41話目 よりどりみどり

「やりましょう。最高のおっぱい星人寿司を食べさせてあげますよ」


 俺は、自信満々に言い放った。


「アンビシャス! 生きのいいボーイは嫌いじゃないわ!」


 ペーターは大きく目を見開いて言った。改めて言っておくが、ペーターは黒髪ロングの女性だ。


 さて、なんの寿司を作るか。

 実は、以前から一度作ってみたい牛肉寿司があったのだ。このタンは使わせてもらうとして、もう一品、チャレンジしたいものがある。


「ほほ肉も養殖してますか?」

「オフコォォォス! 見に行く?」


「できればお願いします」

「オーケー! じゃあ、ダッシュで移動する?」


「いえ、ラインで移動しましょう」

「オー! 今は休養期間ってわけね」


 ラインで別のエリアへと移動し、再び長い廊下へと出た。養殖槽の前まで来て中をみると、そこには牛の頭蓋骨を模した巨大なオブジェがあり、そのほほの部分に、次から次へと肉が生成されては、剥がれて水面へと浮かんでいく。


「この、頭蓋骨みたいなのは必要なんですか?」

「アブソルートリィ! ほほ肉には、どうしてもほほの温床が必要なの」


 タンはイソギンチャクだったのに、どういう理屈なのかは分からないが、とりあえず肉の確認はできた。


「では、先ほどのタンと、このほほ肉を使わせてください」

「グレイト! 肉の他に必要な材料はあるかしら」


「ネギはありますか?」

「ホワット? ネギ?」


 宇宙では、ネギだと通用しないらしい。なにか伝える手段はないものか。


 ふと、自分がスマホを持っていることに気づき、ポケットから取り出してみた。ここはなんせ宇宙だ。どうせ圏外だろうと思ったが、なぜか電波は入っている。

 スマホで、ネギを検索すると、画像が何枚も表示された。


「こういう野菜なんですが」


 スマホの画面を見せながら言った。


「アイノウ! 坊主のことね」


 目を輝かせながら、嬉しそうに言う彼女。しかし、その口から出てきた言葉に戸惑った。


「坊主、ですか?」

「イェア! 坊主」


 この調子で、いくつか必要な材料を説明すると、彼女は急に廊下の壁をチョッピングライトで殴りつけた。

 すると、どこからともなく、スピッツの犬星人――先ほどの受付嬢とは別人らしい――が現れた。


「ハッ! ハッ! お呼びでしょうか!」


 舌を垂らしているスピッツに、彼女は、必要な材料を手早く説明した。


「ゴー!」


 言いながら、彼女がカエル跳びアッパーをすると、スピッツは猛スピードで走り出し、ラインの中へと消えていった。


「スーン戻ってくるわ。その間に、採肉場へゴーよ」


 2人でラインを通り、今までとは違う雰囲気の場所に出た。どうやら、ここは水槽の上に位置するフロアらしい。

 屋内ながらも広大なスペースの床には、水槽の天井部分にあたるガラス板が規則正しくならんでいて、その間をラインが走っている。


 水槽の上部は、ある面の、天井と壁をつなぐ部分に隙間が作られており、その隙間から、中の水が絶え間なく流れ出す仕組みになっている。

 水面に浮かんできた肉は、水の流れに乗ってその隙間から流れ出し、ラインを通って、おそらく貯蔵庫のようなところに運ばれるのだろう。


 ペーターは、軽やかなステップで、水槽の天井を渡り歩き、水槽から流れ出る瞬間のタンを、ガゼルパンチの動きでキャッチした。改めて言っておくが、手にはボクシンググローブをはめている。

 そして、別の水槽でほほ肉も同様にした。


「これでオーケイ?」


 両手に、タンとほほ肉をわしづかみにして微笑むペーター。


「ブリリアントです。さて、クッキングに移りましょう」

「コンビニエントなことに、牧場内にキッチンがあるわ」


 再びラインに入り、キッチンへと移動した。

 幸いなことに、キッチンの様相は地球のそれとあまり変わらなかった。


 キッチンの片隅では、先ほどのスピッツが尻尾を振って立っており、その前のテーブルに、頼んでおいた材料がどっさり置かれていた。


「もう、揃えてくれたんですか」


 正直な驚きを口にすると、スピッツは口角を上げる。


「ハッ! ハッ! ワタシは、ペーターさまの犬ですから!」


 ここでいう犬に、比喩的な意味合いが含まれているのかがよく分からず、なんとも言えない気持ちになったが、気にせずに料理を始める。


 まずはタンだ。

 最初に、表面を全体的に軽く炙り、たたき状態にしてから、タンモトの部分を贅沢に厚切りにする。ここに、刻みネギをちらして、軽く塩コショウを振れば、あっという間に出来上がりだ。


 次にほほ肉。

 大きめの寸胴に、大量の赤ワインと、適量の調味料を入れて、沸騰してきたところでほほ肉を入れる。


「このまま、三日三晩煮込めば出来上がりです」

「ホワッツ! スリーデイズスリーナイツ!?」


「ご安心ください。本日は、出来上がったものがこちらにございます」


 よし。これで完成だ。


「召し上がってみてください」


 厚切りのネギタンにかぶりつくペーター。


「ゴーッシュ!」


 続いて彼女は、ほほ肉の煮込みを頬張った。


「ヤミー! 両方とも、とってもデリーシャスだわ」


「ご納得いただけましたか」

「バット! これは寿司じゃない! ノット寿司よ!」


 勢いで押し切れるかと思ったが甘かった。だが、問題ない。すでにシャリも準備はしてある。


 俺は、手際よくシャリを地紙形に握り、上に4つ切りにした厚切りネギタンを乗せた。次に、手早く軍艦を作り、頬肉煮込みを盛り付けた。


「召し上がってみてください」


 ペーターは、ボクシンググローブで器用に寿司を持ち、口に運んだ。


「サプライズ! こ、これは! さっき食べたのと、ほとんど同じテイストだわ」


「お分かりいただけましたか。ネタさえ美味しければ、シャリの有無など味にたいして関係ないのですよ」

「ゴートゥヘブン!! これなら、どんな寿司でも作れるってわけね。納得行ったわ。ビジネスの話をしましょう」


 よし。これで、おっぱい星人フェアを開催できそうだ。


--------------------------------------------------------------------


 スシルーのフェアでは、どの部位でどんなメニューを出す?

 2品くらい決めたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る