4-14
夜のログインの時間です。日課の続きをしながらクランハウスでみんなが揃うのを待っていました。
「さて、揃ったな」
今日も司会を務めるのはアイリスです。まぁ、事前にわかっていることの確認なので、そこまで時間はかかりませんね。
「それじゃあ確認だ。リーゼロッテも追加フィールドには行ったらしいから、追加MOBについては知っているはずだ。51階からは1階からの出現MOBが追加MOBに変わっただけだ」
「ブシドーレムは厄介だったよね」
「うん、あたしも正面から受けた時は大変だったよ」
「私はバクマツケンにやられたんだよね」
「……追加、フィールド、……ソロ、無理」
「汝、……無理をするな」
ブシドーレムとクリプトメランコリーはいけるんですけどね。動かなかったり動きの遅いMOBはいい的ですから。
「ま、まぁ、複数体同時に出ない限り問題はないはずだ。今日は城のクエストも予定しているから、早めに向かおう」
そんなわけでイベントダンジョンへ行くために櫓広場を訪れました。入場方法は変わっていないのでアイリスがメニューを操作し、イベンドダンジョンへと入ります。追加分である51階からはダンジョン内の雰囲気が変わりました。今までは木造で提灯が下がった室内でしたが、今回からは櫓の上になっており、中央に大きな太鼓があってもおかしくはない雰囲気です。屋外なので、地平線から少し顔を出している太陽に照らされている街はナツエド風ですが、プレイヤーがいないのでただの背景でしょう。
「始めるぞ」
前半同様にカウントがありましたが、アイリスが開始ボタンを押したため、すぐにバクマツケンが出現しました。
まずはモニカが【ハウル】を使い、ヘイトを稼ぎました。そこからはとにかくタコ殴りです。追加はないので後を気にする必要はありません。
最初の3戦はバクマツケン・ブシドーレム・クリプトメランコリーが1体ずつ。クリプトメランコリーと戦った時は花粉が漂ってはいませんでしたが、花粉爆弾と呼ばれている花粉の塊を投げつけてくる攻撃は厄介でした。回避は容易でも、花粉が飛び散り、漂い始めますから。数が増えると、それだけ花粉が漂いそうですね。
その後の2連戦、3連戦も無事に突破し、次は60階です。
「60階は3種類の同時出現だ」
一度外に出て作戦会議をしています。まぁ、そこまで厳密な作戦を立てるわけでもなく、受け持ちを決めるだけです。
モニカ達物理職の4人がバクマツケンを受け持ち、私とグリモアがブシドーレムを受け持ちます。攻撃範囲から逃れてしまえば後回しにしても花粉以外は問題のないクリプトメランコリーは、最後です。
60階へと移動し、周囲を見渡してみると、太陽が51階の時よりも昇っている気がします。何せ、太陽が完全に出ていますから。MOBの出現位置はマーカーが出ているのでそれに合わせて位置取りをします。後はいつものように魔法を使い、倒すだけです。
いい的が2体いても、流石に強い方に分類されるMOBが相手なので、ほんの少しですが杖を握る手に力が入ります。
バクマツケンは時雨達が何とかしてくれるので、少し緊張してましたが、何の問題もなく倒し切ることが出来ました。次の61階からは複数同時に出現するので、今回はここまでです。
「思ったより楽だったね」
「みんながバクマツケンを担当してくれたから、本当に楽だったよ」
「そこは適材適所だからな」
「そうだよ。あたしだってブシドーレムを相手にするのは大変だもん」
パーティーだと得手不得手を補い合えるので、助かります。流石に野良パーティーというギャンブルをする気はありませんが、こうして加わるのはいいですね。
「次は城の番所でクエスト受けるけど、どう分かれる?」
そういえば次は三人一組のクエストでしたね。魔法使いがいた方が追加報酬が受け取りやすいというらしく、私とグリモアは別々ですが、他は何も決まっていません。
「はーい、これ、準備しといたよ」
そういってモニカが取り出したのは先端だけが赤と黒に塗り分けられた6本の紐です。どっからどう見てもくじ引きですね。……そんなものを作ったプレイヤーがいるわけですか。
「とりあえずグリモアとリーゼロッテ、先に色を決めて持っておいてくれ」
私とグリモアが分かれることは決まっているので、グリモアにだけ先端が見えるように2本もって先に引いてもらうことにしました。結果は私が赤でグリモアが黒です。時雨達には結果がわかっていませんが、予想できる結果ですね。
ただ、一つ気になるのですが、黒を用意するのはわかります。けれど、何故赤を用意したのか……。偶然と言ってしまえばそれまでですが、ハヅチの用意した茜色の巾着のせいですかね。
そんなことを考えている間にくじ引きが終わり、私はアイリスと時雨とパーティーを組むことになり、グリモアはモニカとリッカと組むことになりました。まぁ、番所までは一緒に行くので、今すぐ別行動するわけではありません。
「汝、一つ訪ねたい」
「ん? どしたの?」
「魔術書の技能、さらなる高みへと昇ったか?」
「あー、まだ25だよ。もう少しだけど、スペルスクロールは使い切っちゃった」
「ふむ、では、呪文を唱える媒体を用意しておこう」
どうやらスペルスクロールを追加でくれるようです。スクロール系統を作るのは面倒なのでとてもありがたいです。ここは素直に感謝の意を表明しましょう。
「グリモア、ありがとう。助かるよ」
「うむ、どの呪文を必要としているのだ?」
「えーと、トレント系に使うから、火以外なら何でもいいよ」
「心得た」
グリモアからスペルスクロールを貰えることになったので、魔術書のレベルアップは時間の問題ですね。
この後しばらくすると目的の番所が見えてきました。ここでパーティーを組み換え、クエストを受けることになります。
「すまない、ちょっといいだろうか」
パーティーリーダーはいつものようにアイリスなので、交渉は全て任せてしまいます。いやー、適材適所ですよ。
「おや、見回りに来たのか?」
「ああ、そうだ」
「人数は揃っているようだが、すぐに出発するか?」
「ああ、行かせてもらう」
「では、これが見回りの地図だ。順路は自由だが、印の付いているところは必ず通ってくれ」
「わかった」
マップにチェックポイントが表示されているので、そこを通るように見回りを始めます。そういえば、襲撃があるらしいのですが、どこで来るのでしょうか。
「ねぇねぇ、アイリス、襲撃地点ってわかってるの?」
「いや、最初と2番目のチェックポイントの間としか決まっていないらしい。つまり、そこ以外は安全だ」
なるほど。なら、今は油断していても問題ないわけですね。
「はいはい、だからって気を抜かないの」
「りょーかい」
く、見抜かれてしまいました。まぁ、一緒にクエストをやるので、ちゃんとやりましょう。
「後さ、どんな襲撃があるの?」
「えーと、今回は忍者が一人来るらしいよ。何でも遠距離攻撃ばっかりしてくるとかで、逃げ足も早いから、遠距離攻撃が必須だってさ」
「弓でもいいの?」
前に魔法使いが必要と聞いた覚えがあります。ですが、遠距離攻撃なら、弓でもいいはずです。
「弓は弾かれるそうだ。アーツやプレイヤースキル次第では突破できるそうだが、魔法使いがいるならそっちの方が早いそうだ」
なるほど。物理なら弾けますからね。まぁ、エドーレムの様に魔法を弾いてくるMOBもいるので絶対ではありませんが、弾いてこないMOBなら魔法使いがいれば十分ですね。前提のクエスト的に来る人は少なそうですが。
「後、上手く倒して追加報酬貰った組には魔法使いがいたらしいよ」
あー、なるほど、つまり、追加報酬を貰うために前例にあやかるわけですか。失敗したら、全責任を魔法使いに押し付けるやつですね。
そうこうしている内に最初のチェックポイントへ到着しました。スタンプを押したりはしないのでそのまま次のチェックポイントへ向かいますが、ここからは警戒が必要です。
「リーゼロッテ、いつでも魔法を使えるように準備しておいてくれ」
「倒す方向?」
「追加報酬とは言っても、そこまで大きくはないから、気にしなくていいよ」
「そうなの? 前に顔だした時には凄い勢いだったけど。……ま、いっか」
別に他の人達の行動を気にする必要はありません。なら、これからどうするかを考えるべきですね。そうすると、ここはやはりライトニングランスでしょう。見てから避けられる速度ではありませんから。
「ああ、今回の場合、一定時間経過か一撃を与えればすぐに逃げるらしい」
簡単な確認をしていると、時雨が声を上げました。
「来たよ」
遠くの屋根の上にあからさまな忍者が現れました。ここ街中なのでセイフティゾーンのはずですが、どういう扱いなのでしょうか。まぁ、今は後回しです。
「むむ、遠い」
あの位置は射程外です。もう少し近付いてきてくれないと、当てられませんね。
「あれは勝手に近付いてくるから、攻撃だけ注意してね」
時雨の言う通り、時折手裏剣で攻撃してきます。距離もあるので避けるのは簡単ですし、そもそも、大きくハズレます。忍術を使ってくる様子はありませんが、そこはファンタジーなので要注意ですね。
そして、とうとうやってきました。
「【ライトニングランス】」
描いた魔法陣は1つですし、閃きも使っていません。雷の槍の速度は本当に早く、あっという間に襲ってきた忍者に命中しました。普段なら雷属性特有の行動阻害効果が発揮されるのですが、その効果が発揮されるそぶりも見せませんでした。
「覚えておけ」
その上捨て台詞を吐いて逃げるとは、ふてえ野郎です。まったく。
まぁ、これは最初の襲撃で、次のクエストでもあるはずなので、そちらに期待しましょう。
「それじゃあ行こうか」
アイリスがリーダーらしく先を促したのでそのまま次のチェックポイントへと向かいました。襲撃は一度だけなので、何事もなく到着し、報酬として小判を3枚手に入れました。
「何とも拍子抜け」
「しょうがないよ。簡単なクエストだもん」
「2回目も終わらせてしまおう」
もう一度見回りクエストを行いました。今度は襲撃が2回あるそうで、どの時点で襲ってくるかはランダムで、撃退するために必要なダメージ量も多くなっているそうです。まぁ、先制攻撃してある程度ダメージを蓄積させておげばいいことに何ら変わりはありません。
「来たよ」
時雨は索敵系のスキルレベルが高いのか、早い段階で気付いてくれます。斥候を担っているのはリッカだと思っているのですが、ある程度は上げているのでしょう。
「それじゃ、ちょっと強めにいこうかね」
まだ射程外なので魔法陣を描き始めてはいません。ですが、必要なダメージ量が多いのであれば、数を増やせばいいだけです。
まずは【閃き】を使い。
「【ライトニングランス】」
魔法陣を4つ描き、雷の槍を4本放ちました。その結果は、思いがけないものでした。
「おのれ、このままで済むと思うなよ」
ええ、捨てぜりふを吐いて逃げましたよ。どういうことですか。
「あー、そっか。魔法4発分だもんね」
「ダメージ量としては十分か」
そういうことらしいです。
「……敵がしょぼい」
「まぁまぁ、そう言わないの。楽だからいいじゃん」
時雨がそういうのなら、そういうことにしておきましょう。
「次は三人で来るらしいから、注意してくれ」
「……クールタイムが終われば1体はすぐに終わるかもね」
「それじゃ、残りの2体は私とアイリスで何とかしよっか」
「そうだな。もし、余裕があったら援護を頼む」
「りょーかい」
今生じているクールタイムが終わるのを待つためにゆっくりと進みました。一応、2回の襲撃の間には必ずチェックポイントを挟むそうなので、今はまだ安全です。
そして、チェックポイントへと到着したその瞬間、横から衝撃を受けました。
「うわ……ぐへ」
「ごめん、向こうの隠密の方が上みたい」
どうやら時雨に突き飛ばされたようです。ただ、私が先程までいた所を通ったと思われる矢が数本、地面に突き刺さっているのですから、文句をいうことはありません。
「囲まれたぞ」
襲撃してきた三体の忍者型MOBが私達を取り囲んでいます。すぐに立ち上がり、三人で背中合わせになりましたが、困りました。敵の位置が十分に射程距離内ですが、近すぎるのも困りものです。何せ、魔法陣を描いている途中に攻撃されてしまう距離ですから。
そうは言っても、やることは決まっていますが。
「【アブソリュート】」
一度しか使っていない氷魔法LV20で覚えた範囲魔法です。閃きを使い、魔法陣を4つ描いているのでMPをごっそりと持っていかれましたが、時雨とアイリスが牽制してくれていたお陰で魔法陣を描き終わることが出来ました。
「つ、つめ……」
「うわあ……」
足元から巨大な氷が出現し打ち上げられるのと同時に周囲が一気に凍りました。外から見た時は範囲内が一気に凍ったのですが、今回、自分を巻き込みわかりました。これ、突き上げるような一撃も入っていますね。
すぐに氷が消えると忍者型のMOB三体と寒さに震えている私達だけが残りました。ダメージは受けませんが、影響は受ける。つまり、寒さで凍えるということです。
「御用だ、御用だ」
そんな声が聞こえ、警備の役人らしき人達が現れ、忍者型MOBを拘束しています。なるほど、これが倒したときのパターンですか。
「見回りご苦労」
「あ、いや、連行を頼む」
アイリスがきちんとクエストを進めてくれるので助かりますね。
とりあえず、役人らしきNPCもいなくなり、私達三人が取り残されてから、私に向けられている視線はジト目としか言いようがありません。
「やるなら、先に言っといて欲しかったな」
「自分さえも巻き込むとはな」
「いやー、あはは……」
三十六計逃げ……、誤魔化すに如かずですね。こういう時は笑って時が過ぎるのを待ちます。何を言っても無駄ですから。
「まぁ、無事に撃退したことだし、先へ進もうか」
このまま止まっていてもしかたないと判断したアイリスが先へ進むよう促しました。どうやら上手く誤魔化せたようです。
もう襲撃はないそうなので、散歩気分です。
「ねぇ、リーゼロッテ、言わなかったけど、倒すのは大変なんだよ。ある程度ダメージを与えると逃げるから」
「ああ、検証クランが撤退するギリギリを見極めて、最後に高火力を叩き込んだそうだ」
「いやー、あはは……」
「まぁ、倒せたからいいんだけどね」
「それにしても、自分を巻き込むものか? ダメージがないとはいえ……」
まぁ、追加報酬が貰えるわけですから、気にするのはやめましょう。
「リーゼロッテは脆いのに、ダメージ許容するもんね」
「んー、許容っていうより、必要経費って思ってるよ。寒いとか驚いた程度で済むんだし」
「前にイベントダンジョンで左腕を盾にしていたのも必要経費か?」
「そうだよ。バリアでダメージは抑えられるし、噛み付かれ続けている間は、攻撃手段をいくつか封じれるから」
慣れれば簡単なものです。現実では絶対にやりませんが、ゲームなのですから、それで倒せるなら、方法として組み込むだけです。まぁ、1回目は許容かも知れませんね。
そして、番所へ戻ると、前回とは違う点がありました。
「戻って来たか。さっきは曲者を捕らえてくれてありがとう。これはその御礼だ」
おお、小判が3枚手に入りましたよ。忍者型MOBは三体だったので、1体につき1枚でしょう。ちょっと得した気分です。
「確かに。他に、協力出来ることはあるか?」
「そうだな……。ここまで協力してくれている君達なら問題ないだろう。実は、城の女中が一人街に買い出しに行くんだが、その護衛を頼めないか? 流石に狙われるような物を買いに行くわけではないが、状況が状況だけに、城で働いている者の安全を保証したいんだ」
「それはいつだ? 何人で行えるんだ?」
「なに、そちらの都合がいいときでいいさ。人数はー、そうだな、護衛三人につき、一人を護衛してもらおう。準備が出来たら声をかけてくれ」
「わかった」
クエスト完了の文字と共に通常報酬の小判を3枚貰いました。それにしても、次は護衛クエストですか。一人で受けられるものではありませんし、苦手ですねぇ。
「三人につき一人ということは、六人なら二人か。全員で受けられるから、モニカ達が戻ってくるのを待とう」
それからしばらくしてモニカ達も戻ってきました。ただ、倒せなかったようで、しょんぼりしています。
「俊敏だから大変だったよ」
「……忍者、タフ」
「汝、やはり只者ではない」
いやー、偶然なんですけどねぇ。
「さて、護衛は今からやるか?」
時間的な余裕はまだあります。それに、多少の夜更かしをしても問題はありません。他のみんな次第ですね。
「大丈夫だよ」
時雨も大丈夫のようです。他のみんなも大丈夫なようで、このまま護衛クエを行うことになりました。
「じゃあ、アイリスがクエストを受けてる間に調べたこと、話しとくね」
時雨が短時間で調べたことによると、一度目の護衛クエストでは浪人風の男が絡んでくるだけで、二度目の護衛クエストで、忍者三人が明確な敵意を持って襲ってくるそうです。ある程度のダメージを与えれば撤退するようですが、倒すくらいのダメージを与えれば捕まえて、追加報酬が貰えるそうです。
「それでは、よろしくおねがいします」
「ああ、任せてくれ」
アイリスが話を終えたようで、女中の人を二人連れて街へ繰り出すことになりました。今回は索敵スキルが一番高いリッカがいるので、安心して護衛が出来ますね。
道中、私はこっそりとスキルの確認をすることにしました。先程のアブソリュートで氷魔法のスキルレベルが30になったため、新しい魔法を覚えたからです。その魔法はアイスフィールドといい、一定範囲の地面を凍らせます。ダメージはなく、足場を悪くするだけの魔法と思いきや、その範囲内において、水属性の攻撃力を増加し、火属性の攻撃力を低下させるという効果もあります。どの程度足場が悪くなるのかは使ってみなければわかりませんが、使い所の難しい魔法です。ちなみに、複数使う場合は、効果が重複しないので、範囲が重ならない様に使うしかありませんね。
「おう姉ちゃん、うぃっく、ちょっと酌してくれよー」
あ、迷惑な酔っぱらいです。これが話に聞いた絡んでくる浪人風の男のようですが、敵意がないせいなのか、MOB扱いではないのか、詳細はわかりませんが索敵に引っかからなかったようですね。
「……そう」
その一言を口にしたリッカが酔っ払いの後ろへと周り、首の後へと手刀を叩き込みました。これは、あれですね。現実でやると死にかねないという、伝説の『トン』ですよ。どういう仕組みなのかはわかりませんが、酔っぱらいが倒れ込み、気絶のデバフが付いています。
「あれはね、手加減系のアーツだよ。どんなに強力な一撃でも、絶対にHPが1残るやつ。後は気絶判定の増加系もかな」
「つまり、トン、ってことだよね」
「……そう」
いつの間にか近くに来ていたリッカから返答がありました。力強くうなずいているので、こだわりがあるのでしょう。くノ一風装備で今の動きをしていると、まるで本物のようです。
「興味本位だから答えなくてもいいけど、何個くらいのスキルを併用したの?」
気絶のデバフは、HPが一気に減った時にかかりやすいものです。そのためには、強力な一撃をおみまいする必要があります。時雨曰く、気絶判定の増加系もとのことなので、手加減も含めると、3つでしょうか。
リッカは使ったアーツの数を指折り確認しているようです。その数を見てみると……えーと、4つですか。
「……うん、4個」
「ほうほう、4個かー。なかなか高度なテクニックだね」
「……アーツ、セット、登録。応用、利か、ない、……でも、便利」
へ?
「アーツセット? 何それ」
「……アーツ、連続、発動、……登録、出来る」
「そ、そんなのがあったとは……」
それがあれば……はて、物理職なら便利かもしれませんが、私には必要ありませんね。閃きと魔法陣と攻撃魔法をセットにするのはありですが、使う魔法ごとにセットするのは面倒というか、数が増えすぎますし、余分な時間が多少あったところで問題にはなりませんし。
「……設定、方法、……説明、する?」
く……、そうやって首を傾げる仕草がとても可愛いですね。まったく、私を惑わせるなんて。いっそのこと抱きしめてしまいましょうかね。
「リーゼロッテ、ストップ。そっちじゃないよ」
おや、歩きながら戯れていたら違う方向へ行きそうになっていました。もうすぐ城に着くので、ここは真面目にしていましょう。
「あ、ありがと。それでリッカ、教えてもらっていい? 後、何かの前提が必要だったりする?」
「……冒険者、ギルド、……ランク、D」
終わりですね。
「うん、私、ランクF、なんだ」
「……やっぱり。……ギルドで、教えて、くれる」
「わかったよ。ランク上げた方が良さそうだね」
特に不便を感じなかったので……、いえ、一度上げようとした記憶もありますが、結局途中でやめていました。けれど、そろそろ本格的に上げるべきでしょう。主に、イベントが終わったら。
さて、無事に番所まで戻ったので、一度目の護衛は完了です。
少し遅い時間ではありますが、このまま最後の護衛クエストを行うことになりました。やはり、勢いというものは大事ですね。
今度も二人を護衛しますが、襲撃時の人数が倍の六人になるようです。そして、出発前に一つ注意を受けました。
「リーゼロッテ、護衛対象の女中はパーティーメンバーに含まれない。だから、範囲魔法に巻き込むようなことはやめてくれ」
「いえっさ」
ここは真面目に敬礼付きで答えておきましょう。アイリスは凛とした性格なのでついSirの方で答えてしまいましたが、追求される気配がないので黙っておきます。
道中は緊張感を持って移動しますが、さて、今度はどうしましょうか。範囲魔法に巻き込んではいけないので、私達が範囲に入らないように4ヵ所で発動させるべきか、それとも単体魔法で一人を確実に倒すか、またまた別の方法を考えるか……。
「リーゼロッテ、あたしが惹きつけるから、一人ずつお願いね」
「りょーかい」
モニカがそういうのであればそうしましょう。見回りの時と同じ様にライトニングランスを4発叩き込めば捕まえられそうですし。
今度はきちんとした襲撃なので、全員しっかりと警戒しています。もちろん、私も警戒していますが、索敵のスキルレベルから考えるに、リッカ一人いれば十分でしょう。その証拠に――。
「……来た。全方位」
よりによって全方位ですか。面倒ですが、位置的に私は後ろの方から来る忍者型のMOBを狙いましょう。
「【ハウル】」
モニカがいつもの様にヘイトを稼ぎ始めました。今更ながら街中で戦闘をさせるイベントもどうかと思いますが、地味に人気のない場所を選んで襲撃してきているので、ある程度の配慮はしているのでしょう。もしかしたら、今この場所だけはサーバーが違う可能性もありますし。
とりあえず、【閃き】からの。
「【ライトニングランス】」
飛びかかろうとしていた一人の忍者型MOBに命中し、そのまま地面に倒れ伏してピクピクしています。まずは一人ですね。
私は4倍のディレイ中なので、何も出来ないので、邪魔にならない位置取りをしましょう。具体的には距離を取ります。ディレイが終わるのを待ちながら観察していると、どうやらそこまで強いMOBではないようです。
次の魔法陣を描き始める頃にはMOBが半分になっていました。そして、私が魔法を放つ時に立っているMOBは一体のみ。
「【フレイムランス】」
閃きがなくとも、4本の炎の槍に貫かれたMOBはそのまま倒れ伏し、体をピクピクさせています。
「御用だ、御用だ」
そんな声とともに岡っ引きのNPCの集団がやってきました。彼らは手早く忍者型のMOBを拘束しどこかへ連行し始めました。岡っ引きのリーダー……、確か、同心でしたね、そのNPCがアイリスと何かを話していますが、クエスト関連の話なのでしょう。流石に全員は捕まえられなかったので、追加報酬は全額ではなさそうですね。
その後は何事もなく護衛をこなし、報酬を貰ってからログアウトしました。
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