第120話 光の精霊魔法
光の砲撃が着弾すると共に鼓膜が破れんばかりの爆音が周囲一帯に響き渡る。
「ブラスト!」
バーナードが爆裂魔法を放つと騎士数名が爆発と共に吹き飛ぶ。騎士たちの鎧は爆裂魔法を受けて砕けていく。
「やあっ!」
ミレーヌ渾身の回し蹴りは騎士の首を穿った。回し蹴りを受けた騎士は、その威力に泡を吹いて地面に倒れている。
その背後から隙アリ!と騎士が剣で斬りかかるも、ミレーヌの手にある2本の短剣が的確に騎士の鎧の隙間から肉を切った。
「“旋風斬”!」
ミレーヌの近くに居るシルビアから放たれたのは風での薙ぎ払い攻撃。この攻撃が地面の砂を撒き上げるため、騎士たちは目をガードする。その隙にレイピアで騎士の鎧の隙間をレイピアで打ち据える。
「“風牙”」
風による刺突。一点集中攻撃には騎士の分厚い鎧もあっさりと貫かれていた。
ここはバーナードたちと聖美たちが別れた空間。ここでは第二王国騎士団との激戦が続いていた。団長であるフェリシアの光の精霊魔法による容赦ない攻撃にはバーナードたちは苦戦を強いられていた。
フェリシアがおらず、騎士たちだけであれば時間はかかったとしてもバーナードとミレーヌ、シルビアの近接戦闘を得意とする3人で全滅させられることも可能であった。
それほどまでにフェリシア一人の攻撃が苦戦の原因となっていた。“聖霊女王”の異名を取るだけのことはある、とバーナードは心の中で感心していた。
だが、ここで3人が倒されるような事態になれば、奥へと進んだ聖美とディーン、エレナが危機的な状況になることは避けられない。
「“聖霊雨”」
フェリシアが杖を頭上に掲げながら呟いた一言と共に3人のいる場所の上に幾つもの光属性の魔法陣が展開された。そして、フェリシアが杖を振り下ろすと同時に光のつぶてが降り注ぐ。回避することすら出来ず、3人とも悲鳴を上げながら“聖霊雨”の餌食となった。
「さあ、これで終わりにしましょう」
フェリシアの合図で騎士たちは剣を構えて3人を囲むようにジリジリと間合いを詰めていく。
「“風刃”!」
「ブラスト!」
“聖霊雨”が着弾し、土煙が舞う中から風の刃が飛び出し、騎士たちの鎧に傷を入れていく。それと同時に騎士たちの周囲を爆発が包み、鎧を粉々に打ち砕いた。
「ハッ!」
「オラァ!」
「フッ!」
3人それぞれが声と共に全力の攻撃を仕掛ける。ミレーヌの短剣、バーナードのサーベル、シルビアのレイピア。3人とも衣服もズタボロであるにも関わらず、まるでダメージなど無いかのように軽快な動きで騎士たちを押し返していく。
「中々、しぶといのね。じゃあ、これは耐えられるかしら?」
フェリシアは杖で騎士たちに何かの合図を送ると、騎士たちはバーナードたちを直線状に追い込んだ。バーナードたちは何やら嫌な予感がし、その状況を打破すべく騎士たちに向かっていく。だが、騎士たちは通すまいと執念深く行く手を遮る。
「“聖霊砲”」
フェリシアの杖に収束していた光の粒子が
バーナードは動けるのか、土を握り締めながら懸命に立ち上がって来た。だが、ミレーヌとシルビアはピクリとも動くことは無かった。
「ミレーヌ!シルビア……ッ!」
「もう終わりにしましょうか」
顔を上げたバーナードの顔をフェリシアが足で踏みつける。バーナードにはもはや、フェリシアの足を退かす力すら残っていなかった。
「まだ、俺は……ッ!」
バーナードはフェリシアに押さえつけられてなお、立ち上がろうとありったけの力を振り絞っていた。
「“
突如、空間中に響き渡る女の声と共にフェリシアの真横に現れたのは氷の大槌。大槌はフェリシアを薙ぎ払おうと迫りくるも、フェリシアはしなやかな肉体の動きでこれを回避した。
「バーナード!」
「セー……ラ?何でここに……」
バーナードの前に姿を現したのは、セーラとマリー、デレク、スコットの4人であった。彼女たちは茉由と別れた後、休みなく走り続けたことでバーナードの元に駆け付けることが間に合ったのである。
「マリー、手持ちの分で3人の傷の手当てをお願いできますか?」
「ええ、分かったわ!」
セーラの言葉に弾かれるようにマリーはピクリとも動かない二人の元へと駆け寄った。
「デレク、スコットはワタクシと共に騎士たちの迎撃を!」
「おう!」
「分かったぞ!」
セーラの澄み渡る声と共にデレクは両の拳をガツンと合わせ、スコットも鞘から
「フェリシア様、いかがなされますか?」
「それは変わらないわ。新手の4人も捕らえなさい」
フェリシアの指示によって、騎士たちは再び剣を片手にセーラたちへと猛進していった。スコットやデレクは騎士たち相手でも十分に対応できる強さであったが、セーラだけが頭一つ抜けた強さを誇っていた。
そのレイピア捌きにはフェリシアも感嘆の吐息を漏らしていた。セーラは群がる騎士たちをものともせず、レイピアで騎士を鎧の隙間を打ち据えたり、大腿部を貫いたりと作業感覚で騎士たちを撃破していく。
「“
「“風霊斬”!」
デレクとスコットはそれぞれの大技で騎士たちを一人、また一人と倒していってはいるが、魔力の残量を考慮してみれば厳しい戦いであるのは間違いなかった。
二人は隣をチラリと見てみれば、セーラが次々と糸魔法を駆使した圧倒的なレイピア捌きで並み居る騎士たちを撃破していっていた。
セーラの糸魔法は3人を無視して、マリーとケガ人3名を狙った騎士を絡めとり、壁へと叩きつけたりするのに使用していた。
「バーナード、大丈夫?」
「ああ、マリーか。俺はもう大丈夫だ」
「それなら、良かったわ」
マリーが安心する中で、バーナードは地面に転がった自分のサーベルを拾い、騎士たちと戦う3人の元へと馳せていった。
「デレクも頑張ってるんだから、アタシも頑張らないといけないわね」
マリーも騎士と戦うデレクの姿を見て、笑みをこぼしながらもミレーヌとシルビアに
「……マリー、どうしてここに?」
「シルビア!良かったわ、目を覚ましたのね」
マリーは親友の目覚めに喜んだ。シルビアは
「まだ痛むのね?」
「ああ、壁に叩きつけられた時に頭を打ったからな。それさえ無ければ、私も戦えるんだが……!」
マリーの心配とは裏腹にシルビアは口惜しそうに唇を噛み締めていた。マリーはシルビアに対して、そのままレイピアを手に、今にも走り出しそうな感覚を覚えた。
「シルビア、アンタはもう少し休んでいて」
マリーからの言葉に肩をビクッと跳ねさせた辺り、マリーの直感は正しかったらしい。シルビアがマリーを見ると、マリーは何も言わずにシルビアを見つめていた。
シルビアは戦況を見てみると、バーナードの加勢で徐々に騎士たちは押し返されているようだった。
「……分かった。もうしばらく、休ませてもらうからな」
「……ええ。あなたはすぐに無茶をするから、今だけは休んでいて」
マリーの懇願するような表情にシルビアはフッと笑みをこぼし、目を閉じた。直後、シルビアの隣で眠っていたミレーヌがゆっくりと体を起こした。
「ミレーヌさん、まだ休んでないと……」
「私はもう大丈夫。それより、みんなは……ッ!」
ミレーヌは平然を装おうとしていたようだが、やはり痛むモノは痛むのだろう。いくら
ミレーヌもシルビア同様、マリーになだめられて再び眠りについたのだった。それからはマリーは二人を守りながら、後方からの援護射撃に徹した。
「“
マリーが放った氷の矢は騎士の足に突き立ち、騎士は地面へ転倒した。そこへデレクの蹴りが叩き込まれて、矢がより深く刺さるのをマリーは見逃さなかった。
不憫ではあったが、今は戦闘中であり、マリーたちには敵に情けをかけられるような余裕などカケラも無い。そんなことから、どうすることも出来ずに次の攻撃に移っていった。
マリーが心の中で葛藤している頃、デレクはひたすらに目の前の騎士を殴り飛ばし、蹴り飛ばしと無茶苦茶であった。スコットもその左右でアシストを行なっている。
二人から少し離れたところでは、セーラとバーナードが背中を預け合って大勢の騎士たちを戦いを繰り広げていた。
セーラの糸魔法で騎士たちを拘束し、バーナードが爆裂魔法で吹き飛ばすという連携っぷりであった。これには騎士たちでは成すすべなく全滅であった。
「さて、残るはお前だけだな」
バーナードが力強く大地を踏みしめる。これによって、少量の砂ぼこりが舞った。バーナードは肩にサーベルを担ぎ、フェリシアと対峙していた。そこにセーラやデレク、スコットたちも合流してきた。
「バーナード、油断してはいけませんよ……!」
バーナードは先ほど敗北したことを忘れているかのように好戦的な目でフェリシアを睨みつけていた。セーラもこれには心配そうな眼差しを送っていた。
「まあ、あなたたちにも事情があるんでしょうけど。でも、私たちは国王の命令で動いているの。どこの馬の骨とも知れない人間相手には退くつもりはないわ」
フェリシアの周囲には膨大な魔力が集まっていっていた。これにはスコットやデレクも気おされ、気づかぬうちに一歩後ろに下がっていた。バーナードもセーラも気を緩ませると、つい後ろに下がってしまいかねない――そんな状況に戦う前から持ち込まれていた。
――これが八英雄・“聖霊女王”フェリシアか。
この場に居る誰もがそのことを実感した。先ほどまでのバーナードとミレーヌ、シルビアを相手にしていた時はまるで本気では無かったということが容易に想像できた。
「全員無事で何より。いや、聖美とディーン、エレナの3人がいない?」
4人が身構え、いよいよ戦いが始まろうかというタイミングで、横槍……というよりかは能天気な雰囲気の銀髪の男が通路を抜けて歩いてきたのだ。
「「「「「マスター!?」」」」」
そう、入って来たのはローカラトの冒険者ギルドマスターであるウィルフレッドである。
「あら、奇遇ね。まさか、あなたがここに居るなんて」
「誰かと思えば、フェリシアか。一つ聞きたいことがあるんだが、あそこで倒れている私の娘をあんな風にボロボロにしてくれたのはフェリシアか?」
「ええ、そうよ――」
フェリシアがミレーヌを攻撃したことを肯定し、頷いた瞬間にフェリシアの顔面に一発の拳がめり込んだ。殴り飛ばされたフェリシアは勢いよく壁へと叩きつけられた。あまりに突発的に起こったことにフェリシアは驚いたのか、目を丸くしていた。
「『な、何で……!』と言いたそうな顔をしているな。それはフェリシア、君が私の娘を傷つけたからだ。これ以上戦うつもりは無いが、ケジメだけはつけさせてもらう」
フェリシアはウィルフレッドの言葉に「そう」とだけ返し、何事もなかったかのように立ち上がった。
「フッ!」
すれ違ったところで、フェリシアからウィルフレッドへと回し蹴りが放たれた。ウィルフレッドはそれを腕を
「これはあなたの知り合いが私の部下を傷つけたお返しよ。ホントはあと30発くらい蹴り倒してあげたいところだけど、今はそんなことをしている時間はないのよ」
「フェリシア、少し待て」
そのまま奥へと進もうとするフェリシアをウィルフレッドが呼び止めた。フェリシア自身、そのまま聞こえないフリをして進むことも出来たが、そうはしなかった。
「何かしら?」
「ランベルトとレイモンドから手紙だ。シルヴェスターもこれを読んで、この地下迷宮から撤退した」
フェリシアは最後までウィルフレッドの話を聞いた後で駆け足で近づき、手紙をウィルフレッドの手から奪った。その奪った手紙を何度も読み返すと、フェリシアは顎に手を当てて、考える素振りを見せた。
「……そんな理由があったのね。良いわ、ここから私たち第二王国騎士団は手を引くわ」
フェリシアは奪った手紙をウィルフレッドの手元に戻し、騎士たちを連れて、迅速にその場を去っていった。それをウィルフレッドは深く頭を下げて見送ったのだった。
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