5-2

 夏休み最終日の午後、明日の用意は終わっているので、ゆっくりログインして日課をこなしましょう。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、ザインさんからでした。昨日の確認の返事ですが、場所はあっていたようです。だとすれば、後は条件が違うということですね。他に金属装備は持っていませんし……、あ、まだ続きがありますね。えーと、ふむふむ、従魔を召喚しているとダメですか。つまり、ヤタを召喚していたからということですね。それと、あの開けた場所に入った瞬間に判定があるそうで、出たり入ったりを繰り返せば装備などのすぐに変えられる部分に関する条件は確認しやすいそうです。

 それと、最後に不滅の水の契約を済ませたから、代金を受け取っておいて欲しいとのことです。それでは月曜にでも受け取りましょう。

 日課を終え、後はユニコーン探しです。あそこに辿り着くまではヤタを召喚していても問題ないので、周囲を警戒してもらいながら進むことにしました。

 一度でも辿り着ければそれ以降は知った道です。そうなってしまえば、オーガの集団にでも出くわさない限り問題ないでしょう。何度か単体のオーガと遭遇しましたが、フラッシュボムを投下してからランス系で攻撃すれば終わります。フラッシュボムが出た状態で発動した扱いになり、ディレイやクールタイムのカウントが始まるのは、とても助かりますね。

 少し時間がかかりましたが、目的の場所に到着しました。

 途中、オーガに対してフラッシュボムを使おうとして準備をしている最中に気付かれたときはまずいと思いましたが、フラッシュボムの爆発に自ら飛び込んでくれたので助かりましたよ。

 さて、ヤタを送還し、準備をしましょう。確か、攻撃系の付与はダメらしいので、ディフェンスアップだけ使いました。開けた場所に立ち、腕を組んで考えながらユニコーンの出現を待ちます。

 前にナツエドで調べた限りですと、召喚獣に対し一人で挑み、勝つ必要があるはずです。ここは条件的に従魔も不可なので、本当に一人ですが、どうしましょう。

 少し攻撃するそぶりを見せるだけですぐにやられてしまうらしいですし、あの角で突かれたら貫通してしまいますよ。あの角、見る限りかなり痛そうですね。


「……へ?」


 あ、もう出現していますよ。湖の上に立ち、こちらを見ています。まだ心の準備しか出来ていないのに、どう戦えというのでしょうか。ここまで来ておいて何ですが、エスカンデの図書館で調べてくればよかったですね。

 ユニコーンがじりじりと近付いてきます。きっと間合いに入った瞬間に襲ってくるのでしょう。うーむ。流石にゲームなのでユニコーンに関する伝承を当てにしてはいけませんね。

 うーむ……、おや? 何気なく腕を組み替えようとしたらユニコーンの動きが一瞬止まりましたね。まぁ、手にした両手杖が大きいので組み替えるのは諦めましたが。

 これは……。

 一つ試してみましょう。まずはメニューを操作し、おっと、ユニコーンが警戒しましたよ。ですが、戦闘態勢とは言えませんね。それでは戦闘行動と取られる前に目的の行動を済ませましょう。

 両手杖が装備から外れ、ポリゴンとなりインベントリへと収納されました。流石に格闘スキルを持っていることはバレていないようで、ユニコーンが警戒を解き、またゆっくりと近付き始めました。

 やはり、これはアレですね。ええ、何事にも例外はありますし、私の記憶が正しければ、召喚獣と戦って倒すというのは、あくまでも方法の一つなのです。なら、それ以外の方法があってもおかしくはありません。ユニコーンのこの挙動が何よりの証拠ですよ。

 ユニコーンがかなり近付いてきました。私は微笑みながらユニコーンの動きを見守ります。ここでいきなり襲われてもこの方法がダメということがわかるだけなので、決して失敗ではありません。もう少しで手の届く距離ですが、ここで動いて攻撃されては元も子もないので、じっと待ちます。

 とうとうユニコーンが陸地へと足を踏み入れました。そのまま近付き、鋭い角が私の胸元に当たりそうになっています。ええ、埋まったりはしないので、よく見えます。

 ぐは。

 少し角で突かれました。大した衝撃もありませんし、刺さったわけでもないので、動く必要はありませんね。

 そのままじっとしていると、ユニコーンの角の先端が薄っすらと光り始めました。ほのかな暖かみを感じる光です。そのまま光がユニコーン全体を包み、私の中に入ってきました。


 ピコン!

 ――――System Message・アーツを習得しました―――――――――

 召喚獣【ユニコーン】を従えました。

 ※召喚効果は詳細を確認してください。 

 ―――――――――――――――――――――――――――――


「あーーーーー」


 やってしまいました。何でこんな場面で私は腕を組んでいるんですか。ここは受け入れるように両手を広げておくべきでしょうに。まったく、とんだ失態ですよ。地面に手をつくように倒れ込みながら殴っていますが、ダメですね。水面を覗き込むようにして水面を殴ります。

 一度しかないんですから、ちゃんと決めないといけません。

 大失態なので、これはちゃんと報告しておきましょう。グリモアならわかってくれるはずです。

 さて、ひとしきり後悔したので現実を見ましょう。まずは召喚スキルを確認します。

 えーと、クールタイムがゲーム内一日というのは全ての召喚獣で共通の様なので今更変わることはありません。次は召喚効果ですね。ふむふむ、召喚効果は【治癒の波動】というもので範囲回復とリジェネ効果があるそうです。ただ、ウィンドウを見る限り、他にもありそうなんですよね。最低でも後二つ程。スキルレベルか回数か何かしらのクエストか、出来ることから地道に試しておきますかね。

 さて、クランチャットで報告しましょう。


リーゼロッテ:ユニコーンと遭遇したよ。

時雨:条件わかったの?

リーゼロッテ:ザインさんから聞いたよ。

ハヅチ:それでやられたのか? また装備修理するか?

リーゼロッテ:ハヅチ、お姉様を甘く見てるね。ちゃんと召喚獣ユニコーンを従えたよ。

ハヅチ:!

グリモア:祝福の鐘を鳴らそうぞ


 他のクランメンバーからもおめでとうと言ってもらえたので、気を良くした私は一度クランハウスへと戻りました。せっかくなのでみんなの前で召喚しようと思ったのですが、残念ながら誰もいませんでした。しかたありません、約束通り、ザインさんに情報を流しましょう。

 メッセージを記入して、送信っと。

 この時間でもログインしているようですが、返事がすぐ来るとは限らないので、何をしましょうかね。図書館でユニコ――


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 すぐにザインさんの返事が来ました。私は夏休み中ですが、あちらは知りません。それにしても、今もログインしているとは、暇なんですかね。まぁ、情報料の相談と、おそらく最初にユニコーンと遭遇した人が直接話を聞きたいということが書かれています。情報料は貸しにするとして、遭遇した人に関しては、面倒な人でないなら大丈夫と返事をします。あ、後、サモナーズーに関してはどうするかも相談した方がいいですね。

 何度かやり取りをし、大抵のことはザインさんに任せましたが、後日どこかで落ち合うことになりました。まぁ、最初にユニコーンに遭遇した人が今渡した情報でユニコーンを召喚出来るようになれば、その必要はありませんが。それにしても、ザインさんの文面から、借りで首が回らなくなっている様子が私でもわかりますよ。貸しすぎると開き直る可能性があるので、注意しないといけません。

 話のついでに今の最前線を聞いてみたところ、ザインさん達は南のハーバスを狙っているそうです。港街なので、そこから海を開拓することで、手広く広げて最前線のプレイヤー達の間での発言力を伸ばすつもりのようです。

 確か、ザインさん達が4回、ロイヤルナイツが2回、街の開放に繋がるワールドメッセージを流していますが、イベントでの活躍も1回に含めているとかで、追いつかれ気味だそうです。

 私は東一択ですが、ゴンドラもあるので、何かあったら情報を貰えばいいですね。

 さて、まだ時間もありますし、ユニコーンに関する調べ物をしようと思っていましたが、ちょっと東へ行ってみましょう。前は狼と遭遇してすぐに逃げ出しましたが、今の私には安全に森の中を進む方法があります。





 そんなわけでエスカンデの東にある森へと足を踏み入れました。この辺りはゴブリンが出現しますが、更に進めば狼型のMOBが出現します。まぁ、エドッグやバクマツケンを相手にするようにバリアを使えば戦えないこともないと思いますが、狼と戦うことが目的ではないので、さっさと人がいない場所で木に登りましょう。

 イベントも終わり、最後の詰めと言わんばかりに人で溢れかえっているため、人気がない場所を探すのに苦労しましたが、一度登ってしまえばこちらのものです。マップに光点が表示されたとしても、平面での表示ですから、上に私がいるとは気付かないはずです。ロックウォールを足場にするために使うときや、飛び跳ねる時に枝が揺れて音がしますが、下では狼と戦っているプレイヤーがいるので、気付かれるほどの音ではありません。

 なるべくエスカンデからまっすぐ東へ進むつもりで移動していますが、多少のずれはしかたありません。ちなみに、南に行き過ぎるとトレント系が、北に行き過ぎるとオーガが出てきます。倒せない相手ではありませんが、目的の方向からかなりずれてしまうので、その点には注意しましょう。

 木の下にいる狼が黒から白へと変化すると、プレイヤーの数も減ってきました。前にホワイトウルフはレアMOBだと聞いたのですが、どうやらブラックウルフの出現区域に出るのが珍しいということのようです。まぁ、他の場所ではよく見るというのは、よくあることですね。

 さて、近くには人もいませんし、ホワイトウルフにちょっかいを出してみましょう。

 上からなら一方的に攻撃出来そうですね。狼が木に登るという話は聞いたことがありませんし。まぁ、三角跳びとかで跳んでこないとも限らないので、少し高い位置に陣取るなど、常に注意はしておきましょう。

 ここではあまり群れていないようなので、一体しかいない個体を探すのには苦労しませんでした。それでは早速、閃いてから。


「【フレイムランス】」


 5つの魔法陣から炎の槍が1本ずつの計5本が放たれました。前はそこまで気が回っていませんでしたが、背後で描かれている魔法陣の位置関係が星型になっている気がします。これはなかなかに良い配置ですね。

 前にブラックウルフに遭遇した時は索敵範囲が広くて驚きましたが、ウルフ系の索敵範囲は上には狭いようです。斜めから放たれた炎の槍に貫かれたホワイトウルフはその衝撃で吹き飛びましたが、上手く体勢を整え、しっかりと着地しています。うーむ、瀕死とまではいかないようですが、次の5発で倒しきれるでしょう。……というか、過剰ですね。これは8か9発でも良さそうです。

 ホワイトウルフが助走をつけて飛び掛かってきましたが、助走距離が足らないのか、速度が足らないのか、私がいる位置までは届きませんでした。そろそろディレイも終わりますが、これは一方的に倒せそうですね。

 それでは次の魔法陣を描きましょう。


「【アイスランス】」


 氷の槍5本に貫かれたホワイトウルフはポリゴンとなり、リザルトウィンドウが出てきました。今回は合計で10発でしたが、何度か試して必要数を確認しましょうかね。一方的に攻撃できるので襲われる心配はありませんから。

 まぁ、あの移動速度から、地上で戦ったら私が負けそうですが。

 もちろん、バリアを使えば勝てますよ。絶対多分きっとおそらく。

 さて、問題のドロップですが、上質な白色の皮と白狼の牙が一個ずつですね。皮系の色は性能に影響しないそうなので、強さの割に良いドロップとは言えない気もします。白狼の牙は調合か錬金のどちらかに使えればいいのですが、今度オババに聞いてみましょう。

 木を伝って東へ移動しながらホワイトウルフを一方的に攻撃して確殺ラインを確認したところ、ランス系8発のようです。イベント期間中に結構INTが上がったはずですが、それでも8発必要とは、中々に強いMOBのようですね。

 このフィールドにはウルフ系しか出現しないようなので、木の上は完全に抜け道として使えるようで、楽に突破できそうです。まぁ、流石に今日は時間がたらないので、レアドロップ枠らしき頑丈な皮を一枚手に入れたところで、街に戻ってログアウトです。





 夜のログインの時間です。今日は夏休み最終日で、8月最後の日でもあるので、今日が終わった瞬間にメンテが始まります。明日学校から帰ってくる頃にはとっくに終わっているはずですが、そこからアップデートをしなければいけないので、内容のしっかりとした確認は明日の夜ですね。

 クランハウスで日課をこなしていると、全員揃ったので、私の見せ場です。


「よーし、ユニコーン召喚するよ」


 そう宣言すると、全員興味があったようで、購入資金がどこから来ているのか知らない家具を端に寄せ始めました。


「準備出来たぞ」

「あんがとね」


 それでは場所も出来たので召喚しましょう。効果は回復だとわかっているので、気功操作を使って少しHPを減らしておきます。詠唱時間はそこまで長くありませんが、短くもありません。うーん、長さの判断は効果量次第ですね。


「【ユニコーン:治癒の波動】」


 私から白い光がいくつも飛び出しました。それが集まり、ユニコーンを形作ります。


『HIHIIIN』


 光の状態のユニコーンが後ろ足だけで立ち上がり、前足をバタつかせています。おっと、ユニコーンが纏っていた光が輪になり広がりましたね。この時点で回復効果が発動し、HPが全回復しました。私自身の最大HPは低いですし、減らしておいたHPもわずかなので、回復量の判断はつきませんね。

 その後、四本の足を床につけ私の方へ歩いてくると、その角を私の胸元へと軽く当てました。すると、リジェネ効果が発動しました。どうやら、回復とリジェネでは発動タイミングにずれがあるようです。まぁ、演出の都合なのかもしれませんが、効率重視の人は嫌いそうですね。

 さて、クールタイムがゲーム内時間で24時間なので、次に召喚出来るのはメンテナンスの都合もあるので明日の夜になりそうです。ユニコーンの召喚を取得した時点で召喚のスキルレベルが2になっていますが、流石に一回ではあがらないのか、クランハウス内だからなのかは知りませんが、これは時間がかかりそうです。

 ちなみに、ユニコーンはリジェネの発動と同時に消えているので、触ることが出来ませんでした。一生の不覚です。


「まぁ、こんな感じ」

「うむ、清らなかる乙女の守護獣を手懐けるとは」

「もう一回、もう一回見せて。それで触ってみたい」

「あーうん、私も触ってみたいけどリアル8時間待ってね」


 他にもいろいろと聞かれましたが、初回発動なので何もわかりませんね。


「でもね、ユニコーンの召喚を取得するまで、ずっと腕くんで仁王立ちしてたんだよ。流石にあれは失敗だよね」

「うむ、汝の悔しさ、我にも覚えがある」


 グリモアが何やら遠い目をしながら特徴的な笑顔をしている黒猫の従魔であるアートラータを撫でています。これは……グリモアもやらかしましたね。

 お互いにこれ以上傷を広げることはせずに見世物が終わりました。さて、次は何をしましょうかね。


 テロン!

 ――――フレンドメッセージが一通届きました。――――


 おや、誰でしょうか。ザインさんからでしょうかね。

 ……グリンダさんでした。何でも、魔力操作の伝授の対価が見つからないそうで、もう少し待っていて欲しいそうです。特に期限とか決めていないので、待つこと自体に不満はありませんね。ちゃんと対価を払う気はあるようなので、待つとしましょう。

 返事も出しましたし、ドロップの皮をハヅチに押し付けたので、ホワイトウルフの所まで行ってみましょう。流石にあそこを越えるほどの時間はないと思いますが、何事にも練習は必要です。





 やってきましたホワイトウルフの頭上です。ヤタを召喚しているのでホワイトウルフ以外が出てきても問題ありません。この辺りから東へ進めば進むほど木が高くなるので、より安全に進むことが出来ます。もし、PKに遭遇したとしても同じようなことをしていない限りは一方的に狙えそうですね。途中で一方的に攻撃しながら進んでいると、足元の人影も減ってきました。恐らく、ホワイトウルフが群れているのが原因でしょう。ちなみに、群れていようともここまで上がってくることが出来ないようで、襲われることはありま――。


「ぐえ」


 余裕をこいて下へ攻撃していたところ、何がが上から降ってきました。いえ、投げつけられたと言った方が正しいですね。


「あ、ちょ……」


 何かはわかりませんが、猿のようなMOBがいました。


『UKIKI』


 落下してホワイトウルフにたかられる時に、ホワイトウルフの体の隙間から姿が見えたので識別した結果、【エテモンキー】という名前が見えました。ええ、忘れませんよ、その名前。

 視界が暗転し、エスカンデの教会で目を覚ましました。ふっふっふ、あの猿め、絶対に許しません。何かを片手で弄びながら笑っていましたが、あれが投げつけられた物の正体でしょう。黄色くはなかったのでバナナではないようですが、何であれ、しでかしたことの責任はしっかりととってもらいます。

 装備の耐久は修理をしたばかりなので問題はありません。けれど、デスペナのステータスダウンが厄介ですね。生産をしようにも不都合がありますし。こうなれば明日は早いので今日も不貞寝です。

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