第74話 装備一新、武術大会へ

「装備を一新したい……か」


「はい」


 ロベルトさんは唸り声を上げながら顎鬚あごひげをじゃりじゃりといじっている。


 俺たち来訪者組5人はそれぞれランクも上がったことで装備を一新してもらおうと冒険者ギルドの地下にあるロベルトさんの鍛冶場に来ている。


 ただ、呉宮さんと寛之の二人はそう言った近接戦闘の武器の話は関係ないのでここには居ない。近くの武器屋で呉宮さんは弓と矢を見繕ってくるとのことだった。寛之は杖を買い替えると言っていた。


 一方の鍛冶場にいる俺たちは順番を決めて、ロベルトさんに装備を見てもらうことにした。


 その結果、見てもらう順番は茉由ちゃん、洋介、紗希、武淵先輩、俺の順になった。


「茉由は装備はどうしたいだとか、要望はあるかの?」


 茉由ちゃんは、胸当てと片手剣ショートソードを鋼製のものに変えたいということを伝えていた。ホントにそれだけだった。特に武器や防具の装飾などにはこだわりはないらしい。


 その次の洋介は要望が茉由ちゃんに比べて多めだった。


 今使っている斧槍を使うのは止めて、鋼製の薙刀なぎなたを作って欲しいと頼み込んでいた。その図面を羊皮紙に記してロベルトさんに見せて細かいところまで注文していた。


 ロベルトさんは洋介の注文を快く了承して、薙刀の試作品が出来たら呼ぶから身に来て欲しいと伝えていた。


 また、防具である全身鎧フルプレートアーマーを鋼製にしてくれるようにも頼んでいた。


 洋介の次は紗希だったが、サーベルを鋼製のものに。そして、鎧を鋼製の鎖鎧チェインメイルにしてくれるように頼んでいた。


 紗希は性格的に実用性とかを重視する方なので、基本的に武器のデザインとかは素朴なモノばかりである。


 武淵先輩は愛用の長槍を鋼製にやり替えるように頼んでいた。ドレスアーマーは金属部分だけを鋼製に付け変えてくれるようにも言っていた。その後で、もう1本槍を作ってくれるように頼んでいた。何でも狭いところでも扱える、短めの槍を副武装として用意しておきたいらしい。


 そして、最後は俺の番である。俺は紗希と同じ鋼製の鎖鎧チェインメイルに、左手に装備する丸盾バックラーとサーベル2本をすべて鋼製にするように注文した。


「よし、分かった。ほとんど付け替えるだけじゃから、1週間もあれば洋介の頼んだナギナタとか言うの以外は完成しておるじゃろうから、おとなしく待っておれ」


 ロベルトさんはそう言い残してすぐさま作業に取り掛かっていた。俺たちは邪魔にならないように静かに鍛冶場を後にした。


「いやあ、俺の注文した奴が完成したら青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうって名前付けようかな」


 洋介は嬉しそうに表情を緩ませている。その横では武淵先輩が「いくら何でも、その名前はダメでしょ」とツッコミを入れていた。


 俺もそこまで詳しいわけではないけど、確か青龍偃月刀って三国志に出てくる武器だよな?


 そんなことを思いながら、俺たちはギルドの1階に上がった。


 ちなみに、何で今になって武器を見直すのかといえば、今までの戦いで破損しているからというのもある。だが、それより大きな理由としては2週間後に開かれる豊作を願っての武術大会に出場するためだ。


 場所は王都の南西100㎞のところにある商業都市ハーデブクにある闘技場。ジョシュアさんに聞いた話だと、ローカラトの町からは馬車で8日半かかるらしい。


 武術大会は去年、ローカラト辺境伯の息子のユーリさんが優勝したそうだ。これはウィルフレッドさんに聞いた話だ。


 この大会があることは昨日、俺の部屋に置いてあった親父の置き手紙で知った。親父は竜の国にある図書館へと向かうと手紙に記されていた。せめて、見送りくらいはしたかったものだ。ただ、紗希には薪苗流の秘剣を4つほど伝授したとも記されていた。


 ……それはさておき。この手紙をウィルフレッドさんに見せたところ、出てみることを勧められた。


 武術大会には予選と本選があり、予選は冒険者部門と騎士部門に分かれている。そして、予選を通過した冒険者と王国騎士団の騎士からそれぞれ4組を選抜して、本選を行うんだそうだ。試合自体は予選も本選も2人ずつのタッグを組んで戦うんだそうだ。


 ちなみに武術大会というものは元々、騎士のみで行われるものだった。だが、20年前にウィルフレッドさんによって冒険者ギルドが設立されたのを機に今の形態になったらしい。


 冒険者部門の参加資格としては"鉄ランク以上の冒険者であること”のみだ。そのため、青銅ブロンズランクの呉宮さんは出場することは出来なかった。


 また、今年は冒険者部門には120組近くが出場するらしい。ちなみに、このギルドからは、すでに5組のエントリーが決まっている。そして、本選に出るには120組近くいる冒険者部門のトーナメント戦を5連勝する必要がある。


 先ほど、このギルドから5組のエントリーがすでに決まっているといったが、出場するメンバーはこうだ。


 ―――――


 ・バーナード&シルビア(魔鉄ミスリルランク&スチールランク)


 ・デレク&マリー(双方共、スチールランク)


 ・ローレンス&ミゲル(双方共、スチールランク)


 ・スコット&ピーター(双方共、アイアンランク)


 ・ディーン&エレナ(双方共、アイアンランク)


 ―――――


 10人とも、3か月前に出会った時よりも冒険者ランクが1つずつ上がっている。この5組と合わせて、俺たち6人も3組に分かれて出場することにしたというわけだ。


 俺は呉宮さんが出場できないため、紗希と組んで出ることにした。寛之は茉由ちゃんと組み、洋介は武淵先輩と組んだ。まあ、普段通りの組み合わせではある。最近は、武術大会でのペアと一緒に稽古や連携の練習をしている。


 俺と紗希、茉由ちゃんの3人は剣術の稽古を早朝からやったりしている。また、呉宮さんにも長剣の素振りだけは一緒にやってもらっている。


 寛之もミレーヌさんとの格闘術の稽古の日数を増やしたりして、熱心に取り組んでいると茉由ちゃんから聞いた。


 洋介も独自にランニングと筋トレをしているらしい。たまに、朝練の中で紗希に抜刀術を教えてもらったりもしていたな。


 武淵先輩は槍の稽古をジョシュアさんに付けてもらっているらしい。


 俺たちはそんな感じで出発の日まで自分の技を磨きながら日々を過ごし、武術大会の開催される闘技場のある商業都市ハーデブクへと出発する日がやって来た。洋介の頼んでいた薙刀も無事に完成し、ロベルトさんの手から洋介に渡されていた。


 今回も王都方面へ向かうため、日の出頃に北門へと集合するように言われている。また、ローカラトの町~商業都市ハーデブク間の移動はジョシュアさんたち運送ギルドが行ってくれることになっている。


 馬車の台数は4台。商業都市ハーデブクに向かう人数は合計で24人。ゆえに、馬車にはきっちり6人ずつに分かれて乗ることになっている。


 1台目には俺と呉宮さん、洋介と武淵先輩。そして、エミリーちゃんとオリビアちゃんを加えた6人だ。最初は紗希や茉由ちゃん、寛之の3人も1台目に乗るはずだったのだが、馬車の定員の問題で7人は載れないとのことだった。


 これを聞いて紗希が降りると言ってくれたのだが、それに茉由ちゃんが「紗希ちゃんを一人だけ別の馬車に載せるのは嫌だから、一緒に私も降りる」と言って、降りていった。これに寛之も「茉由ちゃんと一緒の方が良いから」と降りていった。


 これで二人分の空席が出来たためにエミリーちゃんとオリビアちゃんに来てもらったのだ。


 なぜ、エミリーちゃんとオリビアちゃんがいるのかと言うと、セーラさんに武術大会に出るということを伝えに言った時、二人も一緒にこの話を聞いていたのだ。


 それから、二人揃って『行きたい!』と駄々をこねたためにセーラさんから頼まれて一緒に連れていくことになったのだ。


 2台目にはウィルフレッドさんに紗希、寛之、茉由ちゃんの4人に加えてラモーナ姫とラターシャさんが乗っている。


 この二人も『自分たちも武術大会を見たい』と言い出したのだ。とはいえ、言い出したのはラモーナ姫なのだが。


 そして、『この二人と話がしたい』ということでウィルフレッドさんが一緒の馬車に乗り込んだのだ。また、2台目の馬車の御者はジョシュアさんが務めている。


 3台目はバーナードさん、シルビアさん、デレクさん、マリーさん、ローレンスさん、ミゲルさんの6人だ。このメンツは呉宮さんを助けに王都へ向かった時の馬車のメンバーと同じだ。


 最後、4台目はロベルトさんにラウラさん、ディーンとエレナちゃん、スコットさん、ピーターさんの6人だ。


 ロベルトさんは大会中の武器のメンテナンスをするために同行してくれることになっており、ラウラさんは大会に出る俺たちの治療をしてくれることになっている。


 ちなみにセーラさんは何でも屋の仕事があるため、同行できないとのことだった。そして、ミレーヌさんとシャロンさんの二人が冒険者ギルドの留守を預かることになっている。


「それじゃあ、出発するぞ!」


 ジョシュアさんの掛け声と共に馬車の列は街中をゆっくりと走りだし、朝日を右側面から浴びながらローカラトの町の北門をガラガラと音を立てながら抜けていったのだった。

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