3-9その2

「それじゃあ、始めるぞ」


 レイドを始めるためのザインさんの宣言により、橋に残っていたマスタークンフーさんが陸地へと足を踏み入れました。その瞬間、上下の橋が破壊され、フィールド側からは尻尾が、街側からは頭が出ています。そして、横からは私達が相手をするかなり大きめの青い蛇のようなリトルサーペントが出現しました。


「【アーマーエンチャント・ロック】」

「【ウェポンエンチャント・ロック】」


 私が防御を、グリモアが攻撃の付与を担当することになっています。そして、付与を確認すると、モニカが地面があるギリギリの位置に立ちました。


「【シールドバッシュ】」


 いつものハウルは範囲攻撃なので、他のPTに影響を及ぼしてしまいます。そのため、普段のボス戦とは違った立ち回りが要求されるようなので、私とグリモアが攻撃し始めるのは少し後です。他の付与は既にかけてあるので、維持に注意しなければいけません。ああ、それとMPポーションを豪勢に使っていきましょう。HTOでは即時回復しないので、足りなくなってから使っては意味がありませんし。

 時雨とアイリスは湖に浮かぶ葉を足場にしながらリトルサーペントの背後へと回っていきます。ドーナッツ型の湖という地形の都合上、正面に並んで立つことは出来ますが、戦闘となると、一人が限界です。そのため、しばらく乗っていると沈み、またしばらくすると浮かんでくる葉っぱを足場にしなければいけません。何ヵ所かは小さい陸地もあるので、ずっと動きっぱなしというわけではありませんが、軽装でなければ出来ない芸当です。もちろん、私には出来ません。


「我らも始めるぞ」


 モニカが何かしらの合図を送ったので、グリモアが動き始めました。状況としてはモニカがリトルサーペントを1ヵ所に留め、時雨とアイリスが動き回りながら攻撃し、リッカは少し離れた位置で弓を構えています。魔法と矢が何かしらの干渉をし合わないように注意しています。

 さて、相手は大きく、動きは遅い、ならばあの魔法を使いましょう。


「【アースブラスト】」


 普段は発動をグリモアに合わせるために詠唱しますが、今日は二人共魔法陣を使います。三つの魔法陣が描かれ、リトルサーペントの体を狙って放ちました。ランス系と違って狙った場所で発動するので、射線を気にする必要はありませんが、発動したらMOBを追尾しないので、使い所が限られます。


「【アースブラスト】」


 スキルレベルの違いなのか、はたまた中級と下級の違いなのか、少し遅れてグリモアのアースブラストも発動しました。やはり、スキルレベル次第で、魔法陣を使っての発動までの時間が違うのですね。他のプレイヤーと比べたことがなかったのでよくわかっていなかったんですよね。

 まぁ、ディレイを考えると、次の魔法の準備を始めるのはグリモアが先でしょうが。


「【アースランス】」

「【アースランス】」


 今度は少し先に使われました。ただ、アースブラストのクールタイムはまだ終わっていません。なら、次は等倍の風属性ですかね。


「リーゼロッテ、私とアイリスが葉っぱに乗ってる時は雷魔法はダメだからね」

「ダメージは無いが、水を一定範囲伝って、行動阻害を起こす」

「りょーかい。じゃあ他を使うね」


 そいうことは先に言っておいて欲しかったです。まぁ、可能性としては十分にありえることなので、わざわざ使う気もありませんでしたが。


「【エアブラスト】」

「【エアーランス】」


 く……ここで狩りに使う時間の差が出ました。まぁ、私は満遍なく上げていますし、LV40を越えている魔法もあるので、気にしてはいけません。ええ、それが攻撃に使えない空間魔法だとしてもです。


「おっと、【ハイヒール】」


 攻撃に集中しすぎてはいけませんね。属性を付与しているとはいえ、ダメージがないわけではありません。蓄積したダメージはある程度したら回復しましょう。それに、ディレイが長すぎると、付与魔法の更新に手間取るので、その点にも注意です。

 そもそも、付与は一気に掛けるので、効果が切れるのも同じような頃合いです。一旦攻撃の手を緩め、付与の更新です。どうせなら純支援型のスキルもあればいいのですが、それは魔女のスキルではないので、私は取りませんね。

 属性付与は触媒を使うので少し長めの効果時間ですが、事前に用意した数で足りればいいのですが。

 クールタイムが長いためにダメージの減少がない魔法を使い続け、リトルサーペントのHPが半分を切った頃、時々尻尾を湖から出して攻撃してくるようになりましたが、事前の情報通り、ある程度距離を取っている私達には届かないようで、周囲を跳び回っている時雨やアイリスへと向かっています。

 あ、時雨が葉っぱに着地した瞬間、下から尻尾で跳ね上げられました。私に出来ることはすぐに回復することだけなので、それをしたら見守ることしか出来ません。確か水に落ちるとそのプレイヤーに対するヘイトが一時的に高まるそうです。つまり――。


「あ、やばい」


 時雨が急いで近くの足場へと泳いでいますが、リトルサーペントの頭が時雨へと向かいはじめました。

 雷魔法で動きを止めたいのはやまやまですが、それをしてしまうと時雨にも影響を及ぼしてしまうので普通に攻撃するしかありませんね。


「【アースブラスト】」


 ダメージを受けると、鬱陶しそうな様子を見せますが、少し止まるくらいでタゲを変更することなく時雨へと迫ります。他に何か手は……。そういえば、緑色の逆鱗があると言ってましたね。一つ、確認のため魔力視でリトルサーペントを見てみることにしました。すると――。


「【フレイムランス】」


 体全体が青色なのに対し、そこだけ緑色の魔力で覆われていたので、反射的に火属性で攻撃してしまいました。その結果、鱗が砕け、弱点と思わしき場所が露出しました。それはつまり、そこだけが風属性だったということです。様子見も兼ねて一発しか撃っていませんが、命中と同時に疑問が仮説へと変化し、その証拠が一つ出てきました。


『GYAAA』


 鳴き声では何が起きたのかはわかりません。けれど、動きを見れば一発でわかります。フレイムランスを一発しか受けていないにも関わらず、大きくのけぞり、長い首を振っています。あれはのたうち回ろうとしているのでしょうか。ただ、それによって水面が荒れているので、泳ぎにくそうにしている時雨に助け舟を出しましょう。あれは固定されている場所からなら出せるので。


「【ロックウォール】」


 時雨が向かっている足場から水平にロックウォールを生やしました。これで、多少ではありますが、足場までの距離が短くなったことになります。勢い良く出現したので、小さな波……、波紋が出ましたが、リトルサーペントが暴れたことにより生じた波と比べれば、些細なものです。何とか陸地に上がった時雨ですが、全身ずぶ濡れで動き辛そうにしています。私も一度ずぶ濡れになったことはりますが、あれは本当に動き辛いです。それにしても、巫女装備でずぶ濡れですか。遠目にしか見えないのが残念です。

 時雨が無事に水から上がったので、私も攻撃に戻りますが、ずぶ濡れは装備を絞ることで早く回復することが出来るようです。


「リーゼロッテ、今の詳しく」


 時雨からそんなことを言われましたが、詳しくも何も見たままなので、詳しく言えることなんてありません。強いて言うなら、こうでしょうか。


「属性見たら、逆鱗だけ風属性だったから、火で攻撃しただけだよ」


 よく見ると、リトルサーペントの逆鱗が無くなっています。そこにあった風属性も消えているので、フレイムランスはもう効かないと思います。


「それ、伝えとくね」

「あーうん、お願い」


 その辺りは時雨に任せておきましょう。

 ただ、魔法による検証は私がやらなければいけないので、よーく狙いを定めます。


「【アースランス】」

『GYAAA』


 ふむふむ、逆鱗があった場所に命中させると大きくのけぞり、首を振るモーションを取るようです。そのせいで水面が荒れますが、泳いでいない限り問題はなさそうですが、近くの葉っぱが沈んでいきますね。ダメージの方は、少し大目に減った気もしなくもありません。まぁ、いくらボスやその取り巻きにHPバーがあるとはいえ、一発一発のダメージ量を確認しようとしても無理ですよね。ちなみに、私に続いてグリモアも逆鱗があった場所を狙いましたが、連続では首を振るモーションを取らせることは出来ないようです。クールタイムの確認は私の仕事ではないので、知らんぷりです。

 それからしばらくして、他の個体からも絶叫が聞こえ始めたので、実験はばっちりのようです。さらに、私達が担当しているリトルサーペントのHPバーが黄色へと変わりました。つまり、残り30%を切ったということです。


「リトルサーペントB、黄色になったぞ」


 アイリスが大声を出して周囲に警戒を促しました。そう、レイクサーペントやリトルサーペントはここからブレスを使ってきます。リトルサーペントの咆哮ではダメージを受けることはないのでそこまで気にする必要はありませんが、ブレスの射程が長いので、一応は注意を促すことになっています。


『GAAAA』


 リトルサーペントが鳴き声とともに大量の水を吐き出し……、吹き出しました。ただ、広範囲に広がらず、タゲを維持し続けているモニカを狙い撃ちしています。ブレスを受けているモニカのHPバーに注目していますが、属性を付与しているお陰で大きなダメージにはなっていないようです。耐性を持った属性は極小でもいい具合にダメージを減らしてくれますね。


「【ハイヒール】」


 ボス戦なので、HPは絶えず満タンにしておく必要はありますが、これよりも回復量の低いヒールは治癒魔法ではなく、基本スキルで覚えるヒール系なので、まぁ、ハイヒールでいいでしょう。

 そのまま順調にHPを削り、10%以下を示す赤色になりましたが、行動に変化はなく、私達の担当していたリトルサーペントBがボリゴンとなり散りました。確か、先に倒した方が頭との戦闘に参加するんでしたね。


「リトルサーペントB撃破」


 アイリスが伝えるとすぐに返事がありました。


「頭の方に参加してくれ」


 メインの盾職はザインさんのPTの人がやることになっており、モニカは後衛にタゲが移った場合に盾になることになっています。流石に盾職をローテーションするのは危険ですから。まぁ、もしもメインの盾職の人が落ちたらすぐに交代するそうですが。

 時雨とアイリスは前衛に加わり、私とグリモアとリッカは後衛に加わります。ただ、近すぎると何かあった時に一網打尽にされるため、ある程度の距離は保ちます。

 今のところ、私達が加わるまでに稼いだヘイトがあるので威力の高い魔法を連射しても問題ないように思えますが、行動によってヘイトが減少することもあるらしいので、ダメージは与えすぎないようにしましょう。その辺りの仕様には詳しくありませんから。


「一応説明しておくけど、弱点らしき場所への攻撃は控えてちょうだい。強制的に専用モーションを取らせる場所だから、私が管理することになったわ」


 ザインさんのPTメンバーであるユリアさんが後衛を指揮しています。まぁ、あれは緊急回避に使えるでしょうから、無闇矢鱈に狙ってはいけませんね。ええ、決してダメージを多く与えてスキルの経験値を稼ぎたいとか思っていませんよ。その証拠に、攻撃はユリアさん達に合わせ一発ずつしか撃っていませんから。

 しばらくすると、ハヅチ達も相手をしているリトルサーペントを倒したようで、尻尾側に加わりました。

 全員がレイクサーペントに攻撃しているのでHPの減りが早くなり、残りが30%を下回り、HPバーが黄色になりました。


『GYAAAAAA』


 見えている範囲の鱗が開き少し長めの鳴き声が聞こえると、急に動けなくなりました。隅に表示されている私のHPバーの下にデバフを示すアイコンが一つ現れ、怯み状態となっており、横にある小さいメーターが段々と減っていきます。デバフの効果時間を示しているようですが、そこまで長くはありませんね。ですがこれ、詠唱中に受けると魔法の発動を失敗しそうですね。


「尻尾が潜った。ブレスが来るぞ」


 どうやらブレスには予備動作があるようです。HPバーが黄色になった瞬間に咆哮を使い、動けない所にブレスを放つとは、赤になったら使ってくるはずですが、ここでも使うとはいやらしいですね。しかも、このブレス、かなりの高威力なので、メインの盾職のプレイヤーのHPが大きく減りました。モニカと比べ防御力もHPもありそうなのに、かなりのダメージを受けています。もちろん、属性付与はしてあるので、それだけ元の攻撃力が高いということです。攻撃を受ける前に怯み状態になっていたことも関係しているのでしょうか。盾職に関しても詳しくないのでわかりません。

 そのまま攻撃や付与を続けていると、突如レイクサーペントが首を大きく縦に振りました。


『GYAAA』


 逆鱗があった場所に攻撃したわけではないのですが、何が起きたのでしょうか。


「……目、当たった」


 どうやらリッカが犯人のようです。


「まぁ、喉に次ぐ弱点だよね」

「……リトル、サーペント、より、……大きい、から、狙い、やすかった」


 どうやら目に攻撃を受けると首を縦に振り、逆鱗があった場所に受けると首を横に振るようです。何とも細かい仕様ですが、目なんて私には狙えませんよ。


「そう……よね。そこは、自由にしていいわ」


 ユリアさんから自由にしていい許可をもらったので、狙ってみたい気もしますが、向かないことはするべきではありません。狙うのであれば、一点に攻撃を集中して鱗の破壊が楽しそうです。まぁ、それは前衛の人に任せましょう。


「尻尾が潜ったぞ」


 また尻尾を担当している人から声がかかりました。これはブレスがくる合図ですが、どうして尻尾が潜るのでしょうか。


「予備動作って意味があったりするよね」

「恐らく、水の持つ魔力を蓄えているのであろう」

「あー、なるほど」

「ちなみに、確認の為に潜ったプレイヤーによると、鱗が開いて水を吸い込んでいたらしいわよ」


 グリモアと雑談しているとユリアさんが答えを教えてくれました。レイド中なので注意されるかと思いましたが、やはり、今回も倒せるとは思っていないのでしょう。

 ですが、私には一つの仮説があります。やる気を隠し持っている私を舐めてはいけませんね。

 それを裏付ける証拠も揃っているので、後は動かぬ証拠を手に入れれば完璧です。

 まぁ、そこまで削ることが出来ればの話ですが。

 そう思っていたのも束の間、その機会はすぐに訪れました。


「HPが赤になったぞ」

『GUAAA――』


 鱗が開きながら今までとは少し違う雄叫びが聞こえ、その効果により怯み状態になってしまいました。まぁ、動けなくとも考えることは出来ます。効果と状態がわかっていればこの時間も有効に使えるものです。ただ、雄叫びと怯み状態の時間が少し長いのが気になりますね。

 何とか動かすことの出来る目だけで周囲を見渡してみると、雄叫びの範囲は空気が振動しているのですが、あ、レイクサーペントの行動を妨害しようと逆鱗があった場所へアースランスと思わしきものが飛んでいきましたが、雄叫びの範囲に入ると砕かれてしまいました。


『――AAAAAA』


 段々と雄叫びの効果範囲が狭まり、私は範囲から外れ、怯み状態は終わりました。そこで、魔力視を使いレイクサーペントを見てみると、予想通りの色が見えました。これで、証拠二つ目です。まったく、同じような技を二つ持ってるなんて……。


「ユリアさん、あの盾職の人に言って下さい。属性変えますって」

「え、ちょっと、何をする気なの?」


 ヘイトが維持出来ているのであれば、狙われるのはザインさんPTの盾職の人です。


「どうせやられると思ってるなら、実験してもいいですよね」

『GUAAA』


 レイクサーペントが緑色の魔力を集め、ブレスを吐く準備をしています。位置や向きからタゲを予想する技術はありませんが、咆哮の範囲が狭まっていくので、狙われるのはきっとあの人です。……そう、確かパンプキンさんです。


「【アーマーエンチャント・ファイア】」


 インベントリにある赤色の欠片を一つ消費し、パンプキンさんに火属性の極小を付与しました。本人は少し驚いた様子を見せましたが、ユリアさんに前もって伝えておいてもらったのでしっかりと防御姿勢を取っています。

 パンプキンさんは赤い魔力に包まれ、レイクサーペントの放つ風属性のブレスを耐えています。どうやら、ブレスに切り替わった段階で怯み状態が解除されているようです。


「リーゼロッテ、これはどういうこと!」

「あー、えーと、あのブレス、風属性みたいですよ」

「……そ、そんなこと」

「とりあえず、パンプキンさんの属性戻した方がいいですよ。まだレイド中ですし」

「そ、そうね」


 ユリアさんがパンプキンさんの防御属性を土へと戻すと、他の面々も状況を理解したのかレイクサーペントへの攻撃を再開しました。


「とりあえず、また風属性のブレスが来たら属性変えますね」

「お願い」


 一応は攻撃にも参加しますが、ディレイには注意しなければいけません。三発同時発動をしてディレイ中にブレスが来たら目も当てられませんから。

 その後も何度か咆哮からブレスという酷いコンボが来ましたが、ターゲットが分かりやすかったので属性変更も問題なく行えました。ヘイトの都合なのか後衛が狙われることもなかったので、盾職の人には感謝です。えーと、確かパンプキンさんでしたね。

 そして、このレイドにも決着の時が訪れました。


『GUUU』


 ピコン!

 ――――レイドボス【レイクサーペント】が倒されました―――

 初回討伐報酬【水竜の鱗】

 ――――――――――――――――――――――――――


 ピコン!

 ――――World Message・レイドボス【レイクサーペント】が倒されました――――

 プレイヤー・【ザイン】率いるレイドパーティー【アカツキ】によって、レイドボス【レイクサーペント】が初討伐されたため、これ以降、同レイドボスの難易度が下方修正されます。

 【レイクサーペント】に阻まれた湖の街【サウフィフ】が解放されました。

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 おや、今回は解放クエストがないようです。不評だったのでしょうか。まぁ、それはおいといて、ドロップの確認ですね。えーと、初回報酬とは別に【水竜の鱗】が1個、【水竜の皮】が3個、【青い鱗】が2個、そして、部位破壊報酬という欄があり、【緑の逆鱗】が3個でした。これは何というか、水属性や風属性の付きそうなアイテムですが、鱗は鎧か近接武器のイメージがあるので、使いみちに困りそうですね。


「皆、ドロップの確認は街に入ってからにしてくれ」


 もう確認してしまったのですが、この後交換会が始まる可能性もあるので、先にポータルの解放をしようと言うことでしょうか。というか、ワールドメッセージでポータルに関する文言がありませんでしたが、ありますよね、ポータル。





 新しい街であるサウフィフへと足を踏み入れ、散策したい欲求にかられながらも街の中心にあるはずのポータル目指して進みます。どうやら、この街は湖の中にあるようで、湖上の街とでもいうのでしょうか。街中に水路があるため、何度も橋を渡らないといけないため、遠回りを余儀なくされることがあり、少し面倒です。

 ようやく中心へと辿り着くと、そこにはやはりポータルがありました。例に漏れず地球儀のような外見ですが、何かしらの意味があるのでしょうか。まぁ、それはおいといてポータルを解放したらそのまま近くに座り込み、談笑が始まりました。

 クランメンバーのドロップを確認していると、どうやら全員が同じ物を手に入れているようです。


「街を解放する場所の初討伐は全員がフルドロップするのよ」


 そう教えてくれたのはいつの間にか近くにいたユリアさんでした。


「へー、それじゃあ、これ以降はランダムになるわけですか?」

「そうよ。まぁボスのランクも下がるから、水竜の鱗は先へ進まないと取れないけれど。それよりも、さっきのはどういうこと?」


 なるほど、難易度の低下というのはドロップにも影響するわけですか。


「それよりってそっちの方が大事ですか。えーと、逆鱗が風属性で、ブレスの時に緑色の魔力が見えたんで、属性が違うってわかりました」

「……確かにそんなスキル持ってるらしいわね。随分と便利なスキルだこと」


 いや、魔力操作と鑑定で取れたので、ユリアさんは取れるはずなんですけど……。


「ありがと。それでハヅチ君、隠れ家の方はチケットどうするの?」


 チケット?


「あー、倒せると思ってなかったんで、考えてなかったんですよね」

「そういえば、そんなのあったね」


 時雨も話に加わってしまったので他の誰かに聞かなければいけませんね。


「アイリスアイリス、チケットって何のこと?」

「ん、ああ、第二陣の追加から7月末までにワールドメッセージを流した時のメンバーの所属クランに8月のイベントの優先入場券が貰えるって話、聞いてないのか?」

「あー、Hidden Talent Offline Festivalだっけ?」

「そうそれだ。私は遠いから行く気はないがな」

「そっか、あんがと」


 一度確認していたはずですが、もう一度公式HPの出番ですね。前にはなかったバナーが公式HPにありました。えーと、金曜の企業向けの日と土曜の一般向けの日があって、このチケットでは一般向けの日に行けるそうです。おや、詳しい情報が載ってますね。なになに、今後のアップデート内容やらその他の発表に、来場者同士のPVPに、グッズ販売もあるそうで。まぁ、ゲームのイベントでよくある内容ですね。特に興味な……おや、3Dプリンタによるフィギュア制作ですか。事前に申し込んでおけば当日受け取れるらしいのですが、その受付は終わっており、当日は今後の申込みが出来るそうで。自分が持っている装備やアバターをフィギュアに出来るのは、面白そうではありますね。


「あ、辞退は出来ても譲渡は出来ないんだ」


 アカウントと紐付いているのなら、転売も無理そうですし、他のクランに譲るということも出来ないようですね。


「リーゼロッテ、素材の方はどうするの?」


 おや、いつの間にか時雨が横に来ていました。あちらの話は終わっていないようですが、クランマスターはハヅチなので、残っている必要はないのでしょう。


「んー、武器で属性絞っちゃうのは好きじゃないし、欲しいなら渡すよ」

「……とりあえず持ってて。欲しかったら買い取るから」

「そう? わかった」

「あ、明日の武器だけど、倉庫にいれてあるから、持ってっといてね。例の少しいい武器も準備しといたから。後、ハヅチも倉庫に入れてあるって伝えといてくれってさ」

「りょーかい。あんがとね」

「それで、レイドボスの弱点の情報なんだけど、外から見えてるから、秘匿は無理だって言ってたよ」

「別にいいんじゃないの? 推測出来る情報は結構あったし」

「いいならいいんだけど。それで、リーゼロッテは8月のイベント、行く?」

「んー、夏祭りイベントしだいかな?」


 忙しければ引き……集中しますし、つまらなければ出かけてもいいでしょう。


「それじゃあ、一応申し込んでおくね」


 そういえばスキルの方は通知がありませんでしたね。眺めて見る限り、かなり上がっているようですが、新しいアーツを覚えるほどではなかったようです。


「よし、皆聞いてくれ」


 何やら忙しそうにしていたらしいザインさんが大声を出して注目を集めています。


「まずは討伐おめでとう」


 そのまま短い演説を始め、今後について話しているようです。希望者は宴会を始めるとのことですが、出来れば街を散策したいですね。水の都風の街なら歩いても楽しいでしょうし。


「ザインさん達の宴会、どうするよ」


 ハヅチが確認していますが、男子3人は興味があるようですが、他の面々は反応が薄いですね。まぁ、私は無反応ですが。アイリスは最前線のプレイヤーに興味があると思ったのですが、違ったようです。


「うーん、会費とかどうなってるの?」

「宴会って言ってもボス討伐の余韻に浸るだけらしいから、食べ物持ち寄るだけだとさ。最前線のクランだから、俺達が知らない食材アイテムも持ってるらしいぞ」


 そういえば食べ物系の食材は肉を中心に少量ありますが、飲み物系はまったくありませんね。その辺りの情報収集も兼ねて参加するのもありですね。


「スキルでの量産品でいいなら作るよ」


 出来ることは焼くことくらいですが、肉の種類が多ければバリエーションがあるように見えますし。


「それじゃ、参加してみよっか」


 時雨がそう言うと反対意見は出なかったので、そのまま参加することになりました。

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