樹皮を回収しに行く。それを繰り返していましたが面倒ですね。わざわざ回収行くのではなく、射程ギリギリの辺りで識別して回収を繰り返しましょう。そうすれば、登り降りしなくてすみますし。

 ただ、一撃で私のHPを全損させるような攻撃なので、念のためにエリアシールドを使います。遠距離攻撃ですから。

 それでは、毎回刺さっているのが、この辺りで、余裕を持って下がり……、識べ――。


「きゃ」


 識別を使った瞬間、洞の目と口が開き、樹皮が私へと真っ直ぐ飛んできました。その一撃がエリアシールドを粉砕し、私の胸元へと吸い込まれます。HPを半分ほど削る威力により、後ろへと吹き飛ばされ、尻もちを付くという結果になりました。


「いてて」


 痺れる胸元から樹皮を抜き、ハイヒールを使って減ったHPを回復させます。まったく、軌道が違うから届く距離が違うのならそう言って欲しいですよ。さて、HPも回復したので、さっさと立ち上がって移動しましょう。いきなり追撃されたくはありませんから。

 一応周囲を確認しますが、時雨の気配はありませんね。尻もちを付いたとはいえ、足を開いた体勢を見られたら怒られてしまいますよ。……かなり本気で。

 今度は木の影に隠れて射程距離を測りましょう。念の為にエリアシールドを張れば、完璧ですね。それでは今度こそ、識別。

 飛んできた樹皮は最初に根が広がっていた辺りまで飛んできました。その後も何度か確認しましたが、根よりも少し広いくらいの範囲がダークエルダートレントの射程距離だったようです。樹皮が60個ほど集まったので、ログアウト時の日課にするつもりのユニコーンを召喚してログアウトです。





 火曜日の夜、ちょっと時間があったのでログインしました。日課をこなした後は、もちろん、図書館で調べたことの続きです。


「オババオババー」

「何じゃ小娘、騒がしいのう」


 うんうん、これが基本の反応ですよね。


「除草剤を作りたいので、教えてください」

「除草剤をのう。何に使うんじゃ?」


 目的によって使うスキルが違うんでしたね。でしたら、ここは正直に言うべきです。


「ダークエルダートレントの葉を枯らしてやりたいんですよ」

「……やはりあの変異種に遭遇しとったのか」


 おや? 気付いていたんじゃないんですかね。……はっ。カマをかけられていたわけですか。やりますね。


「そうなんですよ。それで、葉を枯らすと倒せるかもしれないって聞いたので、除草剤が必要なんです」

「つまり、あの老冥樹の葉に特化した除草剤ということじゃな?」

「そうです」


 ダークエルダートレントの葉を枯らすことが出来ればいいので、汎用性はいりませんね。


「なら、火の力を持った石に、毒物、望んだ剤形にするための物、そして、特化品として、奴の体の一部が必要じゃ」


 うーん、材料を直接教えてくれと言ったら確実に好感度が下がりますね。まぁわかりやすいものがあるので、ちょっとずつ確認しましょう。


「火の力を持った石は赤色の欠片ですね。毒物は……」


 探せば毒草とかありそうですが、調合も生産も雑にしかやっていないので、知らないんですよね。うーむ、インベントリをあさってみますが、おや、いいものがありますね。


「紫色の鱗粉で代用出来ますか?」

「問題ないじゃろう。素材の質を会わせる必要があるから、結晶を使う場合はもっと強い毒物を用意する必要があるがのう」


 なるほど。赤色の欠片だから、鱗粉でいいというわけですか。後は、剤形にするための物と樹皮ですね。


「樹皮はあるんですけど、剤形にするための物って水じゃだめですか?」

「それでもいいが、少し弱いのう」


 少し弱いですか。流石に不滅の水を使うわけにも行きませんし……。


「あ、薬草の茎だけを溶かした奴って使えます?」

「水よりはいいが、、奴の樹皮があるのなら、そこまでの影響は出んわい」

「そうですか。なら、今回は水にします」


 劇的に変化するのなら用意しますが、作る必要のないものなら、いりませんね。


「次はどうするんですか?」

「4点錬金じゃからのう、工房が必要じゃ。小娘の技量じゃ、持ち運べる陣は使えんわい」

「あー、じゃあ、工房はあるので、そっちでやりますね。何か気を付けたほうがいいことってありますか?」

「気をつけるも何も、基本に忠実にやればいいんじゃよ」

「基本ですか?」


 よく考えれば私の錬金のレベル上げは基本値のポーションとかそんなもんしか作っていません。なので、基本なんて知りませんね。


「まったく、これじゃから……。何にでも共通しとるわい。しっかりと、結果を思い浮かべることじゃ。わかったらさっさと行かんかい」

「いえっさ」


 聞きたいことは教えてもらったので、早速クランハウスに戻って試してみましょう。工房自体は中級工房ですが、使えない設備が多いだけで、使えるものは使えます。まぁ、使えないものは何かすらわかりませんが。





 クランハウスに戻ってきました。ほとんど使っていない錬金工房へ入り、倉庫からポーション瓶をくすね、水を入れます。後は、紫色の鱗粉と赤色の欠片、そして、伽藍堂の樹皮を取り出します。錬金術の陣へアイテムを配置するのですが、配置する段階で必要個数を教えてくれる親切設計がされていました。えーと、鱗粉と欠片は2個必要ですか。鱗粉が122個、赤色の欠片が151個なので、樹皮とあわせて60個作れますね。なんというか、作為的な物を感じるほどにちょうどいい数です。

 準備も出来たので、余計なことは放り投げて除草剤を作ってみましょう。


「【錬金】」


 四種類の素材が光になり、一つのアイテムに変化しました。入れ物はポーション瓶のままなのですが、赤紫と茶色が混ざった毒々しい色合いをした液体が入っています。飲むものではないとはいえ、触るには勇気がいりますね。

 ちなみに、混ぜようと思い振ってみましたが、色は混ざりませんでした。


――――――――――――――――

【除草剤らしきもの】

 植物系モンスターに対し、微量のダメージを与える

――――――――――――――――


 はて、失敗ですね。何せ、らしきものなんて言われてますから。どこを間違えたのか……。あ、そりゃそうですね。余計なものを放り投げただけで作るものをしっかりと意識していませんでしたよ。

 それでは今度こそ、作るものをしっかりと意識して作りましょう。


「【錬金】」


 作成時のエフェクトには変化がなく、出来上がったものも赤紫と茶色が混ざった毒々しい液体のままです。これは何というか……。


――――――――――――――――

【特化除草剤】

 植物系モンスターに対し、状態異常を付与する

 特定のモンスター用に調整されており、対象モンスターに使用した場合、著しく効果が変化する

 また、対象外モンスターに対する効果が著しく下がっている


 対象モンスター:ダークエルダートレント

――――――――――――――――


 何か詳しく表示されましたが、これは成功のようですね。一見すると失敗したようにしか見えませんが、ちゃんとした除草剤、いえ、特化除草剤のようです。まぁ、具体的な効果はよくわかりませんが、葉を散らせば最大HPが減るのはダークエルダートレントの特性なのでしょう。

 これ、どうやって使いましょう。周囲のオールドトレントがいなくなったとしても、よじ登れば何かしらの攻撃をしてきそうですし、地上から投げるにしても私のSTRでは届くわけがありません。瓶に霧吹きのノズルを取り付けたとしても葉のところまで行って吹きかける方法もありません。

 うーむ。


「はっ」


 一つ思いつきましたよ。ええ、エアロハンドです。遠くの物を掴めるスキルですから、近く……、いえ、手元のアイテムを持てないはずがありません。早速失敗作を使って試して見たところ――。

 ガシャン

 ええ、力加減が難しく落としてしまいました。これは何度か練習が必要ですが、慣れれば出来るかも知れません。しばらくは落としても大丈夫なもので練習しましょう。使う際には瓶の蓋を開けるか割る必要がありますから、ある程度の慣れが必要になります。

 この後10回ほど錬金を行ったところ、3本しか成功しませんでした。ええ、らしきものにすらなりませんでしたよ。まったく、貴重な材料だというのに。スキルレベルは少し上がったので、これは例の冒険者ギルドで受けられるというクエストでレベル上げを行う必要がありますね。まぁ、今日はこのくらいでログアウトです。





 水曜日、学校で昼休み中に昨日工房で何をしていたのか伊織に聞かれましたが、冒険者ギルドで錬金系の依頼を受けようと思ったと伝え、誤魔化しておきました。ええ、こういったことを途中で教えては面白くないですから。

 そんなわけで水曜日と木曜日の夜には報酬は少ないけれど素材は依頼者持ちのクエストを受け、錬金術のスキルレベルを上げるのに時間を使いました。私のスキルレベルが低いので、あってないような報酬でしたが、スキルレベルは25まで上がりました。ちなみに、LV20では【簡易錬金】という道具なしの素材だけで錬金が行えるアーツを覚えました。残念ながら、基本値で経験値が入らないので、緊急時用ですね。

 その段階で受けられるクエストも増えたので、レベルの上がりもよくなりました。

 今日はログアウトしますが、明日は金曜日なので、夜は少し長めにログイン出来ますね。

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