69話目 魚介母艦

「お前たちは、たどり着けない……2月7日はツナの日……ぐふっ!」


 魚星人は、死の間際にたしかにそう言い放って、息絶えた。


「たどり着けないというのは、おそらく、マグロ大王のところに、という意味だよね。2月7日はツナの日、というのはどういう意味だろう」


 俺をおぶっている佐々木の後頭部に向かって言うと、その後頭部がそのまま返事をしてきた。


「分かりませんか。2 が ツー、7 が ナ。つまり、2と7でツナという意味です」


「いや、語呂合わせの由来は分かるけどさ、なんでそれを今言ったのかということだよ。しかも死ぬ間際に」

「今日が2月7日だからじゃないですか。マグロ大王は、ツナの日である今日に、なにかやろうとしているのかもしれませんね」


「なるほど。いや、あれ? 今日って2月7日だったっけ? まだ12月だった気がするんだけど」


 俺の記憶がたしかなら、昨日、ステンノとデートをしたとき、12月だからという理由でサンタのコスチュームを買ったはずだ。


 俺は、隣に立っているステンノのほうへと顔を向けた。


「ステンノさん、昨日服屋に行ったのって、12月でしたよね」

「どうだったかね。普段、ずっと工房に居るから日付にはうといんだよ」


 そう来たか。唯一の証人であると思われたステンノがこれでは、頼れるのは自分しかいない。


 なぜだ。俺が知っているカレンダーでは、12月某日の翌日に2月7日が訪れることはあり得ない。


 そのとき、ふと思いついた。


「佐々木さ、昨日、祝賀パレードだったよね。あれは12月だったよね。とっても偉い人の例のアレだから、日付を覚えてるでしょ」

「たしかに、あれは12月のことでした」


「それなのに、今日は2月7日なの?」


 佐々木の後頭部は、数秒黙ったあとで喋り出した。


「ああ、ようやく分かりました。売子木きしゃのきさん、地球式カレンダーの法則に囚われているんですね。でも、もうその概念は捨ててください。あなたは、こちら側に来てしまったのですから。日付は状況に応じて、ときに都合よく、ときに都合悪く、どんどん変化します。なので、今日は2月7日、ツナの日なんです」


 どうやら、カレンダーに関しては、まだ心のかせが外れていなかったということらしい。そういうことなら仕方がない。郷に入っては郷に従え、だ。


「なるほど。今日は2月7日でツナの日。そして、ツナの王であるマグロ大王が、それに乗じてなにかをしようとしている、と」

「だから、そう言ってるじゃないですか」


「ボーイ! ハリーアップよ! いつまでここで、トーキングしてるの? アーツのわけの分からないグランパの話だけでもずいぶんタイムのロスがあるのに!」

「ハッ! ハッ! おじいちゃんが全部の顔で噛み付いたら、マグロ大王なんてあっという間にボロ雑巾になってしまいます!」


「そのときは、あんたのおじいちゃんも斬る」


 秋山さんが日本刀を、すひゅんすひゅんと振り回している。


 早くマグロ大王を見つけないと、不要な血が流れることになりそうだ。

 俺は、ペーターに向けて頷いた。


「アーツ! 急ごう!」


 ひと吠えして走り出したアーツのあとを追う。


 宇宙船の扉を開けて中に入ると、内部の光景は、今までに入ったことがある母艦のそれとはまるで違っていた。

 なるほど。さすが魚介星人の母艦だけある。


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 母艦の内部はどんな光景だった?

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