43話目 第一声

 やはり、ハニワ工房に行かない手はないだろう。ササキの修復も気になるが、それよりもステンノに会いたい。

 あまり頻繁に会いに行っても迷惑かもしれないが。


 ラインを通って工房に着くと、昨日同様、防護服を着た蛇星人が居た。


売子木きしゃのき樣。ようこそいらっしゃいました」


「ステンノさん、居ますか?」

「ええ。本日も、仕上げ室でお仕事をされています」


 その言葉を聞いて、自然と足は仕上げ室へと向かう。


「あ、売子木きしゃのき樣! こちらの着用をお忘れなく!」


 後ろから呼び止められて振り向くと、保護マスクと防護服を持った蛇星人が駆け寄ってくるところだった。


 忘れていた。これがないと、ちょっとしたはずみで石になってしまうのだ。これらの着用は面倒だが、良いこともある。ステンノの素顔が見られるということだ。

 こちらの装備がないときには、彼女のほうが保護グラスを着けねばならず、彼女の目を見ることができないのだ。


 さて、今日の彼女はどんな服を着ているだろうか。


 そんなことを考えながら、仕上げ室のドアをノックした。が、中から返事はない。


 ゆっくりとドアを開けると、こちらに背を向けたステンノが、今まさに、液体ちくわを睨みつけて、土化させようというところだった。


「こんにちは。ステンノさん」


 彼女の身体からだがかすかに硬直したかと思うと、液体ちくわは灰白色へと変わった。


「ああ! またやっちまった!」


 液体ちくわは石化したのだ。


「ちょっと、おどかすのはなしだよ」


 こちらを振り返って、そう言った彼女の顔には、ほんのりと笑みがにじんでいるように見えた。


 彼女の顔を見て、胸が締め付けられる思いだった。


 やはり、美しい。特に、目の表情が見えると全然違う。


「お久しぶりです」

「なに言ってんだい。昨日の今日じゃないか」


「ステンノさんが居なかった、今朝から今までの時間が、なかなか長かったもので、つい」

「ま、いいけどね」


 彼女は、元のほうへと向き直って、次々に仕上げ室に入ってくる液体ちくわを、土化していく。

 その姿を見たときに、彼女が、薄いクリームの色の、地味な作業着のような服を着ていることに気づいた。


「あれ、ステンノさん。昨日買った服は着ないんですか?」

「着ないよ。仕事中に着たら、ちくわが付いて汚れちまうだろう? 仕事中はもっぱらこれさ」


 少し、歩を進めて、彼女の横まで行き、仕事をしているその横顔を見つめた。一定間隔ごとに目を輝かせる彼女を見ているだけで、飽きなかった。


「横から、あんまり見られてると、調子狂うねえ」


 彼女は、少し困ったような顔を作って言った。


「すみません。迷惑なようでしたら、うしろに引っ込みます」

「別に迷惑ってわけじゃないんだ。ま、うしろに居られるよりは、横に居てもらったほうが、あたしもいいかな」


 ハニワを作り続ける彼女の横書を見ながら考えた。素顔のままの彼女と、外でデートをする方法はないものだろうか、と。

 今後のデートで、彼女が常にあの保護グラスを着けていると思うと、少し寂しい気がする。


 そんなことを考えていたときに、ふと気づいた。


「そういえば、ササキはどうなりました?」

「そこに居るよ」


 ステンノの頭の蛇で指されたほうを見ると、仕上げ室の片隅に、両腕をそれぞれ、頭と腰に当てた姿のハニワが居た。


「あ、あれがササキなんですか?」

「んー、一応ね」


 彼女の煮え切らない反応が、やや気になる。

 ササキのすぐ近くまで歩いて行き、声をかけてみる。


「すっかり立派になっちゃって。修復してもらえてよかったね」


 胸ポケットの中で粉々になっていたのが嘘のように、すっかりハニワの姿を取り戻していた。

 しかし、ササキが胸ポケットに入っていてくれたからこそ、便利だった面もあり、この先、このフルサイズのハニワを常に連れて歩くのは少々厄介だな、とも思った。

 そんな不届きなことを考えている俺に対する、ササキからの第一声はこうだった。


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 ササキの第一声は何? なんか変なこと言わせてください。

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